悪魔と獣、奈落にて。   作:こねこねこ

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03_旅の始まり、前途多難。

 

 

 

それは何とも名状し難い光景だった。

 

「・・・すごい、な。何なんだ、ここ」

 

同行者は目を丸くして嘆息しているが、それに反して特になんの感情も抱けないまま周囲の状況を見る。

 

目につく辺り一帯には白い砂と岩ばかり。

しかし少し離れたところでそれは急に途切れており、切り立った崖のようになっていた。

下を覗けば、まるで巨大な湖が複数折り重なっているような奇妙な形状をしている。

湖もそれを迂回するような砂の道も、曲がりくねりながらずっと下へ下へと続いていた。

上から光は入っているようだが空らしきものは見えない。

果てしなく広大な空間ではあるものの、外に出たというわけではないようだ。

 

それらを何となしに眺めていると、背後から声が掛けられた。

 

「なあ、これ・・・隠しておいたほうがいいとおもうか?」

 

視線だけ寄越せば奴が指すのは先程俺達が出てきた穴。

広い岩盤にひとつだけ唐突に開いているそれは、言われてみればそれなりに目を引くものかも知れないが。

 

『知らん。俺に訊くな』

 

興味もなかったので適当にそう吐き捨てる。

しかしその返答が気に喰わなかったのか、拗ねたような顔でじっと見てくるソイツに嫌気が差しながらも再度口を開いた。

 

『・・・中のアレを他の連中に荒らされたくないのなら塞いでおけばいいだろう』

「うん、そうだな。そうする」

 

溜め息混じりに答えてやれば何が嬉しいのか声を弾ませ、奴はその辺りから適当に大きめの岩を千切り取ると立て掛けて穴を塞いだ。

不自然といえば不自然だが、色は紛れているし遠目に見る分には気付かないだろう。

 

「じゃあ、行くか」

『・・・どこへ』

「うーん・・・、ここじゃないどこかだ」

 

答えになっていない答えに辟易する。

心なしか楽しそうに見えるのは気のせいか?

 

・・・しかしこんな場所に留まっていても仕方がないことは確かだ。

他に選択肢も無く、奴に連れられるようにして移動を始めた。

 

 

 

 

 

「でも、こんなにはやくもう一度会うとは思わなかった。・・・元気に、してたか?」

 

気を遣っているのか、はたまた退屈凌ぎか。歩きながらも奴が話しかけてくる。

 

『・・・全く。お前のせいで散々だった』

「えっ・・・そう、なのか・・・・・」

 

そんなに怪我が酷かったのかと声を沈ませる奴へ、そういう意味ではないと返すと困惑したように押し黙った。

しかし沈黙は長くは続かず、少しの間を置いて奴は再び口を開く。

 

「・・・おとうさんは?」

『相変わらずだ。・・・そもそも、たった数日では大して変わりもせんだろう』

「・・・そうかな」

 

会話は続かない。

黙って歩いていれば良いものを、口も上手くはない癖に飽きもせず三度声を掛けてくる。

・・・しかし。

 

「じゃあ悟空・・・カカロットは?」

 

その単語に思わず足が止まった。

やや間を置いて、返答が無いことを訝しんだのか奴が振り返る。

 

「どうした・・・?」

『死んだ』

「・・・え」

『あいつは死んだ。もういない。・・・俺に、あそこまで言っておきながら』

 

実体はないのに、握った拳が軋んだ気がした。

 

「・・・・・そう、か」

 

瞠目していた奴も目を伏せ、しかしおずおずと様子を伺って来る。

 

「だいじょうぶか?」

『・・・何がだ』

「つらそうな顔、してる」

『馬鹿を言うな』

 

俺があいつなんぞのためにそこまで心を乱すなど。

死んだあとになってまで。

 

・・・冗談ではない。

 

「そんな顔してるってことは、おまえが殺したわけじゃないんだろ」

『俺ではない。・・・地球を守る為だか何だか知らんが、勝手なことだ』

「・・・そうか・・・・・悟空らしい、理由だ」

『くだらん。・・・・・もうこの話は終わりだ。黙って歩け』

 

苛立ちが最高潮に達する前に強引に話を打ち切る。

・・・互いに触れることの出来ないこの状況でなければ数発は殴っているところだ。

 

 

 

 

 

風と湖から流れ落ちる滝の音、そして砂を踏む音だけが辺りに響く中。どれほど進んだ頃だったろうか。

いい加減白と黒だけの風景にも見飽きてきたところで、奴が何か見つけたのか急に小走りで駆け出す。

 

「うわ・・・あれ、なんだ?光ってる」

 

やがて俺の視界にも現れたそれは、まだかなり距離はあるが一際目を引くものだった。

折り重なった湖の続く先、一番下層に位置するあたりに見える円形の遺跡。そしてその中央からは紫色に輝く光の柱が立ち昇っている。

人工物であることは間違いない。・・・ということは、何かしらの知的生命体は居るはずだ。

 

地続きになっている部分を歩いてきたが、それもこの辺りで途切れていた。

崖下にはまだ砂岩地帯が続いているが、そこそこの高さがある。

 

「道、ここまでだな。飛んでいこう」

 

特に何の疑問も抱かずにいつもと変わらない調子で飛び立ち、あまり距離が離れられないのかつられて俺も空中へと上がった。

・・・が、異変が生じたのはそのすぐ後のこと。

 

「・・・あれ?ぶろ、どこ行った?」

 

結構な高度まで昇ったあたりで、奴が急に周囲を見回し不審な動きを始めた。

 

『・・・何を言ってる』

 

すぐ近くに居るにも関わらず俺のことを見失ったのか、焦った様子で探し始めたと思えば今度は急に頭を抱えて唸り声を上げ始める。

どうやら俺の声は聞こえていないらしい。

次第に制御も覚束なくなったようで、そのままふらふらと不安定な動きをしていたが唸り声が悲鳴に変わった辺りで真っ逆さまに落ちた。

 

・・・人の身体でやらかしてくれる。

溜息をつき、俺も降りてみれば打ち所でも悪かったのか砂地へ墜落した奴は既に失神しているようだ。

 

この場合どうなるのかと思ったが、その答えはすぐ後に出た。

自分では意図的に交代したつもりは無かったにも関わらず、身体を奪われたときのように勝手に意識が引っ張り込まれる。

表に出ていた方が意識を失った場合、自動的に制御が明け渡されるらしい。

 

そして事態を把握した。

 

交代して実体を取り戻した状態であるはずが、視界に何も映らない。周りの音も何も聞こえない。

落ちて地面に倒れていた筈なのに、その地面に触れている感覚すら無かった。

 

・・・先程の奴の異様な様子は"これ"のせいか。

 

周囲の状況が一切把握出来ないのは中々に面倒だ。既に空間の上下の判別すらつかない以上まともに動けもしない。

交代する一瞬前、こちらへ近寄ってきている巨大な蟲のような異形の生物の姿を見た。

なにせ地面に触れている感覚すら無いのだ。攻撃を加えられたところで感知も出来ないだろう。

いつまでこの状態が続くのかは知らないが、どう見ても敵性生物だった"それ"が大人しくしているとも思えない。

 

気の操作を試みるも、失われた五感と同じく正常に働いているという実感は無かった。

まともに気も練れない中、ほとんど勘だけで周囲全方向へ向けて気を爆発させる。

いつもならそこそこ大きなクレーターを作る程度には威力が出ているはずであるが、手応えも何もない今は発動に成功したのかどうかすら何も判らない。

敵の位置もその方向も判別出来ない以上、今出来る抵抗は精々この程度だ。

何が切っ掛けでこの状況に陥ったのかもわからないが、あとはこれが自然に回復するものであることを願うしかない。

条件によってはこのまま変わらない可能性もあるが、そのまま死ぬのであればそれはそれで―――――、

 

 

 

―――そこまで考えたところで急に、俺の意識は刈り取られた。

 

 

 

 

 

**********





実績解除:『はじめての上昇負荷』
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