キュウべえ「ボクと契約してTS魔法少女になってよ」   作:フェレーデ

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不思議な転校生

 どうも、TS魔法少女の渡里さつきです。

 

 突然だが、みんなは銃を向けられたらどう思うだろうか?

 日本で生まれて日本で育った学生が、人気のない路地裏で無表情な女の子から銃を向けられたら、どんな感情を抱くだろうか。

 

 それは恐怖。

 魔法使いになって日々魔女と戦っているとはいえ、銃を向けられたら恐怖の感情が沸く。魔法少女なら死ぬことはないかもしれないとか、魔法で防げば大丈夫とか、そんな考えよりも先に怖いという気持ちが溢れてくる。

 

 そんな俺が取ったのは逃げの一手。

 とりあえず遠くへ。テレポートで人通りの少ない道の方へと移動し、そのまま魔法少女の身体能力をフル活用して走った。オリンピック記録を易々と塗り替えるほどの速さだ。テレポートで距離も取ったし、そう簡単に追いつかれるわけは……

 

「待ちなさい」

「っ…」

 

 しかし、回り込まれてしまった。

 瞬きの間に、そいつは俺の前に立っていた。

 コイツは魔王か? 野生の魔王なのか? 何でこんなところでエンカウントするんだという気持ちでいっぱいになる。

 

「いきなり銃を向けたことは謝るわ。ちょっとだけ話が──」

「結構です!」

「えっ」

 

 テレポートは俺の知っている場所なら移動できる。

 視界に映っている場所、記憶にある場所。遠ければ遠いほど制御が難しいが、自分の部屋には何度も移動したことがあるため、どこからでも戻ることが可能だ。

 RPGの拠点に戻るアイテムを常に使えるという感じだ。無事にテレポート(not デスルーラ)が成功したことを確認し、へたり込むようにソファに深く座り込む。そして一言。

 

「何あれこわぁ」

 

 

 

 

 

 その後、俺はキュウべえを呼びつけた。

 アイツはどこにいるのか分からないような奴だが、呼べば出てくる。案の定、名前を呼んだらすぐにその姿を現した。

 

「どうしたんだいさつき」

「どうしたもこうしたもないだろ。キュウべえお前とんでもない奴に俺のこと話したな」

「何のことだい?」

「長い黒髪の魔法少女にだよ。俺みたいに瞬間移動しながら銃を持って襲い掛かってきた」

「ああ、彼女のことかい?」

 

 やはり心当たりがあるようだった。

 しかし、返ってきた言葉は予想を大きく上回るものだった。

 

「彼女には僕も少し困っているんだ。記憶にない魔法少女がいると思って近づいたら、君のことを知らないかと言って脅してきたんだ。強力な結界を扱える銀髪の魔法少女はいないかってね」

「え?」

「もちろん僕は君のことを話さなかったよ。当然だよね、君とはそういう約束だったから」

 

 ……ちょっと待て。情報が多い。一つ一つ順番に処理したいから、少しだけ時間が欲しい。

 

 キュウべえに脅しをかけた?

 しかも、キュウべえはその魔法少女と契約した記憶がない?

 

 確かに、よくよく考えてみれば、あの魔法少女は俺のことを探していたとは言っていたが、俺の名前を一言も発してはいなかった。

 だとしたら、俺の情報が漏れたわけではない?

 

 だけど、現にあいつは俺の情報を探るためにキュウべえに脅しをかけて……

 

「というか、キュウべえは大丈夫だったのか?」

「脅されたことかい? もちろん大丈夫じゃなかったよ。その個体は銃で撃たれて死んでしまったし」

「……えっ、お前って複数いるの?」

 

 キュウべえ曰く、記憶をリアルタイムで共有できるクローンみたいなものなのだと。

 だから1体死んだところで代わりはいくらでもあるし、問題はないのだと。本人的には勿体ないのであまり殺さないで欲しいくらいしか思っていないようだ。コイツ怖いとか思わないのかよ。

 

「というか、さっき言ってたあの黒髪の魔法少女と契約した記憶がないって言うのは本当なのか?」

「本当だよ。彼女がどうやって魔法少女になったのか。僕は非常に興味深い」

 

 魔法少女になるにはキュウべえと契約するしかない。

 それなのに、あの黒髪の魔法少女はキュウべえを介さずに契約している?

 

「うーん、考えれば考えるほど分からんな。キュウべえは何か心当たりとかないのか?」

「ないね。ただ、彼女の存在よりももっと不思議に思っていることもある」

「不思議に思ってること?」

「魔法少女の才能を持った子が現れたんだ。君以上の逸材だよ」

「そりゃよかったな。で、どうしてそれが不思議なんだ?」

「突然才能が開花したからだよ。前々から魔法少女になる素質はあると思っていたけれど、あれほど強力な因果を持ち得てはいなかった」

 

 魔法少女としての力は背負い込んだ因果の大きさによって左右されるというのは以前聞いた話。

 その話を聞いて、俺が魔法少女としての力が強かったのにもある程度の納得がいった。キュウべえに確認を取っていないから確定ではないが、「異世界から来た」というのは大きな因果に成り得るのではないか。

 

 ただの予想でしかないが、そうだとしか思えなかった。

 昔から頭の回転が良い事だけが取り柄なのだ。こういう勘は優れていると自負している。

 

「突然因果が増えることって今まであったのか?」

「前例はないね。ただ、突然強い因果が生まれたという点では、さつきと同じようなものじゃないかとも思っている」

 

 俺がキュウべえに黙っているのは、異世界から迷い込んだということ。

 キュウべえはそれを疑っているのだろう。

 

「もしかして、話してくれるのかい?」

「話さないよ。たぶん一生話すことはないって言っただろ?」

「そうだったね」

「でも、そいつが俺と同じかどうかは気になる。名前を聞いてもいいか?」

 

「鹿目まどか。きみの同級生だよ」

 

 

 

 

 

 そんなことを話した翌日。

 鹿目まどかのことが気になるのは当然のことだった。

 彼女の友人である美樹さやかと志筑仁美と共に教室に入ってくるのを目で追って、席に座り荷物の整理をする彼女を見て、ホームルームが始まるまで友達と談笑する彼女を観察して……

 

「……なるほど」

 

 そして、キュウべえの言っていたことを理解した。

 確かに彼女は凄まじいまでの魔法少女の才を持っている。美樹さやかも才能がある方だが、鹿目まどかはそれ以上。凄すぎて、しばらく観察しないと感じ取れなかったほどだ。

 

 ちなみに、この才能が分かるというのはあくまで直感的なものだ。

 その人の顔立ちとか雰囲気を見て「あっ、この人頭がよさそう」「この人運動が得意そう」とか思うのと同じだ。見ればどのくらいの才能があるのかがなんとなく分かる。

 

 だから、キュウべえが言っていた通り不可解だ。

 俺は去年の秋ごろにこの学校に編入して、鹿目まどかとは同じクラスだったが、あれほどの才能を感じ取ることはなかった。キュウべえの言う通り、本当に突然魔法少女の才能が開花したのだと思う。

 

 だが、彼女がそんな因果を持つことがあるのかというのもまた疑問だ。

 俺と同じく異世界から来たという線は完全にない。俺が今まで見てきた限り、鹿目まどかは普通の女の子だったし、今日の様子を見てもそれは変わらないように思う。

 だとしたら何故それまでの因果を彼女が背負っているのか。なぜ突然それほどの因果を彼女が背負うことになってしまったのか。本当に謎である。

 

 

「───はい、あとそれから、今日は皆さんに転校生を紹介します」

 

 そうして考え事をしていると早乙女先生がそんなことを言い始めた。

 彼氏とは考えが合わないだろうなと予測はしていたので、話半分……いや、話1割くらいで聞いていた彼氏の愚痴は予想通りだったが、転校生がいるのは予想外だ。

 

 だが、その転校生の姿を見て、俺は目を見開いた。

 

「は?」

 

 無自覚に小さく声まで漏れた。

 それくらい、予想外なことが起きたのだ。

 だって、件の転校生は、昨日俺に喧嘩を吹っかけてきた黒髪のガンスリンガーだったのだから。

 

「暁美ほむらです。よろしくお願いします」

 

 そいつは、緊張した様子を見せることもなく自己紹介をするのだった。

 

 

 

 

 

 さて、今日一日は鹿目まどかの因果について考えよう。そう思っていた俺の日常は、暁美ほむらの登場により儚く散った。

 

 もちろん彼女とて学校で銃を乱射するような野蛮な人間ではない。

 素っ気ない態度は冷たく映ることもあるが、それが彼女の気質だと考えれば十分常識の範疇。むしろ、ミステリアスな雰囲気を醸し出すのに一役買っていると言えなくもない。

 

 なので、彼女のことをしばらく観察した俺の持論としては、悪い奴ではないのではないかといった印象。それが拭い切れていないのは、昨日襲撃されたことと、キュウべえの話を聞いたからだ。

 

 魔法少女とはいえ、日本人が銃を持ち出すのはどうなのかと思う気持ちもあるが、暁美ほむらは魔法少女としての才能はかなり低い。それはつまり魔力量も多くはないということで、その不利を少しでも埋め合わせるために銃を使っているのだと推察できる。

 何処で手に入れたのかは知らないが、彼女なりに考えて行動した結果なのだと思う。

 

 魔女に対して現代兵器が有効かと聞かれれば、まあ効くといった程度。魔法の補助として使うのなら、悪くはないんじゃないかといったところだ。

 

 なので、総じてあの転校生暁美ほむらはトリガーハッピーなサイコ野郎ではないということ。

 無表情で銃を構える姿には戦慄すら覚えたが、こうして中学2年生として学校で体育しているのを見ると、案外普通の少女なのではないかとも思えてくる。

 

「凄いなあの転校生。県中記録出しやがったぞ」

「あの細い体つきでよくあんなに動けるな」

「……」

 

 あいつ、魔法少女の力を使ってるな?

 イカサマしてんじゃねえ! 使うとしてもバレないように加減しろ! 俺みたいに!

 

 

 

 

 その日の放課後。

 魔女を狩るか、暁美ほむらの目的について考えるか、鹿目まどかの因果について考えるか。3つを天秤にかけた結果、今現在では最も情報の少ない3つ目のことについて考えることにした。

 

 情報を集めるには実際に話すのが一番……ではあるのだが、今まで何の接点もなかったただのクラスメイトが話しかけてきたら、しかもそれが異性ともなれば動揺は必至だろう。

 

 なので、接触は後回し。

 ひとまずは観察に努めるのがいいだろう。大丈夫、バレるようなへまはしない。鹿目まどかの魔力はもう覚えた。何より彼女は背負い込んだ因果が大きいから、なんとなく位置を察知することもできる。

 魔力探知には自信があるのだ。でなければ、遠方まで足を運んで、そこを縄張りとしている魔法少女に見つからないように魔女を狩るなんてことはできない。

 

 同級生の女子生徒2人を、当人たちに気付かれないように追いかける。

 世間ではそれをストーキングというのだが、そのことにさつきは終ぞ気付くことはない。彼の中では謎を追い求める知的好奇心の方が勝っていた。

 

 だが、この日ばかりはストーカー紛いのことをしていて正解だった。

 

 暁美ほむらと鹿目まどかが接触した。

 しかも、暁美ほむらが銃を片手にキュウべえを追いかけまわすのを目撃するという形で。鹿目まどかが突然CDショップから走って出ていったから何事かと思ったら、まさかこんなことになるとは。

 

 俺は人目の付かない場所で魔法少女へと変身し、瞬間移動で彼女たちの間に現れた。

 

「そこまでだ」

「…っ」

 

 突然現れた俺に両者とも息を呑んだのが分かった。

 鹿目まどかは何が起こっているのか分からず目を白黒させているのが丸分かりで、暁美ほむらは無表情ながらも動揺しているのが雰囲気で分かる。先ほどまで追い回されていたキュウべえはボロボロだが、あいつは身体が複数あると言っていた。命に別状はないだろう。

 俺は鹿目まどかを守るように立って、背を向けたまま言う。

 

「鹿目まどか。ここは僕が引き受けるから、向こうにいる美樹さやかを連れてここから離れるといい」

「えっ」

 

 彼女はまだ状況を飲み込めていないようだが、逃げた方がいいというのは理解できたのだろう。軋む鉄製のドアを開けて2人はここから出ていった。

 意外なことはそれを暁美ほむらが黙って見送ったことだろうか。何かアクションを起こせばすぐに動けるように構えていたが、そんな素振りは見られなかった。

 

「見逃してよかったのか?」

「よくないわ。でも、あなたがそれを許してはくれないでしょう」

 

 警戒されている、ということか。

 

「キュウべえから聞いている。僕のことを聞いて回っていると」

「ええ。協力をお願いしようと思って探していたの」

「協力? なんの?」

「鹿目まどかを魔法少女にしないこと」

「……なぜ鹿目まどかだけを? 美樹さやかにも魔法少女の素質はある」

「もちろん彼女にも魔法少女にはなって欲しくないわ。ただ……」

 

 ここで、暁美ほむらは言い淀んだ。

 言いにくい事情があったから? もちろん、それもあったかもしれない。ただ、もうひとつ大きな理由があった。

 

 魔女の結界だ。

 世界は塗り替わり、ファンシーさと禍々しさの入り混じった世界が形成されていく。

 しかも、その発生源は軋む鉄製の扉の向こう。鹿目まどかと美樹さやかが逃げて行った先であった。

 

「……間が悪いな」

「えぇ、本当に」

 

 ぽつりと呟いた言葉に暁美ほむらが反応する。

 無表情の奥に潜む感情が何かは、俺は察することもできない。

 

「一つだけ聞きたい。僕は今から2人を助けに行く。暁美ほむら、君は敵か? それとも味方か?」

「味方よ」

 

 迷うことなく返したその言葉に俺は安堵する。

 思考がクレイジーな部分もあるが、悪人というわけではないようだと。




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来年の映画が公開されるまでまどマギ熱を冷まさないよう、執筆を頑張りたいです。
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