旗折りの転校生   作:がおられ好きの物書き

11 / 15
第十話:凱旋と報告、悪党の演技

「行くわよ、皆。今回の結末は、大いなる敵への一時的な譲歩よ。そして、この屈辱は、いつか必ず最強の悪党としての凱旋という結果で覆す!」

 

そう宣言したアルは、すぐに颯太に背を向けた。

彼女の立ち去り方は、まさに「気品のある社長」のそれだった。早足で逃げるでもなく、悔しさに顔を歪ませるでもない。

背筋をピンと伸ばし、着慣れないコートの裾が風にはためくのを一顧だにせず、アルはゆったりとした、しかし確固たるリズムで歩き出した。その歩みは、まるで寂れたビルの裏路地ではなく、レッドカーペットを闊歩しているかのようだ。彼女の歩く一歩一歩が、私は今、最も冷静かつ非情な選択をした真の悪党である」という、無言のメッセージを周囲に発していた。

 

「アル様、かっこいいです!やっぱり、ただの交渉じゃなくて、戦略的撤退だったんですね!」

 

ハルカは、アルの後に続きながら、涙目で感激している。アルは返事をせず、ただ一瞬、肩越しにハルカを一瞥しただけで、その「余裕あふれる歩き方」を崩さなかった。

ムツキだけが、去り際に颯太の方を振り返り、悪戯っぽい笑みを浮かべた。 

 

「あのね、お兄さん。アルちゃん今すっごく悔しいんだよ。でも、悪党の美学のために、それを隠してるの。クフフ!」

 

ムツキはそう言って舌を出し、アルを追いかけていった。

アルの悪党としての強い意志が、物事を常にドラマチックな方向へ導こうとする、厄介な性質を持っているのだろう。

 

(アルさんの悪の美学……それは、ただの建前じゃない。彼女の行動のすべてを駆動させる、強固な『意志の旗』なんだ。だから、僕の力で『金銭トラブル・深刻化フラグ』を折ろうとしても、彼女の『ハードボイルドな結末フラグ』が、その場に新しいトラブルの旗を立てようとした……)

 

颯太は、先生のメッセージが持つ『絶対的な旗』の力によって、ようやくアルの意志を上書きできたことを理解した。

 

便利屋68のメンバーが去った場所から、細く、新たな旗が立ち上がっていた。

『最強の悪党としての凱旋フラグ』

それは、アルが去り際に宣言した、この屈辱を晴らすための、純粋な『目標の旗』だった。

 

(新しい旗が立ってしまった。でも、これは、破滅ではなく目標の旗だ。今は、この旗が立っている限り、彼女たちが大きなトラブルを起こす可能性は低い……)

 

颯太は、この結果を報告するために、シャーレへと戻る準備を始めた。

 

シャーレ、執務室にて

シャーレに戻った颯太は、先生に電子決済端末と、しわくちゃになったメモを返した。 

 

「先生、報告します。便利屋68への滞納金支払いは完了しました。交渉中に、リーダーのアルさんがハードボイルドな結末を求めて問題を起こしそうになりましたが、先生のメッセージによって、彼女の行動を抑制できました」

 

先生は端末を受け取り、決済完了のログを確認しながら、穏やかに微笑んだ。

 

「そうか。よくやってくれた、颯太くん。君の報告通り、私の連邦生徒会長代行としての権威が、生徒たちの行動パターンを抑制したわけだ」 

 

 

先生は、メモに書かれたメッセージを一瞥した。 「——すべての旗の元へ。連邦生徒会長代行・シャーレより。」

「このメッセージは、キヴォトスにおいて、最も強大な『秩序』の象徴だ。アルくんのような自己演出を好む子には、特に効果的だったろう。あのこは、悪役としての退き際を演出したかっただろうしね」

颯太は頷いた。

 

「はい。彼女は悪党の美学のために、屈辱を呑み込みました。そして、すぐに『最強の悪党としての凱旋フラグ』という新たな目標を立てて去っていきました」

 

先生は興味深そうに目を細めた。

 

「興味深いね。君の介入は、生徒たちの行動の方向性を劇的に変えるな。君の存在は、キヴォトスの未来を、より良い軌道に乗せられる力なのかもしれない」

 

先生の頭上に立つ『破滅フラグ』は、滞納金問題が解決したことで、さらにその揺らぎを増していた。

先生は立ち上がり、颯太の肩に手を置いた。

 

「さて、アルくんが『凱旋フラグ』を立てたのなら、しばらくは大きなトラブルはないだろう。しかし、キヴォトスには、他にも大きな危機を抱えている学園がある」

 

先生はモニターを操作し、ある学園の地図を指し示した。

 

「次の任務だ、颯太くん。今度は、アビドス学園だ。そこには、このキヴォトスでも特に大きく、そして解決が困難な『学園の存続危機フラグ』が立っている筈だ。君の力が必要だ」

 

颯太は、その名を聞いただけで、自分の視界の端に、今までのどの旗よりも巨大で、悲壮感のある、『アビドス学園・巨額負債フラグ』が立つのを見た。その旗は、『破滅フラグ』に匹敵するほどの大きさを誇っていた。

(この旗の示すものは、『借金がもたらす悲惨な結末の可能性』だ。返済の道筋ではなく、その問題が孕む絶望的なエネルギー。だからこそ、こんなにも悲壮感が漂っている……)

 

「アビドス……わかりました、先生。行って、その旗をどうにかする道筋を見つけます」

 

颯太は、新たな、そしてより困難なミッションへと向かう決意を固めた。




次から対策委員会辺です








なに?時系列が可笑しいって?
花のパヴァーヌは先に先生が解決していたってことでお願いします
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。