キュウべえ「ボクと契約してTS魔法少女になってよ」   作:フェレーデ

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未来を知る少女

 暁美ほむらと一時的な共同戦線を結んで現場に急行すると、そこには既に別の魔法少女が駆け付けていたところだった。

 

 白と黄色の衣装。

 黄色い髪に茶色いベレー帽。

 ツインテールのように垂らされた黄色い縦ロールの髪。

 

「巴マミ…」

 

 見滝原市を守る魔法少女。

 魔法少女として彼女に出会ったのは実に半年ぶりだ。

 彼女も俺のことを覚えていたようで、俺の姿を見て僅かに目を見開いていた。しかし、それも一瞬。すぐに、魔法少女巴マミとしての顔に戻る。

 

「手助けは不要だったな」

「そうね、魔女は逃げたわ。仕留めたいならすぐに追いかけなさい」

 

 以前にも聞いた魔法少女同士の縄張り。

 限りあるグリーフシードを奪い合い、殺し合いにならないようにするための棲み分け。

 ここは見滝原市なのだから、他人者は出て行けということだろう。すべてを口にはしていないが、暗にそういうことを示しているのだと思う。

 

 あの、佐倉杏子という赤髪の魔法少女も見滝原を出ていったのだろうか?

 他の地域を縄張りにしている魔法少女を何人か見たが、タッグを組んでいる魔法少女に出会ったことは一度もなかった。

 

 突き放すような口調は、中学生としての巴マミを見ている限りでは似合わない。

 魔法少女同士が戦わなくていいように、わざと言っていると考えるのが妥当である。ここは巴マミの好意にあやかるのがいいだろう。俺としても魔法少女同士で争うようなことをしたくはない。

 そんなことを考えていると、隣にいた暁美ほむらがずいと一歩前に出て

 

「私が用があるのは……」

「飲み込みが悪いのね、見逃してあげるって言ってるの」

 

 ……この子、縄張りのこと知らないのかな?

 キュウべえも魔法少女にした覚えがないと言っていたし、説明を聞きそびれたのかもしれない。いや、あいつはそもそも説明しないか。

 

 だが、何にしても暁美ほむらをここから引き離すのが最優先だ。

 鹿目まどかと美樹さやかは巴マミの後ろに隠れて怯えている。十中八九、暁美ほむらの奇行を目撃したことが原因だ。キュウべえは白い猫のような狸のような愛くるしい外見をしているから、それを銃を片手に追い回す暁美ほむらは恐怖の対象だろう。

 

 見た目は大事だ。

 キュウべえがゴキブリのような姿をしていれば、鹿目まどかも美樹さやかも『いいぞ、もっとやれ!』と暁美ほむらにエールを送っただろう。

 あるいは、キュウべえの身体が複数あることを知っていれば……いや、心根の優しい彼女たちにはそれも無理か。

 

 どちらにせよ、あの2人が暁美ほむらと離れたいと思っているのはまず間違いない。

 俺としても彼女たちを怖がらせたくはない。

 

「ほら、僕たちはお邪魔のようだ。ここは彼女に任せて一時撤退するぞ」

 

 トンッ、と肩を叩くと、彼女は後ろ髪を引かれるような表情をしながらも黙ってついてきてくれた。

 

 

 

 

 

 巴マミの自宅にて。

 魔力でキュウべえの傷を治療した後、鹿目まどかと美樹さやかの2人は魔法少女というものについて話を聞いたのだった。

 

 ――願いから産まれるのが魔法少女だとすれば、魔女は呪いから産まれた存在なんだ

 

 ――理由のはっきりしない自殺や殺人事件は、かなりの確率で魔女の呪いが原因なのよ

 

 ――キュゥべえに選ばれたあなたたちには、どんな願いでも叶えられるチャンスがある

 

 まどかとさやかの2人は実際に魔法少女を目にしたこともあり、疑うこともなくそれを受け入れた。

 一つだけ願い事を叶えてもらう代わりに、魔女と戦う使命を課される。それが、魔法少女というものなのだと。

 

「ボクと契約して魔法少女になって欲しいんだ」

 

 可愛らしい仕草でそう語りかけてくるキュウべえ。

 既に、キュウべえが視えるのは魔法少女の素質がある証だということは聞いている。

 もちろん、鹿目まどかにも美樹さやかにも、自分が役に立つのならやりたいという想いはある。だが、使い魔とはいえ魔女に襲われたばかりの2人は、二つ返事で了承することなんてできなかった。

 

 命を懸けて魔女と戦う。

 その決心を固めるほどの強い願いがなかったというのも大きいだろう。

 人並か、あるいはそれ以上に幸福な環境にいる2人は、命を賭けて危険に飛び込むほどの強い願いを有していなかった。

 

 

「わたし、あの人にお礼言えなかったなぁ…」

 

 そんな折に、まどかは思い出したように言った。

 その言葉に真っ先に反応したのはキュウべえだった。

 

「それはもしかしてさつきのことかい?」

「さつき……そういえば、そんな名前だったわね」

「そういえば?」

「会ったのは半年前に1回きりだったから」

 

 マミの脳裏に浮かぶのは約半年前のこと。

 あの頃は、一人ぼっちじゃなかった。寂しい気持ちを別の気持ちで満たすことができていた。今振り返ってみても、あの時が最も魔法少女として充実した日々だった。懐かしくも輝かしい日々が頭に浮かび……そして、それをすぐに振り払った。

 

「わたし、さつきさんに助けられたの。『ここは僕が引き受ける』って言ってくれて、すごく心強かった」

 

 まどかの言葉にさやかもうんうんと頷く。

 その仕草があまりにも大振りなのが、彼女のユーモアだろう。

 

「さつきがあの場にいるのは予想外だったよ。いつもなら、もっと別の場所で魔女と戦っているのに」

「そうなの?」

「見滝原にはマミがいるからね。魔法少女同士で争うのは御免なんだってさ」

「……そう」

 

 キュウべえの言葉に反応したのはさやかだった。

 

「協力ってできないのかな? あの転校生はともかく、そのさつきっていう人とは協力できるんじゃないの? あたしたちのことも助けてくれたし」

「無理だろうね。さつきは魔法少女と仲良くする気はないと言っていた」

「何でさ」

「その質問には答えかねるよ美樹さやか。さつきに言わないように口止めされているからね」

「口止め…?」

 

 穏やかじゃない響きにさやかは眉をひそめた。

 その疑問に答えるようにマミは淡々とした口調で語る。

 

「魔法少女同士は基本的に相容れないの。グリーフシードの奪い合いになってしまうから」

「グリーフシード?」

 

 まどかとさやかの2人は仲良く首を傾げる。

 その仕草がおかしくて、マミは小さく笑い、ある提案を持ち掛ける。

 

「口で説明するより実際に見た方がいいかもね。2人が良かったらなんだけど、私の魔女退治の見学でもしてみない?」

 

 

 

 

 

 時は少し遡り。

 俺こと渡里さつきと暁美ほむらは座って話をすることにした。

 意外なことに場所はオシャレなカフェ、男子とは縁のない上品な場所だ。案の定、客は女の子ばかりで、男がいるにしてもそれは彼女連れしか見当たらなかった。

 彼女なしの俺は場違いな場所にいることにこの上ない疎外感を感じてるが、今は魔法少女の姿のままなので場所相応の見た目をしている……はず!

 

「あなた、変身を解かないの?」

「解かないさ。解いたら命にかかわるからね」

 

 この世界の魔法少女の衣装は以前テレビで見たような華々しいフリルやレースがたくさん装飾されたものではなく、シンプルなデザインだ。

 変身したままの格好でも『あの子変わったファッションしてるなぁ』くらいで済む。TS魔法少女としてはそこは救いだった。

 

「……そう警戒しなくとも、私はあなたと敵対するつもりはないわ」

「それとこれとは話が別だ。暁美ほむら、君が誰彼構わず攻撃するような人間じゃないのは分かっているが、それは僕が変身を解く理由にはならない」

 

 そう言うと、暁美ほむらは少し俯く。

 表情は見えないが、大きく変わっているようには見えない。

 まさか落ち込んでいる? いや……しかし、仕方がないことなのだ。変身を解いてしまったら、その瞬間に俺は羞恥心で悶え死ぬ。それだけは耐えられない。

 

「……本題に入ろう。さっき君は協力をしたいと言っていたな。協力内容は、鹿目まどかを魔法少女にしないこと」

「ええ。でも、それはもう半分失敗したわ。アイツがまどかに会ってしまったから」

「キュウべえのことか」

 

 沈黙、つまりは肯定。

 

「どうしてあの子をそんなに魔法少女にしたくないんだ?」

「危険だからよ」

「本当にそれだけか?」

「……そうよ。あの子には死んでほしくないもの」

 

 嘘は言ってないが、本心を言っているわけでもないか。

 なるほど、キュウべえのような奴だ。当たり障りのない事実を言って本当のことをはぐらかす。本人にそう言ったら銃を向けてきそうなので言わないが、話してる印象はそんな感じ。

 

「まあ、君が鹿目まどかを大事に思っていることは分かった。キュウべえを襲っていたのも、彼女を魔法少女にしないためだろう。そこは納得できる。だが…」

 

 ここで、俺は語気を強める。

 

「それだと、わざわざ僕のことを嗅ぎまわっていた理由に説明がつかない。何かまだ話していないことがあるだろう」

「そうね。実はあなたにはもう1つ聞きたいことがある」

「聞きたいこと?」

「ワルプルギスの夜。それを倒すことはできる?」

「……どうだかな。前にキュウべえに聞いたときは勝てないって言われたけど、経験を積んだ今なら相打ちくらいにはできる……かも?」

 

 以前、キュウべえに最強の魔女を尋ねたことがある。

 それが、ワルプルギスの魔女。歩く災害、現存する世界最強の魔女だ。

 

 そんなことを聞いたのも、俺が異世界チート転生みたいな目に遭ってるから、もしや世界最強なのではと思ったことがきっかけ。しかし、現実はそうではなく、キュウべえから見てもワルプルギスの魔女の方が強いといったものだった。

 

──人間というのは基本的に、希望を抱く心より絶望の感情の方が強いからね

 

 キュウべえは確かにそう言っていた。

 希望から生まれた存在が魔法少女で、呪いから生まれたのが魔女。

 世界に希望を与える存在よりも、世界を呪う力の方が強いというだけの話。そうでなければ、世界からとっくに魔女はいなくなっている。

 

(あれ? 何でキュウべえは絶望の強さがそのまま魔女の強さになるみたいな言い方を…?)

 

 引っかかりを覚えるが、それを棄てる。

 今はワルプルギスについての話だ。対面に座る暁美ほむらを差し置いて、思考に没頭することはできない。

 

「……そうなのね。あなたなら倒せるかもしれないと思ったのだけど」

「いや、実際には分からないが正解かな。ワルプルギスの夜に出会ったことはないし、どれくらい強いのかも想像できない。でも、どうして急にそんなことを聞いてきたんだ?」

「あと1か月もしないうちにワルプルギスの夜が来るわ。この見滝原市に」

「根拠は?」

「統計よ」

「統計? あんな神出鬼没な災害の統計なんてどうやって取ったんだ。あれと相対して生き残った魔法少女はいないって話だぞ」

「それは…」

 

 一瞬の逡巡。

 そして、意を決したように暁美ほむらは言った。

 

「私が、今まで何度も戦ってきたからよ」

「何度も…?」

 

 聞き返すと、彼女は頷いた。

 それはつまり、この見滝原市にワルプルギスの夜がやってくると確信めいて言っていたことと合わせると、彼女は未来を知っているということ。

 そして、何度も戦ってきたという言葉が示すのは…。

 

「そうか、なるほど。ワルプルギスの夜を倒すために、時を遡ったのか」

 

 沈黙、つまりは肯定。

 あるいは、否定をするほど間違ってはいないということか。それを裏付けるように、暁美ほむらは俺の言葉を否定することなく、次の言葉を紡ぐ。

 

「あなたのことを調べていたのは、時を遡る前にあなたのことを知ったから。協力を申し出たのは、私一人の力ではワルプルギスの夜を倒せないと薄々感じていたからよ」

 

 ……なるほど。

 暁美ほむらの言っていることがようやく理解できた。

 彼女が時を遡る前に俺とどういう出会い方をしたのかは知らないが、キュウべえに聞きまわっていたことを考えると、そこまで深い親交はなかったはず。

 

 話の筋も通っている。

 彼女の話を全面的に信じるならば、ワルプルギスの夜は何としてでも打ち倒さなければならない。魔法少女の協力者が必要なのも納得できる。

 俺としても利害は一致している。ここに住んでいる人をみすみす死なせるような真似をしたくはないし、せっかく魔法少女になったのなら守りたいとも思う。

 

「いいよ。ワルプルギスの夜の件については協力する」

「感謝するわ」

「でも、君のことを全面的に信頼できるかというと話は別だ。僕から見た君は、銃を片手にキュウべえを撃ち殺す危険な魔法少女。それを抜きにしても、時を遡るというのはあまりに発想が突飛していて、たとえ話の筋が通っていたとしてもすべてを信じることはできない」

「……構わないわ。ワルプルギスの夜以外の魔女は、私がどうにかするから」

 

 無表情でそう言う暁美ほむら。

 気のせいだろうか、彼女が一瞬だけ寂しそうに見えたのは。




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