キュウべえ「ボクと契約してTS魔法少女になってよ」 作:フェレーデ
「うわっ……あたしほむらの邪魔ばっかりしてるじゃん」
円環の理に導かれた後、さやかは他の時間軸での自分の姿とほむらがやってきたことを知った。
そして、幾度となくほむらの邪魔をするような行動ばかりしてきたことも。
魔法少女になるなと言われたのに契約を交わし、あげると言われて差し出されたグリーフシードを拒み、挙句の果てに失恋をこじらせて一人で苦しんで魔女化。しかも、それは一度や二度の話じゃない。
見事にやること為すことすべてが妨害になっていて、もはや笑ってしまうほどだ。むしろこれだけやらかしていて、よく出会い頭に罵詈雑言をあびせられなかったなと感心するほどだ。
もちろん、自分の行動がすべて悪いわけじゃないとは思う。
ほむらの行動が完璧ってわけじゃないし、そもそも友好的な関係を築こうとしていない時の方が多いから、仲良くなれないのはもはや仕方のないこと。
とはいえ、ほむらだって敵対関係になりたいとは思っていないはずで、もう少し言い方を変えてみたり、もっと分かるように説明したりしてくれたら険悪な関係になることもなかったんじゃないかと思う。
いやまあ、説明した結果散々になった時間軸があることも知ってるけど……それでも、もっと何かやりようがあったんじゃないかと思う部分はある。
ただ、無自覚とはいえほむらの行動をずっと阻害してきたというのは紛れもない事実で、それを後から知って、罪悪感のようなものを覚えたのもまた事実。
「ねぇまどか、ほむらの件だけどあたしに協力させてよ」
「え、いいの?」
「当然でしょ。一番頑張ってきたほむらは、せめて最期くらい報われて然るべきってもんでしょ。それを邪魔する奴はこのさやかちゃんが斬り伏せてしんぜよう!」
「もう、さやかちゃんったら」
だから、協力したいと思うのは当然のことだった。
これでほむらが自己中心的な奴だったらそうは思わなかったかもしれない。
だけど、そうじゃない。ほむらはずっとまどかのために頑張ってきた。口調も性格も変わって、形振り構っていられなくなるくらい、ずっと。
ずっとひたむきに頑張ってきて、だけど空回って上手くいかなくて、イライラとかもどかしさが募っていって息苦しくなっていく。
どうしてうまくいかないの、こんなに頑張ってるのにどうして。
そんな考えばかり頭に浮かんできて、自分の首を自分で絞めていることに気づけない。
そういう感情はよく理解できる。
だってあたしがそうだったから。
まどかと離れ離れになってしまったあいつも、最期くらいは報われるべきだ。いつか来る最期の日にまどかと感動の再会を果たしてハッピーエンド、それでいいじゃないか。
あたしが最期に恭介の演奏を聴いて死んでいったように、あいつも最期くらい幸せになって欲しいと思う。
「それにしても、相変わらずまどかの衣装は凄いなぁ。中学生から女神さまにジョブチェンジして雰囲気もガラッと変わっちゃって」
「そ、そうかな…?」
「いやー、今のまどかは魔法少女みんなの嫁みたいなもんでしょ? なんか見た目もふりふりして花嫁みたいだし」
「うぅ……そ、そんなんじゃないよぉ!!」
さやかが冗談を言ってまどかが顔を赤くして恥ずかしがる。
たとえ場所や立場が変わっても、そこには変わらない日常があった。
◆
(負けられない……まどかとほむらを会わせるためにも、絶対に負けられない…!!)
いつか来る最期の日。
せめてそこだけでも絶望で終わらないようにと願ってまどかは魔法少女になった。
魔法少女としての日々は戦いばかりで、孤独。
希望を失ってしまえば魔女になって世界を呪って生きていくしかなくなるなんて、あまりにも救いがない。
それを、最期だけでも報われる形に変えたのがまどかで、実際にあたしも円環の理に導かれたことで救われたと感じている。
でも、あたしよりもずっと頑張ってきたほむらはまどかと再会できていない。
まどかもほむらもお互いに会いたいって思ってるのに、それが叶ってない。それでもいつかは報われるからと思っていたら、キュウべえとさつきが何か企んで、それにほむらが巻き込まれた。
許されることじゃない。
まどかとほむらはお互いに会って話をしたいだけなのに、それを邪魔するなんて。
だから手助けしたいと思った。
あの時まどかにも言ったけど、一番頑張ってきた奴は報われるべきだと思う。終わり良ければすべて良しっていう言葉があるように、最期が良ければ大体のことは許せてしまうから。
今までさんざん迷惑をかけた償いのようなものだ。
ほむらがそれを求めてないことは分かってるけど、そうでもしないとあたしの気持ちが収まらない。知ってしまった以上、助けてあげたいと思う。
「ほむら、下がってて…」
さやかは一歩前に躍り出ると、右手に持った剣で自身の腹を突き刺した。
ぼたぼたと血が零れる中、そこから姿を現したのは人魚の魔女オクタヴィア。体躯10メートルほどはある大剣を持った魔女。
「騎士の鎧に楽譜……なるほど、お前の魔女か」
「……」
「円環の女神様は魔法少女の神様でもあるが、魔女たちの神様でもあるようだ。その使者であるお前は、希望の力も絶望の力も使えるようになったというわけだな」
さやかは会話には応じず攻撃を仕掛けた。
飛び道具が効かないことは知っている。あいつは、ワルプルギスの夜の放つ光線を転移させて跳ね返していた。街へ及ぶ攻撃をすべて察知して、全部。
ならば近接戦はどうかと言えば、不意打ちだったとはいえマミさんを一方的に気絶させ、お菓子の魔女の嚙みつきが直撃しても一切のダメージはなし。圧倒的な防御力と魔力量にものを言わせた身体強化で相手を倒すことができる。
突破口があるとすれば、結界魔法に頼りすぎているというところ。
まどかから聞いた話では、あの結界による防壁を突破できた者はいないとのこと。だから、あいつは自分が攻撃を受けない前提で戦う。
つまり、近づけば勝機はあるということ。
今のあたしにはまどかから借りたこの力がある。この力ならあいつの防壁も斬ることができる。そのはずなのに──
「──斬れない…!」
「出力を抑えていたんだ。この強度は斬れないか?」
「っ…」
何度か斬りつけるがどれも壁に阻まれて攻撃が通らない。当たりさえすれば勝機は見えるのに…。
とにかく、出力が足りない。
形振り構ってられなくなったあたしはありったけの魔力を込めてオクタヴィアの剣を振った。だが、これも失敗。
結界に触れた瞬間に大剣が砕け散り、がらがらと崩れる音だけが響いた。渾身の一撃を防がれたことであたしは脱力感を感じて、その場で膝をついてしまう。
「何で…」
「まさか、本当に勝てるとでも思っていたのか?」
静かな戦場にカツン、カツンと歩く音だけが響く。
「美樹さやか、お前の目の前にいるのは世界で二番目に強い魔法少女だ。借り物の力で勝てるわけがないだろう」
今の一瞬で力の差が開き過ぎていることを痛感した。
魔力量が違う、魔法の練度が違う、背負い込んだ因果の量が違う。規格外という言葉では収まらないほどに他の魔法少女とは隔絶した力を持っている。
「どうして…」
「…?」
「どうして、そんな力を持ってるのよ…?」
「どうしてって言われてもな」
「だって有り得ないでしょ! あんたのその力はただの魔法少女が持っていいような力じゃない!」
「それを、鹿目まどかを知っているお前が言うのか?」
「っ…」
「それに、円環の理の使者であるお前なら知っているんじゃないか? 現世から消滅して概念となったお前たちは、過去も未来もありとあらゆる可能性を知っているんだろう?」
「……分からないのよ」
「分からない? 何でだ?」
「そんなのこっちが聞きたいわよ! まどかもあんたに干渉できない、理由も分からないって!」
「…なるほど? つまり、円環の理は僕に干渉できないということか」
確信をもって言われたその言葉にさやかは息の詰まるような気分になった。
「世界が再編されたときに魔獣やら何やらの記憶が継承されなかったのは円環の理が干渉できなかったからということか。1ヶ月も意識が飛んだのは魂がこの身体に馴染むのに時間がかかったからか? だとすれば、あの時の苦し紛れの魔法は成功したらしい」
「苦し紛れの魔法…?」
「ああ、鹿目まどかがその魔力で宇宙全体を覆うとき、僕は反射的にそれに抗おうとした。無策にもほどがあったが、結果はうまくいったようだ」
「……何よそれ? 宇宙を丸ごと作り変えるような魔法を防いだって言うの?」
「そうだと言っている」
「……嘘よ。あんたは今嘘をついた」
「……」
「何か他にカラクリがあるんでしょう? あんたはそれを知っているのに、話したくないから誤魔化そうとした」
「何だ、それも円環の力か?」
「見りゃ分かるわよ。空っぽの言葉をしゃべってるかそうじゃないかくらい」
「そうか…。だが、あいにく話す必要は──」
「──いいや、君には話してもらうよ、さつき」
話に割り込んできたのはキュウべえ。
先ほどまでと異なり、さやかの傍に立って話をする。
「君の因果の強さについては僕も疑問があったんだ。だが、君は決まって知らないと答えるから僕としても仮説の立てようがなかった。君なりの考えがあるというなら是非聞かせてもらいたいところだ」
「……お前とは協力関係だったはずだが?」
「秘密を抱えたまま協力なんてできるわけがないだろう? 知らないならともかく、知っているなら話してほしいと思うのは当然のことさ」
「………はぁ、お前はそういうやつだったな」
仲間割れ、とは少し違うが協力関係を築いていた相手から援護射撃を受けて、さつきは大きくため息をついた。
「まぁいいさ。隠すほどのことでもないし話してやる」
そして、断るのも面倒になったのか話し始める。
「まず、僕はこの世界出身じゃない。こことはまったく別の世界で生まれ育って、ここにやってきた」
「別の世界…」
「まぁ、やってきたとは言っても、気づいたらここにいたという方が正しい表現だ。この世界に迷い込んだ当日にキュウべえと遭遇して、別世界に迷い込んだとも知らないまま魔法少女にならないかと勧誘された」
「そこで契約を…?」
「いいや、契約したのはその数日後だ。帰る家もなくなって行き倒れていたところに、こいつがまた勧誘にやってきたんだ」
そこで、さやかとほむらの視線が一斉にキュウべえに向いた。
キュウべえ自身は何故そんな反応をされるのか心底分かっていないといった様子だ。
「で、重要なのは円環の理の干渉範囲がどこまであるかということだ」
「干渉範囲?」
「あのシステムはこの世界とそれに属する平行世界すべてに作用しているはずだ。だが、それはまったくの別世界から来た僕にも適用されるものなのか?」
その問いに、ほむらとさやかは答えられなかった。
Yesとも言えるしNoとも言える。どちらが正しいのかなんて分かりようがなかった。
「適用されるだろうね」
それに対して、迷いなく答えたのはキュウべえだ。
「推測にはなるが、この世界に入った時点で世界のルールには抗うことはできないんじゃないかな? 第一、君は問題なく魔法少女契約を交わしただろう?」
キュウべえの言葉になるほどといった様子で二人が頷いた。
そういうところだぞ、お前らが似た者同士なのは。
「それに、世界の外から来たとなれば君の持つその異常な因果量も例外なものだったと認識することができる。一国の女王や英雄でもないのにそれほどの資質を備えていたのは、世界を越える際に因果の糸が巻き付いたと考えるのが自然だろうね」
「そうなってしまう理屈や理論は僕にも分からないけれど、これに関してはそういうものだと認識する他ない。何せ、別世界から来たなんていう人間は君以外見たことがないし、そのような現象は僕たちの科学力でも再現することはできない。証明のしようがない以上、君の身に起こった現象をそのまま世界のルールだと認識するべきだ」
「世界を越える際に、君には膨大な量の因果の糸が巻き付き、さらには因果そのものを認識することもできるようになった。結界魔法が得意というのもその性質をよく表している。結界というのは世界同士の境界線となるものだから、それを越えた経験のある君はその部分の才能が開花したんだろう」
「最も興味深いのは、やはり君が
「「…………え?」」
と、ここでほむらとさやかはハモった。
見事に同じ表情をしている。おめでとう、きっと今が最も心が通じ合っている瞬間だ。
「ひどいじゃないか。もったいないからいきなり個体を潰すのは止めて欲しい」
「長話が過ぎるぞ。それに、このことについては話さないよう言っていたはずだ」
「そうなのかい? 少なくともこの世界の僕はその約束をした覚えはないよ」
「……はぁ、まさか確認不足がこんな結果になるとは」
放心する二人をよそに、キュウべえとさつきは話を進めていく。
それに一早く待ったをかけたのはさやかだった。
「ちょっ……え? 今のって、えっと……どういうこと?」
「それはむしろこっちが聞きたい」
しかし残念。
さやかの思考はパンク寸前で言葉になっていなかった。思考回路がぐちゃぐちゃになって軽いパニックを引き起こしている。
「その……どうして今まで黙って──」
「──じゃあ逆に聞きたいと思うか?」
「「……」」
ごもっとも、という表情を浮かべるほむらとさやか。
魔法少女の末路が魔女だとか、ソウルジェムが魔法少女の本体だとか、そういう重たい真実は聞かなければならない場面はあるかもしれないが、これに関しては知りたくもない。隠しておいて欲しいと思うようなことだ。
知ってしまえばそのことを意識せざるを得なくなる。
それはお互いにとって知られたくもないし知りたくもない事だったら、両方とも不幸になるしかない。羞恥は周知になってはいけないのだ。
「……まぁ、これに関しては今回の話には関係のないことだ。ほむらを説得するという今回の目的においては何の意味もない」
話を元に戻すと、美樹さやかもまた警戒態勢に戻る。
先ほどまでの何とも言えない緩和した空気はどこへやら、一気に緊張の糸が張り詰める。
「別に、武力を盾に脅迫しようってわけじゃない。協力を申し出に来たんだ。時間遡行の魔法を取り戻したお前に」
「そう。でも私は協力するつもりはないわ」
「理由を聞いてもいいか?」
「私はこの魔法であの子の想いを踏みにじってきた。時を遡った数だけ、何度も。私はもう、まどかの想いを踏みにじるわけにはいかない」
「ほむら…」
すべてに納得したという表情ではない。
自分を納得させようとする言い方。その姿を見て、さやかは憂を帯びた表情を浮かべる。
「お前が求めていた世界がどういうものなのかというのは分かっている。この疑似的な魔女結界はお前が本心で望んだものを映し出しているんだから」
「……」
「映し出されたのはお前が何度も繰り返した1ヶ月だ。かつて抜け出そうともがき苦しんだ1ヶ月。お前はそこに戻りたいと思っている」
「……」
「ほむら、できないと思っていたことができると知って、それに手を伸ばしてしまうことは悪い事じゃない。僕たちは魔法少女だ。奇跡の力を振りかざして望む結末を得ることができる」
「…この力はそんなに万能なものじゃないわ。結局、私は望む結末を手に入れることはできなかった。もうみんなの気持ちを犠牲になんてできない」
「だから、お前は最初の願いを諦めるっていうのか? 鹿目まどかを救い出すために今まで頑張ってきたのに?」
「……」
その問いに、ほむらは答えない。
「お前から時間遡行の魔法を取り上げたのは鹿目まどかだ。恐らくは、お前がもう苦しまなくてもいいように、過去へと戻る力を封じてお前の願いさえも捻じ曲げた」
「……」
「その証拠に、魔獣のいる世界で自分が何を望んで魔法少女になったかなんて覚えていないんだろう?」
「えぇ、そうね」
「それで満足してるのか? お前は?」
「……これが、あの子の望んだ結末だというなら受け入れるわ」
「どう考えても我儘だろこれは。それでも付き合うっていうのか?」
「そうよ。私の願いの中心には、いつだってあの子がいたんだもの。これからも、それは変わらない」
毅然とした物言いをするほむら。
迷いは見られない。既に心は決まっているようだった。
「だから、残念だけど諦めることね。まどかにもう一度会えるというのは魅力的だけど、私はあの子の作った世界を生きていくと決めたの。貴女の誘いには乗らないわ」
きっぱりと断るほむらの瞳には決意が宿っていた。
まどかにもう一度会えるということで揺れていた心は、まどかの願いを優先する方向に傾いた。
「大したもんだ…」
それを受けて、さつきも息をついた。
「本当にそれでいいのかい? 暁美ほむら」
それに待ったをかけたのはキュウべえだ。
「この機会を逃せば君がまどかに出会う機会は未来永劫失われてしまうんだよ。それは君にとっても本望ではないはずだ」
「くどいわ。それに言ったはずよ。誘いには乗らないと」
「そうだそうだ! ほむらがそう言ってるんだから、あんたがそういうこと言うのはルール違反ってやつじゃないの」
「そうでもないよ。これは僕が行う契約じゃないからね」
「それに、まどかに会えなくなるなんていうのは嘘でしょ。あんたは分かってないみたいだけど、役目を果たした魔法少女はみんなまどかに会えるのよ。こっちの世界にはいないけど、まどかは確かにいる。だから、いつか来る最期の日には、ほむらだってまどかに会えるの」
「やれやれ、さやかは宇宙の理について理解できていないようだね」
「…?」
「君の言う鹿目まどかは自らの願いで概念となってもなお、元の人格を保ち続けているんだろう? その状態が極めて異例であるということをまるで理解できていない」
「何が言いたいの?」
「暁美ほむらが円環の理に導かれるとき、鹿目まどかの人格は失われ完全な概念になるということさ」
さやか「よーし、ほむらを救い出すぞー!」
なぎさ「はいなのです!」
まど神「2人とも頑張って! わたしがそのまま降りちゃうと、キュウべえに観測されちゃうから」
まど神(さやかちゃんにはさつきちゃんのこと黙っておいた方がいいよね?)
『考察好きの皆様のために』
展開予想のコメントをしたいけどガイドライン違反になるから駄目だ、というお悩みを抱えている人のために考察の魔女の憩いの場という考察スペースを作りました。
作者自身は展開予想合戦や作品への考察も含めてその作品の面白さだと思っているので、感想欄ではできないことをやってもらえればと思います。
もし、このやり方が何らかのガイドラインで禁止されていた場合は、予告なく取り潰しする可能性があるとだけ留意しておいてください。
次話「鹿目まどかの消失」