「デュエマ・スタート!」
─キンキンキーン─
床に落ちたコインの音が響く。これから対戦する二人、
「先攻は俺のようだな」
「あら。しかたない、どうぞ天人さん」
「さんは不要。俺に牙を向けるなら、心の全てを刃に変えろ!でなければ、俺と戦う資格すらない」
「言われなくてもそのつもりだ!さぁ来い!」
「はっ。俺のターン!」
先攻はドローがない。しかし相手より早く動ける点で優位に立てる。天人、彩人共に最初のターンはマナを置くだけでターンを終え、そして天人のターン。
「『霞み妖精ジャスミン』召喚。こいつは登場した時に自身を破壊すれば、デッキの一番上のカードをマナに置ける。マナ加速!」
「こっちは呪文『フェアリー・ライフ』。デッキの一番上をマナへ」
「俺のターン、『エナジー・ライト』で2枚ドローだ」
互いに手札とマナを整える展開。そして……。
「行くぜ、呪文『フェアリー・ミラクル』!デッキの一番上をマナへ。そして俺のマナに5色のカードが全て揃ってれば、さらに1枚マナ加速!」
「……なるほど。5色デッキだったか」
「へへっ。このカードは5色の特権だぜ。これで、マナの数は俺が追い越した!」
「だからどうした。『天門の精霊エールフリート』召喚。デッキの上から3枚めくり、その中から呪文を1枚選び手札に加える。『母なる星域』を手札に。残りは墓地へ」
2枚のカードが墓地に送られる。墓地とは名の通りカードの墓場。しかし活用法はいくらでもある。彩人は少し顔をしかめる。
「つっ、俺のターン!……うーん、『伝説の秘宝 超重』を発動。2枚引く」
「どうした?増やしたマナで何かするんじゃないのか?」
「う、うぅ……。ターンエンド」
「ふっ、口ほどにもない。俺のターン、『雷鳴の守護者ミスト・リエス』召喚!」
「あ、あれは……!」
─ザワ、ザワザワ─
観客たちがざわつく。今召喚されたクリーチャーは、その強さのあまり、殿堂入りしてしまったカードだ。殿堂入りしたカードはデッキに1枚までしか入れられない。1枚で勝負を決めてしまうほどの力を持ったカードである。ミスト・リエスがいる限り、天人は場に他のクリーチャーが出る度にドローができる。
「これで俺の手札は尽きない。もはやお前に勝ち目はない!くく、はははは……」
天人の笑い声を、突如響き渡った爆音がさえぎる。そして、ミスト・リエスは砕け地に落ちた。
「『無双竜鬼ミツルギブースト』。こいつは登場時、自身をマナに置くことで相手のパワー6000以下のクリーチャーを破壊する
「……ちぃ!」
「ところで、なんか言ったか?」
「……貴様……!」
彩人は得意気に笑い、ミツルギブーストをマナに置く。このターン貯めた分と合わせて、マナは9マナまで増える。
「……ミスト・リエスはやられたが、その能力は残っている。ミツルギブーストが出たのでドロー」
「でもそこまでだ。邪魔者が消えたんだ。次のターンから、貯めたマナで巨大獣を出しまくってやるぜ!」
「……できるかな?」
「なに!?」
天人のターン。天人は不敵に笑い、1枚のカードを天にかざす。
「ミスト・リエスがやられるのも計算の内。俺の真の狙いは、エンジェル・コマンドを種族に持つエールフリートを場に残すこと!」
「ま、まさか……」
「そう。このカードは種族にコマンドを持つクリーチャーを進化元にし、召喚される進化クリーチャー!出でよ、『大神砕グレイトフル・ライフ』!その登場時能力で、『時空の不滅ギャラクシー』を場へ!」
巨大な進化獣が現れる。グレイトフル・ライフはパワー11000を誇るクリーチャー。さらに場に出た時に、超次元ゾーンからコスト7以下のサイキック・クリーチャーを場に出せる。
「ギャラクシーは場から離れる時、離れる変わりに覚醒する。まさに不滅のクリーチャー!」
「強力クリーチャーが一気に2体!これが狙いだったのか……」
「ふっ、ターンエンド」
「なに!?」
グレイトフル・ライフは進化クリーチャーなので召喚酔いはない。しかし天人は動かない。
「俺の手札を増やすことを警戒したか。でも、俺は攻めるぜ!マナをため、呪文『キリモミ・ヤマアラシ』でコストを1軽くし、『神龍のイザナイ ガーリック』を召喚!キリモミ・ヤマアラシの能力でこいつはスピードアタッカー!」
ガーリックのパワーは4000。
「そのままシールドを攻撃!
「ふん、シールド・トリガー発動、『フェアリー・シャワー』!デッキの上から2枚見て、そのなかから1枚を手札に加え1枚をマナへ置く」
「ターン終了時、ガーリックの光臨が発動。こいつがタップされていれば、デッキからコスト8以下のアーマード・ドラゴンかドラゴン・ゾンビを場に出せる。『龍仙ロマネスク』を場へ」
ロマネスクの能力で彩人はデッキの上から4枚マナへ置き、マナからカードを1枚墓地へ送る。これで彩人のマナは計13マナ。
「『黒神龍グールジェネレイド』を墓地へ。こいつは俺の場のグール以外のドラゴンがやられたら場に出る。そして俺の場の2体はドラゴン!」
「……牽制のつもりか?だが無意味だ!俺のターン、呪文『セブンス・タワー』!3マナ加速し、これで計11マナ!そして呪文『母なる星域』で、ギャラクシーをマナに送り、マナから進化クリーチャーを呼び出す。しかしギャラクシーは場から離れる時、覚醒する!」
ギャラクシーが『撃滅の覚醒者キング・オブ・ギャラクシー』へと覚醒する。キング・オブ・ギャラクシーはエンジェル・コマンドを種族に持つクリーチャー。よって……!
「エンジェル・コマンドを進化元にすることで、このクリーチャーは現れる。ギャラクシー、進化!我が切り札……『聖霊王アルファディオス』降臨!!」
覚醒したギャラクシーの上に、聖霊王のカードが重ねられる。剣を掲げた荘厳な雰囲気の天使。パワーは15500。
「アルファディオスがいる限り、光以外の呪文は唱えられず、光以外のクリーチャーは召喚できない。まさに絶対の王!」
「……」
「もはやこのデュエマに楽しむ余地などない。分かったか。お前の牽制など、無意味だ!グレイトフル・ライフ、やれぇぇぇぇっ!」
衝撃波がガーリックを吹き飛ばし、抵抗むなしく、その体は巨大な刃に切り裂かれる。
「だが、無駄死にじゃねぇ!墓地のグールは、場のドラゴンが死んだら復活する。これは召喚じゃない!」
「ふん」
召喚とはコストを払う手札からのクリーチャーを出すこと。カードの効果を介した召喚もあるが、効果によってクリーチャーをバトルゾーンに出す行為は、召喚ではない。だから、アルファディオスの効果の影響を受けないのだ。
「そんなことは当然分かっている。だがパワー6000のドラゴン一匹の牙など、聖霊王の喉仏には届かない!とるに足らぬ存在だ。勝ち目はない、この聖霊王が……」
その聖霊王が爆発する。砕けちり、破壊される。言葉を失う天人の眼に、1枚のカードが映る。
「貴様が……!」
「『ラスト・バイオレンス』を使わせてもらったぜ。こいつは5色の呪文」
「アルファディオスの効果では防げない……!」
ラスト・バイオレンスの今発動する能力は4つ。自分はデッキの一番上をシールドにできる。相手の多色でないクリーチャーを1体破壊する。相手に自身の多色でないマナを2枚選ばせ墓地に送らせる。自分はデッキから多色クリーチャーを1枚手札に加える。この4つだ。
「……俺はマナゾーンの『クローン・ファクトリー』と『超次元ミカド・ホール』を墓地へ」
「デッキから『
「……ククッ、ハッハッハッハァッ!」
天人は笑う。不敵に、尊大に、威圧的に。彩人は眉をひそめる。
「な、なんだ?」
「ククッ!貴様には足りないようだ……」
「なにが?」
「絶望だ!!イライラするンだよ、その眼の輝き!光に満ちた面がぁ!だが同時に待ち遠しくもある。貴様の光を、全て消し去るその時が!!」
「……できるかな?行け、グールでシールドを攻撃!」
「させるかぁ!ニンジャ・ストライク、『斬隠オロチ』を召喚!能力でグールをデッキの下へ送る」
グールが消される。ニンジャ・ストライク。それは種族にシノビを持つクリーチャーが持つ特殊な能力。それは相手のクリーチャーが攻撃またはブロックをした時、自分のマナゾーンに指定された数以上のカードがあれば、そのシノビをコストを払わずに召喚できる、というもの。そのターンの終わりにそのシノビは山札の下に置かれる。
「……くそっ。でもオロチの効果で、俺はデッキをめくって最初に出たクリーチャーを場に出せる。『光牙王機ゼロカゲ』を場へ。ターンエンド」
「ふっ。お前に遊ばせてやるのはここまでだ。これより、お前の攻撃は通らない。お前には、確実で深い絶望を約束してやろう」
「へっ、できるか?」
「ククッ。俺のターン、『黙示賢者ソルハバキ』召喚。手札とマナを交換。そして呪文、『超次元ドラヴィタ・ホール』!墓地の母なる星域を手札に加え、超次元ゾーンから『時空の霊魔シュヴァル』を場へ」
シュヴァルはエンジェル・コマンドとデーモン・コマンドを持つクリーチャー。しかも手札には母なる星域が加えられており、マナにはソルハバキの能力で恐るべきカードが置かれている。彩人は戦慄する。
「母なる星域を使う。ソルハバキをマナに送り、シュヴァル進化!全てを葬る闇の化身、『悪魔神ドルバロム』降臨!!」
「そ、そいつは……」
「登場時、闇以外のクリーチャーとマナを……全て破壊する!能力、超動ぉぉぉぉ!」
彩人の場のロマネスクとボルシャック・スーパーヒーローはどちらも闇ではない。13枚あるマナのカードも、半分以上が闇以外のカード。
「消え去れぇぇぇっ!ククッ、フハハハハァ!」
消えてゆく。彩人のクリーチャーが、マナが、希望が。場のクリーチャーは全滅。マナのカードは9枚墓地に送られる。
「で、でも、お前のカードだって……」
「俺のマナも2枚を残して全て墓地へ送られた。だが、ここでグレイトフル・ライフの能力が発動する!こいつが場から離れた時、俺は、墓地のカードを好きなだけマナにできる!」
「ま、マジかよ!?」
「しかもアンタップ状態でな。俺は墓地のカード全てをマナに置く。これで、計21マナ!」
「く、くっ……!」
彩人は顔を歪ませる。これまでの余裕は、完全に消えた。天人の顔には、歓喜の色がにじみ出ていた。
「クククッ、愉快だねぇ。どうやら約束は果たせそうだ」
「……」
「増えたマナ、存分に使うとしよう。エナジー・ライトで2枚引く。さぁらに!呪文『超次元フェアリー・ホール』で『タイタンの大地ジオ・ザ・マン』、『超次元シャイニー・ホール』で『時空の雷龍チャクラ』を場へ!」
チャクラは自分のターンのはじめに、自分のシールドの数が相手のシールドの数より多ければ覚醒する。
「チャクラを覚醒されるために、前のターンでシノビを使ったのか!?」
「そう。あの攻撃が通っていたら覚醒は難しかったからな。だが今は造作もない。ドルバロム、シールドを攻撃!
彩人のシールドが砕けていく。しかし、その中に一粒の光。
「シールド・トリガー、フェアリー・ライフ。1マナ増やす」
「雀の涙とはこのことか。まぁせいぜいあがいてみせろ。ターン終了」
「俺のターン……」
彩人はカードを引く。そして……。
「マナをためて……エンドだ……」
「……く、ククッ、フハハハハ!諦めたか。まだ、遅すぎたくらいだがな。このターンで、終わりにしてやる!チャクラ覚醒。出でよ、『雷電の覚醒者グレート・チャクラ』!
雷を身にまとった光のドラゴンが現れる。そして天人はジオ・ザ・マンの効果で、ターンのはじめにマナゾーンのカード1枚を手札に加えることができる。天人は『クローン・ファクトリー』を手札に加える。クローン・ファクトリーは、自分のマナゾーンからカードを2枚選び手札に加える、という効果を持つ呪文カード。
「そして俺のドロー。クローン・ファクトリーを使い、マナのドラヴィタ・ホールと母なる星域を手札に」
「……っ!」
「ドラヴィタ・ホール超動!クローン・ファクトリーを手札に戻し、ギャラクシーを場へ。そしてクローン・ファクトリーを使う。マナより『光牙忍ハヤブサマル』と『威牙の幻ハンゾウ』を手札に。この2体もシノビ」
「俺の攻撃は意地でも通さないってわけか……!」
「母なる星域。ギャラクシーを覚醒させ進化!再び降臨だ、聖霊王アルファディオス!!」
さっきと同じコンボで、キング・オブ・ギャラクシーの上に重ねられ、アルファディオスがバトルゾーンに置かれる。
「我が切り札、支配の王!改めて君臨だ。さらに『不滅の精霊パーフェクト・ギャラクシー』召喚!シールド・フォース!」
天人のシールドが輝きを放つ。シールド・フォースとは、自分のシールドを1枚選び、そのシールドがシールドゾーンにある限り、特定の能力を得られるというもの。
「このシールドがある限り、パーフェクト・ギャラクシーはブロッカーを得、場から離れる代わりに場にとどまる。不滅の壁だ。もっとも、こんなもの無くても俺の勝ちは揺るがないがな」
「……」
「もう終わりだ。アルファディオス、シールドを、最後の3枚を、T・ブレイク!!!」
悪魔神が彩人のシールドを砕く。1枚目も、2枚目も、光を放つことはない。そして最後の1枚……。
「……シールド・トリガー」
光が、放たれた。
「『スローリー・チェーン』!!」
純白の鎖が天人のクリーチャーの動きを止める。
「その能力でこのターン、クリーチャーは攻撃できない!」
「……ちぃぃっ!」
天人は怒りに震えるが、すぐに冷静になる。
「……なるほど、分かっていたというわけか」
「あぁ。ラスト・バイオレンスの能力で俺はデッキを見た。だから、何がシールドに入ってるかは分かってた」
「ふん。だから落ち着いてたわけか。しかし状況は良くなってないぞ」
「わかってるさ。でも、まだ諦めるには早かったろ?」
「……だが、次のターンで貯めてもお前のマナは7マナ。お得意のラスト・バイオレンスは撃てない」
「切り札はあれだけじゃないさ」
「ならば見せてみろ。お前の……最後のターンだ!」
「そうだな。さぁ、勝負だ!俺のターン……」
デッキに手を置く。このドローは重い。しかし、彩人は折れない。
「諦めないぜ、絶対に!このデュエマも、そして……」
「……」
「デュエマを好きでいることも!」
「……!」
「見せてやる、俺のデュエ魂!架けてやるぜ、勝利の虹!!ドロォォォォォォッ!!!」
石板が現れ、砕け散る。そしてその中から、黒いオーラに包まれた、彩人の切り札が出てくる。『魔龍バベルギヌス』のカード。しかしこれは闇文明のカード。アルファディオスのせいで召喚はできないが……。
「行くぜ。ソルハバキ召喚!その力で手札とマナを入れ替える」
「そんな雑魚で何ができる」
「へっ、あんただってこいつからドルバロムを呼んだじゃねぇか。俺にだって、それなりのことはできるぜ」
「ふん」
「行くぜ!呪文、『緊急再誕』超動!」
天人の目が見開かれる。驚きの様子を隠しきれていない。
「そのカードは……!」
「自分のクリーチャーを破壊し、マナの数以下のコストのクリーチャーを手札から出せる、というカード。光の呪文だ」
「しかも召喚じゃないからアルファディオスの影響も受けない……!」
「あぁ。ソルハバキを破壊し、バベルギヌスを場へ!そしてその能力でバベルギヌスを破壊」
バベルギヌスはクリーチャーを1体破壊し、破壊されたクリーチャーのプレイヤーの墓地からクリーチャーを1体場に出す。
「これも召喚じゃあない。そして俺の墓地には……」
「ドルバロムに破壊されたカードが……!」
「そーゆーこと。来い、『
「……くぅ!」
「そして墓地からドラゴンを場に出せる!バベルギヌスを出してまた破壊。その力で墓地からクリーチャーを呼ぶ。出番だぜ、俺の切り札!!『
ビカビカ輝く黄金のドラゴンが降臨する。ヴィオラ・ソナタの能力で、破壊された自分のドラゴンは全てシールドゾーンに置かれる。バベルギヌスはシールドになる。
攻撃を待ち構える天使と悪魔。それを見据える龍たち。大地鳴動し、今ぶつかり合う。
「『魂の呼び声』で、ハンターを3体デッキの上に仕込む」
「王牙に魂の呼び声……まさか!?」
「そのまさかだ!見せてやる、俺の必殺コンボ!王牙でシールドを攻撃!そして王牙が攻撃する時、こいつはタダで使える。『王牙秘伝ゴールデン・ビクトリー』!山札の上から3枚見て、その中からハンターかエイリアンを種族に持つクリーチャーを好きなだけ出せる!」
そして出たクリーチャーは全てスピードアタッカーになる。しかも魂の呼び声で仕込みは万全。彩人は3枚のカードを天人に見せる。
「さぁ、王牙に続け!『ボルシャック・スーパーヒーロー』!『
出現する強力ハンターたち。スーパーヒーローの登場時能力でジオ・ザ・マンが破壊される。そして、王牙が先陣を切る。
「狙うは当然、シールド・フォースで選ばれたシールド!」
「……チッ!」
天人は場をにらみつけ、思考を巡らせる。
「へへっ」
「笑うな!……少し考えさせろ」
「お前、このターンをどうしのぐが、必死に考えてるだろ?」
「当たり前だ!俺は絶対に……」
「諦めない、だろ?」
「……っ!?」
「勝つためにいろいろ考えたり悩んだりするのは、頭使ってスゲー疲れる。だけど、それはデュエマを楽しんでるってことだ」
天人は沈黙する。しかしその顔は暗くない。彩人はそれを見て、さらに続ける。
「しかも使うのが難しくて、自分が好きなカードを使って勝てたら、嬉しさ倍増だよな」
「……」
「アルファディオスもドルバロムも、スゲー好きなんだろ?」
「……なぜ分かる」
「わかるさ。だって、俺たちがやってるのはデュエマなんだから」
「デュエマ……」
「デュエマだよ。あんたが楽しんでれば俺にも伝わる。それがデュエマだ」
「……だが俺が倒したヤツは……」
「彩人ーっ!」
慌ただしい足音が響き、一人の少年が会場へ入ってくる。それは天人に敗れ、一度は逃げ出した少年。
「はぁ……はぁ……。頑張れ……頑張れ二人ともーっ!」
「……なぜだ?」
「デュエリストだからだ。あんたが本当は楽しんでたから、それがあいつにも伝わった。次こそは勝つんだって、悔しさを越えた楽しさに気づいたんだ」
「……悔しさを越えた楽しさ……」
消えてゆく。勝利だけへの執着が。そして見えてくる、新たな景色。
「そうだ。そうだった。俺がやっているのは、デュエマだった!」
天人は笑う。そして、悪魔神が王牙の前に立ちはだかる。
「ニンジャ・ストライクでハヤブサマル召喚!その力でドルバロムをブロッカーにし、ブロック!」
パワーは互いに13000。悪魔の手と龍の牙が同時に互いの体に突き刺さり、そして、共に消える。
「だが、無駄じゃねぇ!!」
「鬼流院 刃、攻撃!そしてその能力で、手札から進化ではないクリーチャーを、1体場に出せる」
天人の顔は険しくなる。彩人の手札は残り2枚。うち1枚は、ラスト・バイオレンスの能力で加えた偽りの王ヴィルヘルムだと分かっている。ヴィルヘルムは強力なクリーチャーではあるが、この状況で出たとしても、このターンで彩人を勝利に導くまでは不可能。ということはつまり、勝負は残りの1枚のカード。それが何であるのかが、勝負を決める。
「……」
「……来い」
「行くぜ。これが、俺の最後の1枚!それは、こいつだ!」
大地を包む炎の渦。それを吹き飛ばし羽を広げる、赤き龍。ヴィルヘルムではない。熱き血潮の龍が……。
「『
彩人の元へ舞い降りる。
「そんなカードを隠し持っていたとは……!」
「何が起きるか分からないのがデュエマ。切り札は思いがけない状況、最後の最後に登場するのさ」
「……だが、俺は諦めない!」
「望むところだ!」
「ニンジャ・ストライク、ハンゾウ召喚!スーパーヒーローのパワーを-6000、破壊!そして攻撃は、パーフェクト・ギャラクシーでブロック!」
パーフェクト・ギャラクシーのパワーは刃には及ばない。破壊される。しかしT・ブレイクは防いだ。そしてパーフェクト・ギャラクシーはシールド・フォースにより無敵。場にとどまる。
「ヴィオラ・ソナタで攻撃!これもT・ブレイカー!」
「グレート・チャクラで、ブロック!」
チャクラの方がパワーは上。ヴィオラ・ソナタは破壊される。しかし……。
「これでもうブロッカーはいない!リュウセイ・カイザー、シールドをW・ブレイク!!」
天人のシールドが砕ける。そして、砕けた2枚目が光を放つ。
「……シールド・トリガー、『DNA・スパーク』!お前のクリーチャー全てをタップし、俺のデッキの一番上をシールドへ」
まばゆい光がドラゴンたちの膝を折る。観客たちの中からは、勝負あったの声がする。しかし戦っている二人には分かっていた。熱き龍の血潮が、今確かに燃えていることを。
「アドレナリン・マックスの、能力……超動!!こいつがターンで最初にタップされた時、俺のドラゴンを、全て!アンタップするっ!!」
光を消し飛ばし、龍吠える。観客たちは沸き上がり、天人と彩人も笑う。
「……ふっ」
「へへっ」
「やるな。DNA・スパークをもってしても止まらないとは」
「ここでDNA・スパークを引いてくるなんてな。しかもまだシールドは2枚。どう?ここで諦める?」
「まだ早い、か。そうだな。まだ早い、早すぎる!」
「へへっ。アドレナリン・マックスで攻撃!」
シールドが砕ける。増えた1枚も含めた、最後の2枚。しかしもう、光が放たれることはない。
「……ふっ」
これで天人を守るものはなくなった。
「行くぜ、リュウセイ・カイザーで攻撃!」
リュウセイ・カイザーが空を裂き、勝利を目指して駆け抜ける。天人は手札に見、笑う。その顔は、どこか晴れ渡っているように見えた。
「
炎が躍り、天人を包む。これが本当の最後。この瞬間、彩人の勝利が決まった。
「無駄なことは喋ってないだろうな?」
「もちろん」
会場の一角。二人の男が話していた。そのうちの一人は、さっき彩人とデュエマし敗れたお兄さん。もう一人は、サングラスとマスクとニット帽と、不審者であると断定すること大賛成の見た目の人物だった。
「彩人くんに話したのは天人くんの事情だけ。他には何も」
「そうですか。あなたは今の十聖者に満足してないようでしたので、てっきり小言をこぼしてる、かと」
「まさか。ありえないですよNo.3」
No.3と呼ばれた男はサングラスを取る。そして、わざとらしく舌打ちしてみせた。
「老害が……」
「なにか言いました?」
「いえ。あっちは楽しそうですね」
二人の視線は彩人たちの方へ向かう。彩人は天人と握手し、楽しそうに笑いあっている。強敵と書いてともと呼ぶとはおおよそこのような感じなのであろう、と誰かに言わせられそうな雰囲気である。世間一般では微笑ましい光景とされるものだが、焦ることなかれ。そう感じない者もいるのだ。当該物件のひとつが、No.3と呼ばれたこの男である。彼は見るからに不機嫌であった。
「気になるんですか?」
「まったく」
「そうですか。ところで、君のデュエマはどうでした?」
「勝った。語るべき所はない」
「それは損でしたねー」
「……なに?」
「いやいや。今のデュエマはどうでした?」
「天人のヤツが不甲斐ない。それだけだ。運に身を委ね、結局負けた」
「そうですか?かなり惜しかったと思うけどね。DNA・スパークが入ってたのが3枚目のシールドだった場合か、最後の2枚にトリガーが入っていた場合、天人くんは耐えきれてきました」
「……運任せが無様だと言っている」
「委ねるに値する、低くない確率だったと思いますけどね。少なくとも、さっさと諦められるよりは我々の体裁が保てます」
男は舌打ちする。お兄さんは話題を変える。
「で、次の相手は彩人くん、と」
「結果は見えてるがな」
「そうですか?」
「あなたは随分ヤツをかっているようですね」
「そんなことは。でも油断大敵ですよ。まぁ、彼のことは君の方が分かってるんでしょうが」
「……デュエマの時間だ」
「いってらっしゃい。皆輝咲さん」
「……」
舌打ちし、男は去った。
「よし、次のデュエマも頑張るぜ!」
「おぉ!ファイトだファイト!」
「天人も応援してくれよな」
「……まぁ、暇だからな。その代わり……」
「必ず勝て、か?」
天人は笑う。
「……いや。必ず楽しめ。俺にデカい口たたいたんだ。諦めても許さん」
「はは。じゃあ、いってくる!」
彩人は歩き出す。
「……さっきは悪かった。ひどいこと言って」
「いや。悔しかったけど、でも、分かってたから」
「俺が楽しんでたことを、か」
「あぁ。いつか、あんたと同じくらい楽しんで、渡り合えるようになりたいって、本気で思った」
「……そうか」
「でも忘れたわけじゃねぇからな。いつか絶対負かして、見返してやる~!」
「ふっ」
二人の目は彩人に向けられる。彩人は震えていた。しかし恐怖の震えでないことは分かっている。待ち構えているのは未知の強敵。デュエマに対する緊張、興奮、胸の高鳴りが、楽しさになって、彩人の背中を押している。
「……よしっ!行くぜーっ!!」
彩人は走りだした。そして、高らかに叫ぶ。
「デュエマ・スタート!!!」
読んでいただき、ありがとうございました。
今回の話でとりあえず終わりです。気がむいたらあとで連載するかもしれません。あまり期待せずに待っていただけたら嬉しいです。では、さようなら。