キュウべえ「ボクと契約してTS魔法少女になってよ」 作:フェレーデ
対ワルプルギスの夜に向けて。
やることは新技の開発とグリーフシード集めだ。
魔力を消費すればソウルジェムは黒ずんでいって魔力の出力が落ち、魔法少女の身体の動きもそれに連動して悪くなる。
それを解消するにはグリーフシード集めは必須だ。俺の場合はそう頻繁に使用するものでもないから1つや2つストックがあれば十分だったが、今回はそうは言ってられない。
ワルプルギスの夜との戦いや、それに備えた新技の開発にどれだけ魔力を浪費するか分かったものじゃない。
ソウルジェムは魔力の源だ。それが黒ずみ穢れてしまえば、上手く魔法を扱えなくなるとキュウべえは言っていた。
それを聞いて試しに2ヶ月ほどグリーフシードを絶ってみたことがあるが、そのときは昨日の巴マミを想起するほど酷いものだった。
魔力が身体に馴染まない感覚がして、身体が気怠く重い。
発熱や眩暈といった症状はないが常に頭がボーっとして何も考えたくなくなり、広い視野を持ったりじっくりと思考したりするといったことが困難になる。
そして何よりも厄介なのは、そのことに自覚がないということ。酷い症状を発症しながらも2ヶ月も放置できたのはそのためだ。
それが分かってから、魔法少女同士が仲良くできるという考えは捨てることにした。
グリーフシードを奪い合うことに納得したからだ。アレは魔法少女にとって、ただの魔力を補給するための栄養ドリンクではなく、ガソリンのようなもの。
あったらいいという程度のものではなく、なくては生きていけない生命線。
魔女を倒すには結託した方が生存率も上がるというのはその通りだが、グリーフシードが魔女を倒すことでしか得られないドロップ品であることを考えると、報酬の山分けというのは渋く感じる。
道楽で魔女退治をしているのならまだしも、命を懸けて戦っているのなら妥協なんてしている余裕はないだろう。
魔法少女同士で争いが起きるのも分かる。魔女を倒すよりも、魔女との戦いで疲れ切った魔法少女から報酬を掠め取った方が何倍も楽だから。
実際に俺自身も何度か横取りされそうになった。すべて返り討ちにしたが、気持ちは分かるので気絶させてソウルジェムの穢れだけは吸い上げて立ち去っていた。
俺は才能があったからそうはならなかった。
有り余るほどに魔力があるからソウルジェムは穢れづらいし、魔女との戦いでも苦戦しない。
だからこそ、今回は苦戦を想定する必要がある。
ワルプルギスの夜は空中要塞のようなもの。
それにダメージを与えるには、最低でもほむらが以前使用したという軍用兵器を上回る火力を叩きつける必要がある。
俺の固有魔法が結界であることを考えると、それをそのまま強化する方向で考えるのが妥当。
世界を繋ぐ結界とやらがどんなものかというのは現時点では想像の域を出ないが、固有魔法の探求を進めていけばいずれはその正体も分かるのかもしれない。
「あら…?」
そんな考え事をしながら歩いていたら、前方に巴マミが現れた。
昨日と異なり服装は見滝原中の制服。それに対して、俺の方は魔法少女モードなので変身をしている。
「あなたはさつき………ごめんなさい、苗字の方は?」
「さつきと呼んでもらって構わない。魔法少女の時とそうじゃない時は分けるようにしているんだ」
「そう。なら、さつきさんと呼ばせてもらうわ」
「さん付けもしなくていい。僕はお前よりも歳は下だ」
「そうなの? でも、私は皆にさん付けをして呼ぶようにしてるから、さつきさんと呼ばせてもらうわ。私のことは好きに呼んでもらって構わないから」
「………では、巴さんと呼ばせてもらうことにする」
巴マミとまともな会話をするのはこれで2回目だ。
1回目は半年以上も前のこと。そのときに互いに自己紹介をしてフルネームを名乗ったが、苗字の方を忘れていて正直助かった。
男子中学生が魔法少女やってるなんて普通は考えない。
だが、フルネームが知れてしまえば、そこから「もしかして…?」という疑念を抱いてしまう可能性はある。下の名前だけが同じというだけなら、偶然で済まされるだろう。
幸いにも学校で俺が呼ばれるのは苗字の方だし、巴マミとは学年も違う。バレる恐れはほとんどないとはいえ、油断はできない。
そして、それはそれとしてさん付けで呼ばれるのはむず痒いものがある。
男子をさん付けでは基本的に呼ばないし、歳上から敬称を付けられることも基本的にない。だからと言って、さっきは敬称なしでいいとは言ったが、女の子に下の名前を敬称なしで呼ばせるのも………うーむ。
「私、改めてさつきさんにはお礼を言いたかったの。あの時助けてくれてありがとう。魔女と戦っている最中なのに別のことを考えて油断していたの。あそこで命を落としていたら、鹿目さんと美樹さんの2人を苦しませることになっていた」
そう語る巴マミは憑き物が落ちたような表情をしていた。
学校でちらりと様子を見たときから大丈夫そうだとは思っていたが、本当に問題はなさそうだ。自分のことだけでなく、鹿目まどかと美樹さやかの2人のことを心配していることからも、精神的な余裕が戻っていることが窺える。
「別に、僕は当然のことをしたまでだから」
「えっ」
「僕たちは魔法少女だ。契約の際の祈りの対価として、魔女を倒して人を助けるのが役目。魔法少女同士は敵じゃない。グリーフシードの取り合いなんてものがなければ、手を取り合うことだってできる」
俺は、偽物の魔法少女だ。
だからこそ、誰よりも本物でありたいと思っている。
初めは変身することに戸惑いや気恥ずかしさを感じることもあったが、今ではそれも気持ち切り替えるための良い区切りとなっている。
いつか、テレビ越しで見た正義の味方のように。
見返りも喝采も求めず、人知れず大勢の人間や世界のために戦う。それが魔法少女。
「巴さんもそう思っているだろう?」
「え、えぇ……そ、そうね。その通りよ」
そして、さつきの内心を知らぬ巴マミの胸中には歓喜の感情が沸いていた。
彼女は仲間を求めていたのだ。戦力としての仲間ではなく、一人きりの寂しい戦いで空いた心の穴を埋めてくれる仲間。
けれど、グリーフシードが原因でそれは叶わない。
そう思い諦めていたところに、魔法少女同士は敵じゃないと言う存在が現れた。
「困ったときは助け合いましょう。さつきさんには助けて貰った恩もあるし、協力は惜しまないから」
「……本当か? なら、ちょっと手伝って欲しいことがあるんだが」
「なに?」
「実は、固有魔法の訓練として───」
◆
見滝原市の夜。
鹿目まどかと美樹さやかはその一角を歩いていた。
2人とも制服を着ているが、いつもと違うのは美樹さやかの左手の中指には青色の指輪──ソウルジェムが嵌められていた。
「さやかちゃん。魔法少女になったってことはやっぱり……」
「うん、願ったよ。でも、いいんだ。最後に恭介と話して背中を押してもらってさ…。そりゃあ確かに魔女と戦うのは大変かもしれないけど、マミさんと一緒に戦いたいって思ったから」
巴マミのアドバイス通りにさやかは上条恭介の元を訪れた。
だが、その前から答えなんて決まっていたのだと思う。さやかは上条恭介に背中を押してもらうためにそこを訪れたのだ。
学業が優れているわけでもない。
恭介のように何か特別な才能があるわけでもない。
どんな願いも叶えられると聞いて切望するような願い事もなく、ある程度充足した平穏な毎日を何を頑張るでもなく過ごしてきた。
そんなさやかには魔法少女の才能があった。
そして、こうなりたいと思えるような魔法少女の先輩にも出会った。
たとえ平穏を手放すようなことになったとしても、憧れた存在に手を伸ばしたいと思ってしまった。
───後悔なんてあるわけがない
魔法少女になることは自分で決断したことだから。
マミさんの言うように、急かされて契約をしたわけじゃないから。
「でも、わたし不安だよ」
「大丈夫だってまどか。マミさんは言うまでもなく良い先輩だし、さつきって人だってそう。あの転校生も感じは悪いけど、なんとかなるって」
「うーん、そうかな?」
「このさやかちゃんに任せなさいって! まどかだってさっき見たでしょ! 初めての魔女退治にしては上手くいったと思わない?」
「確かにそうだけど…」
まどかは友人である志筑仁美が魔女に魅入られているのに気づき、咄嗟に巴マミに連絡を取ったが何度電話をかけても不通。ならばとほむらに連絡を取ろうと考えたが連絡先を知らず、先日会ったさつきに関してもそれは同様。
仕方なく自分自身でどうにかしようとしたが一般人が魔女に対抗できるわけもなく、危うく魔女にやられそうになったところに、魔法少女の契約をしたさやかが駆け付けたのだった。
つい2日前、2人は魔法少女の危険さを思い知った。
幸いにも巴マミが命を落とすことはなかったが、今でも夢に見るほどの衝撃を受けた。
普通に暮らしていれば、人が死ぬような場面に出逢うことは殆どない。
しかし、魔女と戦う魔法少女の世界は非日常。そうした世界に自ら飛び込んでいった友人のことを、まどかは心の底から心配に思う。
「ん、これは…?」
すると、さやかのソウルジェムに反応があった。
ソウルジェムは近くにいる魔女や使い魔の位置を割り出すレーダーのような役割がある。つまり、今いる地点からほど遠くない場所に魔女か使い魔がいるということ。
「よーし! 第2ラウンドと行きますかー!」
「待ってさやかちゃん。危険なのは分かってるけど、わたしも連れてって」
「うーん……魔女との戦いは危険だよ? あたしもまどかを守り切れないかもしれないし」
「それでもいいの。お願い、連れていけるところまででいいから」
珍しいまどかのお願いにさやかも断れず、2人は反応を頼りに魔女結界のあると思われる方へと足を進めていく。
そうして見つけた魔女結界は工場地帯──人の気配のない場所にあった。
さやかはソウルジェムを輝かせ変身すると、サーベルで突いて結界の入り口を開けて中に侵入する。
不思議なことに中は真っ暗だった。
使い魔の気配もなく、誰もいないし何も置いてない。
ただ、進む方向だけは分かった。遠くから音だけは響いてきて、さやかはまどかの手を離さないように握り、微かに聞こえる音だけを頼りに前へと進んでいく。
しばらく進んでいくと光の差すドアのようなものがあった。
それを潜ると、そこに広がっていたのは立ち並ぶビル群と発展した街並み──見滝原の街そっくりの場所だった。
「さやかちゃん、あれ!」
「あ、マミさん!」
そこには巴マミがいた。
対峙しているのは恐らく魔女。体躯15メートルはあろうかという巨人のようなシルエットの怪物。
巴マミはリボンを何重にも魔女の首に巻き付けて一際頑丈な鉄筋コンクリートのビルに固定。続けて腕や足を雁字搦めにして巻き付け、身動きが取れないようにする。
さらに、リボンを変形させて巨大な砲台を作り出し、掛け声とともに発射。
「ティロ・フィナーレ!」
見事、魔女の腹部に大穴を開けた。
それを見てまどかとさやかは歓喜の声を上げるが、それも一瞬のこと。魔女の身体は崩れることはなく、触手のように形を変えてマミに襲い掛かる。
──助けに行かないと!
咄嗟にそう考えたさやかは、一目散に駆けだしてそのうちの何本かを斬り伏せた。
「み、美樹さん…!?」
突然のさやかの登場にマミは驚きの声を上げる。
だが、今は説明をしている場合じゃない。
「マミさん、あたしも一緒に戦います! 2人で魔女を倒しましょう!」
「あ、えーっと……そのことなんだけど…」
しかし、マミの反応は悪い。
それどころか、どこかバツが悪そうな表情を浮かべている。
「どうしたんですか、マミさん?」
「それについては僕の方から説明をする」
すると、何もない場所から銀髪の魔法少女──さつきが現れた。
「アンタ、どうしてここに…」
「巴マミに実験を手伝ってもらっていたからだよ」
「実験…?」
「僕の固有魔法は結界を作ることだ。原理としては魔女結界と同じで、現実とは異なる空間を創り出すことができる。その気になれば、魔女結界同様の空間を生み出すこともできるが、今まで試したことはなくてな。試験運用を手伝ってくれる相手を巴マミに頼んだという訳だ」
「えっ、ということはつまり…」
さやかは巴マミの方を見る。
マミが説明する。
「そう。ここはさつきさんが創り出した疑似的な魔女結界。さっき私が戦っていた魔女も偽物よ」
「え、えぇー……」
さやかはどこから驚いていいやらという気持ちだ。
言いたいことはたくさんあるのに、それを紡ぐ言葉は出てこない。
「なるほど、そういうことだったのね。どうりで覚えのない場所に魔女が現れたわけだわ」
「あっ、転校生!」
「ほむらちゃん!」
そこに、長い黒髪をたなびかせながらやってきたのは暁美ほむら。
混沌とした状況に、さやかは『何で風がないのに髪がたなびいてるんだろう』と場違いなことを考えていた。
「お前、いつの間に結界内に入ってきた?」
「普通に入ってきたわ。美樹さやかの侵入にも気づいてなかったようだし、ヒートアップし過ぎて周りが見えてないんじゃないの?」
「……はぁ、確かにそれはそうだな。途中から巴さんに一撃入れようと躍起になってたのは認める」
「でも、結果は振るわなかったようね」
「うるさいなぁ、性格悪いぞ」
……なんか思ったより仲良くない?
率直にさやかはそう思った。それはまどかも同じだったようで、2人のやり取りを見ながらほんわかとした表情を浮かべている。ナンダコレ。
「それで、成果はどうなの?」
「感触は悪くない感じだな。制御は不十分だが、そこらの魔女よりは強い結界を生み出すこともできた。だが、もう少し方向性を変えないと、ワルプルギスの夜には通用しないだろうな」
「わるぷるぎす…?」
そして、2人の会話に出てきた謎の単語をさやかは復唱する。
その瞬間、一瞬で空気が張り詰めた。
「いま、ワルプルギスの夜と言ったわね? どういうこと?」
巴マミが2人に問いかける。
すると、さつきはほむらの方へと振り返って
「あぁー、もしかして、言ったらマズイ話だった?」
「……別に構わないわ。
「ごめんて」
そう言うと、ほむらは髪をふぁさっと搔き上げて言った。
「約半月後に見滝原市にワルプルギスの夜がやってくるわ」
まどか(ほむらちゃん友達いたんだぁ)ホワホワ
【美樹さやか】
魔法少女になってから命を落とすまでの期間を、まさに閃光のように駆け抜けた少女である。
そのどこまでもひたむきで、がむしゃらなまでに一途に突き進んだ彼女の14年というあまりにも短い生涯は、哀しくて切なく、そして我々の心を胸打つまでに美しい。
↑色々調べてるうちに見つけた。セリフ回しがドストライク。