素直になった幼馴染から激重感情を向けられていることを俺はまだ知らない   作:水島紗鳥

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第16話 とにかくもう少しだけ待って

「……春人、私のいない間に一体何をしてたのかしら?」

 

「人助けをしてただけだぞ」

 

「じ、じゃあ、私はこれで」

 

 あまりに尋常じゃない雰囲気の紗奈に対して俺はそう答えることしか出来なかった。特に何も悪いことはしていないはずなのに、とんてもない大罪を犯してしまったかのような感覚にさせられる。

 そして歩きスマホをしていた女性も場の空気に耐えられなくなって離脱してしまった。まあ、俺も女性の立場なら同じように立ち去ると思うため気持ちはよく分かる。

 

「人助けって部分をもっと具体的に詳しく教えて貰えるかしら?」

 

「ああ、実はな……」

 

 俺は先程の出来事を包み隠さず洗いざらい説明し始める。紗奈の表情は普段とあまり変わらない様子だったが、とにかく目が全く笑っておらず凄まじい迫力があった。嘘をついたら恐ろしいことになりそうな気しかしない。

 

「……ふーん、なるほどね。あれはあくまで人命救助の為だったと」

 

「ただ歩きスマホで転びそうになったところを助けただけだから人命救助ってほど大袈裟なものではないけど、おおむねその認識であってる」

 

「ひとまずあんたの言い分はよーく分かったわ」

 

 そう口にした後紗奈は黙り込む。次に口を開いた紗奈からどんな言葉が飛び出すのか分からないため色々と心配しかない。しばらく沈黙していた紗奈だったがようやく重い口を開く。

 

「じゃあ本当かどうか私の前で実演してくれるかしら」

 

 そう言い終わった紗奈はそのまま俺の方へと倒れてきた。突然のことに頭がついて行かない俺だったが、先程の女性と同じように紗奈を抱き止める。

 

「急に何をするんだよ!?」

 

「やっぱり実演して貰うのが一番と思ってね。とりあえず、これであんたが公共施設で堂々とセクハラをする性犯罪者じゃないってことは証明されたから」

 

「おいおい、そんな疑惑がかかってたのかよ」

 

「ほらっ、春人だって健全な男子高校生でしょ? 万が一ってことがあるかもしれないじゃない」

 

 紗奈はそんなことを言い放った。なるほど、先程温度が下がったかのような錯覚を覚えた理由は俺が人の道を外れたのではないかと疑っていたからに違いない。

 

「……てか、もうさっきので証明は出来たと思うしそろそろ離れてくれないか?」

 

「まだ駄目よ、あんたの体からいつもと違う匂いがしてて落ち着かないから上書きが必要なのよ」

 

「特に匂いなんて無いと思うんだけど」

 

「とにかくもう少しだけ待って」

 

 紗奈は俺にまだしばらく抱きつく気満々だ。流石に無理矢理剥がすようなことは出来なかったため、周りから見られまくる中紗奈に抱きつかれることとなった。

 それから完全に機嫌が直った紗奈とともに再び水族館の中を周り始める。途中で昼食を挟みながら館内を歩き回り、一周する頃にはいい時間になっていた。売店でお土産を買った俺達は水族館を後にして帰り始める。

 

「楽しかったな」

 

「ええ、やっぱり水族館は何歳になってもいいわね」

 

「めちゃくちゃ満喫できたから急に来れなくなった紗奈の友達にはちょっと申し訳ないレベルだ」

 

「……あの子もきっとせっかく買ったペアチケットが無駄にならずに済んで喜んでるわよ」

 

 何故か紗奈の友達の話題を出すと少し口ごもっていた。そんな紗奈の様子を見て何か違和感を覚えたが、どれだけ考えても正体が分かりそうになかったため早々に諦めた。

 何はともあれ今年のゴールデンウィークはだいぶ有意義に過ごせたと思う。後は俺も課題を忘れないように済ませなければならないだろう。

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