旗折りの転校生 作:がおられ好きの物書き
シャーレの車を降りた旗立颯太は、ミレニアムサイエンススクールの広場へ向かう道すがら、周囲の生徒たちを警戒心をもって観察していた。16歳の彼にとって、どこから銃弾が飛んでくるかわからない日常は、依然として理解不能な恐怖だった。
「16年間生きてきて、まさかこんな非常識な世界に来るとは……」
彼は腕に巻かれた「特別所属」の腕章を指でなぞった。その重さは、物理的な金属よりも、先生から託された責任の重さだった。
広場に近づくにつれて、カオスは増幅していった。
ゲーム開発部が主催するイベント会場は、テクノロジーの祭典というよりも、爆発物の倉庫に見えた。巨大なスクリーンにはゲームの映像が流れているが、その横では見たこともない奇妙なロボットが火花を散らし、コードが複雑に絡まり合ったケーブルの束が、今にもショートしそうな危険な状態だ。
颯太の視界のフラグは、ますます激しく乱舞していた。
『システム大炎上フラグ』が黒煙を上げ、その
そして、そのカオスの中心には、四人の少女がいた。
「よーし!これなら、アリスの必殺技の演出がさらに派手になるはずだよ、ミドリ!」
「まかせて、お姉ちゃん!その代わり、この演出ミスったら、お姉ちゃんの責任だからね!」
モモイとミドリ。二人は双子のようにそっくりな出で立ちで、巨大なモニターの前でキーボードを激しく叩いていた。二人の頭上には、『双子の姉妹ゲンカフラグ』が、楽しげに絡み合うように揺れている。それは危険な旗というより、日常の賑やかさを示す旗のようだった。
その近くでは、広場にひかれたステージの床に座り込み、お菓子を食べている少女、ユズが、コントローラーを握りしめていた。彼女の頭上には、なぜか『お菓子を落として絶望するフラグ』という小さな旗が立っていたが、それ以外の目立った危険なフラグはなかった。
そして、ひときわ異彩を放つ、巨大な十字架のような物体を背負った少女、アリスがいた。彼女の表情は真剣そのもので、手には巨大なレーザーガンが握られている。
アリスの頭上には、奇妙な二重構造の旗が立っていた。
内側の旗: 『ゲームを完成させて、皆を笑顔にするフラグ』――純粋で強固な成功フラグ。
外側の旗: 『制御不能な暴走フラグ』――鮮烈な赤と黒の糸が絡みついた、最も警戒すべき危険な旗。
この二つの旗が、アリスの持つレーザーガン*1のエネルギーゲージと連動しているように見えた。
颯太は混乱した。
「成功と失敗が同時に……いや、これは違う。彼女たちの『達成したい目標』と、『その目標の達成に伴う副作用』が、分離して立っているのか?」
彼が立ち止まって分析していると、モモイが颯太に気づき、大声で話しかけてきた。
「あれー?キミ、ミレニアムの子じゃないよね?どこの生徒?それとも外部の協力者さんかな?もしや、私たちが開発中の『超次元RPG:デバッグ戦争』のテストプレイをしに来たの?ちょうど今、ラスボス直前だよ!」
モモイの元気な声と共に、彼女の足元には『初対面の相手を巻き込んで困らせるフラグ』が、楽しそうにピコピコと立ち上がった。
颯太は背筋が凍るのを感じた。これが、先生が言っていた「予測不能な行動」の権化だ。
(この子たちだ。この子たちの行動が、カオスを生み出す。そして、この『超次元RPG』とやらが、大事故の引き金になる可……)
颯太は覚悟を決め一歩踏み出し、腕章を見せた。
「僕はシャーレの特別所属、旗立颯太です。このイベントに、重大な危険が潜んでいるのが見えました。どうか、今すぐその『超次元RPG』のデバッグを中断してください!」
16歳の真面目な颯太は、単刀直入に警告を伝えた。しかし、その警告は、彼女にしたら、最も無意味な言葉の一つだった。
モモイは顔を輝かせた。
「えーっ!?シャーレが私たちのゲームに『重大な危険』があるって言うの!?すごーい!それってつまり、私たちのゲームが『世界を揺るがすほどの超大作』ってことじゃん!燃えるね!」
颯太の警告は、モモイにとっては『ゲームの評価フラグ』に変換されてしまったのだ。
「え……?」
颯太の足元には、彼の警告をモモイが『最高の褒め言葉だと解釈し、イベントを続行するフラグ』が、眩しい光を放ちながら立ち上がった。
「見て、先生!僕のフラグが、逆に最悪の事態を誘発した……!」
颯太は焦りのあまり、思わず無線機のつもりで腕章に話しかけてしまった。
先生はまだ現場に到着していない。彼は今、この予測不能な生徒たちと、一人で対峙しなければならない。