旗折りの転校生 作:がおられ好きの物書き
「え……?」
颯太の焦りが空回りし、逆に『最高の褒め言葉だと解釈し、イベントを続行するフラグ』が燦然と輝いている。彼の警告は、このミレニアムでは、ゲームのオープニングテーマのように歓迎されてしまったのだ。
「えーと、あの……!」
「じゃあ、シャーレの特別所属さんにも見ててほしいな!これが、私たちの最高傑作になる瞬間だよ!」
モモイはそう言うと、キーボードに向き直り、最終調整らしき作業に戻ってしまった。ミドリも「いくよー!」と楽しそうだ。
颯太の背筋に冷たい汗が流れた。彼の視界では、『システム大炎上フラグ』が、熱を持ち始めた電源コードと共に、もうすぐ立ち上がろうとぐらついている。そして、アリスの『制御不能な暴走フラグ』も、刻々とゲージを溜めていくアリスのレーザーガンのエネルギーと連動し、鮮烈な赤を増していた。
(まずい。これ以上、正論や警告は通用しない。この世界では……生徒たちの感情と行動の法則を利用しないと、旗は折れない!)
颯太は脳裏に、カヨコから教わった「アル社長への対処法」と、先生から聞いた「キヴォトスの特性」を必死に組み合わせた。
カヨコのアドバイス: 悪党の「美学」を突く。
先生の言葉: 彼女たちは「銃弾の飛び交う日常の中で、それぞれの目標に向かって生きている」。
彼女たちゲーム開発部にとっての「目標」とは何か?
それは
『最高のゲームを作ること』
だ。
颯太は意を決した。真面目な彼が最も苦手とする、相手の感情を逆手に取った誘導。それを今、実行しなければならない。
「待ってください!皆さん、本当にこのまま完成でいいんですか?」
モモイが訝しげに振り返った。
「え、どういうこと?もうデバッグも最終段階だよ?」
「最終段階……だからこそ、致命的なんです!」
颯太はあえて大げさに、眉間にシワを寄せて指摘した。
「今、このVRシミュレーターの電源に突き刺さっている『システム大炎上フラグ』、これはただの電力不足じゃない。プログラムの『リソース管理のバグ』ですよ!」
モモイとミドリの顔色が一瞬にして変わった。さっきまでの楽しげな笑顔が一瞬で消え、プロとしての真剣な表情になる。
「リソース管理のバグだってぇ!?」
モモイが驚愕を帯びた声で言った。
「シナリオの完成度は完璧*1のはずなのに、システム側で致命的な欠陥があるなんて……!」
「そんなはずは!ユズが組んだコアの部分は問題ないはずだよ、お姉ちゃん!」
ミドリも焦りを見せる。
颯太は畳みかける。
「ええ。そのバグのせいで、アリスさんの『レーザーガン』のチャージが最高潮に達したとき、データ処理が間に合わず、サーバーごと焼き切れてしまう。そんな、『プロとしては恥ずかしい最悪の演出崩壊』の旗が立っているのが、僕にははっきり見えます!」
その瞬間、モモイの足元でピコピコと輝いていた『イベント続行フラグ』の輝きが、一気に鈍くなった。
そして、黒煙を上げていた『システム大炎上フラグ』の柄が、わずかに、しかし確かに、斜めに傾いだ。
(いける!旗が傾いた!この子たちにとって『危険』よりも『ゲームの出来が悪くなること』の方が、優先順位が高い!)
プログラマーのユズはコントローラーを握りしめたまま、モモイとミドリの様子を見て、お菓子を食べる手を止めていた。ユズの頭の上にある『お菓子を落として絶望するフラグ』が、モモイたちの緊張につられて、消えた。
「お姉ちゃん、本当にバグなの……?アリスちゃんに、完璧な必殺技を見せてあげられないのは、嫌だよ……」
ミドリが不安そうにモモイの袖を引く。
モモイはキーボードに激しく指を走らせ、ログをチェックし始めた。
「くっ……私たちのゲームが、未完成のまま、醜態を晒すなんてありえない!ミドリ、緊急パッチを当てるよ!ユズ、シミュレーターを一時停止して!」
「え、はいっ!」
ユズが慌てて立ち上がり、シミュレーターの操作パネルに向かった。
その瞬間、シミュレーターに突き刺さっていた『システム大炎上フラグ』は、音もなく地面に倒れ、消失した。
颯太は全身から力が抜けるのを感じた。
「よし……!一本、折れた……!」
しかし、勝利を確信したのも束の間、カオスの女神は最後に颯太に微笑みかけた。
シミュレーターの一時停止が間に合う直前、アリスの持つレールガンが、最高潮にチャージを終えたことを示す警告音が鳴り響く。
「出力、臨界点に到達しました。私は、皆を笑顔にするために、この技を放ちます!」
アリスは、周囲の状況を気にせず、純粋な『ゲーム完成フラグ』に従って、レーザーガンを広場中央に向かって構えた。
彼女の頭上の『制御不能な暴走フラグ』が、今、赤黒い炎を上げて、巨大に膨れ上がった。