キュウべえ「ボクと契約してTS魔法少女になってよ」 作:フェレーデ
今回の話ちょっと難しいです。
疑似的な魔女結界を作って分かったことがある。
それは、結界内のものはすべて術者の記憶に基づいて作られるということだ。
例えばの話であるが、100℃以上の氷を魔法で作ることは可能だ。
しかしそれは理論上可能であるというだけで、実際に作れるかどうかとなると話は別になる。
それは、知識があるからだ。水は0℃を下回れば氷となり、100℃を上回れば水蒸気になることを知っている。だから、普通は作ろうという考えさえ浮かばない。
魔女の結界もそれは同じだ。
記憶にないものは配置するという発想にもならない。
言うなれば、そこは自分だけの世界であり、現実を恣意的に切り取って創り出された理想の世界。
自分の好きなものだけを集めて、自分の嫌いなものは排除する。そういう自己中心的な、優しくも禍々しい精神世界。
魔女の考えは俺には分からない。
そもそも意思疎通を取ることもできないのだから意思があるのかも不明だし、言葉も通じないから今まで魔女の思考なんて考えたこともない。
だが、もしも魔女にも心というものがあるのなら、それは魔女結界の内側に作られた世界そのものを表しているのではないかと思う。
……いや、そもそも魔女は呪いから生まれるのなら、魔女結界は呪いそのものと考えた方が妥当か? だとすれば、希望と祈りから生まれる魔法少女でそれに該当するのは……固有魔法?
閑話休題。
とにかく、大事になってくる考え方は、結界内部の世界は術者の記憶によって作り出されるものであるということ。それだけ分かっていれば問題はない。
さて、その上で考えていきたいのが”世界を繋ぐ結界”という言葉。
ほむらが言うには、以前の世界の俺はキュウべえに対してそんな言葉を使っていたそうだ。だが、先ほどの話をもとに考えると、いくつかおかしな点があることに気付くと思う。
さっき説明した通り、結界というのはイメージ通りの世界を”創る”ことができる。
しかし、以前の世界の俺は”繋ぐ”という言葉を使用している。これは明確な違いだ。
”創る”というのは無から有を生み出すことだ。
例としては動画編集などは分かりやすいだろう。撮影から投稿までの一連の流れを創ると表現することができる。
それに対して、”繋ぐ”というのは有と有同士を接続すること。
動画編集の例で表現するとしたら、既に編集が終わっている動画同士を連結させること。それが、繋ぐという言葉の意味。
先日巴マミに協力してもらい疑似的な魔女結界を生成して戦闘シミュレーションを行ったが、その際に使用していたのは”創る”魔法だ。
魔女結界という異空間を生成し、偽物の見滝原の街を再現し、過去の記憶を頼りに魔女を生み出す。まさしく創造性に富んでいると言える。
では、”繋ぐ”魔法とは何か?
それはテレポートだ。
繰り返しの説明になるが、俺が使用しているテレポートは異空間を潜ることで現実世界の別座標へと移動するというもの。原理としてはワープの理論と同じだ。
紙に2つの黒点があるとして、それを実線で結んで繋げるのが皆がイメージする普通の移動。それに対して、ワープというのは紙を折り曲げて点同士を重ねるような行為。
俺たちが生きている空間に抜け道を生成して、まったく別の地点へと連結させる。それを他の人は感知することができないから、突然居場所が変わったように見える。それがテレポートの原理。
だとすれば、世界を繋ぐということは、まったく異なる世界同士をテレポートするような行為と言い換えることができる。
暁美ほむらで例えるならば、彼女が今まで繰り返してきた世界に移動するようなもの。そして、俺で例えるならば、この世界と以前住んでいた世界を繋げるようなものだ。
結界とは、異なる世界同士を隔てる境界線。
その境界線を跨いでしまえば、その先には別の世界が広がっている。
それを自在に操り越えることができる俺は、理論上では”世界を繋ぐ結界”を使用することができるのだろう。
もちろん、習得は困難を極めるだろう。
現状では視界に収まっている場所か記憶にある場所しか移動できないので、別世界への移動となるとハードルが100個くらい高くなる。
しかし、もしそれを実現することができたのなら──
(──元の世界に帰れる……のか?)
◆
元の世界──魔法がない世界で、俺は3人家族だった。
父親は心理学者で、海外の大学や国内の有名大学などで講義をやるような人。母親はフリーランスで不定期に働いていた。
父親は基本的に仕事で出張していて、家には俺と母親の2人だけ。年に何回か父親が日本に帰ってくるので、その際だけ3人暮らしをするといった生活だった。
学者と結婚したということからも分かる通り俺の母親は高度な学歴厨だった。いわゆる教育ママ。子供に勉強を押し付けてくる、世間では嫌われるような毒親。
しかし、俺と母親の仲は悪くなかった。
むしろそこらの家族よりは良好に見えたのではないかと思う。
そんな関係性になったのは、俺が母親の要求にすべて応えていたからだろう。
俺は学校のテストは勉強せずとも満点を取れた。
母親がお節介で買ってきた難しい本も自力で調べながら特に苦労することなく読み進めることができたし、母親の勧めで何度か塾のテストを外部受験したこともあるが、すべて1位を取れた。
一度本を読めばその内容をおおよそ理解することができたし、小学生の内から父親の研究内容について討論をするのが楽しく思えた。
世間的にはギフテッドとでも言うのだろうか?
地頭が良いというのは単なる俺の自己評価ではなく、客観的な評価でもあった。
しかし、そう言われても俺自身が何か特別なことをやっているわけではないので、ただただ「どうしてみんなできないんだろう?」という気持ちでいっぱいだった。
そして、父親には俺の考えてることが筒抜けだったようで、そういう態度を表に出すのは良くないという風に諭され、何故そうするのかという理由は分からなかったが、俺はその通りにした。
今になって振り返ってみれば、これは正解だったと思う。
そうでなければ、俺は他人の心に土足で上がり込み正論をぶちまけるような人間になっていただろうから。
きっと、そうであれば母親との関係性も破綻していたことだろう。
俺の母親は熱心な教育ママということもあり学校への送迎も進んでやってくれた。一切の陰りのない成績を叩き出す俺に母親は傾倒していたし、それに俺も応え続けた。
コミュニケーションも良好。
教育ママ特有のヒステリックさもちらつくこともなく、勉強を強制するような圧力も感じない。暴力なんてものはもちろんないし、ただただ平穏な日々が続く。
ただ、自らの学歴コンプレックスを実の息子に押し付け、それを難なくこなしていく俺を賞賛する周りの人間の反応を見て、まるで自分が褒められたかのように天狗になる母親の姿を見て…。
それを、ひどく滑稽だと思ったのは一度や二度じゃなかった。
正しさ、というのは難しい概念だ。
状況によって何が正しいかというのは変わるから。それでも、どんな場合でも人を卑下するような言葉を使うのは悪いことだと思う。
だとすれば、俺は悪い人間なんだろう。
実の母親をそんな風に見てしまう俺は、悪い思考をしている。
それが人間として当たり前の感情だったとしても、それを表に出すことは良くないとされているし、心の内にずっと留めておくには負荷が大きい。
なんとかして矯正しなくてはと考えるのは自然な流れだった。
でも、それってどうやって?
そもそも正しいことが決まっていないのに、矯正なんてできるのか?
心の問題に直面した俺は、専門家である父親にそれとなく聞いてみたが、返ってきた答えは世の中に正しいことは一つたりともないという言葉だった。
もし、正しいことがあるとすれば、それは全員が納得できるような答えであるべきだと。
ただ、精神という曖昧で複雑なものに関する問題を考える場合、そんな答えは存在しうるわけがないのだと。
それでも実際に現実では考え方の衝突というのは日々起こっていて…。
そうした事柄の妥協点を見つけていくための手法が、政治であり、裁判であり、討論なのだと。
……なんだか、つまらないなと思った。
アニメやゲームの世界のように、正しいことが決まっていればどれだけ楽なことか。
正義の味方の仮面をかぶって正々堂々と正しいことができるなら、それはどれだけ誇らしい事か。
そんな世界だったらいいのにと心底思った。
そうして意固地になった考えは中々なくなってくれなくて、そんな考えを振り払うために俺は夜遊びをすることにした。生まれて初めてのことだ。
夜風にでもあたれば頭も冷えるだろうかと考えたのが運の尽き。
くだらないことを堂々巡りで悩み続けているというのは分かっていたので、そろそろどうにかしなければと思い気分転換をすることにしたのだった。
夜更かしは何度かしたことはあるが、夜遊びは初めてで。
もし外に繰り出したのがバレたら怒られるのだろうかと思いつつも、初めての体験に少しだけ浮足立っていた。
普通なら、夜風に当たって頭を冷やして、意固地になった考えをほぐして。
これから大人になっていくための礎になる。そんなステップアップの1日として、初めての夜遊びは終わるはずだった。
だが、違った。
俺はキュウべえに出逢ったから。
紅い双眸が俺の姿を捉えて離さない。
「ボクと契約して魔法少女になってよ」
……夢を捨てられなくなった。
◆
もし、元の世界に帰ることができるとしたら、両親に一言「今までありがとう」と伝えたい。
TS魔法少女という大変不本意な形ではあるが、この世界に来て俺の願いは概ね叶った。魔女を倒して人を助けるのは、間違いなく正しいことだから。
キュウべえに元の世界に帰ることではなく、この世界で生きていけるように手配したのもその考えがあったからだった。魔法少女の契約をする前から、家に帰るつもりはなかったのだと思う。
だが、それはそれとして、今まで育ててもらったことの義理は返したい。
今後、俺がこの世界で生きていくことはもう決めていることだが、両親が俺を育ててくれたことは事実だ。家出するような形になってしまったし、せめて感謝や別れの言葉くらいは伝えたい。
そのためには想像するだけで難易度の高そうな世界転移の魔法を作り上げなければならないわけだが………それと別に、もう1つ問題が浮上してくる。
それは、俺の身体は一つしかないということだ。
これだけ難易度の高い魔法を完成させるには、学校の時間も魔法の習得に充てたい。
だが、俺と同じクラスには暁美ほむらと美樹さやか、鹿目まどかがいて、接点のないクラスメイトとはいえ、突然何日も学校を休んだら怪訝に思う可能性がある。
俺はTS魔法少女であることを隠し通したいと思っている。
だが、美樹さやかは勘が鋭いところがあるし、暁美ほむらは言わずもがな何度も世界を繰り返していることから違和感に気付きやすい。要警戒だ。クラスメイトに魔法少女の真実が知られたら、恥ずかしさで悶え死ぬ自信がある。それだけは避けなくてはならない。
……え、1人忘れているって?
鹿目まどかは……まぁ、うん、警戒せずとも大丈夫だろう。あの子には目の前で変身とか見せない限りバレないと思う。
そんなわけで、俺は直ちに分身の術を覚える必要があった。
アニメやゲームではよくある話だ。自分そっくりの分身を創り出して行動させる。魔法があるこの世界なら、それも実現できる可能性が高い。
となれば、困ったときのキュウべえだ。
アイツに聞けば魔法に関することは大体解決する。
「───前例はあるよ。ボクが以前契約した魔法少女の中に、分身を創り出すことのできる魔法少女はいた。魔法が切れたら、分身が得た知識や経験は共有されていたね」
ほうほう…。
「さつきには以前説明したかもしれないけど、この魔法の仕組みはボク達の仕組みと同じさ。ボクが今こうして話したり聞いたりしたことは、記録として他の個体にも共有される」
……なるほど?
「さつきもその気になればできるはずだよ。魔法少女の身体は外付けのハードウェアのようなものだからね。数を増やすなんて、慣れてしまえば造作もないことだろう」
「………………オイちょっと待て。どういうことだそれ?」
11話目でオリ主の過去編やる作品があるってマジ?
どうせなら10話でやりたかったぜ……。
【主人公について】
名前は渡里さつき。
由来は世界を”渡る”ことと”
”五月祭”とは中欧や北欧などの地域で伝統的に行われている伝統的な春祭り。4月30日の日没から5月1日の未明にかけて行われ、魔女たちが集まって彼らの神様とお祭り騒ぎをすると伝えられている(別名ヴァルプルギスの夜)。
頭が良いがゆえに苦悩したタイプで、相手の言葉の隅々まで思考を巡らせるのは幼い頃からの癖。それ故に頭を空っぽにした会話ができない。
正しいことがまかり通るわけじゃないということを早くから悟っており、そのことからゲームの中の勇者やアニメの中の正義の味方のような、”正しい”ことを堂々とやれる存在に憧れる。最初はTS魔法少女に文句を言いつつも何だかんだ受け入れたのはそのため。
性格はマミさんに近い部分が多いが、能力の性質はほむらに近い。