無機質の弟、実力至上の学校にようこそ   作:おこげの

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実力主義の学校、潜入成功。

 

 4月、桜の木々が立ち並ぶ道に、若人達が疎らに歩いている。爽やかな風が吹き、舞った桜の花びらが窓に引っ付き視界を潰した。

 

春うらら──心機一転の季節。だが桜は散るのが早い。短命な儚い季節だ。

 

「もうすぐ目的地です、準備を」

 

「………校門の前は目立ちます、手前で停めてください」

 

良質な革素材の座席に身を預け、呆然と車の窓から景色を眺める男。碧 灼(みどり あらたか)は肘を付いて溜息を付いた。

 

 漫然と命令を聞き、漫然と実行に移してきた酔生夢死の生活から離れて1年。

俺は高校の制服をまとい、広大な敷地に足を運んでいた。

 

───曖昧な命令でここまで来たが……日本の学校。それも名門と言われる高育か。

 

車から降り、巨大な塀の奥に見える校舎を見つめる。

 

──高度育成高等学校。

東京の埋立地にある日本政府が作り上げた、未来を支える人材を育成する全国屈指の国立の名門校。通称「高育」と呼ばれている。

 

3年間外部との連絡は断たれる上、学校の敷地内から出るのは禁止された寮生活になるが、希望する進学、就職先にほぼ100%応える学校で、広大な敷地内は小さな街になっており、何1つ不自由なく過ごす事のできる楽園のような学校──

 

その情報通りだといいが、そうはいかないのが現実。良い謳い文句には必ず裏がある。

続々と校舎へ進む新入生達、その様子は巨大な箱庭に招かれている様にも見える。

 

まぁ、人々が箱から箱へと移り行くのは当たり前の光景か。では、俺も早々と吸い込まれるとするか。

 

 

 


 

 

 

 屋外には大きな電子掲示板があり、そこに各クラスごとに分けられた名前の一覧表が表示されていた。

それぞれの生徒は自分の名前を見つけて、多種多様な反応をする。既に交流している生徒の中では、一緒のクラスになった生徒と喜び、または別クラスになって落胆する者も見受けられた。そしてまだ確認できずうろうろする者もいる。俺の様に。

 

「…………D」

 

目を凝らし、自分の名がDクラスの枠に表示されているのを確認できた俺は早々とその場から立ち去る。

人だかりが多くなりつつある所にいつまでもいられない。早く席に着こう。

 

 別に焦る必要はないのだが、今までの習慣の所為か素早い行動を常に行うように体がインプットしている。

少し落ち着く為、足の速度を落としながら教室へと向かう。その際にAクラスとBクラスを遠目で覗いてみたが、既に多くの生徒が集まっていた。

 

モダンで洗練された部屋、清潔な廊下、どの設備も綺麗で良質だ。

歩きながら周りを見て、俺はどこか違和感を覚える。

 

「…………レンズ」

 

壁は打放しコンクリートで、均等な凹凸模様が見られる。その凹凸の中の1つに、カメラのレンズが埋め込まれていた。それもカモフラージュが施された状態。なるほど。

少し足を進め、周りを確認すると天井にも一つカメラが埋め込まれていた。

 

生徒の監視、いじめなどの問題を阻止する為の物か。恐らく、予想に過ぎないがリアルタイムで監視されているのだろう。

流石は政府直属の学校、サーバー台の費用を考えると相当な予算をつぎ込んだんだろう。まぁいいが、その予算を他の教育に使うべきだという個人的な意見を飲み込み、教室へ向かう。

 

 

 


 

 

 

 自分のネームプートが置いてある席に座り、改めて周りを見渡す。

大体は席に着いていて、1人でボーっとしていたり、学校の資料を眺めていたり、一部は前からの知り合いなのか、それとも既に仲良くなったのか世間話をしている様子。

 

そして俺は目的でもある、ある人物の名前を確認した。

 

────「綾小路清隆」

 

 この学校に入学した理由の一つ。

綾小路清隆の監視、そしてこの学校の実態。この2つが俺に下された命令。どこか曖昧な部分があるが素直に承諾した。

まだ来ていないがそろそろ来る頃だろう、ずっと見つめるのも不審に思われる、俺も資料でもみてボーっとしていようか。

 

 10分経った頃には全員揃ったからようだが、ガヤガヤと騒がしいく、俺の右横では男子の大きな騒ぎ声と、俺の席から離れた奥側からは女子の甲高い声も聞こえる。

高度育成というからには、英才教育を受けた坊ちゃんやお嬢様などのエリートと言われる生徒で形成されると思っていたが、実態は違うみたいだ。見た目で判断することは良くないとされるが、早計か。彼らと会話を重ねれば意外な結果を見られる筈。

 

始業のチャイムが鳴ったと同時にスッと静かにドアが開き、スーツを着た1人の女性が入ってきた。

 

「皆、席に着くように」

 

喧騒は徐々に止み、皆は席へと戻る。空いた隣の席に女子が座る。ネームプレートには「松下千秋」と記されている。

 

「新入生諸君。私はDクラスを担任することになった茶柱佐枝だ。普段は日本史を担当している」

 

日本史か。歴史という学問は面白い。日本以外にも世界各国の歴史は深めれば深めるほど面白い。歴史というのはその国の技術を学べるからな。

 

「この学校には()()()()()()()()()()()()()()()()。卒業まで3年間、私が担任としてお前たち全員と学ぶことになると思う。よろしく」

 

随分と淡泊なよろしくだな。俺の上司の1人である月城でさえまだ愛想がある。篤臣も資産家前では愛想が良かったぞ。………いや、あの腐った奴らと比べるのは色々と違うか。

 

「今から一時間後に入学式が行われるが、その前にこの学校の特殊なルールについて説明する。机にある資料を見ながら聞いてほしい」

 

この学校の特徴であるSシステム。事前に大まかに聞いてはいるが、振り返りも含めて一語一句頭に入れておく。

 

 

◆▼●

 

 

 俺が手に持っている白い端末は学校から配布された携帯であり、同時に財布でもある。右側面の独立したボタンを押すと、ポイント詳細が表示される。ディスプレイに大きく表示された100000PPt。1ポイント1円であり、今現在の皆の手元には10万円が舞い降りていた。クレカというよりかはデビットに近い形式かもしれない。

 

それにしても最先端な考えだ。キャッシュレスが前提の生活、今まで現金で支払いなどをしてきた生徒達にとっては勝手が違うだろう。これも高度育成の一環か。または国として実験的な側面もあるとみるか。

 

「10万……か」

「凄い金額だよね」

 

隣の席の松下千秋が俺の呟きに反応したみたいだ。同年代と話すのは随分久しぶりだ。

 

「優遇されるとはいえここまでとは、少し怖くないか?」

「まぁーちょっとね。使いすぎには気を付けないとね」

「ああ、来月入るにしても節約した方がいいかもな」

 

茶色のグラデーションがあり、片耳に髪をかけた少し大人びた印象。可憐で美人という印象だ。

 

「改めて、俺は碧 灼。隣同士よろしく」

「松下千秋でーす。よろしくね」

 

スムーズなコミュニケーションと目を引く愛嬌。この数秒言葉を交わしただけだがいい関係を築けると感じる。トラブル等の不和は起きえない。

 

「皆、少し話を聞いて貰ってもいいかな?」

 

スッとした声が耳に入る、爽やかなイメージの男子生徒が立ち上りそう発言した。

 

「僕らは今日から同じクラスで過ごすことになる。だから今らか自発的に自己紹介を行って、1日でも早く皆が友達になれたらと思うんだ。入学式まで時間があるし、どうかな?」

 

自己紹介の時間を設けないのかと思っていたが、この間の時間で済ますというわけか。自発的に行うのも実力……というよりか当たり前の行動か。自ら提案したこの男子は良い度胸がある。他の皆も賛成と声を上げ次々と表明の声を上げていく。

 

「僕の名前は平田洋介。中学では普通に洋介って呼ばれることが多かったから、気軽に下の名前で呼んで欲しい。趣味はスポーツ全般だけど、特にサッカーが好きで、この学校でもサッカーをするつもりなんだ。よろしく」

 

提案者である平田は模範解答の様な自己紹介をした。ルックスも良い爽やかな好青年、好印象しかないな。

続々と自己紹介が続き、そして例の人物の番に。

 

「えー……えっと、綾小路清隆です。その、えー……得意なことは特にありませんが、皆と仲良くなれるよう頑張りますので、えー、よろしくお願いします」

 

ホワイトルームのカリキュラムに対人コミュニケーションを組み込んでいないのか?

いや……俺も最初はあのような状態だったな。人の事言えないか……、まぁ、綾小路は自ずと学んでいくから大丈夫だろうが……

そしてとうとう俺の番に回った。彼のようなたどたどしい結果にはならない、さくっと終わらせるか。

 

「初めまして。俺の名前は碧 灼。苗字と名前が一文字なので覚えやすいと思う。姓か名、呼びやす方で呼んでくれ。趣味……というのは特にないというか、思いつかないな……まぁ、強いて言うならカフェで一服することぐらいかな。以上かな。では皆さん、これから3年間よろしくお願いします」

 

声を張ってゆっくりと発言した。少し躓いたがこれでいいだろう。周りの反応も悪くない。シンプルでいいんだよこういうのは。な、綾小路?

「よろしくー」

「碧君よろしくぅ」

周りから友好な声をかけられる中、俺はコミュ症を患った綾小路を哀れんでいた。

 

 

 


 

 

 

 入学式とオリエンテーションが終え、放課後になり各生徒は各々行動に移る。

最新鋭の施設で充実した空間、難関校の生徒としての実感と大金が懐にある妙な感覚。これらが相まって、殆どの新入生の気分が高揚しているのを顕著に感じる。

その雰囲気に囲まれた俺は何故か居心地の悪さを感じていた。

 

「碧君はこれからどうするの?」

「んー、一度寮に荷物を置いて、あとは買い物かな」

「そっか、私はこれからみんなとカフェに行くけど、碧君も一緒に行く?」

 

周辺には女子のグループが早々に形成されたようで。松下もその一人のようだ。平田も居るみたいだが大人数の空間に行くのは苦手だと思った為。今回は悪いが見送らせて貰う。

 

「ごめん。今日は遠慮する。次は俺から誘うから」

「そっか。じゃあまた明日だね」

「ああ、またな」

 

友達作りや交流も何も1日で済ませる必要はない。1ケ月内でゆっくりやるさ。

 

 

◆▼●

 

 

 寮に着き、402と書かれた自分の部屋に入る。部屋に備え付けられた机の引き出しを開け、例の物を手に取る。

 

「確認完了、と」

 

事前に仕込まれた端末、外部との連絡用のスマートフォン。メールに確認完了の返信を送り、机の引き出しに戻す。そして隣は綾小路の部屋。徹底した根回しだ。

 

「……ん」

 

引き出しからバイブレーションの音が鳴り、再び手に取って着信に答える。

 

「はい、碧です」

「こんにちは灼君。まずはご入学おめでとうございます」

「どうも、要件は」

「まぁそう焦らずに。些細な確認ですよ」

 

電話をしてきた人物、月城常成。

俺の上司的な存在であり、俺を見つけ出した男。

 

「まずはどうですか。学校は?」

「別に、監視カメラが異常に多いこと位ですかね」

「貴方の目だとすぐに気づきますか。流石です」

 

あんなの誰だって気付くものだろう。

 

「次に───綾小路清隆君に会ってどう思いましたか?」

 

何の確認?時間の無駄だ。

 

「別に何も」

 

ただ、無機質にそう答えた。

 

「冷たい反応ですねぇ…、血が繋がった兄弟だと言うのに」

「なにも感じません」

「清隆君は兄の立場で貴方は弟、この関係に、何も感じないのですか?」

「兄や弟の相関に感じるモノはありません。5日違うだけで大した差異はないと思っています。確認はそれだけですか?」

 

この作業は必要なのだろうか。メールで確認完了の旨を送信し確認できた筈、端末も正常。月城は俺の反応から何を求めているのだろうか。おおよそ予想はつくが。

 

「分かりました。以上で確認を終わります。以後、指示はメールで送りますので、確認を怠らずに」

「了解です。では失礼します」

 

すぐに電話を切って引き出しにしまい、俺は買い物に出かける為また外に出る。

 

──やはり、素早く行動する習慣は抜けない、いや、落ち着けないのか。そう思いながら施設マップを見つめた。

 

 

 


 

 

 

 学校生活2日目、授業は勉強方針等の説明だけ。進学校特有の緩い雰囲気に皆は既に飲み込まれていた。

右端にいる須藤に至っては殆どの授業で居眠りをかましていた。友人であろう池や山内は注意せずバカにしていた。教師たちもそれに気づいてはいたが、注意する気配はなかった。

 

「須藤、起きろ」

「……う~、…せぇ…ほっとけ…」

 

起こそうと体を揺らしてみたが、振り払われてしまった。何回か繰り返したが、煩わしいと思ったのか大声で怒鳴られ、俺はしょんぼりしつつ席に戻った。

 

「よく起こそうと思ったね…」

 

松下から同情が込められた声がかけられた。ありがたい一声だ。

 

「授業態度はしっかりした方がいいかなと思って」

「ほっときなよ。でも優しいんだね、碧君は」

「まぁ、ポイントに影響するかもしれないし、一応ね」

「…え?どういう意味──」

 

松下が何か問いかけようとした矢先にチャイムが鳴った。俺は向きを正面に変えて退屈な授業を受けた。

横の視線が気になるがかわいいので気にしない。

 

 

◆▼●

 

 

 退屈な時間が終わり昼休みに入った。

生徒達は思い思いに立ち、顔見知りになった連中と食事へと消えてゆく。

食堂に行くか、それともコンビニで済まそうか、考えていると、平田が同行を募る声を発した。

 

平田の周りに女子が集まり、ぼっちの綾小路は上げかけた手をゆっくりと下した。

なんと悲しい光景。彼の最高傑作がこんな醜態を晒すとは、横の席の堀北も憐みの目で見ているぞ。

仕方ない。監視対象と接触するなと指示されていない、綾小路と初接触は昼飯といこう。違和感もない筈。

 

「えーっと、綾小─」

「……………綾小─」

 

「早く行こ、平田君」

「碧君も一緒に行こ?みんないいよね?平田君一人じゃ可哀そうだし」

 

──え?

 

「碧君かー………まぁ、いいんじゃない?」

「さっき須藤君を起こそうとした人だっけ」

「えー、アイツを?」

「優しいじゃん」

 

ごめん綾小路、助けてくれ。

 

 

◆▼●

 

 

 彼女達との会話は別に苦ではなかった。当たり障りのない返答をすればいいだけだし、話題も適当に振れば答えてくれる。その中で松下は俺の発言を蒸し返す様に尋ねた。

 

「よく須藤君起こそうと思ったよね。私は怖くてできないよ」

「あー私見てたよ。起こしてくれてんのにさ、うるせぇって振り払っててさー!」

「かわいそー」

「不良にも優しいんだね。碧君は」

 

須藤の評価は下がり続けるばかりだな。

 

「あはは、僕も注意しようか迷ってたけど、碧君は気にせず起こそうとしてたね」

「いびきがうるさかったのもあるけど、授業態度が悪いと評価に響くと思ってな」

「別に碧君の評価が悪くなる訳じゃないし、ほっとけばいいのに」

 

そうだよ!と女子の肯定する声と、平田の苦笑い、松下の誘導が形になりつつある。

 

「実力で生徒を測るって先生が言っていただろ?ポイントが今後減る恐れがあるから、授業態度を改めた方が良いかなって思ったんだ」

「減る…?せんせーは確か毎月1日に10万ポイントが支給されるって言ってたよ」

 

興味なさそうに軽井沢は答える。皆も

 

「そうだけど、先生は入学した俺達の実力を10万の価値で示した。なら、何かしら評価に繋がることを行えば、その分ポイントも増えると思って行動したんだ」

「実力……確かに、僕達は皆10万の対価を貰った。この1か月の行動次第でポイントが増えるかもしれないと。先生が言った実力で測るという意味はそういうこと?」

「ああ、だから教室には多くの監視カメラが設置されている。授業態度で生徒を評価しているんだろう」

「え!?監視カメラ!?どこにあったの!?」

「教室に戻ったら天井を見てみるといいよ。上手くカモフラされてるから」

 

女子の驚く声が響き、俺は気にせず山菜定食を食べる。うん、おいしい。

 

その後、女子達の会話に相槌を打ちながら昼飯を終えて、教室に戻る途中、松下から再び声がかかった。

 

「ごめんね?無理やり誘うことしちゃって」

「気にしてないよ。ぼっちより複数人の方が賑やかで楽しいし」

「にしてはずっと無表情だったね?」

「感情が顔に出にくいんだ。表情筋が死んでてね」

「あはは、笑顔が多いとモテるよ。碧君顔整ってるし」

 

元ホストの篤臣に感謝。顔も知らない母に感謝。ルックス良ければ良いほどいい。

どーもと適当に返答し、松下と同じ歩幅で歩く。

 

「ねぇ、本当に来月10万ポイント入ると思う?」

「さぁ?分からないというのが現時点での感想だな」

「碧君の話を聞いて私も考えてみたんだよね。実力で測るって意味は広義的に学校生活とか、成績で測る意味かなって」

 

ああ、そうだろう。だが対象は個人で完結しない。俯瞰して、突き詰めれば仕組みに気付けるはずだ。松下。

 

「その解釈でいいんじゃないか。そして3年間クラス替えがなし。先生の言葉、上級生の環境を見れば自ずと答えを導きだせるぞ」

 

そう言うと松下は目を細めて俺の目を見つめる。探る視線──相手を測る目だ。

じゃ、と俺は手を振り一足先に教室に戻った。昼休みの時間はまだ残っている、目通しで確認する時間は充分あるだろう。俺も暫定的だが答えはまとめてある。ちょっとした違和感を捉えられるかどうかは松下次第だ。優れた感覚を持つ者はすでに気付いている頃合いだろうか。

 

 


 

 

 放課後、俺は第一体育館へとやって来た。

昼休みに部活動説明が行われるとスピーカーの案内があったので、興味本位で来たという理由だ。前方にはすでに1年生が揃っているのが確認できる。

 

───100人近くか

 

ざっと数えてから目線をスマホに変え、所定の時刻まで時間を潰すことした。

ニュースや今時の話題を確認することで、雑談のレパートリーを増やすことができる。昼休みの女子の会話は苦ではなかったが疲れたと感じた。………矛盾しているではないか。他愛のない会話だが二転三転して、さらに回転してというか………平田もよくついて行けると感心した。同年代の女子は皆こうなのか?

 

ん?あれは綾小路に……堀北か。

 

隣の席同士、一緒に来たと見える。あいつにも友達が1人できた訳か。

 

「1年生の皆さんお待たせしました。これより部活代表による入部説明会を始めます」

 

体育館の舞台上にズラっと部の代表者が並ぶ。

次々と演説を行う様子を呆然と俺は眺めるだけだったが、最後の1人は違うと直感した。

 

「…………」

 

生徒会長。入学式に祝辞を述べた人物

 

一言も発せず、ただ立っているだけだった。頭が真っ白になったのだろうかと推察するが、ジッと岩の様に佇む姿からはそうとは感じられない。他の1年生から揶揄するような声が投げられる。しかし微動だにせず立ち尽くすだけ。

 

「………」

 

ザワザワした空気は徐々に鳴りを潜め、静寂に空気に包まれる。

 

「私は、生徒会会長を務めている、堀北学と言います」

「生徒会もまた、上級生の卒業に伴い、1年生から立候補者を募ることとなっています。特別立候補に資格は必要ありませんが、もしも生徒会への立候補を考えている者が居るのなら、部活への所属は避けて頂くようお願いします。生徒会と部活の掛け持ちは、原則受け付けていません」

 

口調は柔らかいが、緊張感を感じさせるものがある。事実、この空気に100人を超えた新入生たちを黙らせている。小声での会話もしていなかった。

 

「それから──私たち生徒会は、甘い考えによる立候補を望まない。そのような人間は当選することはおろか、学校に汚点を残すことになるだろう。我が校の生徒会には、規律を変えるだけの権力と使命が、学校側に認められ、期待されている。そのことを理解できる者のみ、歓迎しよう」

 

演説を終えると、真っ直ぐに舞台を降り体育館から出て行った。

 

「皆さまお疲れ様でした。これより入部の受付を──」

 

のんびりした司会の声で空気は弛緩し、再びザワザワとし始めた。

 

聞いていて別に入りたい部活はなかったし、俺には監視という目的がある。入ることはないだろうな。

踵を返し、後にしようと思ったところに声がかかった。

 

「よう碧、お前も来ていたのか」

 

クラスメイトの須藤、池、山内、そして綾小路も一緒だった。

 

「居眠り須藤に、池内、そしてぼっちの綾小路か」

 

「っるせなー…」

「池内って、俺らをセットにするんじゃねーよ!」

「ぼっちはお前もじゃないのか」

「今日は一人なんだ」

 

流石に俺のことは覚えていないか、まぁ初接触はこれでいいだろう。

 

「はぁ……、それで、お前も部活に入るのか?」

「いや、俺はただの見学。君は?」

「俺はもちろんバスケだ。小学生ン時から一筋だからな」

 

鍛えられていると思ったが、なるほどな。

 

「君らは?」

「俺らは賑やかしっつーかー、楽しそうだから来ただけって感じだ。あとは運命的な出会いを期待してってのもある」

「………」

「オレは違うからな。オレも碧と同じで見学で来た」

 

良かった。お前もこの2人と同じ思考だったら再教育の為に今すぐにでも連れ出そうと思ってたよ。

 

この後、男子用グループチャットの為に連絡先を交換し、無事綾小路との連絡ができるようになった。

さて、さっさと帰るか。

 

 




おかしい所があればご指摘お待ちしています。

綾小路パパは多分、資金を集める為に色々な事をしているので、その際の副産物が灼くんです。
その辺りの話もおいおい書いていきます。
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