サント・アンヌ号密室殺人事件   作:虫野律

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「ほかの乗組員に状況を伝えて指示を出してきたいので、わたくしはいったん離れさせていただきます」

 

 警備室を出ると、片眼鏡がそう言った。「後は頼んだよ」とポニテに言いつけて去っていく。

 

 片眼鏡は上の立場なのだろう。こんなことになってご愁傷様。

 エレベーターに足先を向けると、

 

「あのぅ」

 

 今度は気楽な下の立場の人間──ポニテが、もはやお定まりとなりつつある、手のひらを見せるだけの中途半端な挙手でもって等分に尋ねてきた。

 

「念のため護衛のポケモンを出してもいいですか?」

 

「いいぞ」グリーンが即答した。

 

 ポニテはホッとしたように息をつくと、制服の懐からモンスターボールを取り出し、軽く放った。

 

「ガァゥ!」

 

 元気一杯に登場したのは子犬ポケモンのガーディだった。船員のくせに水タイプではないらしい。

 三人と一匹はエレベーターに乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 容疑者全員の聞き込み捜査を終えた捜査隊は、レストランの個室席で膝を突き合わせていた。

 時刻は、太陽が水平線に近づきつつある午後五時過ぎ。お腹もすく。死に立てほやほやの血のしたたる新鮮な死体を見たせいですっかり生肉の舌になっていたリンコは、奥のほうの個室に腰を落ち着けると、馬刺と少し迷ってから、この店でできる最も生に近い焼き加減でステーキを注文した。それなら、というように馬刺はグリーンが注文した。ポニテがどん引きしていたけれど、そんなことでは外科医を見たらどうなるのか。

 彼らは手術で、生きた人肉を焼くにおいを嗅いで焼肉が食べたくなる人種だよ? わたしたちなんてかわいいものでしょ?

 そうは思ったが、口には出さなかった。舌を動かすのが面倒だったし、五十歩百歩と言われそうな気がしないでもなかったし。

 閑話休題。

 テーブルの中央には、聞き込み捜査で得た容疑者たちの情報を記したメモ帳が置かれている。食事をしつつ皆で推理しようとこのレストランを訪れたのだ。

 警備員二人は、「相方はずっとエレベーターホールにいた」と互いのアリバイを証言した。

 そんな彼らによると、船長が船長室のあるフロアに戻ってきてから聞き込み捜査が終了するまでに、第一発見者のポニテを除けば彼ら自身も含めてフロアから出た者はいないという。また、船長室同様、客室の窓もすべて嵌め殺しで異状は見られなかった。つまり、聞き込み捜査時点で犯人はフロアにいたということだ。

 捜査隊は容疑者全員とフロア全体にモンスターボール探知機──金属探知機のモンスターボールバージョン──を使用した。その結果、死亡推定時刻にフロアにいたポケモントレーナーは五人だったと判明した。全員がこのフロアの客室に泊まっている。また、フロアのどこかにモンスターボールが隠されているということもなかった。

 リンコは、早くお肉来ないかなぁ、と半ば上の空になりながらも改めてメモを見て思案するふりだけはする。メモには、グリーンの育ちの良さそうな端正な字でこう記されている。

 

・ドロシー(パラソルお姉さん、三〇二号室)

 ホウエン在住。飲食業。

 手持ちポケモンは、ゴルダック、キングドラ、ルンパッパ、ライボルト。本人曰く「ただのお友達ですよ」らしいが、中~高レベルでなかなかの仕上がり。ポケモンたちは皆、一般的な個体ながら戦う者の顔をしている。

 アリバイあり(死亡推定時刻には非ポケモントレーナーのポーという青年と自室にいた。一目惚れして逆ナンしたらしい。ポーの証言あり)。

 船長と面識なし。

 

・エラリー(ジェントルマン、三〇九号室)

 カントー在住。投資家。

 手持ちポケモンはピカチュウ、ポニータ、ギャロップ、トサキント、アズマオウ、ピクシー。いずれも一般的な個体で、ギャロップとアズマオウ以外は低レベル。ギャロップとアズマオウは中レベル。愛玩メイン。

 アリバイなし(死亡推定時刻には自室に一人でいた)。

 船長と面識なし。

 左手に包帯を巻いている。

「先日、知人の所有する黄色い猫──ペルシアンに切り裂かれてしまってね」

 とのこと。なお、その知人は今回のクルーズには不参加。

 

・アガサ(ミニスカート、三一二号室)

 カントージムを巡るポケモントレーナー。現在のバッジ数は六個。

 手持ちポケモンはケンタロスとルージュラ。いずれもよく育てられており、平均を上回る大きさで超高レベルの戦闘特化。

 アリバイあり(死亡推定時刻には、このクルーズで知り合って意気投合した非ポケモントレーナーのサラという少女と自室で談笑していた。サラの証言あり)。

 船長と面識なし。

 

・ヘレン(ビキニのお姉さん、三一七号室)

 カントー在住。芸能事務所所属タレント。

 手持ちポケモンはメノクラゲのみ。一般的な個体で中レベル。溺れた時の救助用兼護衛用ポケモン。

 アリバイあり(理科系の男のドイルによると、死亡推定時刻にヘレンは自室から出ていないという)。

 船長と面識なし。

 

・ドイル(理科系の男、三三〇号室)

 住所不定無職。

 手持ちポケモンはラルトス、ヌメルゴン、マスカーニャ、ミルタンク、クチート、ユキメノコ。いずれも小柄な個体だが、レベルは全員カンスト。本人曰く、愛玩専用(技はろくに発動せず、戦えない)。

 アリバイなし(死亡推定時刻には一人で通路にいた。ヘレンのたわわが気になって彼女が部屋から出てくるのを通路で出待ちしていたらしい。性犯罪者予備軍か。なお、警備員同様ドイルも悲鳴や争う音を聞いていない)。

 船長と面識なし。

 

 

 

 

【簡易フロア図と部屋の位置】

  

    ┏━━ 船長室 ━━┓

エラリー┃ ┏ トイレ ┓ ┃

    ┃ ┃  ドイル┃ ┃

    ┃ ┃アガサ  ┃ ┃ 

ドロシー┃ ┃     ┃ ┃ヘレン

    ┃ ┗━━━━━┛ ┃

    ┗━━ 警備員 ━━┛

     エレベーター・階段

 

 

 

 

 

 見てのとおり犯人の条件に合致する人物はいない。だからこそ、レストランで雁首を揃えてうなっているのだ。

 

「おい、ポニテ女」グリーンが口を切った。彼の差し向かい──つまりリンコの隣に、肩を縮めて座るポニテの乗組員に尋ねる。「この船のモンボ探知機は本当に信頼できるのか?」

 

 モンスターボール探知機が当てにならないとなると、話が変わってくる。

 乗船時には手持ちポケモンの検査が行われ、記録されるが、これを掻いくぐって密かにポケモンを持ち込み、隠し通すことができるなら、表面上の手持ちポケモンが条件を満たしていなくとも、条件を満たすようにポケモンを加える空きが手持ちにある限り、その条件は満たしているものとして考えなければならなくなる。具体的には、ドロシー、アガサ、ヘレンの三人は、水技、居合い斬り、電気タイプのすべての条件を満たしているとみなされることになる。

 ポニテはおびえるように、しかし明確に答えた。

 

「は、はい、信頼できるはずです。モンスターボール探知機の動作確認は複数の技術職員が定期的に行ってます。今回のクルーズの直前にもやってました。すべて正常だったみたいです」

 

「乗船時のモンボ検査の人的エラーはどうだ? なかったと断言できるか?」グリーンは質問を重ねた。

 

 聞き込み捜査時のモンスターボール検査が正しくとも乗船時の検査が信頼できない場合、電気タイプ条件の扱いを変えなければならなくなる。電気タイプは実行時の手持ちでなくとも構わないのだから、聞き込み捜査時に持っていなくとも乗船時に持っていればその条件を満たす。したがって、乗船時の検査が信頼できないとすると密かにポケモンを持ち込めるわけで、手持ちポケモンの記録、聞き込み捜査時の手持ち及びフロアに電気タイプがいなくとも、電気タイプを加える空きがある限りその条件は満たしているとみなさなければならなくなる。

 

「それも抜かりはありません」ポニテは淀みなく答える。「複数の乗組員が複数の探知機を使って確認していますから、間違いようがないです」

 

 なお、下船に際してはモンスターボール検査は行われず、乗組員への検査は乗船時にも行われないという。もっとも、こんなことが起きた以上、下船の際には乗組員も含めて全員を検査するはずだ。

 また、航行中にポケモンを使って空や海からモンスターボールをやり取りすることもできない──否、やり取りすること自体は可能だが、レーダーや複数の人目がある以上一〇〇パーセントバレる。だから、その線も除外される。

 加えて、この船にはポケモン転送装置はない。

 以上の前提条件から導かれる結論は、このメモの手持ちポケモンだけで犯行が完遂されたということである。

 

「うーん」グリーンは悩ましげに眉を寄せて腕組みした。「どうなってやがる? これじゃ理屈に合わねー」

 

「あのぅ」とポニテは彼女一流の挙手をし、「居合い斬りと水技が使われたっていうのが間違ってたりは──」

 

 たしかに、居合い斬りと水技の条件がなくなると、〈電気タイプのピカチュウを所持し、アリバイもないエラリーだけが犯行をなせた。ゆえに、ハウダニットの観点から彼が犯人である〉というロジックが成立する。

 

「ねーよ」

 

 グリーンは、自分の判断を否定されたからか、不服そうに言った。子供っぽくてかわいいな、と思った自分をリンコは不思議に思う。

 

「水技なしにあんなに濡らそうとすると、まさかバケツで何往復もするわけにはいかないんだから蛇口にホースを繋げて水を撒くしかねー。部屋の水道が使えない以上、向かいの共用トイレから引くしかねーが、人が来るかもしれないのにそこを利用しようと思うか? オレが犯人なら絶対やらねー。あまりにもリスキーだ。

 それに、居合い斬りも必須だ。オレの所見にミスはねーよ。物心ついたころからじーさんの研究の邪魔をし……手伝いをしてきたんだぜ? 居合い斬りの切り口だって有機物無機物問わず無数に見てきた。あれは絶対に居合い斬りによるものだ」

 

 ポニテは、「そ、そうですよね、ごめんなさい」と小さく言って肩を縮めた。

 

「いや、それでいいぜ。思いついたことは何でも言ってくれ」グリーンはニヤリとして言う。「そーゆー恐縮してるふうの素人質問が核心を衝いてくることはマジでよくあるからな」

 

 ポニテの表情が、くすりとして和らいだ。心なしか、グリーンを見る目にいかがわしい熱がこもっているような……。

 

「それなら、共犯しかないんじゃないですか?」

 

 十三歳未満の少年に手を出したら同意があっても犯罪ですよ、と教えてあげたほうがよさそうなお姉さんは、そう言って別の可能性に言及した。

 たしかに、共犯であれば、唯一居合い斬りを覚えるメノクラゲを所持するヘレンと彼女のアリバイ証人であるドイルは確定として、あとは電気タイプを所持するドロシー、エラリー又は監視カメラに細工できる乗組員のうちの一人以上の協力により犯行が可能となる。この際、ドロシーは彼女と互いにアリバイ証人になっているポーとセットで扱う。だから、犯行が可能になる最低限の組み合わせは、

〈ヘレン、ドイル、ドロシー、ポー〉

〈ヘレン、ドイル、エラリー〉

〈ヘレン、ドイル、乗組員〉

 の三パターンになる。

 加えて、警備員二人が結託していた場合も犯行が可能となる。「相方はずっとエレベーターホールにいて、フロアから出てもいない」という二人の証言が意味を成さなくなるからだ。

 と、ここで注文した料理がやって来た。

 リンコの前に置かれた小洒落(こじゃれ)た黒い皿には、表面を焼いただけの、いわゆるブルーレアと呼ばれるステーキがきれいに盛り付けられている。リンコは、推理にいそしんでいるオネショタを尻目に無言でフォークを手に取った。

 

「共犯か」

 

 グリーンがシリアスな声音で言った。

 

「可能性としてはたしかにゼロじゃねー。だが、無理筋だろうな。

 大きく二つの場合に分けて考える。

 一つは、このクルーズに参加する前から共犯者たちが知り合いだった場合。この前提だと、状況から共犯トリックを疑われるのは火を見るより明らかだぜ? 元々親交があるなら、それを隠すことは通常は不可能だからだ。もしもその共犯パターン以外の可能性がすべて否定されたら、積極的な証拠がなくても共同正犯として有罪にされかねない。まともな思考回路してたらそんな杜撰なトリック採用しねーよ。

 もう一つはこのクルーズで知り合った場合だが、これはシンプルに無理がありすぎる。信用できるかどうかも有能かどうかもろくにわかんねー初対面のやつと共犯で殺人をしようって人間はいないからだ。

 要するに、知り合った時期がいつであろうと共犯で殺すのはリスクが高すぎるってことだ」

 

 ポニテは困り眉になり、弱々しく、「共犯でもないとなると、完全な不可能犯罪になっちゃいますよ……」

 

「ハウダニットはいったん脇に置いとくしかねーか」グリーンは独言するように小さく言い、「ホワイダニット──動機のほうはどうだ? 思い出したことやひらめいたことはないか?」

 

「動機……」ポニテは考えるようにつぶやき、「ムカつくから殺す! とかじゃなくて、まったく共感できない意味不明な動機だったりして」

 

「シリアルキラーが犯人だって言いたいのか?」

 

「はい、そういう人の犯行だったら不条理な動機もあるかなって。人を殺したかったから殺した、みたいな」

 

 グリーンは視線を中空に上げて考える顔になり、「ないと思うけどなぁ」とぼやくように言った。

 

「たしかに人の心はわかんねーよ? だからホワイダニットってのは、言ってしまえば何でもありの無法地帯だ。その意味でシリアルキラー説も念頭に置くべきだろうとは思う。

 けどなぁ、現実には確率的に厳しいぜ?

 シリアルキラーの多くが反社会性パーソナリティー障害を抱えているが、この人格障害の有病率はおよそ二パーセント弱──百人に一人か二人くらいだ。そんな稀有な人材がだ、人との接触機会が極端に少ない船長に狙いを定めて、コストとリスクを(いと)わずに犯行をなす──ありえないと反証まではできねーが、だいぶん説得力(リアリティー)に欠けるのも事実だろう。それを裏付ける具体的な証拠が出てくれば違うんだがな」

 

「そうですか……」ポニテは残念そうに視線を落とした。

 

 グリーンはワイングラスを傾けて炭酸水で喉を潤すと、

 

「それに、お前の言うように単に人を殺すことだけが目的だったと仮定すると、実状と矛盾する。だってよ、人を殺したいだけなら船長に拘泥してこんな事件を起こす必要はねーよな? もっと都合のいい獲物、例えば戸籍もねーようなスラムのガキでもさらってバラせばそれですむ話だ、好き好んでハイコスト&ハイリスクな選択をする合理性がねー」

 

「はい……ごめんなさい」この場唯一の大人は、叱られた子供のように声をか細くした。

 

「いやだから、いちいち謝んなよ」

 

 グリーンはやりにくそうに言い、残り少ないブルーレアステーキをちらっと見た。

 

「欲しいの? 一口食べる?」リンコは母性的な気持ちで聞いた。

 

「ちげーよ馬鹿」

 

 しかしグリーンは、くれんなら貰うけど、と言ってステーキを一切れつまんだ。

 

「おいし?」リンコは尋ねた。

 

「ああ、うまい──オレのも食べていいぞ」

 

 というので、リンコは馬刺を頂戴した。ねちょねちょした食感に、薬味の利いたタレがねっとりと絡みついていて、とてもおいしい。やはり哺乳類の屍肉(しにく)はすばらしい。

 ポニテは気持ち悪そうに子供たちの肉料理(死体の一部)を交互に見ながら、サラダ()をむしゃむしゃしている。

 

「リンコは何か気づいたことはねーか?」グリーンが聞いてくる。

 

 リンコは現場のありさまをまぶたに思い起こす。やはり目につくのはバラバラになった死体。

 

「バラバラにした理由、パッと思いつくのは四つ──」

 

 リンコは続けてその推理を口にしようとするも、

 

「四つ? 三つじゃなくてか?」

 

 驚いたようなグリーンの問いが遮った。

 

「うん」リンコは小さく首を縦に振った。「最初に考えたのは、シリアルキラーの犯行に偽装したかったというもの。これは捜査の目をほかに向けさせるためなのだけれど、動機が判然としなくて容疑者も限られているクローズド・サークルでやっても意味がない。だから、たぶん違う」

 

 グリーンは顎を引いた。口は挟まない。

 

「次に考えたのは、本当にシリアルキラーの犯行だった場合。でもこれも、今グリーンが言ったように確率的に考えにくいうえにわざわざ船長を狙う合理性も見出だせない。ただ、わたしたちには想像もつかないような理由で船長に執着したのかもしれないから、絶対にないとまでは言えない。

 そして次に、犯人は船長の反撃に遭って出血したか、元々怪我をしていて犯行の拍子に包帯などが外れて血が垂れたのかもしれない、と疑った。カーペットに零れて付着した自分の血痕を誤魔化すために船長の血を利用したのよ」

 

「えっ、それって──」ポニテがまぶたを上げて言葉にする。「手を怪我してるエラリーさんが犯人ってことですか?」

 

「この点だけを見ればそうなる」リンコは言う。「けれど、彼の手持ちポケモンがその可能性を否定している。居合い斬りを覚えないもの」

 

「そこまではオレも考えた」グリーンがもどかしそうに言う。「だが、それ以上は思いつかなかった。本当に四つ目なんてあるのか?」

 

「わたしが想像したのは経血」

 

「ケイケツ?」グリーンが不理解の声を上げた。

 

「そう」リンコは首肯した。「だいたい月に一度、子宮内膜が剥がれて膣から排出されるあの経血。

 思うに、犯人の生理の本来の予定日はもっと先だった。ところが、殺人の高揚とストレスで体がペースを乱してしまい、予定外に生理が来てしまった。垂れてカーペットを汚したのか、へたり込んだり転んだりした際に付けてしまったのかはわからないけれど、ルミノール反応を恐れた犯人は、水技で洗い流すだけでは不十分だと考えた。そこで、船長の体をバラバラにして彼の大量の血で覆い隠すことにした」

 

「うーん」グリーンはグラスに浮く二酸化炭素の泡沫(うたかた)を見つめる。「それが真なら犯人は女ってことになるが……」

 

「これが憶測の域を出ていないことはわかってる。そもそも論、ドロシー、アガサ、ヘレンには単独での犯行は不可能で、かといって共犯もありえそうにないというのなら、おそらく、わたしたちは重要な手掛かりを見落としている。でも、ほかの解釈が望み薄なんだから、消去法で経血隠蔽パターンが相対的に信憑性のある推r──」

 

「あのぅ」ポニテが決まり文句と共にリンコの弁舌に割り込んできた。「それはないと思います」

 

 揃ってポニテのほうを向いたリンコとグリーンが、

 

「その」「心は?」

 

 と声を重ねた。

 

「そのぅ、非常に言いづらいんですが、ええとですね」ポニテは頬を赤らめてためらい、「うちのガーちゃんが反応しなかったんで、誰も生理中じゃないんです」

 

 ガーちゃんとはガーディのことだろう。聞き込み捜査中はキリリとした凛々しい顔でポニテの傍に寄り添っていた。

 

「反応って……お前のガーディは経血のにおいに反応するのか?」グリーンが困惑して尋ねた。

 

 ポニテは、こくりとうなずいた。

 

「何でそんな変な癖がついた? 今までそんなガーディは見たことがねー。お前のは突然変異か何かなのか?」

 

 研究者の血が騒ぐのか、グリーンの瞳には純粋な知的好奇心の色が浮かんでいる。

 ポニテは、いよいよ茹でオクタンのように真っ赤になった。

 

「あの、わたし、生理中にムラムラする質でして、その、ガーちゃんにお手伝いしてもらうことがあって……」

 

「……」一拍あって、「あー」グリーンは察したようだった。

 

 ポニテはあわあわと取り乱し、

 

「あのっ、グリーン君はエッチなお姉さんは嫌いですかっ?!」

 

「は?」

 

 グリーンは困っている。助けを求めるようにこちらを見た。

 そんな目で見られてもリンコにはどうすることもできない。せいぜいが通報するくら──と、その時、リンコにスパーク走る! 妙案をひらめいたのだ。

 

「ポニテさん」

 

 とエッチなお姉さんを呼んだリンコは、険しい顔を繕って、かの伝説の焼き鳥のように彼女をキッとにらみつけた。ポニテはびくっと震えた。

 リンコは、悋気(りんき)に満ち満ちているかのように口を曲げて言う。

 

「人の男に色目使わないでもらえますぅ?」

 

「ひゃ、ひゃいっ、ごみぇんなしゃいっ」

 

「……」

 

 やはりグリーンは困っている。「どうしてこうなった……」

 

 

 

 

 

 

 捜査会議は、芳しい成果を挙げられないままお開きとなった。

 リンコとグリーンの部屋は同じフロアだったようで、同じ道のりをたどって部屋に戻った。

 そんなリンコの部屋のドアが叩かれたのは、それから一時間ほどが経ったころだった。ヘッドボードのデジタル時計は十九時五分と表示している。

 

「悪いな、リンコ」ドア越しに聞こえてきたのはグリーンの声だった。「話があるんだ」

 

「話?」

 

「わかったんだよ、船長を殺した犯人がな」

 

 

 

 

 

 

『読者への挑戦状』

 

 手掛かりはすべて提示した。

 また、本作はすべて三人称一元視点で書かれているが、本格ミステリの作法を遵守して地の文に虚偽は記述していない。

 船長を殺した犯人は、だーれだ?

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