異世界ロケットパンチ! ~スーパーロボット乗りのアナザーライフ探索譚~   作:マフ30

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第4話 カルーニャの思惑

 

 ギルドハウスの中庭に設けられた闘技場には貸し出し用の籠手とどういう魂胆か小型の丸盾を両手それぞれに装備したユウゴが未だ呆然とした様子で突っ立っている。

 

「さて、お手並み拝見だ」

 

 試験官役はクロムか。

 剣士職だが魔法や弓の心得もある実力者で気の良い男だ。

 外からやって来た流れ者を新人いびりで嬲るような馬鹿な真似はしないだろうから安心して見物できそうだ。

 

「ねえカルーニャ、さっき新人くんに名前を呼ばれていたみたいだけど知り合いなの?」

「うん? ああ、同じ宿屋に世話になっている程度にはな」

 

 近くの席にいた顔馴染の槍兵職の女探求者に尋ねられて手短に答えた。

 実技試験があるということを教えなかったのはユウゴには悪いがわざとだ。

 これが終わったら謝罪と私が出来る限りで埋め合わせはするつもりだ。

 けれどユウゴよ、私は汝のことを殊更嫌っているつもりはないんだぞ。

 しかし、ここでそなたの性根を少しでも見定めておきたい。

 

「彼合格できるかなー?」

「………どうだか」

 

 この数日間、ユウゴと言う人間を観察してきた。

 シャーリーさんの食事を食べて泣いていた姿や働く様子にその言葉……彼は確かに恩義を大切にする思慮深さのある男だ。

 けれど、あまりにも得体が知らない。

 不信を抱くほどにこの国の世情に無知だ。

 だから、私も試させてもらうことにした。

 

「不意に窮地に陥った時にこそ……人間(ひと)は本性を晒すものさ」

 

 汝が本当に義侠心に篤い男なのか、ただのろくでなしの類なのか……その一端でも良いから見せてくれ。

 

 

 バスケットコートほどの広さの石造りの闘技場には酒の入った荒くれ者たちからの歓声が既に四方から飛び交っていた。

 まるで酒の肴のちょっとした余興だ。

 これだけ観客がいる前で無様は晒せないだろうと思えば急速に心の混乱も落ち着いてくる。

 

「やるっきゃねえな……!」

 

 心構えも、戦支度も何もかも準備不足も良いところだ。

 だけど、こんなのケイオスが送り込んでくるロボットから世界を守るための戦いで日常茶飯事だったじゃないか。

 自分に自信を持て、葉車勇吾。

 生身一つのこの状況だって、ガレキング(相棒)と戦い続けた数え切れない経験はなに一つだって無駄になってはないはずだ。

 

「準備はいいかい?」

「ああ! よろしくお願いします!」

 

 試験官をやってくれるクロムと言う二十代後半ほどの男がまるで俺の緊張をやわらげてくれるかのように、にこやかに笑って確認をしてくる。

 とはいえ身長180センチの俺より頭一個分はデカくて、牙のような生え方をした立派な顎髭をたくわえた長い金髪の巨漢の笑顔は癒しどころか威圧されるけど。

 

「よぉし! ルールは簡単! 君が戦闘不能になる前に僕の頭か胴に一撃入れるか、床に倒せば合格だ! 自由に動き回って構わないが場外に出たら失格だから気を付けるように!」

「押忍!」

 

 意味が通じるかは分からないが気合を込めた返事を返すとクロムの雰囲気が変わった。

 俺も元の世界で何度も感じてきた戦いを知っている者の空気だ。

 

「さあ、試験開始だ! 君に幸あれ!」

 

 木剣を中段に構えたクロムのよく通る大きな声を合図に探求者の資格を得るための戦いが始まった。

 

「いくぞおおお!」

 

 先手必勝ではないが両手それぞれに握った丸盾をさながら二刀流のように構えて前に出る。バックラーによく似た形状のこの盾なら防御の他に打撃武器としても十分に使える。懐に飛び込んで一撃浴びせようと右拳を突き出すがクロムも落ち着いた様子で木剣を振り下ろしてくる。

 

「良い一撃だ! だけど、簡単には合格にはしてやれないからな!」

 

 丸盾と木剣がぶつかり合って鈍い音が響く。

 同時にクロムの腕力の力強さが俺の腕にジンジンと伝わってくる。

 向こうの方こそ良すぎる一撃だ。実戦ではこんな攻撃まともに食らったら不味いだろうな。だけど、これなら俺でもなんとか食い下がれる。

 

「ありがとぉ! だけど、あんたぁ良い人そうだから仕事が早く終わるようにしてやるさ!」

 

 次々に繰り出されるクロムの剣撃に丸盾を握る指先に力を込めて必死に打ち合う。切り結ぶというよりは相手の攻撃を受け流す、捌きに近い動きだ。

 ガレキングの操縦方法の都合で空手や柔道、剣道と色んな武道を習ったがどれも極めたわけじゃない。そんな俺が実戦経験豊富な剣士を相手に同じ得物でチャンバラなんて無理な話だと貸し出し用の武具から盾を選んで正解だった。

 

「これはどうかな!」

 

 クロムが放った袈裟切りを右手に持った丸盾で受け止めて捌く。一太刀の重みは全く衰えないすごい力だ。

 

「ここ! もらった!」

 

 だからこそ、俺は上手いこと相手の力を利用して勢いを乗せた回し蹴りをカウンターに浴びせる。独楽のように速く全身は捻り、飛び上がりざまに放った足蹴りは狙い通りにクロムの顔面へと伸びていく。

 

「オオオオオッ!」

 

 突然、獣の雄叫びが轟く。

 両腕を交差して無理やり前進してきたクロムの強烈な体当たりが蹴りごと俺をなぎ倒す。咄嗟に受け身は取れたが軽トラックがぶつかってきたような衝撃に全身から汗が噴き出る。

 

「これならどうだ!」

 

 何回か床を転がり体勢を立て直すとさらに距離を取ってから、丸盾の一つを思い切りぶん投げる。試していなかったものだから不安だったけど丸盾はフリスビーのように真っ直ぐに飛んでいってくれた。なるほど、これなら問題ない(・・・・・・・・)

 

「ムゥン! 受付に迎えに行った時はとても不安そうにしていたがとても良い動きをするじゃないか!」

 

 投擲した片方の丸盾は生憎と叩き落されてしまったがクロム目線でもここまでの戦いぶりはそこまで酷いものじゃないらしく、気は抜けないがちょっと安心だ。

 

「思ったよりも手数が多い君になら、ちょっと難易度を上げても良さそうだな」

「おいおいおい……そういうサービスは遠慮したいんだが?」

「期待の裏返しだよ。それに城壁の外は危険がいっぱいだ。苦労はどれだけ積んでもそんじゃない!」

 

 評価してもらえるのは嬉しいがなにやら不穏な言葉が出てきて耳を疑う。

 何を仕掛けてこられるのかと軽快しているとクロムが意味ありげに前に突き出した左手に緑色っぽい何かが渦巻き始めたじゃないか。あれは……風か!?

 

「ウインドボール!」

 

 クロムの手から離れた緑風が集まったソフトボールほどの球体がこちら目掛けて飛んでくる。それもかなり速い!?

 

「マジかぁああッ!?」

 

 咄嗟に丸盾を構えたが次の瞬間に風球がぶつかったんだろう。

 風船が爆ぜたような大きな音と一緒に俺にだけ突風が襲いかかった。

 威力そのものはクロムの体当たりより低いが強烈な風で俺の体は糸が切れた凧のように1メートルほど吹き飛ばされた。

 

「魔法は初めてかい? せいぜい場外で失格にはならないように!」

「このやろぉおおおおおお!」

 

 忠告するならポンポンと風球ばかり連発するんじゃねえよ!

 大慌てで立ち上がると丸盾を両手でしっかりと握り締めてクロムが撃ってくる魔法を受け止める。全速力で逃げ回れば回避も出来たかもしれないが四方に見物人(ギャラリー)がいるこの闘技場の構造じゃあ気が引ける。

 

「悪くないセンスだったが……ギブアップするかい?」

「冗談だろう!」

 

 状況によっては逃走や撤退もやむを得ない場合も人生にはあるが降参だけはない!

 異世界人生のスタート地点のいまここでは尚更だ。

 それに火の玉や雷なら万策尽きていたかもしれないがただの風の塊なら、俺にも使い道がある。いまからそれを教えてやるとも。

 

「一つ訂正してもらおうか……」

「うん?」

「俺にあるのはセンスじゃねえ、経験値だあああ!」

 

 クロムが放つ風の球の一つがタイミングよく俺の下半身近くへと飛んできた。両腕を振り下ろしてそれを思いっきり叩き潰す。

 足元で弾けた風を上昇気流のようにして俺は力一杯に高く跳んだ。

 

「勝負だ! うおおらあああっ!」

「うっ……どこを狙っている!?」

 

 普通にジャンプするのに比べて三倍は跳んだ高所から俺は繊細な力加減で残る丸盾を投擲。途中で叩き落されることもなく丸盾は勢い良く大きな弧を描いてクロムを通り過ぎると明後日の方向へ飛んでいった。

 

「隙ありっいいい!」

 

 クロムが困惑するのも無理はない。

 明らかに勝負を懸けて繰り出した投擲攻撃が自分に目掛けて飛んでくるどころか恐ろしいほどの大暴投なのだから、堪らず後ろを振り向いて目で追いたくもなる。

 その僅かな隙に俺は矢のように一直線でクロムの懐を目指して全速力だ。

 

「そんな子供騙しで!」

 

 もうちょっとで俺の攻撃範囲内にクロムが入る。だが彼は流石にこんなお粗末な策に嵌るような相手じゃなかった。即座に意識を丸盾から俺に切り替えたクロムは冷静に脳天を割るような重い剣撃を振り下ろす。

 

「ぐっ……おおおお!!」

 

 真剣白刃取り――と格好いいものではないが籠手を装備した両手でギリギリ直撃を貰う前にクロムの木剣を掴み止める。それでもとてつもない力と重みだ。気を抜けばそのまま空き缶のように圧し潰されそうなプレッシャーを感じる。

 けど、これで――。

 

「止めたか! だがっ!」

「おう! 止めたぞ……あんたを!」

「は? なにを、がっ!?」

 

 俺の言葉に違和感を覚えたようだったクロムの後頭部に大きな、大きな弧を描いてブーメランのように戻って来た丸盾がぶつかったのは丁度その時だった。

 やったぜ!

 作戦成功だ!

 ブーメランギアもといブーメランシールドと言ったところかな?

 流石に腕が飛んだり、目からビームは出せないがこんな風にガレキングの武装を再現することは出来るのさ。これがスーパーロボット乗りの戦い方だぜ。

 

「盾が……あんな飛び方をするなんて……おわっ!?」

「床に倒せばだったな? どっせえええええい!!」

 

 後頭部に食らった衝撃でまだ体勢を整えられていないクロムの懐に入り込み、渾身の力で一本背負いを決めた。

 クロムが闘技場の石床に投げ落とされて大きな音が鳴った後、あれほど盛り上がり歓声や野次が飛び交っていたギルドハウスは一瞬時間が止まったように静まり返った。

 

「おおお! 勝ったぞあの兄ちゃん! やるじゃねえか!」

「すげーや! クロムが投げ飛ばされるなんて何年ぶりだ!」

「歓迎するぜ新入り! 面白い試合だったなあ! 楽しかったぞ!」

 

 花火が一斉に上がったような激しい声援が降り注ぐ。

 そこでようやく俺は正念場を切り抜けたことを実感した。

 

「あはは! 見事にしてやられたな! おめでとう、合格だ!」

 

 床に倒れたままのクロムが労うように拍手を送る。

 その二文字を聞いて、やっと俺はクロムを掴んだままだった両手を離して安堵の息を吐いた。

 俺はどうにか探求者になれたらしい。

 

 

「…………私の目もまだまだ節穴だな」

 

 試験に合格をして、観客たちからの歓声にはにかむユウゴを見て、自嘲気味に言葉が漏れた。

 完敗だ。

 良い戦いぶりだった。

 そして、彼の心意気のようなものも見せてもらえた。

 試験中クロムが風の魔法を使い出してからほんの一瞬、ユウゴの動きに妙なところがあった。

 飛んでくる風球を回避できたものを敢えて踏み止まり受け止めたような。

 他にも闘技場内を走り回って魔法を無駄撃ちさせる手段も出来ただろうにユウゴはしなかった。

 恐らくは自分が回避した風球が流れ弾になって観客たちに当たっては不味いと思ったんだろう。

 

「お人好しか、義侠かはよく分からないが……少しは信用せねばいけないな」

 

 正直、我ながら少し好意的すぎる解釈をしているのではと戸惑いと危惧もある。

 けれど、今しがた見せてもらった奇妙だが闘志に満ちた背中を見せない堂々とした戦いぶりにユウゴを信じてみても悪くない。

 さて、何と言って謝ろうか?

 せいぜい、誠意の印にお前も裸を見せろなどと言われないことを願おうか。

 なんて……あの男はそういう類のことは言わないだろうな、たぶん。

 

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