旗折りの転校生 作:がおられ好きの物書き
頭上には『小テストで平均点を取るフラグ』、角を曲がった先のクラスメイトには『新しいゲームに熱中するフラグ』。すべては彼の知る世界――論理と因果で動く、予測可能な日常だった。
だが、その日常は、一瞬にして崩壊した。
颯太の耳に、まるで遥か遠い空間から届くような、静かで確固たる声が響いた。
「――旗立颯太さん。あなたの持つその『力』は、このキヴォトスに、必要です。私たちの未来には、あまりにも巨大で、あまりにも強固な『破滅の旗』が立ちました。先生だけでは、それを折ることはできないかもしれない。だから……どうか、あなたの能力で、この学園都市の運命を切り拓いて先生を助けてください」
彼の目の前の空間に、これまで見たこともない、異様な旗がそびえ立ったのだ。それは、黒曜石のように暗く、表面には歪んだ光沢を放つ文字が刻まれている。大きさは建物を優に超え、その根元は空間そのものを捻じ曲げているように見えた。
「な、なんだ、あの
逃げようとした瞬間、旗は音もなく折れ、同時に凄まじい引力と光が颯太を包み込んだ。
颯太が次に意識を取り戻したとき、全身にアスファルトの冷たさを感じた。
「ここは……」
目を開けると、そこは見慣れた日本の街並みではなかった。色彩はどこか鮮やかすぎ、空気は排気ガスと硝煙のような匂いが混じっている。周囲の建物は、未来的ながらもどこか学園を思わせるデザインだ。
そして、彼の視界は情報過多で爆発寸前になった。
頭上に、奇妙な光の輪が浮かぶ少女が、優雅な仕草でアサルトライフルを肩に担いで歩いている。
颯太は恐る恐る顔を上げ、この街の人々の頭上を見た。
そこにあったのは、彼の世界にあったような、整然とした『日常の旗』ではなかった。
――混沌。
「う、嘘だろ……」
ある生徒の頭上には、『親友と仲直りするフラグ』のすぐ隣に、『戦車で壁を破壊するフラグ』が立っている。
別の生徒達には、『ランチの唐揚げを半分落とすフラグ』と、『街の水道管を爆破するフラグ』が同時に、しかも強烈に輝いている。
さらに奥には、『奇妙な鳥が大好きフラグ』と『アウトローのトップになるフラグ』が、同じ強さで揺らめいていた。
全ての旗が規格外で、矛盾し、そして異常なほどに高くて太い。彼の世界では一週間かけても起きないような大事件のフラグが、この街の少女たちや建物の上に、数十本、数百本と乱立している。
「なんだ、この世界……全ての因果が狂ってる! フラグが、フラグが全く読めない……!」
彼は思わず目から血の涙を流しそうになるほどの情報量に、その場にうずくまってしまった。
「ああ、また一人、道端で倒れてる子が……って、キミ、ヘイローがないね?」
穏やかな声が聞こえ、影が颯太を覆った。顔を上げると、そこに立っていたのは、制服ではなくスーツを着た、どこか優しさと疲労を滲ませた眼差しを持つ大人だった。その人物の頭上には、他の生徒たちのような派手な旗はないが、代わりに『残業地獄フラグ』と『胃薬を飲むフラグ』そして他のどの旗よりも静かに、しかし深い輝きを放つ
『救世主フラグ』
が静かに、しかし強固に立っていた。
「……私が最初に見つけることができてよかった。キミは、私と同じ外の世界の人間だよね。助けに来たよ」
その言葉と、彼に差し伸べられた温かい手に、颯太はなんとか意識を繋ぎ止めた。彼がキヴォトスという狂った学園都市に到着した瞬間だった。