キュウべえ「ボクと契約してTS魔法少女になってよ」 作:フェレーデ
それは難しすぎて作者にも決められないことだけれど、面白いって言ってくれる読者の存在はとっても素敵で魅力的で…。
こんな作品でも、みんなを楽しませることができたら、それはとっても嬉しいなって思ってしまうのでした。
「おっ、この世界だとあたしと杏子は一緒に暮らしてるのか」
どの世界でも、杏子とは仲良くなれなかった。
でも、何だか憎めなくて、嫌い合ってるというわけでもなくただ反りが合わないだけ。
もしお互いに魔法少女じゃなくてただの同級生として出会っていたら、もしかしたら仲良くなれてたかもしれない。そんな関係。
「あとは、あたしもまどかも魔法少女になってて、マミさんをリーダーとした魔法少女チームで活動。そして、あたしと恭介の関係は……」
ほむらが囚われている世界。
そこに潜入するにあたって情報を調べていると、その世界は幸せに満ちていた。
それはまさに魔法少女が夢見た世界。
キュウべえと契約するより前、まだ魔法少女の真実を知らないときに想像した、キラキラして華やかな魔法の世界。
「そっか…。本当はほむらも、こういう世界を望んでたんだよね」
杏子とは反りが合わないという話をしたが、ほむらとはそれ以上に険悪な関係だった。
友達だった世界もあるし、仲間だった世界もある。だけど、それより何倍も険悪だった世界の方が多い。
だけど、それでも。
あたしが何度バカなことをして、同じ間違いを繰り返しても、ほむらは──
「──だから、今度はあたしの番だよ」
◆
『あたしはまどかに頼まれてこの世界にやってきたんだ』
「まどかにって…。じゃあ貴女は──」
「想像の通りだよ。まどかの祈りでできた世界であたしは円環の理に導かれて消滅した。そして、導かれた後はこうして鞄持ちみたいなことをやってるってわけ。まあ、今回のケースが特別なだけで、基本的にこうして世界に降りることはないんだけど」
「……」
「本当は、あんたが記憶を取り戻す前にケリをつけたかったんだけど、そう上手くいかなくってさ……」
魔法少女になったとしても、円環の使者になったとしても、都合よく世界が回ることなんてない。できることが増えた分だけ、叶って欲しくないことばかり叶ってしまう。
「でも、まどかがほむらを助けたいっていうから。だから、あたしは引き受けることにしたんだ。こんな機会二度とないだろうしね」
「……じゃあ、本当に美樹さやか本人というわけね」
「そうだよ。正真正銘、あんたの知ってるさやかちゃんよ」
「本当に?」
「えっ…?」
「本当にそうなの?」
「えっと、もしかして疑ってる…?」
「疑ってるに決まってるでしょう。私から見れば貴女が一番怪しいんだもの。貴女が、この世界を作った魔女だと考える方が自然よ」
「あちゃ~」
ほむらの言うことはごもっともだ。
偽物ばかりのこの世界で、どれが本物かなんて分からない。だから、何もかも疑って、考えて、探っていくしかない。
「うーん、どうやったら信じてくれる?」
「人を信用させる方法なんて私が一番知りたいくらいよ」
それもそうだ。
それが分かっていたらほむらはあんなに苦しまずに済んだ。
「じゃあ、ほむらだけが知ってるあたしが知らないはずのことを話すとか?」
「どうかしら。私の記憶を読んでるのなら、そう言って騙すこともできるもの」
「うっ。で、でも、あたしが魔女なんだとしたら、こんな世界を作る理由はないでしょ」
「私を騙すための罠かもしれない。私が疑り深いことを知ってる貴女ならそれくらいの罠を仕掛けていたとしても………あら?」
「えっ」
「ごめんなさい、美樹さやか、謝るわ。貴女には無理だったわね」
「ちょ、それどういう…」
「貴女がどうしようもない向こう見ずな暴走列車だということを忘れていたの。この世界での貴女は驚くほどに冷静だったから。本当にごめんなさい」
「失礼だよぅ! ほむらぁ! あんた絶対わざと言ってるでしょ!?」
「ようやく化けの皮が剥げたようね。それくらいおどけてる方が貴女らしいわ、美樹さやか」
「性格が悪いぞ!」
「お互い様よ」
ほむらは髪をふぁさっと掻き上げる。
長い長い繰り返しの果てについてしまった癖のようなもので、今となってはやめられそうもない。
今この瞬間、間違いなくほむらはさやかを見下ろしていた。
身長で言えばさやかの方が高いが、精神的にはほむらの方が優位に立っていた。
掻き上げた髪が風でたなびいているのが余計に見下ろしている感を演出していた。もちろんほむらにそんな意図はないが、さやかはそう感じていた。
もちろんここで黙って引き下がる美樹さやかではない。
女神の鞄持ちとなってもその本質が変わったわけではないのだ。負けん気が強くて意地っ張りな性分は残ったまま。
「……『鹿目さん、私も魔法少女になったんだよ! これから一緒に頑張ろうね』」
「っ!? その言葉は…!」
「いや~、あの頃のほむらは初々しくて可愛らしかったのに、今じゃこんなミステリアスなクールビューティになっちゃって。化けの皮をかぶってるのはどっちなんだか」
にやにやとした笑みを浮かべながらさやかは煽り返した。
ここで精神的な優位性は逆転する。ほむらの余裕は消え失せ、掘り返されたくない過去を掘り返され狼狽する。
「あの時はあたしも大変だったね。早乙女先生の言葉を遮ってクラスのみんなの前で魔法少女なんて言っちゃうもんだからさ。あたしもまだ魔法少女の存在を知らなかったから、とんでもない電波な子が転校してきたって思ってびっくりして」
「……」
「それから、転校初日でテンションがおかしくなってたんだって言って、あんたがクラスで孤立しないようにみんなを説得して…。まぁ、あんた自身はまどかにべったりだったけどさ」
「性格が悪いわ、美樹さやか」
「お互い様だって言ってんでしょ」
不意にふっと笑みが零れた。
美樹さやかとこんな風に接したのはいつぶりだろうか?
もしかしたら、あの時の時間軸以来こうして他愛のない話をすることはなかったんじゃないだろうか。もう遥か昔のことにさえ思える。
「性格が変わっちゃったのはお互い様だよ。あんたが何度も同じ時間を繰り返して変わっていったように、今のあたしも同じだけの記憶を持ってる。まどかが全部の時間軸を束ねて世界を作り直したから、そこに導かれたあたしは他の時間軸で起こったことも全部分かるようになったんだ」
「そう……私が会ってきた美樹さやかは統合されてしまったというわけね」
「へへっ、そういうこと」
同じ時間を繰り返すうちにほむらはこんなことを疑問に思ったことがある。
過去に戻ったとして、元々過去にいた自分はどうなってしまうのかと。
時を繰り返す中で自分自身と出会ったことは一度もない。
目覚める場所も毎回病院だったし、日付も時間も同じ。そのことから、過去の自分の意識だけが過去に遡っているのではないかと考えていた。
意識とはつまりはソウルジェム。
魔法少女の契約を交わしたほむらの魂だけ。
時を遡るたびに視力や心臓の状態がもとの状態に戻っていたことから、ソウルジェムだけが遡っているのは間違いないと思っている。
実際には過去に戻るのではなく平行世界を生み出しているとのことだが、それでも理屈は変わらない。移動先の平行世界の私の意識を塗り替える形で時間遡行の魔法は発動している。
そうやってソウルジェムに記憶も想いも蓄積していったのが今の私。
数多の時間軸を生きてきた経験はすべてこのソウルジェムに刻まれている。本来ならば知りえないifの世界の経験を、繰り返しの魔法で体験している。
まどかの祈りによってifの世界同士を収束・統合させたのが今の美樹さやか。私が時を渡り歩いてきたのと同じだけの経験値を持っていると言ってもいい。
違うのは、それらは地続きの経験ではなく独立した別個の経験となっていること。それから、追体験という形で記憶に得ているため、実際に体験したわけではないということ。
だが、どちらにせよ、そういうifの世界の経験値を得てここに立っているのが今の私たち。
過去と比べれば大きく変わってしまったけれど、本人であることに間違いはない。
「……なるほどね。貴女がどういう存在かというのは分かったわ。そして、貴女がこんな世界を作り出した張本人じゃないということも」
「……」
「でも、だとしたらますます疑問よ。いったいこの世界は誰が作り出したというの? まどかを知る人物以外にこの世界を作り出すことはできない。そんなの、私と貴女以外には……」
「ほむらはさ、実は気付いているんじゃないの?」
「っ…貴女、何を…?」
どこか確信を持った表情を浮かべて言う美樹さやかにほむらはたじろいだ。
「あたしもそうだったけど、人間って冷静に考えてるように見えても案外そうじゃないんだよ。信じたいと思ったことしか信じないんだ。こうなって欲しい、こんな風にあるべき。そんな風に無意識に考えて、視野を狭くしていっちゃう」
「なにを、言いたいの…?」
その声はわずかに震えていた。
「ほむらだって一回は考えたはずだよ。でも、その考えに蓋をしたんだ。そうであって欲しくないと無意識に思っちゃったから」
「……」
「ほむらは魔女じゃないし、あたしも魔女じゃない。だけど、今私たちがいるこの世界は魔女結界そのもの」
「……」
「この空間が歪なのは、魔女もいないし使い魔も見当たらないこと。でも、考えてみれば当然だよ。だって元々、
「いないって…、じゃあ──」
「──気づいた? そんなことができるのは1人しかいない」
「魔女にならずとも魔女結界を作り出せるような魔法少女。かつて、疑似的な魔女結界をたった一人で作り出して、記憶にある見滝原の街と魔女を完全に再現してみせた……」
と、そこまで言って美樹さやかはおもむろに剣を作り出しそれを投擲した。
誰もいない方向に投げられたそれは、カンッと硬い何かにぶつかったような音とともに弾かれて地面に落ちた。
「手癖が悪いぞ。美樹さやか」
そして、何もないところから姿を現した。
白を基調とした衣装に藍色のスカートとジャケットを着た銀髪の魔法少女。渡里さつき、結界魔法のエキスパート。かつてのほむらの協力者。
「当然でしょ。あんたの企みを阻止するためにあたしはここに来たんだから」
「企み…ね。何も悪いことをしたつもりはないが?」
「とぼけないで。あんたがこの世界を作った張本人だってことは分かってるのよ! 魔女結界に似せた仮想空間を作り出して、みんなをここに閉じ込めたんだ!」
「そうだな。だが、お前にそれを非難する資格はないぞ。久しぶりに下界に降りられて良かったじゃないか」
「…っ! 確かに、ここでの生活は夢が叶ったようで楽しかったけど、それでも! あんたのやったことは許されることじゃない! 何をやっているか分かってるの?」
「ああ、分かっているとも。そして、それを妨害しているのがお前らだということも分かっている。結界の外から干渉できないと踏んだお前らは結界の中に忍び込んで正体を偽り、この世界が崩壊するように仕向けていたんだ」
「……」
「だが、後手に回ってこの世界を維持するのももう止めだ。ほむらが記憶を取り戻した今、こんな小競り合いに付き合ってやる必要はない」
次の瞬間、目の前の景色が一瞬で塗り替わる。
街の郊外の草原から一転、見滝原を一望できるビルの屋上へと場所が変わる。
その魔法が今目の目で使われたが、発動さえ知覚できなかった。
気付いた時にはもう景色が変わっていた。
「ッ…!! ここから出しなさいよ!!」
「さやか…!」
そしていつの間にかさやかは囚われていた。
その魔法には見覚えがあった。かつて、ワルプルギスの夜と相対した時に使用していた結界魔法。その強度は、街一つを簡単に滅ぼす魔女の攻撃を数十分の間完全に封殺するほどはある。
さやかも剣を振って結界を割ろうとしているが、剣の方が弾かれて結界には傷一つ入らない。
「さて、ようやく舞台も整ったな。お前はようやく記憶を取り戻し、自分の願いの本質を思い出した」
「……何のつもり?」
「お前に協力を持ち掛けに来た。そのために話をしよう」
【ほむらとさやかの関係性について考察】
まどマギではどの世界でもほむらとさやかは対立して描かれる。単純に性格の相性が悪いだけという話もあるが、メタ的に見れば敢えて対比して描いているということが読み取れる。
そもそもほむらとさやかは『まどかの大切な友人』という部分は共通していて、特に映画ではそれぞれまどかを想って行動する。その際に、魔法少女としてのまどかを大事にしたのがさやかで、人間としてのまどかを大事にしたのがほむら。要は、まどかの強い部分を支持するか、弱い部分を支持するかという違い。
『考察好きの皆様のために』
展開予想のコメントをしたいけどガイドライン違反になるから駄目だ、というお悩みを抱えている人のために考察の魔女の憩いの場という考察スペースを作りました。
作者自身は展開予想合戦や作品への考察も含めてその作品の面白さだと思っているので、感想欄ではできないことをやってもらえればと思います。
もし、このやり方が何らかのガイドラインで禁止されていた場合は、予告なく取り潰しする可能性があるとだけ留意しておいてください。
次話「もう一度まどかに会いたくないかい?」