単独でダンジョンに挑むのは間違っているだろうか? 作:一般通過害悪
ぶっちゃけ、作者は何かを書くのが苦手ですが頑張りました。
長いので流し読みを推奨します。
ゴブニュ・ファミリアの玄関前。翌朝の陽光が、石畳を優しく照らす頃。アルが革袋を肩に掛け、到着すると、すでに美遊が立っていた。
編み込みの黒髪が朝風に揺れ、赤い瞳がまっすぐにこちらを捉える。
「……来た」
ぽつり。
次の瞬間、美遊はアルの手をそっと掴んだ。アルは一瞬、戸惑うが、抵抗せず身を任せる。
中へ。ゴブニュの許可は昨日、得ているらしい。鍛冶師たちの視線を浴びつつ、内部の鍛冶場へ。
道中、アルは違和感を覚えた。美遊の気配が――違う。昨日より、僅かに鋭く、力強い。
「……失礼ながら、何か変わりましたか?」
「……昨日、ゴブニュ様から恩恵を貰ったから」
そのまま、続ける。
「あと、昨日も言った通り、お金は取る」
「……ええ。出来次第では、いくらでも」
蓄えは十分。問題ない。
使われていない鍛冶場に到着。
炉は冷え、道具が整然と並ぶ。
「出して」
アルは革袋から素材を取り出す。
怪物進呈で最後に倒した四体のインファント・ドラゴンから二体が落とした、小竜の牙×2。
「……ほんとに有るんだ」
あるんなら持ってこいと言っておきながら、不思議そうに素材を見る美遊。
真剣に手を取り、見終わった後、ジッとアルを見つめてくる。
そして、美遊が、ぽつりと口を開いた。
「……お出かけしよう」
「は?」
アルの声が裏返る。
美遊は首を傾げ、説明した。
「武器を打つには、その人を知る必要がある。あと……普通に打つための素材を買いに行かないと」
無垢な赤い瞳。
無意識なのだろう。
アルは咳払いし、平静を装う。
「……わかりました。では、行きましょうか」
そのまま工房を出て、朝のオラリオの街へ向かうのだった。
バベル塔の上階。
武器防具が並ぶ賑やかな売り場。アルと美遊は肩を並べて歩いていた。人は朝だというのに人で、ごった返していた。
因みに、美遊は着替えており私服のオラリオの市民風の服を纏っている。
迷子にならないようにと、アルの手は美遊によりしっくりと握られている。
そのため、迷子になる可能性は限りなく低いだろう。色んな店を周り、ミスリルで作られた武器防具を買っていく。
ここで買うのはミスリルが使用された中古の武器防具である。
そのまま使うのかと言われれば、否。
ここから、熱で溶かしミスリルの部分だけを抽出して武器を造るのだ。
塊を買えばいいのでは?と思うかもしれないが、ミスリルはアダマンタイト程では無いにしろ値段は高価。
そこで、武器を購入して抽出することで安価で済ませるのだ。
まぁ、お金があればこう言う手段を使わなくて済むが、現在の所持金から考えてこうするしかないのだ。
尚、買ったものはアルが全て持っている。
ここで、スキル〝孤高の道標〟の効果も大体把握することができた。〝単独行動時に全アビリティに超高域補正〟というのは、二人以上の人間と隣で歩いていても下がるらしい。
現に、一人であれば楽々に持てるだろう、この武器防具達の重量を感じられている。
そんなこんなで数時間後、昼時になった。
「次、ご飯食べに行こう」
美遊がぽつり。
アルも流石に休みたい気持ちもあったので頷いた。
そのまま、バベルから出て近くの飲食店に移動。その後、カウンターで注文して待つことになった。どうやら、用意が出来次第に呼ぶと言う。
そんな感じで近くの席にアルと美遊は向かい合うように座る。荷物は横に置いた。向かう合う故にどうしても顔を見てしまう。
数秒程度、向かい合うと美遊の方から声を掛けてきた。
「ねぇ」
「なんでしょうか?」
アルがそう言うと、美遊は少しハァと息を吐いて指摘する。
「その、口調を止めて欲しい」
どうやら、美遊はアルのこの外行きの口調に少しあるらしい。アルは不思議そうに美遊に尋ねる。
「理由を聞いても?」
「……他人行儀に見えるから」
そう、前置きして続ける。
「私達は同じ村正さんの弟子。しかも、アルは私よりも前に村正さんの指導を受けてた。言うなら、兄弟子……お兄ちゃんみたいなもの。だから、それは私は嫌。何処に丁寧語で妹と接するお兄ちゃんがいるの?……と、私は思う」
まっすぐにアルを見据える。
アルは瞬きを一つして、小さく笑った。
「……そっか。悪い、美遊」
丁寧口調はあくまで、万人受けするものとして使っているだけなのでまぁ、本人が言うならコレで良いのだろう。そうアルは思った。
「うん。それでいい……」
満足そうに美遊は少し微笑んでいる。そんなこんなで、注文の用意が出来たと聞こえたため、アルは一人で二人分の注文を取りに行く。
美遊と一時的に分かれた瞬間、二人分の注文が綿毛のように軽く感じれる。
(…………単独ってそう言う)
アルは一人、そう思いながら持っているものに視線を移した。美遊の注文である。
ぱっと見でアルよりも量が多そうに思える。
結構食べるんだなぁとか思いながら席に向かう。
席に付き、再び二人は向かい合う。
そして、命に感謝。
「「いただきます」」
各々、食事を始めていく。
この飲食店の食べ物はパンで肉や野菜を挟んだモノだったり、ジャガイモを潰して形を整え油で揚げたものである。あとは肉に衣を付け揚げたもの。野菜詰め合わせ。スイーツなんかも充実している。
飲み物は、オレンジジュースやリンゴジュース、自家製の味がついた炭酸水と言ったものがある。
今、若者やオラリオの住民の中ではそこそこ知名度がある。その注目されている点は、その手軽さである。店舗内でももちろんのこと、外でも軽く梱包され食べやすい。
まぁ、それはいいとして、向かう合う席上……どうしても美遊の食べる姿が自然と見えてしまう。美遊がその小さい口いっぱいに開けて食べ小さい口をいっぱいに開けて頬張る。
頬がぷくっと膨らんでいる。
「……んぐ……ん」
ジュースをちびちび。
時折、満足そうに目を細める。
「……見すぎ」
そう指摘された。
ごめんごめんと謝りながらアルもまた、自分のを頬張る。
食べるのが少々、忙しそうなので食べたあとに話はするとしよう。
そこから数十分。
美遊が食べ終えたのを確認して工房に戻ることにした。
これから、何をするのかと言えば、簡単なことでミスリルの抽出である。
因みに、アルは工房にこの荷物を置いて一旦帰りである。
ミスリルの抽出ぐらいなら出来るのだが、流石に鍛冶師ではないアルが鍛冶場に立つのはと美遊に言われ完全にそちらに任せる感じ。
工房へと向かう道中。
「アルはどうして冒険者やってるの?」
美遊がそんなことを聞いてきた。
アルは困った。
大それた理由はない。あくまで、儲かるから。その一心でここまで来たわけなのだが。
「冒険者をやってる理由………か」
ふむと少し振り返ってみよう。
最初の動機は儲かると聞いたから。
現に恩恵を受けた次の日で旅の路銭稼ぎと比較して結構稼げた。
簡単とも感じていたか。
アルは考えた。
美遊はただの雑談として聞いてきたのだろうが、アルにとって改めて考えるべきことかもしれないと。
魔物を殺す。
純粋に楽しい。
魔石が手に入る。
幾らになるか考えるのが楽しい。
稀にドロップ品が。
珍しいものは見るだけで心が躍る。
可視化された自身の能力値が確認できる。
結構楽しかったのかも。
(そうか)
アルは自身の思いに気付く。
自身の行動原理。
「俺が冒険者をやってる理由は楽しいからだ」
「楽しい……?」
聞き返してくる美遊にああと続けて答える。
「そうだ。首を断ち、肉を裂き、骨を砕き、皮を剥ぎ、戦利品を得る。それが、楽しくてたまらないんだ……多分」
胸、心臓が熱くなるのを感じる。
そう。アルの原理は簡単だ。
___楽しいから
首を肉を皮を骨を断って削いで剥いで斬り裂いて戦利品を得る。
ここに来て、一ヶ月。
初めてアルは自分をある意味で理解した。
自身はどうしようもなく、快楽、悦楽に浸る狂人であることを。
思えば、オラリオ外での魔物退治や盗賊や野盗の討伐に関しても結構、楽しかったように思える。
躊躇を考えたことは一度もなかったし。
「だから、俺は冒険者をやってる理由は、自身の欲望のためにだな」
美遊は、じっとアルを見つめていた。
「……ふぅん。怖くないの?」
「怖い?…………考えたことは無かったが、まぁ、別にだな」
「……………そっか」
小さく呟き、丁度、工房の扉が見えてきた。
工房に入り荷物を置いてアルは美遊に言う。
「いつ取りに行けばいい?」
「明後日の………昼」
分かったと呟きアルは踵を返し工房を後にする……前に足を止めて振り返らずに言う。
「頼んだぞ」
ゴブニュ・ファミリアの鍛冶場は、静寂に包まれた。炉の火だけが、ぱちぱちと赤い舌を鳴らしている。美遊は革エプロンの紐をきゅっと締め直し、一人、炉の前に立っていた。
机の上には銀色の輝きを放つ、純度の高いミスリルの塊。
「ふう……」
小さく息を吐く。ミスリルの抽出は完璧だ。
溶解、冷却、分別。
十歳の小さな手で、まるで呼吸をするように正確に。
「……抽出は完璧」
次に手を伸ばすのは二本の牙。
竜種である、インファント・ドラゴンが落とした小竜の牙。
鋭く、白く、凍てつく冷たい光を宿している。
掴んだ瞬間、胸の奥に、どす黒い感情が流れ込んできた。
――憎い。
――殺してやる。
――引き裂いてやる。
美遊は静かに、それを見つめ、言葉を紡いだ。
「分かってる。憎しみ。自身を殺した者の武器になるなんて、許せない」
誇り高い竜種。
下級とはいえ、他の魔物とは違う。
快と不快を、明確に持つ。だからこそ、
ドロップ品にまで怨念が宿る。
「アナタはそれでいい。それでこそ、アルが強くなる」
モンスターはモンスターを喰らい、強くなる。
冒険者はモンスターを殺し、強くなる。
憎しみと恨みの連鎖が、真の力を生む。美遊は目を閉じ、牙を持つ。
「……私がその想いをカタチにする」
ぽつり、と呟く。炉の火が、ゴウッと高く跳ねた。美遊は金槌を握る。
まだ小さな手で、けれど、揺るぎない意志で。
「…………ふぅ」
美遊は覚悟を決め、鍛造に取り掛かった。
静かな鍛冶場に、ただ一人の鍛冶師の鎚音だけが、夜通し響き続ける。
オラリオの空は抜けるような青だった。
アルは約束通り、ゴブニュ・ファミリアの工房へと足を運んだ。
私服の上に軽い外套を羽織り、腰は空のまま。
胸の奥に、静かな期待が灯っている。玄関を抜け、昨日と同じ鍛冶場へ。扉を開ける。
熱気と、鉱石の匂い。
炉はまだ赤く脈打っていた。
奥に革エプロン姿の美遊が立っていた。黒髪は汗で少し湿り、頬に煤が薄くついている。
赤い瞳は、いつもより少し腫れているように見えた。
徹夜だったのだろう。
美遊は無言で、机の上を指差した。
そこに、二振りの刀が静かに横たわっていた。
打刀と短刀。
鞘は黒漆に銀の風紋。柄は淡い青の鮫皮に、同じ色の柄巻。
息を呑む。刃を抜くまでもなく、一目見て業物だと、分かる。
美遊が、ぽつりと告げた。
「これが、今の私の全力。確認して」
アルはゆっくりと近づき、打刀を手に取る。まるで羽のように軽い。
刀身も美しい。
「
魔力の伝導率も確かなようだ。
短刀も以下の通り。
素晴らしい仕事である。
「値段は?」
「二つで1500万ヴァリス」
アルはそのまま、ボンッと近くの机に革袋を置いた。中身は丁度1500万ヴァリスが入っている。
「ん、毎度。
打刀は『竜風』
短刀は『掌珠』
それが、この刀の
「意味はそれぞれ、風は竜にも届き得る。懐を守る」
刻まれた二文字に込められた意味と願いを口にしながら美遊はニコリと微笑む。
「これから、大事に使ってね。
アルは一瞬、言葉を失い、それから、静かに刀を握りしめた。
「……ああ。無論だ」
鞘に収め、腰に差す。
まるで最初からそこにあるべきものだったかのように、ぴたりと収まった。
「……それはそうとして……っと」
アルが何かを聞こうとする前に美遊が後ろに倒れる。
それに回り込み、それを支えた。
顔を見れば、目を閉じてすぅすぅと寝息を立てていた。
徹夜の疲れが、一気に来たのだろう。
煤だらけの頬、汗で張り付いた前髪。
でも、その寝顔はどこか、安心しきったように穏やかだった。
アルは美遊をそっと抱き上げた。軽い。
とても、武器を打ったとは思えない。
(食事から察するに、ご飯は結構取ってるように感じたが……栄養はどこに行ってるんだろうか……)
そんなこと思っていると、扉が空き誰かが入ってきた。
「入るぞ」
入ってきたのは、長い赤い髪を後ろで纏めている青年……こと、村正だった。
こちらに歩いて来て、視線が、アルの腰の新刀へ、そして、腕の中の美遊へと移る。
村正は一瞬、目を細め、それから、ふっと笑った。
「……まァ、及第点だな……」
低い、でも確かに優しい声。アルは苦笑し、美遊をそっと抱えたまま、小さく頷いた。
「爺さんに頼んでいいよね?」
「おう。そのつもりで来たからな」
どうやら、昨日からずっと寝ずに作業に没頭している所を見ていたらしい。
そのまま、美遊を村正に渡す。
「それで。いつ極東に帰るの?」
アルは気になっていたことを村正に聞く。
欲を言えば、一緒に出かけたりをしたいのだが。
「ああ……明日の朝には出発するぞ? 入り用の仕事も終わったからな」
「そっか……」
少し、声が沈む。美遊の寝顔を見下ろして、アルは小さく息を吐いた。
「また、会いに行くよ。爺さんが死ぬ前には」
「おう。そんときゃ、
「うん。もちろん」
爺さんの一刀………今でも受けれるか分からないがアルは即答した。
もう一つ、アルにとって聞きたい事があった。
「美遊についてはどうするの?」
「んあ?………なんだ。聞いてねぇのか……コイツは
そこから、簡単な説明をしてくれる。
美遊を連れてきたのは、オラリオにて技術と技能を積ませる為だったと。
無論、美遊とは話し合いを行っている。
それも、承知の上でここに連れてきた。
ということは………と、アルはそっと胸を撫で下ろした。
「そうなんだ……となると、美遊に俺の武器の整備とか頼めるってこと?」
「まぁ、そうなるな。
それじゃあな。と言いながら村正は奥へと消えていった。
アルは一人、残された。
腰の『竜風』と『掌珠』を、そっと撫でる。
確かに
その日の夕方、
アルは『櫻の錦』へと向かった。
路地の奥、古びた木造二階屋。
小さな桜の刺繞看板が、風にそっと揺れる。風鈴が、チリンと鳴った。
暖簾をくぐると、いつもの和紙灯りの柔らかな光と、絹と魔獣毛織物の香りが迎えてくれた。
「いらっしゃい。……あら、予定通りね」
カウンターの奥から、紗夜が顔を出す。
長い黒髪を結い上げたまま、微笑みを浮かべている。その隣には、銀髪にピンと立つウサギの耳を揺らし、白い羽織袴姿のフテミミ様が立っていた。
「待ってたよ〜」
フテミミは耳をぴくりと立て、くるりとアルの周りを回りながら、にこにこと笑う。
「さあ、奥へどうぞ。出来上がってるから、試着してみてちょうだい」
紗夜が先導し、奥の試着室へと案内される。そこにあったのは淡い空色の陣羽織に、極薄の濃い蒼の袴。
一見するとただの極東風衣装。
だが、生地には風竜の繊維と天蚕糸が織り込まれ、触れただけで魔力がすっと通るのが分かった。
「風衣『嵐乱』」
紗夜が静かに名を告げる。
「縫い目一つ一つに魔力の通り道を仕込んであります」
フテミミが得意げに耳をぴくぴくさせる。
アルは無言で羽織る。
軽い。まるで何も着ていないようだ。
なのに、魔力が全身を包み込むような安心感。
腕を振る。
裾が風を孕み、まるで翼のように広がる。
「……完璧です」
思わず漏れた言葉に、紗夜がくすりと笑い、
フテミミが「でしょでしょ?」と胸を張った。
「代金は丁度2000万ヴァリス、いただきね」
アルは革袋を差し出す。
ぴったり2000万。
「毎度あり」
フテミミが耳をぴょんと跳ねさせ、
最後に小さく呟いた。
「大事に着てちょうだい」
風鈴が、再びチリンと鳴った。
アルは新たなる戦装を身に纏い、夕暮れのオラリオへと踏み出す。
腰に『竜風』懐に『掌珠』。
身に『嵐乱』。
これで、完全に装いを整えた。
次は、ゼウスとヘラへの挨拶だろう。
アルは空を見上げ、小さく笑った。
次回は、ゼウス・ファミリアの拠点へ……ですね。
因みに、言うと、今は世代交代が行われてないという想定なのでオリキャラで補います。
若き頃のマキシムとかも出す予定。