キュウべえ「ボクと契約してTS魔法少女になってよ」   作:フェレーデ

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7:もう一度まどかに会いたくないかい?

 渡里さつき。

 こうして相対するのは初めてだ。軽く喧嘩をするのとはわけが違う。息の詰まるような緊張感が全身を襲い、いつでも魔法を発動できるように盾を構える。

 

「お前に協力を持ち掛けに来た。そのために話をしよう」

 

 そんなことを言われて警戒を解くはずもない。

 美樹さやかの話では、この世界を作り上げたすべての元凶はこいつ。何を企んでるのかも見当がつかない。

 

「そう警戒するな。ほむら、別に僕はお前と戦いに来たわけじゃない」

「…どうでしょうね? 私が魔女になったと錯覚するような世界を作っておいてよく言うわ」

「それはお前が早合点しただけだろう。勝手に絶望して魔女になられても困る」

「そうなるように、誘導したんじゃないの?」

「そんなわけはないだろう。それに、お前を魔女にしたいならもっと別の方法をとるさ。こんな幸せな世界じゃなくて、もっと希望のない世界を」

「……どんな?」

 

 それは興味本位で聞いたものだった。

 一通りの絶望は感じてきたという自負があったからこそ、何だそんなものかと鼻で笑ってやるつもりだった。しかし、返ってきた答えは予想外なものだった。

 

「お前の望みがすべて叶った世界だよ」

「……は?」

「鹿目まどかが魔法少女になることはなく、美樹さやかが失恋で魔女になることもなく、巴マミや佐倉杏子との関係も良好で、全員で協力してワルプルギスの夜を倒す。そんな世界だ」

 

 ……それは、私がかつて求めていた世界そのものだった。

 すべてが上手くいき悪夢のような1ヶ月が幕を閉じる。私が渇望してやまなかった最後の道標。それ以上に幸せな世界はないと言い切れる。

 

 そんな理想のような世界でどうして魔女になるというのか。

 

 

「さあ、そうなった場合どんな手段を取る? キュウべえ」

 

 インキュベーター。

 どこからともなく現れたそいつは、ぴょんっと跳躍してさつきの肩に乗った。

 

「……そうだね。あくまで推測にはなるが、君たちから聞いた鹿目まどかや魔女の情報をもとに考えると、僕たちインキュベーターは()()()()()()()()()()()()()()()だろうね」

 

 魔法少女の契約を、止める……?

 

「その世界には魔獣なんていないんだろう? つまり、ソウルジェムの穢れを取り除くためには魔女を倒してグリーフシードを手に入れるしかないわけだ」

 

「だとすれば、僕たちが契約を止めれば魔女がそれ以上生まれることもないんだろう? 使い魔から生まれる魔女もいるだろうが、それも時間が経てば減っていくはずだ。そうなれば、君たち魔法少女は生きていくことさえ困難になる」

 

「ワルプルギスの夜という強力な魔女を倒したとは言っても、ソウルジェムが穢れてしまえば生きてはいけない。魔法をまったく使わなかったとしても、2年か3年もあれば君たちは漏れなく魔女になるだろうね」

 

「そんな君たちを見て、まどかは契約せずにいられるかな?」

 

 こいつは…!!

 今まで考えたこともなかったが、ワルプルギスの夜を倒してそこで終わりではない。その後も世界は続いていく。

 

 魔法少女が新しく生まれないということは魔女も生まれないということ。

 それは一見すれば平和で素晴らしい世界だろう。

 

 だが、残された魔法少女たちにとってはそうじゃない。

 戦いの運命を課された私たちは、魔女がいなくなれば同士討ちをするしかない。魔女がいなくなるという強硬手段を取られてしまえば、いやでもそうせざるを得ない。

 

 もちろん、そんな私たちを見てまどかが何も思わないはずもない。

 人一倍優しく他人の痛みを分かってあげられるあの子は、私たちを助けるために契約しようとするだろう。

 

「話によれば、鹿目まどかの魔力係数は少なく見積もってもさつきの十倍ほどはあるんだろう? だとすれば、希望から絶望への相転移の際に得られる感情エネルギーは、まさに天文学的な数字を叩き出すことだろう。推測にはなるが、この星で目標としているエネルギー回収量を簡単に上回るんじゃないかな?」

 

「それに、失敗したとしても問題はない。元々僕たちの仕事は数千年をかけて行うものだ。たかだか数年無駄にしてしまったところで大した問題ではない。ローリスクハイリターンでこの宇宙を救うことができるんだ。」

 

「そんなチャンスを無駄にしてしまうことの方がもったいないじゃないか」

 

 

 

 

「──とまあ、そんなわけだ。お前を魔女にすることが目的じゃないことは分かってもらえたか?」

「……えぇ、よーく分かったわ。たとえ世界が変わろうとも、こいつが私たちの敵だということは」

「それは理不尽じゃないかい? 魔獣退治をサポートしているのは僕だというのに」

「黙りなさい、(イン)キュベーター」

「名前を呼ばれただけなのに何故だかすごく貶された気分だよ」

 

 緊張をほぐす方法は様々あるが、普段通りを思い出すことは最も効果的な手法だろう。

 となれば、キュウべえを罵倒することはほむらにとっての日常。一連のやり取りは平常な心を取り戻すのに十分だった。

 

 ふう、と息を吐き気持ちを整える。

 

「……戦いに来たわけではないと言ったわね?」

「そうだな。僕は話をしに来た」

「じゃあ、聞かせてもらうわ」

 

 あいにく、聞きたいことは山ほどある。

 閉じ込められているさやかのことも心配だが、外から結界の様子を覗く限りでは問題なさそうだ。隔離されて閉じ込められているだけで、何も危害は加えられていない。

 

「まず、何でこの世界を作ったの?」

「お前のため、と言ったらどうする?」

「私の…? 見え透いた嘘を言わないで。貴女が誰かのために働くような人じゃないのは知ってるのよ」

「ああ、だから自分のためだ。今回のこともちゃんと目的があってやったことだ。時間に干渉する盾、なぜそれが今使えると思う?」

「っ…!」

 

 言われてハッとした。

 時間に干渉し過去に遡ることのできる盾。これはまどかが現世から姿を消すとともに使えなくなったはずだ。なのに、今私は問題なく使うことができている。

 

 この世界にまどかがいるから?

 それとも、この世界が作り物だから?

 

 いいや、どれも違う。

 

 

「答えは簡単だ。ほむら、この世界はお前の精神世界を反映させたものだ」

 

「分かりやすく言うなら、お前が魔女になったときに形成する世界そのものだ。そのソウルジェムにはキュウべえの科学技術を用いた細工がしてあって、この世界の内側はお前の望んだものが反映されるようになっている」

 

「残る問題は魔女結界という閉じた空間をどうやって作り上げ制御するかだが、それは僕の得意分野だ。必要な魔力の供給もこの世界の制御も、全部こちらで行っている。以前に見せた疑似的な魔女結界、それを本格的に運用したのがこの世界だ」

 

 意外なことに、こんな話を聞かされてもほむらは冷静だった。

 自分でも理由は分からないが、好都合だ。状況を把握しようと次の質問を投げかける。

 

「そんなことをした目的は?」

「もちろん、お前がなくしてしまった時間遡行の魔法を取り戻すためだ。世界が再編されてもお前の本当の願いは変わっていない。表面上は変わってしまって、それにより時を遡ることができなくなったとしても、願いの結晶体であるソウルジェムにはお前の本当の祈りが必ず残っていると考えていた」

「……」

「そして、予想は合っていた。心の底から望むものを映し出す魔女結界、それを疑似的にとはいえ再現したら、お前は時を遡る力を取り戻した。これは、お前が最初に願った願いが反映された何よりの証拠だ」

「何が言いたいの? そうまでして私に時を遡らせて、何をさせるつもり?」

 

 

 

「もう一度、まどかに会いたくないかい?」

 

 

「ッ…!?」

 

 

 さつきに代わり、キュウべえが話を続ける。

 

「もちろん、今回のようにお互い記憶をなくしたまま会うのではなく、概念となる前のまどか本人に会うんだ」

 

「僕は鹿目まどかのことをよく知らないけれど、君にとっては大切な人なんだろう? 一度きりしか使えない願いの対象になっているのだから、当然とも言えるね」

 

「だが、君はまどかに会うことはできない。現世に存在しない人間に会うことなんてできないからね。そのことを気に病み、ソウルジェムを黒ずませたのは一度や二度じゃないはずだ。それでも君は、時を遡る力を失ってしまっていたから、もう諦めるしかないと何度も自分に言い聞かせてきた」

 

「諦めたらそれまでだ。でも、暁美ほむら、君なら運命を変えられる。避けようのない滅びも、嘆きも、すべて君が覆せばいい。そのための力が、君には備わっているんだから」

 

 

 今まで、何度も時を繰り返してきた。

 そのたびにまどかと出会い、別れることを繰り返してきた。

 

 何度もそうしてきたのはすべて私がまどかを守ることができなかったから。

 まどかを救う。その一心で地獄のような時を渡り歩いてきた。

 

 だが、終わりのない旅は意外な形で幕を閉じた。

 何としても守りたい、救いたい。そう思っていたまどかが願いを叶え現世から消えるという形で。

 

 ならばと、まどかの祈りで生まれた世界を守っていくのが私の務め。それがまどか本人を守ることにも繋がる。

 そう自分に言い聞かせ、魔獣退治に奔走した。

 

 まるで、これで間違ってないと自分に言い聞かせるように。

 

 

『その夢の話が本当だったとして、あの選択は正解だったと思う? もし同じ状況に陥ったとして、同じ選択を取ることができる?』

『……できないよ。だって、夢の中のほむらちゃんはすっごく寂しそうで苦しそうだった。それを知っちゃったらわたしは、あんな選択できない』

『それが、他の大勢を救うことだとしても?』

『うん。だって、あんなに大事に想ってくれる人を置いてお互い一人ぼっちになるなんて、そんなのあんまりだよ。ほむらちゃんでもあんなに苦しんでるのに、わたしなんて耐えられっこないよ…』

 

『……そう、それが貴女の答えなのね』

 

 

(本当にそれでよかったの? あの世界は、本当にあの子が望んだ世界だったの…?)

 

 

「さあ暁美ほむら。魔法を使う決心をするんだ。そうすれば、円環の理という概念が生まれる前まで遡り、もう一度まどかに会うことができる」

「わ、私は……」

「この機会を失えば鹿目まどかに再会することは二度とできなくなってしまうかもしれないんだ。そんな結末は君だって望んで──」

 

 

「──そいつの言葉に耳を貸しちゃダメ!!」

 

 

 パリンッ、と割れる音がすると同時にキュウべえに剣が突き刺さった。

 やったのは美樹さやか。結界を割り自由を得たさやかは、ほむらの前に立ち塞がる。

 

「美樹さやか…」

「あんた、自分が何をしようとしてたか分かってるの!?」

 

 怒り心頭といった様子でさやかが詰め寄ってくる。

 

「……えぇ、分かっているわ。私はまた間違えてしまったわ。あの子を魔法少女にするべきではなかった。何としてでもあの時、契約を阻止するべきだったのよ」

 

 対して、ほむらは冷静だった。

 この世界で本物のまどかともう一度言葉を交わすことができて確信した。

 すべての魔法少女を絶望から救いたいという願いをしたまどかは、本心ではみんなと離れたくないという気持ちを持っていた。

 これは、まどかの願いこそが彼女の気持ちなのだと思っていたほむらにとって、衝撃的なことだった。

 

 今まで、まどかが望むならと思い魔獣を狩ってきた。

 でも、本当はあの子もこんな世界を作りたいと本心で思っていたわけではなかった。

 

 ならば、再びやり直すしかない。

 こんな願いを叶えずとも、あの子が幸せに暮らせる世界を目指して。

 

「どうしてそうなっちゃうの! あんたはまどかの最高の友達なんでしょ! どうしてまどかの意思を尊重してあげないの!?」

「それがあの子の幸せにならないからよ。魔法少女になったあの子は、いつも悲惨な運命を辿ってきた」

「でも…!」

「それに、あの子も本音ではあんな願いを叶えたいなんて思っていなかった。やっぱり魔法少女になんてしてはいけなかったのよ」

「それでも…! あの願いを叶えたのはまどかなんだよ! あんたがしようとしてることは、まどかの決断をなかったことにして想いを踏みにじる行為だ!」

「ッ…! そ、それは…」

「まどかはすべてを知って悩んだうえであの願いを決めたんだ。それをなかったことにするなんて、そんなの絶対あたしは許さない」

 

 

『わたし、やっと分かったの。叶えたい願い事を見つけたの。だからその為に、この命を使うね』

 

 

 あの時、確かにまどかはすべてを知ったうえで願いを決めた。

 それをなかったことにするということは、あの時のまどかの勇気を、想いを、覚悟をすべて踏みにじるということ。

 

「それにさ、あんたの魔法でもまどかの祈りをなかったことになんてできないよ」

「えっ…」

「だって、まどかは過去の世界も書き換えたんだから、あんたが過去に戻ってもそこにまどかはいない。今更時を遡っても意味なんてないんだよ」

 

 言われて気付く。

 そうだ、時間を操る魔法を再び使えるようになったからと言って、もう一度まどかに会えるとは限らない。

 戻るべき過去にもあの子はもう既にいないのだから。

 

「意味はあるさ。その部分に関しては対抗策を考えている」

「あんた…」

「円環の理をなかったことにするのは可能だ。協力を持ち掛ける以上、そのくらいの策は準備している」

 

 そう言うと、さつきはさやかの方へと視線を向けた。

 

「美樹さやか、あの結界を破ったのは正直意外だった。ワルプルギスの夜にも通用した結界だったんだがな。どうやら今のお前の力はそれに匹敵するようだ」

「……」

「その因果の力は円環の理から借りてきたのか? うまく隠蔽していたようだが、今のお前からは膨大な因果の量を感じられる」

「当然でしょ。あたしはあんたを倒すためにここに来たんだから」

 

 そう言って、さやかはほむらの前に立った。

 まるでここから先には行かせないと言い張るように。

 

「あんたを倒せばこの世界は崩壊する。そうすれば、まどかの作ったあの世界を守ることができる」

「そうだな、美樹さやか。お前を倒せばゆっくりほむらに話ができるというわけだ」

「舐めないでよね。今のあたしならあんたの結界だって斬れるのよ!」




【キュウべえの行動原理について】
 めちゃくちゃ簡単に言えば、円環の理のせいでエネルギー回収効率が悪いので取っ払いたいというもの。映画では円環の理を観測・制御して機能不全に陥らせようとしていたが、さつきの協力により円環の理自体をなかったことにできる可能性が浮上したので協力関係に。
 その際に、再び世界が組み替えられてしまうことに関しては特になんとも思っていない。


【ほむらを絶望させる世界】
 暁美ほむらが戦い続けるのは彼女本人が希望を失っていないから、というキュウべえの言葉通り、ワルプルギスの夜を倒しさえすればハッピーエンドと思っていたのでループを耐えきることができていた。まどかへの因果の収束が発覚したことでストップがかかったのは、自分のやってきたことが無意味だったと思い知らされたから。
 となれば、すべてが都合よくうまくいった世界でキュウべえがグリーフシードの供給を断つという強硬手段を取れば、ワルプルギスの夜を越えてもハッピーエンドにはならないと思い知るのではないかという発想。



『考察好きの皆様のために』
 展開予想のコメントをしたいけどガイドライン違反になるから駄目だ、というお悩みを抱えている人のために考察の魔女の憩いの場という考察スペースを作りました。
 作者自身は展開予想合戦や作品への考察も含めてその作品の面白さだと思っているので、感想欄ではできないことをやってもらえればと思います。
 もし、このやり方が何らかのガイドラインで禁止されていた場合は、予告なく取り潰しする可能性があるとだけ留意しておいてください。


次話「ハッピーエンドに手を伸ばして」
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