手っ取り早く天国に行くには、自己犠牲が最適らしい 作:つかとばゐ
1回、死んだように思えた。
───奇跡とは本当にあるらしい。
「あ.....?」
見慣れた空。青が永遠に思えるほどに広がっている。というか、俺はなぜここへ?
「ここは、あの森.....?」
転生した時に居た森に
「あぁ、そうか」
俺は、これは偶然が引き起こした奇跡なのだと思った。推測だが、これは地獄にも天国にも行けなかったがために生還したのではないだろうか?.....何を言ってるのか分からないって....?───確かにな。
「まぁ、自己犠牲であって自己犠牲ではないようなことをしたからな.....」
実は、死ぬ寸前に早くあの痛みの苦しみから逃れるために、自ら剣を突き立て自死したのだ。
「まぁ、結局は推測だから真偽は不明だが.....まぁ、普通に被検体だから自己犠牲以外の死だったら死なない、とかも有り得るが」
ふと、レナのことを思い出す。
───あのまま放置していたが、大丈夫だろうか?
「さて....どうしようか」
死ぬ前とのレナの記憶は、あんまり残っていないが....ちと、会うのは避けた方がいいかもしれない。
「なんせ、俺本当は死んでるはずだもんな.....」
まぁ、なんらかの原因で得られた命だ。次は大切に───なんて思う訳もなく。相変わらず自己犠牲をしていこうと思う。
「彼女に会うから、街に行くのは辞めておこう.....」
一方その頃。
「あああああああああああっ!!!いやいやいやあああっ!」
目の前に、
身体中が血で溢れており、触れてみると冷たい。
「いや、いやだ......」
確実に死んでいるのに、脳が拒む。
「私のせいで......私のせいで.......っ」
アルトくんは、優しい子だったのに、可愛い子だったのに、強い子だったのに、勇敢でかっこいい子だったのに、私の.....私の仲間だったのに───未来を、私が潰しちゃったんだ.......
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
彼に向けて土下座しながら頭打ちつける。
頭から血が出ているが、そんなのは知ったこっちゃない。こんなもの、彼の痛みに比べれば軽いもんだろう。
「もういっそのこと.....」
───このまま死んでしまおうか。
そう、頭に過ぎる。
「いや、だめだ.....っ」
彼は聖人だ。だから今頃天国に居るだろう。
しかし、ここで私が自殺してしまったら地獄に行ってしまって、彼に会えない。つまり、謝れないじゃないか。
「ごめんなさい......ごめんなさいっ」
いや、これは私が死にたくないだけの言い訳なのかもしれない。やっぱり、私は中途半端の性悪女だ。
そう思いつつ、頭を強く打ち付けていく。
次第に頭がクラクラしてきた。
「いや、生きてる.....アルトくんは生きてるよっ!ほらっ.......」
意識が朦朧としてきて、彼が生きていると思い始めてきた。
「.......?」
そんな時、何か足音みたいな音が聞こえてきた。
「───生存者確認!援護を要請するっ!直ちに保護しろっ!」
……あぁ、ギルドの方が異変を察知して来てくれたんだ。私なんてどうでも良いから彼を......アルトくんを.....っ。まだ、アルトくんは生きてる.....っ!
「今から助けますね....っ!一緒に運ぶぞ!」
もうちょっとでも早く来てくれればこんな事にはならなかった.....そう思うが、その考えは即座にやめた。他責思考なんて自分が惨めになるだけだったからだ。
「あぁ、これは完全に死んでますね.....っ」
ゆるりゆるりと意識が薄れていく中で、ある男の人がアルトくんを見て、そう発言する。
「あぁ───」
その言葉が、私を剣で貫いたように心を痛ませる。
……やっぱり、現実は非情なんだ。
そこで、意識がぷつんと途切れた。
「.......っ、いやっ!」
次に意識を取り戻した時、レナの頭を最初に支配したのは、洞窟の冷気でも、自分の頭の痛みでもなかった。
───「死んでますね」。その乾いた、現実を突きつける一言だった。
「......っ!」
跳ね起きようとした身体は、重く軋んだ。天井は白い。清潔な、薬の匂いがする場所。ギルドの治療室だった。
横には、ギルドの職員らしき女性が座っていた。レナが目覚めたのを見ると、安堵したような顔を見せる。
「ああ、良かった。目を覚ましましたか、レナさん」
「...アルト、くんは?」
掠れた声で、レナは尋ねた。聞くのが恐ろしい、それでも聞かずにはいられない。まるで、心臓を握り潰されるような痛みを感じながら。
女性は顔を曇らせ、ゆっくりと視線を落とした。
「...ごめんなさい。アルトさんのご遺体は、既に回収されています。彼は、自己犠牲の精神でレナさんを守り抜きました。本当に勇敢な方でした......」
───自己犠牲。
その言葉は、レナの耳には届かなかった。聞こえたのは、あの洞窟の奥で響いたアルトの悲鳴。
───いやあああああああっ?!アルト....っ、アルトくん......腕がっっっ!
───ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい.....私なんか放っておいていいから逃げてよおっ!
───それ.....アルトくんの耳だよっっっ?!
アルトの勇壮な死ではない。レナが脳裏に焼き付けているのは、彼が恐怖と絶望の中で身体を千切られた、悍ましい光景だけだ。美談として語られる「自己犠牲」は、その残酷な記憶を糊塗する、薄っぺらな嘘のように感じられた。
「...違う......っ、違う......」
レナはかぶりを振る。
「私が、私が彼を死なせたんだ!私が無謀な依頼を選んで......私が、彼の命を.......っ、ああああっ!」
「レナさん、落ち着いて!」
女性職員が慌ててレナの肩を掴む。だが、レナにはその手が、アルトの血まみれの身体に触れることを許さなかったあの時の自分の腕のように思えた。
女性は、レナの反応を「ショックによるもの」と判断したのだろう。憐れむような、同情の眼差しを向けてきた。
「アルトさんのご遺族...というべきか、身元を知る人はいませんでしたが、ギルドで丁重に弔うことになっています。あなたも落ち着いたら、弔いに行ってあげてください」
───弔い。
それは、もうアルトが二度と戻らないことを確定させる行為。ふと右に目をやると、彼の剣や装備が整頓され、遺品として傍らに置かれていた。
───錆び付いた彼の剣。
それは、ダンジョンでコウモリを薙ぎ払った時、意気揚々とハイタッチした時の、温もりを知っているはずの剣。
レナは、その剣を握りしめた。冷たい鉄の感触だけが、レナの現実だった。
―――私は、これからどうすればいいのだろう?
アルトを失った世界。未来を約束した、あの焚き火の温もりは、もうどこにもない。
「あぁ」
残ったのは、自分の不甲斐なさと、彼の壮絶な死の記憶だけだった。
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そちらの方が話数は進んでおりますので、ぜひよければ見ていただけると嬉しいです!
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─────────────次回は、「現在」です。