悪魔と獣、奈落にて。   作:こねこねこ

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お待たせしました。
そこそこ長くなりそうな上に癖も強めですが、気長にお付き合い頂けるとうれしいです。


02_プロローグ

(プロローグ)

 

 

 

"それ"を聞いた時、一瞬言葉の意味を理解することが出来なかった。

 

 

 

もしくは、頭が理解すること自体を拒んだのかもしれない。それほどまでの衝撃を以てして、その一言は俺の中を通り過ぎていった。

 

 

 

「カカロットは死んだ。」

 

 

 

「・・・・・・・は・・・・・?」

「一昨日のセルゲームで、地球を守ろうとして奴は死んだ。結果としては無駄死にとなってしまったが」

 

ベジータの口から再度放たれたその言葉に、思わず間の抜けた声が零れ出る。

 

 

 

・・・死んだ?

 

カカロットが?

 

あの、何度叩きのめそうがしぶとく向かってきた、殺しても死ななかったあいつが?

 

 

 

・・・・・俺を、置いて、勝手に?

 

 

 

「・・・うそだ」

「信じられんという気は理解せんでもないが、いくら否定しようが現実は変わらん。奴はもういない、この世のどこにもな」

「・・・・・・・」

「お、おい!?」

 

何かがブツンと切れた音がした気がする。

 

その時俺は三日ぶりに目覚めたばかりだったらしいが、再度気絶した結果さらにそこから丸一日昏睡する羽目になった。

 

 

 

 

 

―――再び目覚めても、あのクズが言ったように現実は何も変わりはしない。

やはりカカロットはどこにもいなかった。

 

あれから何日が過ぎたのかもよくわからない。

 

"あの時"を境にして、俺は完全に無気力へ陥ってしまった。

身体の奥深くから、何かがごっそりと抜け落ちたような感覚だけが残っていて妙に生々しい。

 

一度だけ、全てが嫌になって何もかも壊してやろうかと思ったこともある。

しかし実行するまでには至らなかった。

 

再び眠れなくなって抜け出した夜半過ぎ、どこか遠くに行きたくなって暫く翔んだあと誰の気配もないところで久方振りに集中して気を高めた時のこと。

そこでようやく気付いたのだが、新惑星ベジータで覚醒した筈だった"あの形態"に変身することが出来なくなっていた。

 

・・・力を失ったわけではない。それは感じる。

しかし自らの中にある臨界点を超えることが出来ない。

超化することも出来るし衰えた気配もなく、むしろ一度死に掛けたせいかあの頃よりも上がっているにも関わらず・・・ただ"あれ"だけにはなれなかった。

 

理由に心当たりはある。

あの、無限かと思えるほどに際限無く沸き起こり続けていた破壊的な衝動がまるで嘘のように消え失せていたこと。

長年の間苛まれていたものから解放されたと言えば聞こえは良いが、反面喪失感もまた小さくはない。

無気力へ陥っている一因にもなっていることは間違いなかった。

 

これは、俺にとっての枷になるのではないか。

そんな下らないことを考える時間だけは有り余っているのが皮肉でならない。

 

やがて高めた気に釣られたのか文字通りすっ飛んで来た連中へ結局何かをぶつけることもなく、ひりついた空気の中構わず変化を解く。

困惑している連中の中でカカロットの息子が何か言いたげにしていたが、相手にはせず放置してそのまま帰った。

 

 

 

 

 

・・・空虚だ。

何をする気も起きない。

 

親父にやたらと気を遣われている気配は感じているのだが、結局あれから改めて話をしたわけでもないしそんな気分にもなれなかった。

出される飯を喰らうだけ喰らって、あとはひたすらに無為な時間を過ごしている。

 

"何をしなくてもいい時間"というのも、それなりに苦痛なものだった。

これが罰なのだとしたら、成程なかなかに堪える。

 

 

 

―――俺は、いったい何のために生き残ったのだろうか。

 

 

 

空回る頭で延々と考えるも答えは見えない。

 

 

 

『"意味が欲しいなら、自分で見つけろ"』

 

 

 

かつて"奴"が俺に残していった言葉は、もはや呪いのようにも思える。

自由になったはずなのに、感じているのはどうしようもない閉塞感ばかり。

 

やはり俺には、何も残されていなかったのではないか。

 

考えれば考えるほどに、陰鬱とした気分にさせられる。

 

・・・我ながら、随分と腑抜けたものだ。

 

 

 

 

 

夜更けの冷えた空気。

 

時計の針だけが、刻々と時を刻む音を響かせている。

 

その日もいつもと同じ、無為に流れていくだけだった空白の夜。

 

聞き慣れない何かが、ふと耳を掠めていった。

微かに甲高く響く音。これは、

 

―――笛の音?

 

自室の中には他に誰もいない。

 

 

 

『・・・貴方の・・・・・』

 

 

 

声が、聞こえた。

 

 

 

『貴方の、"価値"を・・・・・』

 

 

 

なんだ?何を言っている?

 

まるで直接頭に響くような"それ"を煩わしく思い、振り払うようにかぶりを振って寝台へ座り込む。

 

・・・座り込んだ、はずだったのだが。

 

 

 

「・・・・・は?」

 

 

 

気が付くと、背から真っ逆さまに落ちていた。

 

 

 

床が抜けたのかと一瞬思ったが、違う。

下の階へ至るには一秒と掛からない筈だが、いつまで経ってもひたすらに落下し続けていた。

飛べばいいとは思ったものの、どういうわけか上手くコントロールが利かず浮かぶことも止まることもない。

 

・・・これは、物理的に落ちているわけではないのか?

 

周りを流れていく景色にも見覚えは無く、次々に移り変わるそれを当惑しながらも眺めていたその時。

唐突に、見知った顔を見つけた。

 

"そこ"を通り過ぎる刹那、まるで時間の流れが遅くなったような感覚に陥る。

妙に間延びしたようなその数瞬のあいだに、そいつと確かに目が合った。

 

「・・・え」

「あ?」

 

考えるより先に手が動く。

驚いたような呆けたような、目の前にあったその顔を思い切り鷲掴んだ。

 

「え?え!?なに!!?」

 

喚くそいつも一緒になって、そのまま落ち続けていく。

 

周囲の景色が徐々に霞み、やがて白一色になったかと思うと唐突に衝撃が襲ってきた。

どうやら何処かに着いたらしい。

 

頭から落ちた程度で死ぬほどヤワではないが、それなりの痛みに首をゴキリと鳴らす。

 

上体を起こして周りを見れば、何やら見慣れない機械の類いに周りを囲まれていた。

稼働していたそれが次第に鎮まり、淡く放っていた光も消える。

機械の中央部分に嵌め込まれた大きな結晶のようなものが回転していたが、やがて次第に動きを止めるとバキンと固い音を立てて砕け散った。

 

・・・何か、無性に嫌な予感がする。

 

 

 

『・・・うぅ・・・・・』

 

近くから聞こえた呻き声に目をやると、蹲っていた"そいつ"も顔を上げた。

再度、ハッキリと目が合う。

 

俺と同じ名を持つらしいサイヤ人。

・・・正直、二度と見ることはないだろうと思っていた顔だ。

 

『・・・ど、』

 

奴の方も驚いたように目を見開き俺の顔を凝視した後、

 

『どうして・・・!!』

 

口を開いたかと思えば途端に嘆き崩れ落ちた。

 

「おい、なんだその反応は」

『だって!!帰れてからまだそんなに経ってないのに!!また!!!』

 

流石に泣いてはいないが涙目になりながらそう喚くそいつに、"前回"のことを何となしに思い出す。

こいつはどうやら別世界の人間だったらしく、あの戦いの後すぐに帰っていった筈。

つまり俺の顔そのものがどうこうというよりは、こうして対面したことにより"また別世界へ迷い込んでしまった"という現実を認識して打ちひしがれたのだろう。

 

しかし、今回は・・・・・。

 

「見ろ」

『?・・・なんだ、ここ』

 

促すままに奴も周囲を見回し、その異様さに訝しげな顔をする。

・・・この反応からして、実はこいつの世界のほうへ引摺り込まれたのかもしれないという線は恐らく消えた。

 

立ち上がり改めて見れば、足元には何かの肉片と何かの破片が辺りに散らばっている。

何かしらの生き物の残骸であろうこと以外は何も判らない。

肉が乾いていないのを見るに死んでからそう時間は経過していない・・・もしくは、俺達が先程墜落してきた衝撃で死んだ可能性もあるが。

まあそんなことはどうでもいい。

 

下を見たついでに、自分の格好がいつの間にか変わっていることに気が付いた。

地球に移って以降は、「いつまでも半裸でいるな」と強引に押し付けられた地球人用の服を着ていた筈だったのだが。

・・・これは、新惑星ベジータに居たときのもの。

殆ど無意識に額へ触れるも、そこにあの輪は嵌まっていなかった。

制御装置だけを除いて、あの頃の装いに戻っている。

意味がわからん。

 

『・・・あれ?』

 

間抜けた声に振り返ると、奴が機械を無警戒にべたべた触ろうとして"すり抜けて"いた。

・・・いや、それどころか。

 

『さわれない・・・』

「・・・お前、何故透けている?」

『え?』

 

薄暗いせいで先程は気付かなかったが、よく見ると奴の姿が薄く透けている。

注意して聴けばその声もどこか聞こえ方がおかしい。

試しに適当に腹の辺りを蹴りつけてみると、やはり手応えはなくそのまますり抜けた。

 

『うわ!なに!・・・あれ』

「やはり実体が無いな。いつの間にか死んだのか、お前」

『そ、そんな・・・どうしておれだけ・・・・・』

 

ショックを受けている様子の奴にはそれ以上構わず、触ろうとしていた機械のほうへ目を向ける。

・・・機械、とは評したものの石造りのそれはどこか原始的にも見えて古めかしい。

機械そのものには全く詳しくないが、蛸爺やベジータの妻が扱っていたような精密なものとはどこか一線を画した印象を受ける。

 

そんなことを考えながら眺めていると、急に後ろのほうへ引っ張りこまれるような妙な感覚がした。

 

「・・・あ、あれ・・・??」

 

また何かやらかしたのかと奴のほうを見ると、何かがおかしい。

よくよく見てみれば先程とは逆に奴はしっかりと実体を持ち、今透けているのは俺の方。

驚いているのは奴も同じのようだが、一体どういうわけなのか。

 

『・・・お前、何をした?』

「いや、おまえだけずるいなって思って・・・おれも"じったい?"になれたらいいのにって見てたら、何か変わった」

『は?』

 

その一言で肉体を奪われたのだと悟る。

思わず掴み掛るも、実体を失ったせいか相変わらず触れることは出来なかった。

ならば奪い返すことは?と試しに返せと念じてみれば、今度はあっさりと実体へ戻り逆に奴は再び透けている。

 

『あれ・・・?またさっきみたいに・・・』

「どちらからでも代わることは出来るらしいな」

 

どういう絡繰りなのか、そもそも何故こんなことになっているのか。

分からないことだらけだが、とりあえずは・・・

 

「・・・とりあえず、壊して出るか」

 

こんな狭いところで四の五の言っていても埒が明かない。

辺り一帯を吹き飛ばしてやろうかと片手に気を湛えたところで、慌てた様子の奴が声を上げた。

 

『ま、待て!!だめだ!やめろ!!』

「?・・・何故止める』

 

再び身体を奪ってまで制止してきた奴へ訝し気に訊き返す。

 

「"これ"がもし帰る方法だったらどうする!」

 

どういうことかと聞けば、前回奴が世界線を超えたときには"来たときと同じ方法"で帰るしかなかったのだという。

彗星を壊したときに現れた黒点がそうだったらしく、前回はたまたま条件が合致したがそうでなければ見つけるのに難儀しただろうということ。

そして今回それに当たるのがこの目の前にある機械だった場合、今壊しては後々に取り返しがつかなくなる可能性があるということ。

言葉足らずながらも必死に訴えてくるその内容に一応納得はした。

 

「おまえ、すぐに色々壊そうとして危ないからおれが出とく」

『・・・勝手にしろ』

 

物申したい気はするものの、面倒だったこともありとりあえずは任せておくことにする。

奴は足を使って丁寧に辺りを物色し、やがて外へ繋がりそうな通路を見つけて歩き出した。

その先は行き止まりだったが、「向こうに生き物の気配がする」と奴が最小限の殴打で壁をブチ破る。

 

漸く外へ出られたが、そこには両者共に見たことも無い景色が広がっていた。

 

 

 

 

 

―――やがて俺達は後に知る。

 

そこが"アビス"と呼ばれる大穴の中だということを。

 

深界五層、なきがらの海。

 

 

 

先の見えない旅は、そこから始まった。

 

 

 

 

 

**********





もう少し後々に書き溜めてから投稿しようかなーと思ってたんですが我慢できなくてもう始めちゃいました。
書き溜めしてないのでいつもどおり週一前後での更新になります。

需要あるかどうかわかりませんがマイペースに続けていこうかなと(´∀`)よろしくおねがいします。
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