旗折りの転校生   作:がおられ好きの物書き

6 / 15
旗折り転校生と最悪のフラグ回避術

「え……?」

 

颯太の焦りが空回りし、逆に『最高の褒め言葉だと解釈し、イベントを続行するフラグ』が燦然と輝いている。彼の警告は、このミレニアムでは、ゲームのオープニングテーマのように歓迎されてしまったのだ。

 

「えーと、あの……!」

「じゃあ、シャーレの特別所属さんにも見ててほしいな!これが、私たちの最高傑作になる瞬間だよ!」

 

モモイはそう言うと、キーボードに向き直り、最終調整らしき作業に戻ってしまった。ミドリも「いくよー!」と楽しそうだ。

颯太の背筋に冷たい汗が流れた。彼の視界では、『システム大炎上フラグ』が、熱を持ち始めた電源コードと共に、もうすぐ立ち上がろうとぐらついている。そして、アリスの『制御不能な暴走フラグ』も、刻々とゲージを溜めていくアリスのレーザーガンのエネルギーと連動し、鮮烈な赤を増していた。

(まずい。これ以上、正論や警告は通用しない。この世界では……生徒たちの感情と行動の法則を利用しないと、旗は折れない!)

颯太は脳裏に、カヨコから教わった「アル社長への対処法」と、先生から聞いた「キヴォトスの特性」を必死に組み合わせた。

カヨコのアドバイス: 悪党の「美学」を突く。

先生の言葉: 彼女たちは「銃弾の飛び交う日常の中で、それぞれの目標に向かって生きている」。

彼女たちゲーム開発部にとっての「目標」とは何か?

それは

『最高のゲームを作ること』

だ。

颯太は意を決した。真面目な彼が最も苦手とする、相手の感情を逆手に取った誘導。それを今、実行しなければならない。

 

「待ってください!皆さん、本当にこのまま完成でいいんですか?」

 

モモイが訝しげに振り返った。

 

「え、どういうこと?もうデバッグも最終段階だよ?」

「最終段階……だからこそ、致命的なんです!」

颯太はあえて大げさに、眉間にシワを寄せて指摘した。

「今、このVRシミュレーターの電源に突き刺さっている『システム大炎上フラグ』、これはただの電力不足じゃない。プログラムの『リソース管理のバグ』ですよ!」

 

モモイとミドリの顔色が一瞬にして変わった。さっきまでの楽しげな笑顔が一瞬で消え、プロとしての真剣な表情になる。

 

「リソース管理のバグだってぇ!?」

モモイが驚愕を帯びた声で言った。

「シナリオの完成度は完璧*1のはずなのに、システム側で致命的な欠陥があるなんて……!」

「そんなはずは!ユズが組んだコアの部分は問題ないはずだよ、お姉ちゃん!」

 

ミドリも焦りを見せる。

颯太は畳みかける。

 

「ええ。そのバグのせいで、アリスさんの『レーザーガン』のチャージが最高潮に達したとき、データ処理が間に合わず、サーバーごと焼き切れてしまう。そんな、『プロとしては恥ずかしい最悪の演出崩壊』の旗が立っているのが、僕にははっきり見えます!」

 

その瞬間、モモイの足元でピコピコと輝いていた『イベント続行フラグ』の輝きが、一気に鈍くなった。

そして、黒煙を上げていた『システム大炎上フラグ』の柄が、わずかに、しかし確かに、斜めに傾いだ。

(いける!旗が傾いた!この子たちにとって『危険』よりも『ゲームの出来が悪くなること』の方が、優先順位が高い!)

プログラマーのユズはコントローラーを握りしめたまま、モモイとミドリの様子を見て、お菓子を食べる手を止めていた。ユズの頭の上にある『お菓子を落として絶望するフラグ』が、モモイたちの緊張につられて、消えた。

 

「お姉ちゃん、本当にバグなの……?アリスちゃんに、完璧な必殺技を見せてあげられないのは、嫌だよ……」

 

ミドリが不安そうにモモイの袖を引く。

モモイはキーボードに激しく指を走らせ、ログをチェックし始めた。

 

「くっ……私たちのゲームが、未完成のまま、醜態を晒すなんてありえない!ミドリ、緊急パッチを当てるよ!ユズ、シミュレーターを一時停止して!」

「え、はいっ!」

 

ユズが慌てて立ち上がり、シミュレーターの操作パネルに向かった。

その瞬間、シミュレーターに突き刺さっていた『システム大炎上フラグ』は、音もなく地面に倒れ、消失した。

颯太は全身から力が抜けるのを感じた。

 

「よし……!一本、折れた……!」

 

しかし、勝利を確信したのも束の間、カオスの女神は最後に颯太に微笑みかけた。

シミュレーターの一時停止が間に合う直前、アリスの持つレールガンが、最高潮にチャージを終えたことを示す警告音が鳴り響く。

 

「出力、臨界点に到達しました。私は、皆を笑顔にするために、この技を放ちます!」

 

アリスは、周囲の状況を気にせず、純粋な『ゲーム完成フラグ』に従って、レーザーガンを広場中央に向かって構えた。

彼女の頭上の『制御不能な暴走フラグ』が、今、赤黒い炎を上げて、巨大に膨れ上がった。

*1
ではない

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。