人類が増え過ぎた人口を宇宙に移民させる様になって既に半世紀が過ぎていた。
地球の周りの巨大な人工都市は人類の第二の故郷となり、人々はそこで子を産み、育て、そして──死んでいった。
宇宙世紀0079年。
地球から最も遠い宇宙都市サイド3はジオン公国を名乗り、地球連邦政府に独立戦争を挑んで来た。
この1ヶ月余りの戦いで、ジオン公国と連邦軍は総人口の半数を死に至らしめた。
人々は、自らの行為に恐怖した。
戦争は膠着状態に入り、8ヶ月余りが過ぎようとしていた。
◇◇◇◇◇
私の名は、クワトロ・バジーナ。
ふむ。この名を聞けば真っ先に思い出せるのはエゥーゴのクワトロ・バジーナ大尉であり、赤い彗星シャア・アズナブル──キャスバル・レム・ダイクンの別名のひとつだろう。
しかし私はクワトロ・バジーナであって、シャア・アズナブルでもなければキャスバル・レム・ダイクンでもない。
純然たるクワトロ・バジーナとして、私は宇宙世紀の世をスペースノイドとして生きている。
私の出身はサイド2であり、しかも住んでいるコロニーがあのサイド2は8バンチコロニーであるアイランドイフィッシュである。
そう、最早既に地球のオーストラリアはシドニーに落下したコロニーである。
私自身、連邦軍軍人として、そして戦闘機のパイロットとして軍務に従事し、ジオンのザクと戦ったわけだ。
セイバーフィッシュでザクを撃墜した数少ないエースパイロットとして持て囃されたのも記憶に新しい。
私の家は代々軍人家系である為に、連邦軍に属するのは既定路線とも言えた。
しかし父も母も宇宙の塵となり、私には身寄りも無くなった。
成人したばかりの身の上としては少々酷な経歴を持った。
とはいえ、コロニー落としで家族や友人を喪った者はなにも私だけではない。
それこそジオンとの戦争によって履いて捨てるほどに戦災孤児から私の様に身寄りを亡くした天涯孤独の身の上は生まれてしまった。
よってジオン討つべしと息巻く者たちは多い。
ルウム戦役にて捕虜となったレビル将軍のジオンに兵無しという演説の後押しで、降伏しかけた連邦政府も南極条約を締結するに至るまで盛り返した。
ここまで一年戦争における初頭の基本知識を振り返ったのは、そも私の目の前に見慣れぬMSが佇んでいたからだ。
その名を
カラーリングはどう見てもプロトタイプガンダムなのだ。
しかし、その見掛けは私の知るガンダムとはまったく異なる。
この機体をガンダムと呼ぶのはガンダムに失礼ではないかな?と、8年後のネタを口にしたい程度には見掛けはガンダムとは懸け離れていた。
胴体の黒や赤は確かにプロガンなのであるが、その全体の見掛けが私の知るガンダム要素が何処にもない。
そして極めつけは頭部だ。
あのデュアルアイとV字アンテナのあの顔ではない。
まるでガンキャノンやジムの様なバイザータイプの頭部なのだ。
コレがガンダム? 冗談ではない。
そんな01ガンダムの横には鹵獲されたザクⅡが並ぶが、こちらも私の知るザクのフォルムとは異なる。
ズングリとしたマッシブな上半身に、下半身はスラスターが増えていて、その為のプロペラントタンクも増え、そして脚部が少々細い。
だが、まだザクだと言われればザクだと分かる見掛けである。
しかしこの01ガンダムはどうにもな。
そんな01ガンダムのパイロットが私なワケである。
これは私が今現在、連邦軍のMSパイロットとしてはトップスコアを持っているからに他ならない。
私には今後宇宙世紀100年を超えるMSの使い方と有用性と可能生。そしてアナザーを含めれば半世紀のMS戦術論が頭にあると言っても過言では無い。
そして前世は戦場の絆で慣らした腕も役に立ってくれた。
見た目も声も私はシャア・アズナブル──
キャスバル・レム・ダイクンと瓜二つだ。
故に自分でクワトロ・バジーナを名乗る事に異はない。
しかしてその腕前が伴ってなければ、それはクワトロ・バジーナとは言えないだろう。
故に私は昔取った杵柄から本物のザクのコックピットに座り、本物のMSの操縦技術を会得し、連邦軍でもトップスコアを持つパイロットになった。
正直言えば、一年戦争が終わるまではルナツーで大人しくしていたかった。
何故ならば私はシャアと瓜二つなのだ。
であれば、キシリア機関の密偵に見つかり始末されるという未来も否定は出来ん。
とは言え、宮仕えの悲しき性。
上に命令されれば拒否は出来ない。
故にこのプロガンとも言える01ガンダムのパイロットに抜擢されれば引き受けるしかない。
ジオンに兵無しとは言うが、それは連邦軍とて同じ事だ。
故にセイバーフィッシュでザクを撃墜し、MSパイロットとしても有用な私を遊ばせておく余裕はないのは自然である。
そんな私に寝耳に水である出来事が起こった。
なんと、サイド7に攻撃を仕掛けたジオン部隊によって、サイド7に入港していたペガサスとガンダムが鹵獲されたという緊急入電だった。
バカな…。
レクイエムを破壊されて唖然とするデュランダルの如く私も呆然としてそんな一言しか呟けなかった。
何故ガンダムが鹵獲された。
いや、そもそも何故、サイド7に本来ならばミノフスキークラフトの事故で就役出来なかったペガサスがそこに居る。
いや、ホワイトベースがルナツーにある時点でそのズレはある事は許容しよう。
しかしガンダムは拙い。
というより、アムロはどうしたアムロは!
ガンダムにはアムロが乗るものだろうに。
私は改めて実感させられた。
歴史が変わらず動いているから頭の片隅に追いやっていた事実。
この世は、私の知る宇宙世紀とは少々異なるパラレルワールドではないのかと。
でなければギレンの野望でも真っ青な初手ガンダム鹵獲など起こりよう筈もない。
そして、ルナツーのワッケイン司令より特命が降った。
サイド7へと出撃し、奪われたガンダムとペガサスの奪還、または破壊を命じられた。
それは是非もなし。
今ガンダムがジオンの手に落ちるのは間違いなく歴史が変わる。
ガンダム関連のビーム兵器周りをリバースエンジニアリングされれば、遅過ぎた名機であり、あと1ヶ月早ければ戦争は変わっていたというゲルググシリーズの完成と量産配備が前倒しになれば、連邦軍に勝ち目がなくなる。
なにより連邦軍のジムがポンコツ化する。
連邦軍のジムはアムロのガンダムの戦闘データをフィードバックされて強くなるのだ。
つまり、ガンダムを持ち去られたら連邦軍が敗ける可能性が生まれるという事であった。
ジオニストとしてはそんなIFもあるだろうというのはギレンの野望で散々やったものの、いざ実際私は連邦軍籍の軍人だ。
敗軍の身に落ちればどうなるのか分かったものではない。
そしてなによりそうなれば一生キシリアの影に怯えながら生きてゆかねばならぬかもしれんとなれば、全力でガンダム奪還は行わなければならない。
問題は、そのガンダムを誰が動かしているのかだ。
「まさかな…」
私はサングラスを取り、ノーマルスーツのヘルメットを被る。
まだ確定情報ではないが、ペガサスとガンダムを鹵獲したのはあの赤い彗星である可能性が高いと。
ガンダムにシャアが乗る? キャスバル専用ガンダムはベースがG-3ガンダムで、ネオ・ジオンを早期に立ち上げたシャアが乗る機体であって、RX-78-2はアムロの機体だぞ。
2号機は奪取される宿命にあるが、それが本家ガンダムにまで及ぶ必要は何処にもなかろうともさ。
「クワトロ・バジーナだ。ガンダム、出るぞ!」
私は01ガンダムにシールドとハイパーバズーカ2挺、そしてビームライフルというア・バオア・クー決戦のガンダムと同じフル装備で出撃した。
もし本当にアムロのガンダムにシャアが乗っているというのならば、これ程であろうとも無意味かはやってみなければ分からん。
「いや、そうする必要があると見た!」
そうだ。
でなければ私は、このクワトロ・バジーナという名を返上しなければならないのだから。
◇◇◇◇◇
ルナツーから出たサラミスから発進した私の01ガンダムは僚機の鹵獲カラーの黄色をしたザクⅡを連れて宇宙を掛けていた。
既にミノフスキー粒子は戦闘濃度で散布され、長距離レーダーは使えないが、サラミスとのデータリンクの最大望遠でペガサスを曳航するムサイの姿と、奪われた白いガンダムの姿は捉えていた。
「私とてクワトロ・バジーナだ。やってみるさ!」
そう意気込んで先ずはV作戦のデータも積んでいただろうペガサスとそれを曳航するムサイを狙ってハイパーバズーカを撃とうとした所へ、白いガンダムからビームライフルが放たれ、僚機のザクを撃墜した。
僚艦とのデータリンクをしているとは言えども──。
「センサー外からの狙撃はアムロかフロンタルのやる事だろうに!」
棒立ちではこちらも狙撃されると危機感を感じた私は機体のスラスターを噴かしつつバズーカを連射。
射線上に白いガンダムを巻き込むように撃てばやはり、ガンダムは回避したが、その狙いに気付いた向こうは身を翻してビームライフルでバズーカの弾頭を撃ち落としたが、それも誘いだ。
更にバズーカを放ちながら弾が空になった右のバズーカを捨てつつ、左のバズーカも連射し、機体を加速させる。
バズーカの弾幕に身を避ける白いガンダムへと吶喊しつつ、左のバズーカを投げつける。
それを白いガンダムは身を翻して躱す。
その動きは素人のものではない。確実にMSの操縦経験者、それもエースパイロットが乗っている動きだ。
「だが、そのポリシーが命取りだ!」
当たらなければどうということはないというのならば、無理やり当てるまで。
放り投げて躱されたハイパーバズーカへビームライフルを撃ち込めば、その爆発の煽りを白いガンダムは受けた。
前のめりになる白いガンダムへ肉薄し、ビームサーベルを左手で抜く。
白いガンダムは前のめりになった勢いを利用して一回転しつつこちらへ足の間からビームライフルの銃口を向けて来ていた。
脇の下からの振り向き撃ちの如くトリッキーな事をしてくれる。
「ええいっ!」
私は放たれたビームをビームサーベルで切り払う。
弾けるメガ粒子が機体を舐めるが、今はそれどころではない。
ビームサーベルを振り下ろした勢いを乗せてこちらも機体を一回転させてビームライフルを向ければ、再び放たれた白いガンダムのビームとこちらの01ガンダムから放たれたビームが激突し、激しい閃光を散らす。
ビームの応酬が続くが、こちらもあちらも性能は互角。
そしてパイロットの腕も、どうやら互角と来ている。
ならば千日手になるのも必定。
しかしそれを変える徹底的な一手が打ち込まれた。
「こちらのサラミスを。やるなドレン!」
ムサイから放たれたメガ粒子砲が僚艦のサラミスを貫き、撃沈。
つまりこちらは孤立無援、という事になる。
「このプロガンまで貴様にくれてやるわけにはいかんのでな!」
癪ではあるが、ここは最早撤退しなければこちらが不利であるのは明らかだ。
私は確かにガンダムの奪還、或いは破壊命令を受けているが、それと同時にこの01ガンダムも守らなければならない立場だ。
故に友軍が全てやられた状況ならば言い訳には事欠かない。
私は機体を翻し、遠ざかる白いガンダムを一瞥した。
「流石は赤い彗星、伊達ではなかったか」
そう小さく、私の呟きがコックピットへと溶けていった。