旗折りの転校生   作:がおられ好きの物書き

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旗折り転校生と最初の仕事

 

シャーレの執務室の窓から、旗立颯太はキヴォトスの街並みを眺めていた。銃弾が飛び交い、戦車が走り、それでも街の光が失われないその光景は、彼の知る世界の常識を根本から揺さぶり続けていた。

左腕には、真新しいシャーレの腕章。「特別所属」の文字が、彼の新しい立場を静かに主張している。

 

「旗立くん、準備はいいかな?」 

 

先生はデスクの山脈を乗り越え、颯太のそばに立った。その頭上には、巨大な『残業地獄フラグ』が、破滅フラグの暗い影に覆われながらも、健在だった。

 

「はい。身分証も受け取りました。それで、最初の任務は……?」

 

颯太が尋ねると、先生は少し困ったように頬をかいた。

 

「最初の任務は、『大惨事の旗を、わずかでも傾けること』だ。私にとって、日常茶飯事の事態なんだけどね」

 

先生は、タブレット端末を颯太に見せた。表示されていたのは、ミレニアムサイエンススクールのゲーム開発部が、現在、学園の広場で開催している新作ゲームの公開イベントの情報だった。 

 

「ミレニアムサイエンススクールのゲーム開発部は、天才的な発想と、それに全く釣り合わない技術力で有名でね。彼女たちのイベントは、毎回、大失敗か、成功かの二択でね」 

 

颯太は先生が指し示す学園の広場を視認した。そこは、彼の視界において、最も旗が乱立し、混沌としている場所だった。

 

「っ……これは!」 

 

広場の上空には、文字通り旗が飽和していた。

『超大成功フラグ』: 虹色に輝き、勝利を約束するが、激しく揺らいでいる。

『システム大炎上フラグ』:黒煙を上げ、今にも倒れそうな最も危険な旗。

『双子の姉妹ゲンカフラグ』:鮮やかなピンクとグリーンの小さな旗が、お互いに絡みつき、ねじれている。

そして、それら全てを背景に、広場の未来全体に広がる巨大な『経済損失に繋がる大事故フラグ』が、薄く、しかし確実に立っていた。

 

「見えますよ先生。あの場所は、まるで『因果のブラックホール』だ。どこへ進んでも、必ず何らかの事故が起きる道しかない」

「ああ、いつものことだよ。でも、今回は特にまずいフラグが『キミの目には』見えているんじゃないか?」 

 

先生は、颯太の能力を理解しようと、言葉を選びながら尋ねた。

 

「はい。『大事故フラグ』が、これまで見た中で最も厄介です。折る道筋が全く見えません。どの選択を選んでも、最終的な結果は変わらないと示唆しています」

 

先生は微笑んだが、その目には疲れの色があった。

 

「そうだろうね。キヴォトスのカオスは、そこまで理不尽だ。だから、君に頼みたいのは、『旗を折ること』ではない」

 

先生は颯太の胸元を指差した。 

 

「彼女たちの努力が無駄になること、つまり『一生懸命作ったものが台無しになる失望フラグ』は、私たち大人が最も折らなければならない旗だ。君の力で、その『大事故フラグ』が達成された際に、生徒たちの『失望フラグ』が立つ道筋だけを、わずかでも遠ざけてほしい」

 

先生は既にスーツの上からアウターを羽織り、出かける準備をしていた。

 

「私たちは今からミレニアムサイエンススクールに向かう。君の『フラグが見える目』で、生徒たちが次に何をしようとして、どこで問題が最大化するのかを私に教えてほしい。私は後から現場に合流するが、君には先に行って、旗が最も傾きやすい場所を見極めておいてほしいんだ」

 

颯太は腕章をきつく握りしめた。旗を折るのではなく、最悪の道筋から目を逸らす。それは、彼のこれまでの人生でやったことのない、「旗を諦める」という新たな戦い方だった。

 

「……了解しました。行きます。僕の『補助輪』で、彼女たちの頑張りが無駄にならないように、道筋を見つけてみます」

 

颯太は頷き、シャーレの執務室のドアを開けた。キヴォトスの騒乱の中へ、特別所属・旗立颯太の最初の任務が始まった。

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