キュウべえ「ボクと契約してTS魔法少女になってよ」   作:フェレーデ

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 それは、RPGやシミュレーションゲームなどにおいて今までのプレイ記録を抹消し、最初からやり直す行為のこと。

 このコマンド一つでゲーム内の情報はすべて最初の状態へと巻き戻り、プレイヤーは同じゲームをもう一度遊ぶことができるようになる。

 

 しかし、それは厳密には最初から始めてなどいない。

 プレイヤーは1周目を覚えているのだから。同じ舞台を渡り歩いても、同じ経験などできるはずもない。

 

 私たちプレイヤーがその記憶を覚えている限り、絶え間ない繰り返しの一幕でしかない。

 

 

 

/人◕ ‿‿ ◕人\

プレイヤーが一人だなんて限らないじゃないか

 

 

 

 

「インキュベーター……あなた覚えているの?」

「それが魔女や魔獣に関する記憶のことを指しているならその通りだね。つい3分ほど前にこの世界の僕たちは思い出したんだ」

「……」

「どうしてか、というのは察しのいい君なら分かっているんじゃないかな? 僕とさつきは協力関係にあったんだ。タネの分かっている魔法の対処くらいならどうにかなるものさ。僕だって記憶を失いたくはなかったからね」

「……」

「そもそも、君の時間遡行の魔法とさつきの魔法とでは原理が異なるからね。それを掛け合わせたら、抜け穴が生じるのは当然ことさ」

「抜け穴…」

 

 私が反応したのを見てインキュベーターは解説を始める。

 

「いいかい? さつきが一つの世界を作り上げるにはゼロからすべてを作り上げる必要がある。この街の外観や内装、外の風景や人の行動……」

 

「もちろんこれらすべてを再現するのは不可能だから、君のソウルジェムの映し出す世界をベースに世界を作り出すことにした。君自身に負荷がかからないようにしたけれど、それでも君は記憶を失ってしまっているようだったから、完全に記憶が戻るまで待つことにした」

 

「だけれど、ほむら。君の時間遡行の魔法も平行世界を生み出すという似た現象を起こしているのに記憶の混濁や矛盾は生じていない。それはなぜか…」

 

「それは、君の魔法は”コピー&ペースト”の要領で平行世界を生み出しているからさ。この手法ならば、君が少ない魔力で宇宙全体を矛盾なく複製していることにも納得だ。ゼロからすべてを構築しようとするよりよっぽど効率がいい」

 

 ほむらの魔法は時間遡行(タイムリープ)

 しかし厳密には過去に戻っているわけではなく、過去のある地点から世界を分岐させている。

 では、分岐点以前の出来事をどう処理しているのかというと、複製。コピー&ペーストの要領で複製を行っているから労力が少なく再現も容易になる。

 

 世界を構築する数式やコードがあったとして、それらをゼロから設計・構築するのは莫大な労力を必要とする。だが、既にあるものを複製するだけなら大した労力はかからない。

 

「そもそも、結界魔法は新しく世界を作れるほどの魔法じゃない。それを規格外の魔力で成立させていたのがさつきだけれど、願いを対価に得た魔法に及ぶレベルではないんだ」

「……そう」

 

 今の説明を聞いてほむらも自分なりに考えをまとめていた。

 自身の魔法は『ある地点からの分岐点を作る』ことができる。まどかがいるという発言から分かる通り、見滝原中学に転校する前まで戻ったのだと考えられる。

 

 ごちゃごちゃと難しい話をしたが、結局はいつも通りの繰り返しと同じだ。

 インキュベーターに記憶があるのは想定外だが、私のやることは変わらない。もう二度とまどかを契約させないように──

 

「──あぁそうだ。まどかのことを心配しているのなら、僕はあまり契約をするつもりではないから大丈夫だよ」

「………………どういうつもり?」

 

 ほむらは耳を疑った。

 聞き間違いじゃないかと真っ先に考えた。

 

「まどかに絡まった因果の糸はリセットされてしまったからね。今はもう並みの魔法少女と同じくらいの素質しかない。もちろんまどかにお願いされたら契約はするけれど、僕から積極的に持ち掛けようとは思っていないさ」

「……いったい何を企んでいるの?」

「疑り深いなぁ。僕が嘘をつかないことは分かっているだろうに」

「……」

「まどかと契約すれば君はまた時を繰り返すんだろう? そうやってまた円環の理が出来上がってしまうのは僕にとっても不利益だからね。それなら、他の子と契約をした方がいいと考えるのは自然なことじゃないか」

 

 確かに、キュウべえにとってはせっかく円環の理のない世界に戻ってきたのだ。

 まどかが再びそれを願ってしまったら元も子もない。ならば、そうならないように動くのは理に適っている。

 

「だけど、まどかはいつか魔法少女になる選択をするんじゃないかな?」

「……どうして?」

「ほむら。君が繰り返した時の中でまどかが魔法少女にならなかった世界は一つもないだろう? タイミングに違いはあっても、いつだってまどかは魔法少女になっていた」

「……」

「運命なんてものがあるかどうかは僕たちインキュベーターにも分かっていないけれど、まどかはそういう星の元に生まれたんじゃないかな?」

 

 まどかは、客観的に見ても引っ込み思案で優しい子だと思う。

 それなのに、これだと決めたら決して挫けない強さを持っていて、願い事を決めたあの子を止めることは結局できなかった。

 

 信じたものを貫く力。

 それが魔法少女にとって最も大切なもので、だとすればまどかはその部分において一際強い力を持っている。

 あの子は見ず知らずの魔法少女たちをも助けるために自分の魂のみならず存在そのものを差し出した。そんな究極の自己犠牲ができるのはまどかだけだ。

 

(じゃあ結局私がやってきたことは……)

 

 ……間違い、だったのかな?

 

 

 

「でも、この世界のまどかが魔法少女になる選択をするかは分からないけどね。マミたちにも強く引き止められているし…」

「……ちょっと待ちなさい。巴マミがもうまどかに会っているの?」

「そうだよ。ほむら、君が使った魔法は時間遡行の魔法だけじゃないだろう? 君が魔力を込めたあの魔法の杖には、円環の理が誕生する以前に分岐点を作る以外にも、様々な効果が盛り込まれていた」

「……」

「その影響で少しばかり歴史に影響が出ているんだ。まどかの行った改変ほどではないけどね。たとえば──」

 

 

「───巴マミが既に魔法少女の末路を知っている、とか」

 

 キュウべえの言葉に続いたのはさつき。

 いつの間にか病室のドアの前に立っていたさつきは、驚くべきことを口にした。

 その一言で、記憶を引き継いでいることや、うっかり知ってしまった秘密のことなどどうでもよくなるレベルで頭が真っ白になった。

 

「巴さんが鹿目さんや美樹さんに魔法少女になるなと言っているのはそれがあるからだ。佐倉さんも今が幸せなやつはなるべきじゃないって言ってる。これには僕も賛成だ」

「どうして、巴さんはそのことを…?」

「そこにいる奴が喋ったからだよ」

 

 さつきの指さす先にはキュウべえ。

 まあ、分かっていたことだが。

 

「こいつはエネルギー欲しさに巴さんにソウルジェムの秘密を暴露した。その結果、巴さんのソウルジェムは魔女を()()()

「は?」

「もちろん、もう魔女は倒して巴さんも元に戻った。今も何とか魔法少女の活動を続けている」

「ちょ、ちょっと待ちなさい! ま、魔女になったって…!?」

「あぁ、そうだよ。僕はあの魔法に歴史の改変に関わるものを混ぜた。その結果、この世界では魔女になったとしてもそこで終わりってわけじゃない」

「……」

「簡単に言えば、ソウルジェムが魔女を生んでから完全に魔女に堕ちるまで猶予時間ができたっていうことだ。魂が完全に魔女に変質する前に討伐ができれば、救い出すことも可能になる」

 

 それは、魔法少女にとって救済だろう。

 かつての繰り返しの中で、魔女になったさやかを救い出そうと杏子は魔女を元に戻そうとした。だが、それは失敗に終わった。魔女となった魔法少女を元に戻す手段などなかったから。

 

 だが、この世界ではそれが可能となる。

 時間制限があるのだとしても、救済としては十分。

 

「まぁでも別にこれは魔法少女の在り方そのものが変わったわけじゃない。人じゃなくなることもやがて魔女になることも変わってない。少し猶予ができただけだ」

「それでも、十分よ」

「それに、この仕組みは僕が何かをしているわけじゃない。キュウべえ自身が魔法少女システムに組み込んだものだ」

「えっ」

 

 インキュベーター自身がこの救済システムを組み込んだ?

 何のために?

 

 視線で説明を求めると、キュウべえはやれやれと言った様子で説明を始めた。

 

「さつきが行った歴史の改変は一度だけ、僕たちインキュベーターが魔法少女システムを開発した頃だ。希望から絶望へと相転移した感情エネルギーを取り出す仕組みを開発すると同時に、相転移により生じた爆発的なエネルギーからソウルジェムを保護する結界技術を思いついた」

 

「当初はなぜこんな技術を急に思いついたのか不思議でならなかったけど、その技術を使えば魔女を生んだ反動で砕けてしまうソウルジェムをグリーフシードにならないよう保護し、さらには一定時間内に魔女を討伐できれば魔法少女として生き返ることが判明した」

 

「僕たちとしては魔法少女を生かしながらエネルギーを回収できるから好都合だったよ。ソウルジェムを保護するのも大したエネルギーを浪費しないし、僕たちはその技術を本格的に導入することに決めた」

 

「嬉しい誤算だったのは、一度魔女を経験した魔法少女は感情が不安定になりやすくもう一度魔女になりやすいことだ。そのおかげで、同じ魔法少女から何回かエネルギーを回収できることもある」

 

「さつきの介入があったと理解したのはたった今だけれど、この部分に手を入れたのはお手柄だよ。おかげで、僕たちは1人の魔法少女から1度しかエネルギーを回収できないという問題を解決でき、君たちは魔女になった魔法少女を救い出せる希望を見出すことができた」

 

「これは、君たちの言葉でWin-Winというものじゃないかい?」

 

「とんだゲス野郎ね」

「まったくだ」

 

 キュウべえの言い分は最悪だが、しかし結果として以前の魔法少女システムよりは少しだけマシになっているというのも事実。

 根本的な問題は何も解決していないけれど、それでも、十分に希望を持てるようになった。

 

 聞けば、キュウべえがこの仕組みを取り入れるかは賭けだったという。

 改変したのはキュウべえの行動ではなく知識と技術。魔法少女を保護する技術を思いついたところで、キュウべえたちがそれを導入するとは限らないし、無視される可能性もあった。何の成果も得られない可能性も高かったのだと。

 

 

「あぁそうだ。鹿目まどかのことだが…」

「……なに?」

「あいつ、どうにも夢の中で他の世界を覗きやすい体質みたいだ。この世界で初めて会ったときもどこかで会ったことがあるか聞かれた」

「……」

「その時はワケが分からなかったから勘違いってことにしたし、あいつ自身も記憶を引き継いだり取り戻したりしてるわけじゃない。けど、ほむら、お前はもっと踏み込んで聞かれる可能性がある」

「そう…」

「ただ、聞かれたところで何かあるわけじゃないけどな。あいつはもう神様でも魔法少女でもない、ただの普通の中学生だ。お前が何を言ったところで、鹿目まどかがいなくなるようなことは絶対にない。ただ…」

「…?」

「執着というか渇望というか…。あいつが、魔法少女に対してそういう感情を持っているのは事実だ。巴さんや佐倉さんからその末路を聞いてもなお、あいつはその気持ちを捨てきれていない。大した願い事もないのに、ただ魔法少女になりたいからっていう理由で魂を差し出そうとしている」

「……」

「たぶん、1人でも魔法少女になることを肯定したらあいつは契約する。それこそ、転校初日のお前に勧められたとしても、間違いなく契約を選ぶ」

「どういうつもり?」

「鹿目まどかが魔法少女になることを許容できるかどうか、自分の気持ちと向かい合った方がいい。前の世界での関係とか約束とかを抜きにして、お前自身がどう思っているか」

「……」

「お前はたぶん鹿目まどかのためなら命を投げ打つこともできる。だったら、なおさら鹿目まどかに関する想いは明確にしておいた方がいい。魔法少女は想いの強さで、奇跡さえ起こせる存在なんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 希望を願い、呪いを受け止め、戦い続ける者たちがいる。

 それが魔法少女。

 

 奇跡を掴んだ代償として、戦いの運命を課された魂。

 戦いに疲れた者から絶望して魔女となり、命尽きるその時まで絶望の因果から逃れることはできない。

 

 いつか訪れる終末の日。

 終わりなき戦いを課せられた私たちは安らかに眠ることさえ許されない。

 魔法少女として戦い、魔女として戦い、円環を巡るように私たちは希望と呪いをぶつけ続ける。

 

 それはまるで延々と続く悪夢のように。

 悪い夢はぐるぐると廻天して巡り、繰り返し続ける。

 

 悲しみと憎しみばかりを繰り返す、この救い様のない世界で、あの懐かしい笑顔と、再び巡り会うことを夢見て…。

 

 今日も私はまた繰り返す。

 もう一度、さいしょからはじめる。

 

 

 

「皆さん、マヤ暦で預言された世界の終わりをやり過ごしたからっていい気になっていませんか? いやいやまだまだこれからですよ。とある宗教の祭礼の日に合わせて日食と月食が6回起っちゃうっていう話です。怖いですねぇ、まずいですねぇ」

 

「それに、2050年までに何が起こるかといえば……はい! 中沢くん!」

 

「えっ! えっと……何のことだか」

 

「いけませんねぇ。あちらの国では、約41%の人があと40年で神の子が再臨すると信じているそうです。黙示録のラッパがなっちゃうかもなんです」

 

 見滝原中学。

 今まで何度も経験した転校の日。

 そして、私とまどかが初めて出会った場所。

 

 いつだって、私の始まりはここだった。

 繰り返すことで変わってしまうものはあったけれど、これはずっと変わらない。

 

「まぁでもね、先生……世界が滅んじゃうのも良いかなぁって思うんです。男女関係とか恋愛とかもうたくさんですし、このまま四捨五入して40歳とか言われるくらいなら、もういっそ何もかもリセットして最初からやり直した方が……」

 

「あの……ちょっと、先生?」

 

「あぁそうそう! 今日は皆さんに転校生を紹介します」

 

「そっちが後回しかよ!」

 

「じゃあ暁美さん。いらっしゃい」

 

 カツン、カツン、カツン。

 靴音を鳴らしながら教室へと入っていくと、ちょうどまどかと目が合った。目を見開き、驚いた表情を浮かべている。

 

(そう、やっぱり…)

 

 ずっと目線を合わせているのも不自然なので、視線を外す。すると、美樹さやかや志筑仁美の姿も確認できた。これはいつも通り。

 あの世界のように佐倉杏子の姿はない。あの子は黙って学校に通うような性格じゃないし、むしろこっちが正常だ。そして…

 

(…あぁ、本当に男の子だったのね)

 

 渡里さつき。

 彼の姿を確認することもできた。

 こうして見ると服装以外は魔法少女の姿のときと大きく変わらない。体のラインとか髪の長さとかは少し違うが、別人に見えるほどではない。

 名前も姿も偽っていないのによく気づかなかったものだと今更ながら思うが、学校では一切の接点がなく、私自身は何度も繰り返したにも関わらず名前さえ覚えていなかった。

 それに、正体不明で秘密主義的なあの魔法少女がまさかクラスメイトの男子だなんていったい誰が予想できるものか。気づかなかった私が特別鈍感なわけではないはず。

 

「暁美ほむらです。よろしくお願いします」

 

 そうして私は、これからの世界に対して挨拶をするのだった。




【リセット世界】
 ベースとしては魔女がいた世界と同じだが、タイムリープの際にさつきが一部改変を組み込んだことで魔法少女システムに改訂され、穢れて黒く染まったソウルジェムが魔女を生み、ソウルジェムがグリーフシードに代わるまでに猶予時間ができ、時間内に魔女を倒せば元に戻すことができるようになった。ただ、時間が経ちすぎると普通に元に戻せなくなる。
 ただ、本質としては元のシステムと何ら変わっていないので、魔法少女が人間じゃないのも、一度契約したら元に戻れないのも、いずれ戦いの中で死んでいく運命にあるのも変わらない。



『考察好きの皆様のために』
 展開予想のコメントをしたいけどガイドライン違反になるから駄目だ、というお悩みを抱えている人のために考察の魔女の憩いの場という考察スペースを作りました。
 作者自身は展開予想合戦や作品への考察も含めてその作品の面白さだと思っているので、感想欄ではできないことをやってもらえればと思います。
 もし、このやり方が何らかのガイドラインで禁止されていた場合は、予告なく取り潰しする可能性があるとだけ留意しておいてください。


次話「交わした約束」(現在執筆中)

※現在書けてるのはここまでです
リアルが忙しいので続きは少しお待ちを(あと2話で完結)
結末は決めてるので、映画前までに書き終えられるよう頑張ろうと思います。
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