キュウべえ「ボクと契約してTS魔法少女になってよ」 作:フェレーデ
「──それで、話っていうのは?」
「佐倉さん……その、最近変だなって思うことはありませんか?」
「はぁ? 変って、何が?」
「なんとなく、この世界すべてが…」
「そんな曖昧なこと言われても分かんねえよ」
「………何よりもまず佐倉さんに最初に相談したのは、だってあなたが一番変というか何というか。私の中にあるあなたの印象と、その、あまりに食い違ってるんです」
「はぁ? ちょっとちょっと何言ってるの? もしかしてあたしに喧嘩でも売ってるわけ?」
「いえ、そういうわけじゃ…」
まともに取り合ってくれないことは覚悟していた。
私が感じている違和感も漠然としたもの。それをうまく言語化できるほど、私はまだはっきりと違和感を自覚できていない。
でも、問答をすることでそれを浮き彫りにすることはできる。
だって私たちの魂は本物で、記憶には偽物が紛れ込んでいるから。
「……あの、佐倉さん。今はどこにお住まいに?」
「さやかの家に居候してるんだよ。そのくらい知ってるだろ?」
「美樹さんの両親からの了承は?」
「取ってるにきまってるだろ。あいつの家で世話になるんだからさ」
「魔法少女のことを話さないのにどうやって?」
「あたしが天涯孤独だと知ったさやかの両親が拾ってくれたんだよ。子供は学校に行くべきだって言って」
「それは、いつ頃のことですか?」
「去年だよ。あんたは知らないだろうけど、あたしも去年転校してきたんだよ」
「……」
「なぁ、さっきから質問ばっかりしてどうしたんだ? 最近調子が悪そうだし、そんな変なことばっかり考えてないでゆっくり休んだほうがいいんじゃない?」
「……佐倉さんは、今の問答で違和感は感じないんですか?」
「またそれか。記憶が捏造されてるとでも言いたいわけ?」
佐倉さんの問いに私はコクリと頷く。
即座に否定されるかと思ったが、佐倉さんは私の表情をジーっと見つめた後に「はぁ…」とため息を一つついた。
「頭がいかれてる……ってわけじゃなさそうだね。今のあんたの表情はそういうのじゃない。ふざけてからかってるわけでもなくて、マジで言ってる」
「……」
「その違和感っていうのがあたしには分からないけど、あんたは感じてるんだろ? それがどうしようもなく気になって調子を落とすぐらいに」
「信じてくれるんですか?」
「いきなり信じるなんてことはできないよ。でも、協力くらいはしてやる。いつまでもあんたの調子が悪いままじゃ困るしな。あんたが元気じゃないと、マミさんとまどかも元気ないんだ」
「……佐倉さん、恩に着るわ」
それから私は日々感じていた違和感を一通り話した。
魔法少女の活動はこんなでよかったのか、美樹さやかの恋愛問題は本当にあんなに円満に解決したのか、佐倉杏子と何故こんなに仲良く活動することができているのか。
そして、違和感を感じたきっかけは転校初日に見た渡里さつきであることも話した。
あのときの私の様子がおかしかったことは佐倉さんも覚えていたようで、私の言葉に神妙な様子で頷いていた。
「もう一度聞くが、あんたは渡里さんと面識があるわけじゃないんだよな」
「そのはずです。そもそも私は魔法少女の契約をするまでは入院ばかりで学校も休みがちでしたし、会ったことがある可能性は相当低いです。仮に以前に会ったことがあったとしても、私の記憶には何も…」
あの日、私は渡里さつきを見てかなり強い違和感を覚えた。
どうしてそこにいる、とでも言うべき違和感を感じて思わず取り乱した。
「そして、不思議なのはそれと近い違和感を佐倉さんにも感じることです」
「は? あたしにも?」
「理由はその、分からないんですけど……あの、私たちって初対面ですよね?」
「当たり前だろ。あたしもあんたみたいなのと会った記憶はないね」
記憶にはないけれど会ったことがあるような感覚。
思い返してみれば、まどかや巴さんたちに初めて会った時にも奇妙な既視感を覚えたような気もする。
その時は魔法少女仲間に出会えたことで沸き上がった気持ちなのだと思っていたので気にも留めていなかったが、もしかしたらこの妙な既視感が私の感じている違和感と関係がある…?
「まあ、ともかくだ。あたしにはあんたの言う違和感ってやつは分からないけど、確かめる方法はあるんだろ?」
「そうです。魔法少女になる際の祈り、私たち魔法少女はそれに背くことはできません。もし、改竄でもしようものなら…」
「それが、違和感の正体ってか?」
「それはまだ…。私の祈りは『友達を支えられるような人になること』。病室でキュウベエに願った記憶が残っています。だけど、私はそんな願いをしたとは思えない」
「……まぁ、常識的に考えてみたら確かにそうだな。学校にもろくに通えてない病院暮らしのやつが、友達を支えるなんて願いを持つのは不自然だ。友達を作りたいって願うならともかくさ」
確かに、時間停止はサポートとしては優れている。
見滝原中学校に通うようになってからできた魔法少女仲間のサポートし支えることが十分にできていると言えるだろう。
祈りと固有魔法は関係が深い。支えたいという祈りがサポートに特化した固有魔法を生み出したと考えれば、その部分に違和感は何ら感じない。
しかし、やはり根本的なところで何か矛盾している。
しかもその矛盾は一見すると気づくことができず、誰かと話したり熟考したりすることでしか違和感を感じ取ることができない。
「ま、ともかく願い事を書き換えてる奴がいるかもしれないっていうのは見過ごせない話だ。たった一つしかできない願い事を勝手に踏みにじるなんて、どんな事情があったとしても許されることじゃない」
「佐倉さん…」
「願い事が何だったのか分からなくなって不安になる気持ち、よく分かるよ。あんたが調子を取り戻せないのも仕方のないことだ。戦う理由が分からなくなって迷子になってるんだから」
「戦う理由…」
「着いてきな。特別にいい場所に連れてってやる」
◆
「……着いた」
そうして、佐倉さんに案内されて着いたのは古びた教会だった。
人の気配はない。廃教会という表現が正しい場所だ。
「ここは…?」
「あたしの祈りの元になった場所さ。こう見えて、あたしの親父は神父だった。娘のあたしは元々は聖女様ってわけさ。意外だろ?」
「はい、とても」
錆びて開かなくなったドアを強引に開けて、佐倉さんは中へと入っていく。私もその後に続く。
そして、杏子は歩きながらぽつりぽつりと話す。
「親父はいつもここで熱弁を振るってた。新しい時代にはそれに即した教えが必要なんだって言って。傍から見れば怪しい新興宗教に見えたかもしれないけど、あたしはそんな親父が好きだった」
「……」
「だから、どうして誰も親父の話を聞いてもくれないんだって思ってた。聞いてさえくれればまともなことを言っているって分かってもらえるのにって。だから、あたしはキュウベエに祈ったんだ。親父の話を聞いてくれってさ。……今思えばバカな祈りだったよ」
自嘲するように一人語りする佐倉さんの話を私は黙って聞いていた。
そんな私を一瞥すると佐倉さんは続ける。
「あたしの祈りが原因で一家崩壊を引き起こして、意地を張ってマミさんとも袂を分かって……それでも円環の理に導かれて消えてなくならなかったのは、きっとあたしが悪いことを祈ったからだ。悪いことをした償いは他でもないあたしがしなきゃならない。あの時感じた絶望は、全部あたしのせいで起こってしまったものだから」
「……佐倉さんは強いですね」
「ばーか、そんなんじゃねえよ。あたしがやったことは自業自得ってやつだ。後先考えずにバカな願いをして自滅しただけ。たった一度しか使えない願い事をドブに捨てたんだ」
「そんなこと…」
「第一、あたしはまだこのことを吹っ切れてないんだ。自分のバカな願いで幸せをぶち壊したくせに、そのことを思い出すとどうしても苦しくて、今でも夢に見る」
「……」
「本当なら、この場所にもあんまり足を運びたくないと思ってる。こんな悪夢みたいな場所、もう二度と……」
……その先の言葉は出ない。
「じゃあ、どうして私をここに案内してくれたんですか?」
「そりゃああんたが自分の祈りのことを話したんだから、あたしも話さないと不公平ってやつだろ。あんな最悪な願いだったけど、それでもあたしにとっては大切な願いだった」
「……本当に、トラウマなんて残ってるんですか?」
「当たり前だろ。あたしがそう言ってるんだから、そうなんだよ」
「本当に? 私には、佐倉さんがここに来ることを躊躇しているようには見えませんでした」
「それは…」
「それに、佐倉さんの固有魔法は幻惑、でしたよね? 戦闘では自分の分身を作り出すことができる魔法。でも、2日前のナイトメア退治の時、佐倉さんは──」
「──使ってたな」
そうして佐倉さんは、何も言葉を発さないまま固まってしまう。
1秒、2秒、3秒……。いくらかの沈黙ののちに言葉を零す。
「なるほど、あんたの言っていた違和感はこれか」
◆
「考えてみればおかしな話だったんだ。あたしは過去を乗り越えていないのに、今のあたしは固有魔法を使うことができる。あたし自身は使えないって思ってるのに、いざ魔法を使ったら使えることが当然だと思って、矛盾していることに気づかない」
「私もついさっきまで気づきませんでした」
「あたしは自分の祈りが間違いだったと気づいてから、この魔法を使うことができなくなっていたはずなんだ」
「でも、実際には使えた」
「そうだ。あたしは固有魔法を使えなくなったと思ってるのに、実際にはそうじゃない。矛盾した記憶を当たり前だと思い込まされている。あたしは、口ではトラウマが残ってるなんて言いながら、実際にはここに来るのはあんまり嫌だと思ってなかった」
記憶と感情のすれ違い。
それが無視できないレベルまで到達すると、違和感として心に浮上してくる。
そして一つ違和感に気づいてしまえば、次から次へと疑わしいものが浮上してきて、何もかもが信じられなくなっていく。
「あと、極めつけはあんただ」
「わ、私ですか?」
「そうだよ。あんたが丁寧な言葉遣いをしておどおどしてるのがもどかしくてたまらない」
「え、えぇ……」
「あんたはもっとこう、癪に障る感じだったはずだ。上から目線で高飛車で、鼻につく感じ」
「ひどいですよ佐倉さん。私は、そんな…」
「それだ、その態度が気に食わないって言ってるんだ。さっきまでは何とも思わなかったのに、今はむしゃくしゃしてたまらない」
「そう言われても…」
「敬語なんて外せばいいんだ。その弱気な態度もあんたには似合わない。もっと空気を読まない感じで振る舞えばいいんだ」
「……それは喧嘩を売っているの、佐倉杏子?」
「そうそれ! そんな感じだ。あんたはそういう態度のほうがしっくりくる」
鋭くも冷たいほむらの言葉に佐倉杏子は歓喜の声を上げた。
まさにそれだ、と言わんばかりにすっきりとした表情を浮かべている。
そんな顔を見ていると、どうにも怒る気にもなれない。
「…はぁ。でも、助かったわ。貴女のおかげで私もまた記憶を取り戻すことができた。そうね、今の私はこういう性格だったわ」
「お互い様ってやつさ。あたしもあんたの言ってた違和感ってやつに気づくことができた」
2人は教会を後にする。
隣に並んで歩きながらこれからの話をする。
「協力しましょう佐倉杏子。今のところこの世界に違和感を感じているのは私と貴女だけ。私はこの違和感の正体を何としても突き止めたい」
「いいね。ちょうどあたしからもお願いしようと思っていたところだ。あたしらの記憶を勝手に書き換えたやつには、ガツンと言ってやらないと気が済まない。幻惑使いのあたしに勝負をしかけるとはいい度胸だ」
「ただ、深追いはしないで。ナイトメアよりももっと強大な何かが動いてるかもしれない。一人で動くのは危険よ」
「……なるほど、当てはあるってわけか」
「ええ。でも、貴女に伝えるのはもう少し情報が集まってからにしたい」
「分かったよ。あたしもあたしで動かせてもらう」
進展があったら連絡、ということで私たちは別れた。
日が落ちて暗くなってきた見滝原の町。スタスタと歩みを進めながら、私は感じていた違和感を心の中で言語化し明確にして整理していく。
(偽物の空間に偽物の記憶。連れ込まれた人間は矛盾に違和感を感じることはなく、そのまま受け入れ世界へと没入し、まるで幻覚を見ているかのような行動を起こすようになる……)
私はこの現象をよく知っている。
本物の人間を連れ込むのは、人間をエサにしているから。
歪な空間が形成されるのは、絶望した精神状態を反映しているから。
連れ込まれた人間が違和感を覚えないのは、連れ込まれたという記憶自体を忘れて歪な世界に適応してしまうから。
───魔女の口づけ
今回の現象は魔女が人を襲う手口にそっくりだ。
【この世界のほむら】
原作よりも協力体制をとることに積極的。
ただし、単独行動が好きなのは変わらないので分担することになる。
『考察好きの皆様のために』
展開予想のコメントをしたいけどガイドライン違反になるから駄目だ、というお悩みを抱えている人のために考察の魔女の憩いの場という考察スペースを作りました。
作者自身は展開予想合戦や作品への考察も含めてその作品の面白さだと思っているので、感想欄ではできないことをやってもらえればと思います。
もし、このやり方が何らかのガイドラインで禁止されていた場合は、予告なく取り潰しする可能性があるとだけ留意しておいてください。
次話「ほむらちゃんイメチェンしたの?」