キュウべえ「ボクと契約してTS魔法少女になってよ」   作:フェレーデ

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2:それはまるで夢のような世界

「わ、渡里さんって姉か妹かいたりしますか?」

「え、いないけど?」

「そうですか…」

 

 心の中に曖昧な違和感が浮かぶ。

 そんなはずはないって直感的に思うのに、具体的に何が違うのか分からない。

 

「あの……渡里さんって人には言えないような秘密があったりしますか? 例えば、こう、魔法少女みたいな?」

「暁美さん変なこと言うね。そういうのは作り話の中の話でしょう?」

「あぅ……」

 

 引っ込み思案で人見知り。

 そんな私だけど、それでもどうしても心の中に浮かんでくるもやもやとした違和感が気持ち悪くて、何度か勇気を出して心に浮かんだ疑問をそのままぶつけた。

 結果は知っての通り、私の勘違いという話で終わってしまうけれど。

 

 魔法少女は実在する。

 けれど、それをほとんどの人は知らないし信じようともしない。

 魔法を見せればその限りではないのだろうけど、キュウべえが見えなければそもそも契約をすることもできないのだから、見せびらかす必要もない。

 

「……」

「ほむらちゃん、どうしたのボーっとして?」

「えっ?」

「もしかして何か悩み事?」

「う、ううん。何でもないの」

 

 生活自体は順風満帆だ。

 魔法少女としての活動も上手くいっているし、まどかたちと仲良くなることもできた。

 私の時を止める魔法はみんなに認められて、魔法少女チームには私の居場所がある。今まで入院続きで友達さえいなかった私にとっては十分な進歩だった。

 

 ただ、どうにも胸に突っかかるような違和感が消えてくれない。

 ナイトメアと戦っていても、まどか達と話していても、胸の内側がもやっとして何かが違うと訴えかけてくる。

 日を追うごとに、時間が経つごとに。まるで、早く目を覚ませと言わんばかりに、その気持ちは強くなっていく。

 

「あれ? どうして私は眼鏡なんかかけて?」

 

 極めつけは今朝のこの発言。

 学校に行く身支度をしているときにポロっと口から零れ出た。

 

「……どうかしてるよ」

 

 視力が悪いから眼鏡をかけている。

 そんな当たり前なことをどうして今更疑問に思っているのか。

 そもそも、もう眼鏡をかけてなかった時間よりかけてる時間の方が長いはずなのに、どうしてこんな言葉を発してしまったんだろう。発言した後にそのことに気づいて、やっぱり最近の私はおかしいなと思ってしまった。

 

「……」

 

 心に浮かぶ奇妙な違和感。

 それに影響されて、常に上の空な私。

 友達もできて、学校も楽しくて、悩みなんてなくて幸せなはずなのに、なぜだか心の中は雨模様。

 

 そんな精神状態ではやっぱり何事もうまくいかなくて…。

 ナイトメア退治の時に、私はチームの皆に迷惑をかけてしまった。

 

「ご、ごめんなさい! 私、今日は失敗ばかりで…」

「いいっていいって。ほむら最近調子悪いんでしょ。誰にでもあるってそういうことは」

 

 私が謝罪するのを美樹さんが励ましてくれる。

 背中をさすって、元気を出しなと声を掛けてくれた。

 

「さやか、お前励ませるのか」

「失礼な! あたしだって励ましの言葉くらい言えるわよ!」

「だってお前真っ先にほむらを責め立てそうじゃん。なにボサッとしてんのよって感じで」

「そ、それは…」

「はっ、そうか。お前まだ自分が迷惑かけたこと気にしてるのか。失恋を引き摺ってるときは調子を崩してマミさんに迷惑をいっぱいかけてたもんな」

「こぉら杏子! その話はダメだってば!」

 

 美樹さんと佐倉さんがいつものように喧嘩を始める。

 いつもと変わらぬその様子に呆れた顔をしながら、巴さんが近づいてくる。

 

「またあの2人は…。暁美さん、私に力になれることがあったら何でも言って頂戴。調子が戻らないなら、ナイトメアのことは私たちに任せて休んでも大丈夫だから」

「巴さん…」

「大丈夫よ。私たちはチームなんだから。誰かが苦しんでたら、支えあうものよ」

「ありがとうございます」

 

 みんな私のことを責めずにいつも通りのまま接してくれる。

 それにほっとすると同時に後ろめたく思う気持ちもあって、私の心は晴れてくれない。

 

(……このままじゃダメだ。変な違和感に振り回されてみんなに迷惑をかけて…。せめて、みんなに迷惑をかけないようにしないと…)

 

 ぎゅっと拳を握る。

 心に浮かぶ感情は悔しさと不甲斐なさだろうか。

 このままじゃダメだという思いがより一層強くなっていく。

 

「ほむらちゃん」

 

 すると、まどかが歩み寄ってきて私の手を取る。

 ぎゅっと握った私の拳を優しくほどいて、温かくて柔らかい手で包み込んでくれる。

 まるで、転校してきた最初の日に「一緒に頑張ろうね」と言ってくれた時と同じように。優しい笑顔で語りかける。

 

「ちょっと2人でお話しない?」

 

 

 

 

 

 そこからほど近い公園。

 小高い丘の芝生に2人並んで座る。

 都会とは思えない豊かな自然にサイリウムの光が当たって、幻想的な夜景が広がっていた。

 

 そこで、私はまどかに悩みを打ち明けた。

 ことあるごとに変な違和感を感じて仕方がないということ。

 知らないはずのことなのに、知っているような気がすることがあること。

 無視しないといけないって分かってるのに無視できなくて、気になって仕方ないこと。

 

 聞く人が聞けば、無視しろ、の一言で終わるような悩み。

 あるいは勘違いか、気にし過ぎという話で終わってしまうような内容。

 けれど、まどかは相槌を打ちながら一生懸命聞いてくれて、一通り話し終わったころには少しだけ気分が楽になった気がした。

 

「ありがとうまどか。私の相談事にのってくれて」

「大丈夫だよ。それに、相談って言っても、わたしにできることは話を聞いてあげることだけなんだけどね」

「ううん、それだけで十分だから」

 

 自分の精神が不安定になっていることが自分でもわかる。

 何が本当で何が嘘なのか、何が本物で何が偽物なのか。私の見ている世界が偽物だと心が訴えかけてきて、そんなワケの分からない妄言に振り回されて苦しくなってる。

 

 変な話だ。

 おかしいのは世界じゃなくて私自身のはずなのに。

 ぜんぶぜんぶ、私の勘違いのはずなのに。

 

「こうして話を聞いて相槌を打ってもらうだけでも気持ちが楽になるから」

「そうなのかな? さやかちゃんもそんなこと言ってたけど、わたしには分からないや」

「美樹さんが?」

「ちょっと前の話だけどね、さやかちゃんは恋愛事で苦しい思いをしてたの。でも、わたしはさやかちゃんの気持ちを分かってあげられなくて、何にもすることができなかった。でも、さやかちゃん言ってくれたんだ。話を聞いてくれるだけでも嬉しいって」

「……すごく、気持ちが分かるわ」

 

 本当によく気持ちがわかる。

 苦しいときや辛いとき、どうしてもそれを一人で抱え込もうとしてしまう。誰に話しても理解されないような気になって、相談することなく突き進んでしまう。

 それで乗り越えることができれば問題がないのだけど、大抵の場合はそれがうまくいかない。結局は抱え込めなくなって失敗してしまう。今回の私のように。

 

 思えば、私のことを真っ先に励ましてくれたのも美樹さんだった。

 佐倉さんの言う通り、あんまり人を励ますタイプには見えないのに一番最初に言葉を掛けてくれた。それが、どうしようもなく嬉しかった。

 一人で抱え込んだつらさを知っているから、力になってあげたいという気持ちがあったのかもしれない。うん、きっとそうだ。

 

「でも、まどかが何にもできなかったっていうのは違うと思う」

「どうして?」

「本当に何にもできない人は、こうして誰かに寄り添ってあげることもできないと思うから」

「えぇー、そうなのかな? わたし、誰かの為になれたのかな?」

「なれたわ。少なくとも、私はまどかが話を聞いてくれて心が軽くなった」

「そうなの?」

「そうよ」

「てぃひひ……それはとっても嬉しいな」

 

 はにかむようにまどかは笑う。

 そして、すっかり暗くなってしまった空を見上げながらぽつりぽつりと語る。

 

「でもね、ほむらちゃんの悩み事、わたし少し分かるんだ。知らないはずなのに知ってるような気分になること、わたしにもあるから」

「もしかして、まどかも?」

「うーん、ほむらちゃんの言う違和感とはちょっと違うけどね。最近、変な夢を見るんだ」

「夢…」

「うん。夢の中でわたしが凄い魔法少女になって、たくさんの人を助けるの。まるで神様みたいに、つらくて苦しい思いをしてる人に、もう大丈夫だよって言ってあげる」

「……」

「でも、一番助けたいと思ってた人だけはどうしても助けることができなくて、わたしはその人が苦しんでるのを見ていることだけしかできなくて、とっても苦しい気持ちになる」

「それは……ナイトメア?」

「ううん、そういうのじゃないんだけど…。でも、どうしてかその夢の内容は忘れることができないんだ。普通の夢はすぐに忘れちゃうのになんだか変な気分」

 

 ほむらちゃんも同じような気持ちなのかな、と聞かれて。

 私は、どうかな、と曖昧に返事をした。

 

「でもね、その夢の中でわたしが助けた人はみんな笑顔で笑っていて、すっごく幸せそうだった。だから思ったの。わたし一人が頑張ってみんなに希望を与えることができるなら、そういう選択もしちゃってもおかしくないのかなって。一番助けたいと思ってた人を助けられないのはすっごく苦しいけど、それでも、これはみんなにとって幸せなことなのかなって思って…」

「……」

「ほら、わたしって鈍臭いところあるから。こんなわたしでも誰かの役に立てるなら、それはとっても嬉しいなって………ほむらちゃん?」

 

 突然、ほむらはまどかの手を握り締めた。

 もう二度と離さないと言わんばかりの勢いで強く握られて、まどかはちょっとびっくりしてしまう。

 

「まどかは、役に立っているわ」

「……」

「ナイトメアとの戦いも頑張ってるし、わたしの相談にも乗ってくれた。だから、そんな自分を卑下するようなことを言わないで」

「そんなこと…」

「それに、まどかが一人不幸になって他のみんなが幸せになっても私は嬉しくなんてない。だから、そんな悲しいこと言わないで」

「………そうだね。うん、ありがとほむらちゃん」

 

 ジッと見つめてくる紫色の瞳。

 なんだか居た堪れなくなってまどかはふいっと視線を外した。

 こんなにまっすぐ自分のことが必要だと言って貰ったのは初めてのことだった。それがお世辞じゃないと分かってるから、なおのこと気恥ずかしい。

 

 ほむらが転校してきてもう少しで1ヶ月。

 そんなに長い期間ではないけれど、この1ヶ月で何度も一緒にナイトメアと戦ってきたから、共にした時間はその中にいっぱい詰まっている。

 

 ほむらちゃんはこういう時に嘘なんてつかない。

 そのことはわたしがよく分かっている。

 

 ずっと、前から。

 

 

「なんだか不思議。こんな風にね、ほむらちゃんとゆっくりお話がしたいなーってずっと思ってた気がするの」

「まどか…」

「えへへ、変だよね? こんなに毎日一緒にいるのに」

「変じゃないよ。私もまどかとはゆっくり話したいって思ってたから」

「本当?」

「うん。私もまどかと同じ気持ち。こうしてまどかと過ごせる時間をずっとずっと待ってた気がする」

「そうなんだ。じゃあ、私たちお揃いだね!」

「そうね」

 

 いつの間にか、ほむらの心を覆っていた曇天は晴れていた。

 だって、ここにいるまどかは”本物”だって心の底から思えて安心したから。

 

 

 

 

 

(まどかは間違いなく本物。あの言葉も、気持ちも、ぜんぶ。理由は分からないけれど、確信をもってそう思える)

 

 世界がおかしいのか、私がおかしいのか。

 それはまだ答えが出ないけれど、この世界には私が本物だと感じるものと偽物だと感じるものがあるということは分かった。

 

 その判断基準は私が違和感を感じるかどうか。

 主観的なものだから、誰にも共感されないようなことなのかもしれないし、もしかしたら私がおかしいだけなのかもしれない。

 だけれど、もう私はこの違和感を無視することなんてできない。本物か偽物か、それが正しくても正しくなくても、このもやもやした気持ちの正体を解明せずにはいられない。

 

 まるで、夢と現実をごちゃまぜにしたような歪な空間。

 私の心の中には既に風景や人物像などの世界観が出来上がっていて、それが乖離していた時に心に違和感が浮かんでくる。

 

 どうして私だけがこんな気持ちを抱えているのかは分からない。

 だけど、無視することができないのなら向き合うしかない。これが何なのか解明しないと、私は前に進めない。

 

「マミさん聞いてくださいよ。今日の数学の時間に杏子が当てられて──」

「ばっ、さやかその話はやめろって」

「宿題をまじめにやらないあんたに天罰が下ったのだ。甘んじて受け入れないさい」

「もうさやかちゃん、あんまり杏子ちゃんをいじめちゃダメだよ」

「あら、私はその話をぜひ聞かせてほしいわ」

「マ、マミさん。勘弁してくれ」

 

 魔法少女仲間である5人で昼休みに集まって、屋上で昼食を食べる。

 これは私が転校してきてからいつもやっていることだ。

 

 だけど、今の私はこんな当たり前のことに強烈な違和感を覚える。

 美樹さやかと佐倉杏子があんなに仲が良いことにも、巴マミがこんなに友好的なことにも、こうして全員が学校に集まっていることにも。最初は何とも思わなかったのに、段々と不自然に思うようになってきた。

 

「……」

 

 友達と仲良くすることも、学校が楽しいことも、魔法少女の活動が順調なことも全部いいことなはずなのに、どうして素直に喜べないのかな。

 こんな違和感さえなければ、幸せな世界に浸ることができるのに。

 

「ほむらちゃん、あんまり元気ないの?」

「え? そ、そんなことないよ。ちょっと考え事をしてただけ」

「ほむらー、あんまり考え過ぎるのはよくないぞ。あたしみたいに思ったことを一直線でやる方が悩みが少なくていいよ」

「さやかに言われても説得力がないな」

「なにおう! 杏子だって大して変わらないくせに!」

「何だって!」

 

 少し前までは病院暮らしだった。

 そんな私がこうして良い仲間に巡り合うことができたのは、奇跡のようなものだ。

 魔法少女になることができて、心から大事だと思える友達や仲間ができて、それはきっとこれ以上ない幸福なこと。

 

 たったひとつ、私の胸に浮かぶ違和感さえなければ。

 私も素直に笑えていたのかな…?

 

「ほむらちゃん、やっと笑ってくれたね」

「えっ?」

「最近ずっと思いつめた顔をしてたから心配だったけど、思ったより大丈夫そう」

 

 そう言うとまどかは卵焼きをパクっと食べる。

 言われて初めて気づいた。今、私は笑っていたのか…。

 

「大丈夫だよ。時間が経てばつらいことも苦しいことも少しずつ楽になっていくから。ほむらちゃんだって、いつも通りに戻れるよ」

「……そうね。まどかの言う通り、思ったより大丈夫そう。最近ずっと考え事をしてたから気が滅入ってたのかも」

「そっか」

「それに、今の時間は私の願いそのものだから」

「願い?」

「うん。私は友達を支えられるような人になりたいって祈って魔法少女になったから」

 

 チクリッ

 

 言葉を発した瞬間、強烈な違和感を感じた。

 どうして? それを考えるよりも先にまどかが話し始める。

 

「へぇ、そうだったんだ! ほむらちゃんにピッタリな願い事だね」

「そうなの、かな? 元々は心臓の病気を治して貰うつもりだったけど、魔法少女になればそれも克服できるからってキュウべえに言われて、別の願いを考えたから」

 

 ほんとうに?

 私はそんな願いを叶えたの?

 

 心の中の私が、そうじゃないと強烈に訴えかけてくる。

 

「……」

 

 魔法少女は、魂を対価として契約するもの。

 その際に交わされた祈りを忘れるなんてことはまずあり得ない。

 記憶が改竄されたとしても魂が覚えているから。だから、祈りがすり替わってしまえば、強烈な違和感を感じて然るべきだ。

 

(……間違いない。私が捧げた祈りは『友達を支えること』なんかじゃない。明らかに改竄されている。でも、だとしたら私の本当の祈りは、いったい…?)

 

 違和感の正体を突き止めないといけないという気持ちが私を突き動かす。

 自分の気持ちを誤魔化して幸せな世界に浸る選択を、どうにも私はできそうにない。

 

 

 

 

 

/人◕ ‿‿ ◕人\

目の前の幸福を手放してでも真実を追い求める
つくづく人間の好奇心というのは理不尽だね

 

 

 

 

 

 




【叛逆の物語のほむらの記憶】
 時間の経過や物語の展開に応じて段々と記憶を取り戻していく。記憶を忘れているということすら気づかず、違和感を追いかけていくことで少しずつ思い出していく。その際、注意深く思考を巡らせなければ矛盾した記憶に気づくことはできない。
 風見野に行けないことが判明した際にほむらはすべてを思い出しているが、その時点では杏子がまどかのことを知ってることに矛盾を感じなかったのが良い例。


【まどかの笑い方】
 本来は「えへへ」「テヘヘ」「イヒヒ」などのオーソドックスな笑い方だったはずが、声優の悠木碧さんの独特な演技により「ティヒヒ」「ウェヒヒ」などの表現になった。
 アニメを見ているだけでは大して気にならないが、文字起こしした際のインパクトが強くさんざんネタにされた結果定着し、今では「ウェヒヒヒ」というピクシブ百科事典のページまで作られてる。
 なお、これだけネタにされていることに悠木碧さんはあまり気にしていない様子。



『考察好きの皆様のために』
 展開予想のコメントをしたいけどガイドライン違反になるから駄目だ、というお悩みを抱えている人のために考察の魔女の憩いの場という考察スペースを作りました。
 作者自身は展開予想合戦や作品への考察も含めてその作品の面白さだと思っているので、感想欄ではできないことをやってもらえればと思います。
 もし、このやり方が何らかのガイドラインで禁止されていた場合は、予告なく取り潰しする可能性があるとだけ留意しておいてください。


次話「偽物の幸福に埋もれた本当の願い事」
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