旗折りの転校生 作:がおられ好きの物書き
颯太は、あの混沌とした街の喧騒から隔離された、静かな空間にいた。
そこはシャーレと呼ばれる場所で、窓の外には高層ビル群と、時折、空を駆けるドローンが見える。机には倒れかけのコーヒーカップがあり、デスクの上は書類の山が小さな山脈を形成していた。
先生は颯太の手にできた擦り傷を優しく手当てしながら、穏やかに語りかけた。
「キミは、本当に『外の世界』から来たんだね。ヘイローがないこともそうだけど、この世界の子たちとは、根本的に違う気配がする」
「……ここは、一体?」
颯太は呆然としていた。
「あの声の主は誰なんですか?そして、僕はなぜ……」
颯太はこの世界に来る直前に聞こえた声について活たった。
先生は絆創膏を貼り終えると、深く息をつき、真剣な眼差しを颯太に向けた。
「その声はおそらく、連邦生徒会長のものだろう。彼女は、このキヴォトスを統べる存在だった。そしてキミが呼ばれた理由だが……キミがこの世界に突然現れたという状況と、私自身が感じているこの世界の危機感から、彼女が予見していた『大きな危機』に関わることだろうと、そう推測している」
颯太は自分が持つ能力を、目の前の大人に説明しなければならないことを悟った。
「僕には少し特殊な力があります。僕の力は……『フラグを見る力』です。折る力ではありません。ただ、どうすれば折れるか、その道筋がなんとなく見えるだけです。
颯太は自嘲気味に笑った。
「僕のいた世界では、あらゆる事象は『
「でも、このキヴォトスは違います。先生の頭上に立つ『残業地獄フラグ』と『救世主フラグ』が同時に、同じ強さで輝いている。街の少女たちは、『親友と仲直りするフラグ』の横で『戦車で壁を破壊するフラグ』を育てている。ここでは、全ての因果律が狂っていて、旗が乱立しすぎている。僕の力は、たった一つの旗を折っても、別の予測不能な旗が必ず立ってしまう。まるで……僕の能力が、この世界が混沌に倒れないようにする『補助輪』に過ぎないみたいだ」
先生は静かに話を聞き終え、優しく微笑んだ。その微笑みは、颯太の不安を少しだけ和らげた。
「そうか、『フラグを見る力』と、その
先生は身を乗り出し、颯太の目を見た。
「キミの言う通り、キヴォトスは常識が通じない場所だ。理不尽で、理屈が通らない。生徒たちは、銃弾の飛び交う日常の中で、それぞれの目標に向かって生きている。」
先生はデスクの引き出しを開けた。そこにはなぜか、颯太の情報が登録された身分証明書と、シャーレの腕章が入っていた。連邦生徒会長の周到さ(あるいは強引さ)に先生は軽くため息をついた。
「キミの安全と、キヴォトスでの活動を保証するために、私からキミに正式に依頼したい。シャーレの『特別枠所属』として、私と一緒にこの学園都市を助けてほしいんだ」
腕章には、シャーレの紋章と共に「特別所属」と記されていた。
颯太はしばし考えた。自分の世界へ戻る手がかりは、連邦生徒会長のメッセージと、この先生の協力の中にしかないだろう。そして何より、この世界に突き刺さっている、巨大な破滅フラグを見過ごすことはできなかった。
「……わかりました。僕は、旗立颯太です。この世界に来た以上、僕の力で、この乱立した旗をどうにか整理してみせます」
彼は差し出された腕章を受け取った。その瞬間、颯太の頭上に新たな、そして彼の人生で最も強い意志を示す旗が力強く立ち上がった。
『シャーレに協力して、キヴォトスの運命を切り拓くフラグ』
それは、彼が選んだ、この世界での最初の大きな