旗折りの転校生 作:がおられ好きの物書き
「うへ〜。やっぱりそうかぁ。先生も大変だねぇ。まあ、外の人はみんなそう言うけどさ、そんな簡単に解決できる問題じゃないんだよ、これは」
ホシノはそう言いながら、立ち上がった。彼女は、腰に提げたショットガンを軽く叩き、颯太に目を向けた。
「とりあえず、立ち話もなんだし、中に入ろうか。他のメンバーにも紹介しないとね。シャーレの特別所属さんが一人で来るなんて、滅多にないことだろうから」
ホシノに促され、颯太は錆びついた金属の扉を押し、校舎の中へと足を踏み入れた。内部は外観に輪をかけて荒れ果てており、廊下には砂が吹き溜まり、換気扇からは砂埃が落ちてくる。
校舎の中に入っても、颯太の視界を覆い尽くす**巨額負債フラグ』の存在感は変わらない。それはこの建物の骨格そのものに食い込んでいるようで、颯太の心に重くのしかかった。
ホシノについて、対策委員会が使用しているという一室に辿り着く。そこは、古い備品で埋め尽くされた倉庫のような部屋だったが、中央に置かれた折り畳み式のテーブルだけは、綺麗に片付けられていた。
そのテーブルを囲むように、四人の生徒が座っていた。
「あれ、ホシノ先輩、その人は?」
「お客さんですか、ホシノ先輩?」
「シャーレの……特別所属?」
生徒たちの視線が一斉に颯太に集まる。ホシノはいつもの調子で、面倒くさそうに片手を振った。
「うへ〜、みんな。落ち着いてよ。この人が、シャーレから来てくれた旗立颯太くん。先生の代わりに来てくれた、特別所属さんだよ」
颯太は改めて四人の生徒たちを見た。彼の視界には、彼女たち一人一人の頭上に、小さな旗が立っている。
まず目を引いたのは、シロコという名の、青いマフラーと白い髪の生徒だった。彼女の瞳は鋭く、そのヘイローは疾走するような形状をしている。
シロコの頭上には、白く、激しい風になびく旗が立っていた。
『学園の敵・報復フラグ』
(怒りの旗だ……この高校を苦しめる者たちへの、純粋な、だが激しい復讐心)
次に、ツインテールの猫耳のセリカ。彼女の表情は常に焦燥と苛立ちに満ちている。
セリカの旗は、黄色く、常に小刻みに震えている。
『日々の生活・金銭不安フラグ』
(最も現実的な苦しみの旗。彼女は毎日、お金のことで頭がいっぱいだ)
そして、穏やかな笑みを浮かべるノノミ。彼女の頭上には、他の生徒たちとは違い、巨大なヘイローが安定した光を放っている。
ノノミの旗は、淡い水色で、ほとんど動かない。
『仲間たちへの揺るぎない支援フラグ』
(この人は、経済的な問題を抱えていない?でも、この高校を守ろうとする意志は誰よりも安定している……)
最後に、記録帳とペンを手にしているアヤネ。彼女は真面目そうで、責任感の強さが窺えた。
アヤネの旗は、規則正しい縞模様で、垂直に立っている。
『予算と活動・計画遂行フラグ』
(カオスな状況の中で、秩序を維持しようとする旗。彼女が対策委員会の実務を担っているようだ)
颯太は一人一人の旗を確認し、この対策委員会が、絶望的な危機(巨大負債フラグ)に対し、四者四様の強い意志(個々の旗)で対抗していることを理解した。
「旗立颯太です。この度は、アビドス高等学校が直面している問題について、対策委員会の皆さんと共に、解決の道筋を探るために参りました」
颯太が挨拶をすると、セリカが不満げに口を開いた。
「道筋を探る、って……。あのね、特別所属さん。私たちはもう何ヶ月も、いろんな方法を試して、全部失敗してるの!あなた一人で、何ができるっていうのよ!」
セリカの苛立ちが、彼女の『金銭不安フラグ』を激しく揺らした。
ホシノがゆったりとした口調でセリカを制した。
「まあまあ、セリカちゃん。シャーレの特別所属さんが来たんだ。借金取りじゃないだけマシだよ。とにかく、この人が、この絶望的な状況をひっくり返してくれるかもしれない、ってこと。期待せずに期待しようか」
ホシノの言葉には、皮肉が混じっていた。
颯太はホシノの視線を正面から受け止める。
「私は、皆さんの『高等学校を守りたいという意志』が、この危機を解決するための、唯一の鍵だと信じています」
「そして、私はその意志を、現実の未来へと導く『きっかけ』を作るために来ました」
颯太は、彼にしか見えない旗の存在を悟られないように、慎重に言葉を選んだ。