キュウべえ「ボクと契約してTS魔法少女になってよ」 作:フェレーデ
ご購読いただいてる方、評価していただいた方、感想をくれた方々ありがとうございます。
見切り発車で進んでいる本作ですが、完結まで亀更新で頑張りたいと思いますので、応援のほどよろしくお願いします。
今回はほむら視点です。
一度目の世界、まどかがワルプルギスの夜に挑み、雨の中に倒れる彼女を泣き腫らして抱きしめ、彼女との出会いをやり直したいと願い、過去へと戻った。
二度目の世界、まどかと同じ魔法少女になった私は仲間たちと一緒にワルプルギスの夜に挑み、その途中、まどかの黒ずんだソウルジェムから魔女が生まれるのを見た。
三度目の世界、魔法少女が魔女を生むということを知らせたが、みんながキュウべえに騙されているということを信じることはなく、美樹さやかが魔女化。なんとか打ち倒すことはできたが、魔法少女が魔女を生むということを正しく認識した巴マミが錯乱し、佐倉杏子のソウルジェムを砕き仲間割れ。私もマスケット銃を向けられソウルジェムが砕かれそうになったところで、まどかが巴マミのソウルジェムを砕き事態は沈静化。
『もういやだ……いやだよぉ………!!』
力なく泣き腫らす彼女の姿が今でも忘れられない。
親友の魔女化。魔法少女の宿命を知って自身の末路を知り、憧れを打ち砕かれ、その上錯乱した先輩の介錯。優しいまどかの心を壊すには十分だった。
『大丈夫だよ。一緒に頑張ろう! 一緒にワルプルギスの夜を倒そう!』
『……う、ん………!!』
ぽろぽろと涙を零しながらも、まどかはその言葉に頷いた。
あれだけのことがあってもなお、絶望でソウルジェムを黒く染めることはなく、上を向いた。
そして、その日からだった。
まどかが魔女退治にのめり込むようになったのは。
『まだ……まだやれる!!』
『鹿目さん落ち着いて! もうそんなにボロボロなのに!』
『でも、やらなきゃいけないんだよ。私は、魔法少女だから!』
人が変わったようだった。
もちろん、優しさも強さもそのまま。誰かが悲しむのを許せないというのは変わらない。だけど、今のまどかには見ているだけで不安を感じるような危うさがあった。
だけど、私にはそれを言葉にすることはできなくて。
まどかを止めるなんてことはできなくて。
だけれど、そんな不安とは裏腹にグリーフシードは着々と集まっていき、潤沢な資源を以て、私たちは2人でワルプルギスの夜に挑んだ。
結果は敗北。
死力を尽くしたうえで負けた。
街は一夜にして瓦礫の山へと変わり、しとしとと雨の降る壊滅した見滝原の街で私たちは2人隣り合わせで横たわっていた。
『私たちももうおしまいだね』
『グリーフシードは?』
首を横に振るまどか。
『……そう』
不思議と絶望はしなかった。
むしろ、一種の清々しさすら私は覚えていた。ここまでやって勝てないのなら仕方がない。そう思うほどに。
『ねぇ、私たちこのまま2人で怪物になって、こんな世界何もかもめちゃくちゃにしちゃおうか。やなことも、悲しいことも、全部なかったことにしちゃえるくらい』
──壊して、壊して、壊しまくってさ
──それもいいと思わない?
自暴自棄と言うには、頭は冷静だった。
きっともう、この時の私は生きたいと思っていなかった。
むしろ、まどかと一緒に死ねるなら、まどかと一緒に魔女になるのなら、それはそれでいいんじゃないかと本気で思っていた。
終わりにしたかった。
でも、まどかはそれを望まない。
グリーフシード。まどかが一つ隠し持っていたそれは、黒ずんだソウルジェムを綺麗な紫色へと戻したのだった。
『わたしにはできなくて、ほむらちゃんにできることお願いしたいから』
『ほむらちゃん、過去に戻れるんだよね? こんな終わり方にならないように、歴史を変えられるって言ってたよね?』
『キュウべえに騙される前のバカな私を助けてあげてくれないかな?』
──約束するわ。絶対にあなたを救って見せる。
──何度繰り返すことになっても必ずあなたを守って見せる!
終わりにしたいという気持ちは消え失せていた。
これは誓いだ。まどかの願いを叶えるまで、私は死ねない! 死ぬことなんて許されない!
『──良かった…』
安堵の息を零すまどか。
しかし、次の瞬間には彼女は苦悶の声を上げる。
黒ずんだ桃色のソウルジェムは黒く明滅し、命の終わりが近いことを示していた。
──もうひとつお願いしてもいいかな
──わたし、魔女にはなりたくない。やなことも、悲しいこともあったけど、守りたいものもこの世界にはたくさんあったから
『まどか!』
──ほむらちゃん、やっと名前で呼んでくれたね
今まで彼女のことを鹿目さんと呼んでいた。
なんだか恥ずかしくて、名前でなんて呼べなかった。
だけれど、この切羽詰まった場面で口から出たのは鹿目さんという呼び名ではなく、まどか。
心の奥底ではずっと呼びたいと思っていた言葉をようやく紡ぐことができて、そのことにまどか本人もはにかむような笑みを浮かべて……。
そんな彼女のソウルジェムに私は銃を向け
『あああぁぁあああああ”あ”あ”あ”あ”』
引き金を引いた。
『わたし鹿目まどか。まどかって呼んで』
『え、そんな…』
『いいって! だから、わたしもほむらちゃんって呼んでもいいかな?』
『私、その……あんまり名前で呼ばれたことってなくて。すごく変な名前だし…』
『えー、そんなことないよ。なんかさ、燃え上がれ~って感じでカッコいいと思うな』
『名前負け…してます』
『そんなのもったいないよ。せっかく素敵な名前なんだから、ほむらちゃんもカッコよくなっちゃえばいいんだよ』
そう、私は暁美ほむら。
まどかのために魔法少女になった者。
私の時間も、祈りも、この命も、すべてはまどかのため。
それが報われる日が来るまで、私は命の灯を絶やすことは許されない。
眼鏡を取り魔力で視力を回復させる。
ツインテールにしていた髪をほどいて垂らす。
だれも未来を信じない。
だれも未来を受け止められない。
だったら、私はもう誰にも頼らない。
私はもう、今までの私じゃない。
まどかの友達の暁美ほむらじゃない。
もう、彼女のことを「まどか」とは呼ばない。
たとえ彼女を突き放してでも、その心に深い傷を与えることになろうとも、何が何でも彼女を守り通す。すべての魔女は私一人で片付ける。
繰り返す。
繰り返す…。
繰り返す……。
彼女の祈りが成就するその時まで。
もう、何度目かも分からない世界で。
キュウべえ──インキュベーターは魔女と化したまどかを見て言った。
彼女の力は素晴らしかったと。ワルプルギスの夜を一撃で倒すなんて驚いたと。感情がない癖に、素晴らしいとか驚いたとか、そんな妄言を吐き散らしていた。
「暁美ほむら、君は戦わないのかい?」
「その必要はないわ。私の戦場はここじゃない」
インキュベーターに背を向け時を遡る歯車を回す……そのときだった。
「キュウべえ、これはどういうことだ?」
底冷えするような声。
振り返ると、そこには私の知らない魔法少女がいた。
銀色の髪、蒼い瞳、蒼いリボンがついた白いブラウスに藍色のスカートとジャケット。そして何より、溢れんばかりの魔力量。
「どういうことというのは?」
「とぼけるな。世界を繋ぐ結界に時間を跳躍する可能性があるのを知ってて黙っていたな?」
「聞かれなかったからね」
「ちっ、ワルプルギスの夜の対抗策だと聞いて実践に移したのがバカだった。その間に、お前は鹿目まどかと契約をしたわけだ」
「その通りさ。まどかは最強の魔法少女になるだろうと予測していたけれど、あのワルプルギスの夜を一撃で倒すほどだとまでは予測できなかった」
「……その結果、お前たちは何かしらの目的を達成したわけだ」
「驚いたな。君にそのことを話した覚えはないのだけど。もしかして、暁美ほむらからそのことを聞いたのかい?」
「いいや、彼女とは話したこともない」
そして、彼女は天を見上げる。
その視線の先には、神々しい光を放つ魔女と化したまどかがいる。
「……2つ聞きたい。キュウべえ、お前の目的は人類を滅ぼすことか?」
「違うよ」
「それじゃあもう1つだ。お前の目的は達成されたのか?」
「概ねそうだね。恐らくまどかは10日程度でこの星を滅ぼすはずだ。それまでには僕らも自分の星に戻るつもりさ」
「……そうか。だったら、土産話にいいものを見せてやる」
「なんだい? それは?」
「世界を繋ぐ結界は完成した。これから鹿目まどかにそれを使って、この世界の外に放り出す」
──代償は、このソウルジェム1つだ
名前も知らない魔法少女。
その活躍により、魔女となったまどかはこの世界からいなくなった。
それから程なくしてキュウべえも姿を消し、これ以上魔法少女が生まれることは無くなった。
平和を作ったのだ。
魔法少女がまだ残っている限り魔女が生まれる可能性は残っているが、新しい魔法少女が生まれなくなるとなればそれが治まるのも時間の問題。
私のように時を遡らずとも成し遂げたその姿に、嫉妬すら超えて尊敬の念すら抱いた。
しかし、私はこれを踏みにじらなければならない。
せっかく訪れた平和をリセットして、巻き戻さなければならない。
そこに、まどかはいないから。
◆
次の世界。
いつものように病室で目覚め、ベッドから飛び起きた私はすぐに変身し、あの謎の魔法少女を探すことにした。
繰り返す時の中で見えた一筋の光明。
ワルプルギスの夜を打倒し、まどかを救う可能性。
決して逃してなるものか。
「答えなさい。強力な結界を扱える銀髪の魔法少女について」
「君がどこでその情報を知ったのかは知らないけど、ボクには答えることはできないよ。話さないようにと口止めされているからね」
迷わず引き金を引いた。
それから、同じことを3度ほど繰り返したが欲しい情報は得られず。
白い生ごみはポイと捨てて、足に頼った探索を行うことにした。
拠点としている街がどこかも分からない。
だが、今まで何度も時を巡って一度も遭遇することのなかった魔法少女だ。まず見滝原や風見野にはいない。もっと別の場所を探すのがいいはず。
だがしかし、かと言って探す当てがあるかと言われれば、ない。普通に考えれば、探し人の居場所を何の情報もなく特定するなんて、それこそ天文学的な確率だ。
だから、偶然訪れた街でそれを見つけることができたのは運が良かったのだろう。
「やっと見つけた」
何処にも行ってしまわないように肩を叩く。
すると、振り返った彼女は困惑した表情を浮かべていた。
「えっと……僕とどこかで会ったことある?」
「話したことはないわ。でも、私はあなたのことを知っている」
「もしかして、縄張り荒らされて喧嘩でもしに来た? きみも魔法少女でしょ」
「そうじゃない……けど、あなたの力には興味があるわ」
思えばこのとき私は情緒がおかしくなっていたのだと思う。
探し人を偶然見つけられたことに、終わらない夜を明かせるかもしれないという可能性に、そして、今度こそまどかを救えるかもしれないという希望に。
だけど、浮かれている自分を叱咤して。
まずは目の前の少女があの時出会った魔法少女なのかを確認しなければと考えを巡らせて、そして……。
「少し喧嘩でもしましょう?」
おかしくなった情緒は、最悪の答えを出力したのだった。
ちなみに、まどかが隠し持っていたグリーフシードは魔女化したさやかのものだとか
【3度目のループ世界について考察】
今回の話を描くにあたりまどマギ10話を見返して執筆したが、その中で特に重要に感じたのは3度目のループ世界だと感じた。
その世界では、ほむらはまどかに対して暗に一緒に死のうと言っている。
こんなことを言ったのはセリフにもある通り、やなことも悲しいこともたくさんあったからだと分かるが、描写を見ていて気になったのは、ほむらが一種の清々しさすら感じる表情を浮かべているように見えたこと。
その原因は恐らく、ほむら自身が死ぬための心構えができて、自分やまどかが死んでしまうことを受け入れることができたから。
彼女の魔法は時を止め、時を遡ること。
最初の願いの通り、鹿目まどかとの出会いをやり直すことができ、密かに願っていた『
でも、そんなほむらを見て引き留めたのはまどか本人。
使うつもりもなかったであろうグリーフシードを取り出して、『わたしを助けて欲しい』『わたしを殺して欲しい』と矛盾した2つの願いを伝えている。
これらの行動はまどかの行動としてはかなり不自然。さやかやマミの末路を直視して心がやられていたからと考えることもできるが、作中を通してまどかは、自分がどんな立ち位置であっても相手を想った言葉がかけられる少女として描かれている。
そのため、この場面のみ自分のことを優先する発言をするのは不自然に映る。
だとしたら、これらの一連のまどかの言葉は嘘と考えるのが自然。
嘘をついた理由は、ほむらが生きることを諦めている姿を見てしまったから。
自分が死ぬだけならまだしも、ほむらが死んでしまうのは許せなくて、だからほむらが生きることを放棄しないようにあんな嘘をついた。
そうすれば、大事な友達のほむらが死んでしまうことはないから。自分は死んでしまうけど、ほむらだけは生き残ることができるから。
それは、まどかが初めてついた嘘だった。
友達に生きて欲しいと願うあまり、初めて言ったワガママ。
そして、その願いはほむらの闘志に火をつけ、見た目も性格も別物の”暁美ほむら”が誕生することになる。
皮肉にも、まどかが生きて欲しいと願ったほむらは既に死んでしまい、二度と友達になることはなかったが……。
まどかとほむらの関係性は、救い合いと殺し合いをする仲。
最高に愛に溢れてるね。
【本文にちょっと補足】
>魔法少女がまだ残っている限り魔女が生まれる可能性は残っているが、新しい魔法少女が生まれなくなるとなればそれが治まるのも時間の問題。
この文について作者の勘違いがありました。
魔女が生まれる条件は魔法少女の絶望以外に、人の呪いによるものもあるということをご指摘いただいたため、後書きにて補足しておきます。
ただ、まどマギ世界の魔女は現代兵器も効くので、完全に治まりはせずとも人類が滅ぶほどのものにはならないんじゃないかというのが作者の見解。