不死終末黙示録 狩人篇   作:FROMG・E

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第十二話 【列聖の殉教者】

狩人が通路の半ばまで来た時、突如として空気に変化が訪れた。

 

今し方まで静まっていた雪の嵐が再び眼前を覆い尽くし、白い壁となって狩人の行く手を阻んだのだ。

 

強風に煽られ、棚引く亡者の装束をよく見れば、それは厚く垂らされた聖布であり、まさしく彼がかつての処刑隊の長、ローゲリウスに間違いないだろう。

 

狩人がローゲリウスに近付こうとした刹那、凍り付いた左手が、確かに動いたように見えた。

 

何かの錯覚ではないかという思考が過るが、それが処理されるよりも早く、眼前の亡者たるローゲリウスはゆっくりと動き始めた。

 

低く重い呻き声を上げながら肩の氷を剥がし、俯いた頭をこちらに向ける。

 

ぎこちない手つきで右に携えた大鎌へ手を掛けたその瞬間、ぴたりと吹雪がやんだ。

 

それを見計らうようにして、ローゲリウスは悠然と立ち上がり、大鎌を杖のように突きながら、じりじりと狩人の方へ歩みを進め始めた。

 

その時、どこかから響き始めた鐘の音はまた、彼の目覚めを祝福しているかのようでもあった。

 

「さあ、狩人よ。処刑隊の装束が纏う遺志のままに、弔いの狩りを全うしたまえ」

 

助言者の言葉を受けた狩人は落葉を変形させ、ローゲリウスの懐に飛び込み袈裟斬りを見舞う。

 

軽い、まるで空気でも斬るような感覚。

 

ローゲリウスは寸前で狩人の剣戟を躱し、そしてその背後から鎌を振るい、怨霊弾幕を発射し応戦した。

 

処刑隊の狩装束を怨念が包み込み、一時的麻痺を引き起こす狩人。

 

あの大鎌は恐らく、カインハーストの貴族たちを蹂躙したかつての得物であり、ゆえにその刃には夥しい返り血と共に、おぞましい程の怨念が宿っているのだろう。

 

そしてその怨念が、処刑隊に怨嗟の念を持つその怨霊達が狩人の背に圧し掛かり、動きを封じているのだ。

 

狩人は上位者の力を開放してぬるりと加速した後、怨霊を払い除け、ローゲリウスの振るわんとする鎌目掛け、長銃の一撃を撃ち放った。

 

体勢を崩し、膝を突くローゲリウス。

 

好機を逃すまいと落葉を構え、秘儀「古狩人の一閃」を繰り出した。

 

再び体勢を崩した所に、狩人は螺旋貫手による内臓攻撃を決行した。

 

干乾びた臓物と幾つかの骨が引き摺り出され、だがその一瞬の隙をローゲリウスは見逃さなかった。

 

いつの間にか、その左手には一振りのクリスナイフに酷似した形状の短剣が握られており、黒く輝くその波打ち歪んだ刃は、人の柔肌、そして血肉を引き裂く為のそれであり、大鎌と同様、おぞましい怨念を纏っているのが見受けられる。

 

そして短剣から真空斬撃波を飛ばしたローゲリウス、その一撃は狩人の腹を切り裂き、臓物を溢れ出させた。

 

すぐさま輸血液にて傷を癒す狩人、両者は後方へ飛び下がり、間合いを取る。

 

肉体が滅びてなお、ローゲリウスは優れた処刑隊の長たる古の狩人であり、その技術は狩人のそれに匹敵していた。

 

落葉に蒼く輝く粘液を纏わせた狩人は刺突の構えを取り、同時にローゲリウスも鎌に怨念を纏わせ、怨霊弾幕の構えを取る。

 

秘儀「加速螺旋刺突」と血族の怨霊弾幕が繰り出されたのは、ほぼ同時であった。

 

狩人は上位者由来の加速により弾幕を退け、蒼き粘液を纏った真空刺突波によって防御の構えにあった短剣を砕き、一層研鑽され、鋭い牙となった螺旋の威力を以て、亡者と化したローゲリウスの、骸と化したその肉体を粉々に破壊した。

 

【YOU HUNTED】

 

断末魔すら上げずに消滅するローゲリウス、彼はただ善くあろうと処刑隊を率い、最期まで人身御供を貫いた、まさに強者と呼ぶに相応しい古狩人の長であった。

 

ゆえに血族の守り人たる重石となった末路は冒涜に等しく、不死の呪いの開放は、影の英雄に相応しい慈悲の弔いなのだ。

 

骸は吹雪と共に虚空に掻き消え、その跡には黄金の、豪華絢爛の装飾の施された王冠が一つ、残るのみであった。

 

【幻視の王冠】

 

「さあ、狩人よ。この王冠を被りたまえ、女王に謁見する資格を得るのだ」

 

助言者によると、この王冠は幻を視る古い王の冠であり、血族の女王に謁見する為の秘密を破るカギであると言う。

 

ゆえにローゲリウスは血族浄化にあたり、この王冠を自ら被ったのだと言う。

 

もはや誰一人、穢れた秘密に触れぬように。

 

白骨になってもなおその責務を全うする最中、寒々とした玉座から、はたして何が見えていたのだろうか?

 

狩人は助言者の言葉に従い、長の兜を脱ぎ払って王冠を被る。

 

冷たさの残る黄金の冠から、殉教者ローゲリウスの遺志と共に、熱い血のようなものが体を駆け巡る。

 

すると、突然辺りを白い旋風が舞い始め、狩人の行く手を塞いだ。

 

霧状の氷粒が肉を強張らせ、返り血に塗れた装束をたちまちにして純白の霜色に染めてゆく。

 

数分後、雪と共に吹き荒れた旋風は収まり、狩人が凍り付いた瞼をそっと開くと、先程は見えなかった城の一角が姿を現していた。

 

今し方までは壁に覆われていたアーチ状の門も口を開き、薄明りを伴う虚空の穴はまた、来たる者を誘うように、妖艶な死臭を吐き出している。

 

狩人は凍える足を動かしてアーチを潜り、幻の塔内へ足を踏み入れる。

 

未知の空間へ入り込むと空気は一変し、それは淀みを湛えた冷たい死臭を漂わせる、魔性の瘴気であった。

 

謁見の間へと続く長い階段の両端の壁には、右足の欠損した騎士の像が上へ向かって延々と並べられていた。

 

「良い事を教えよう。かつて、古狩人達の間では、獣血は右足から這い上がると信じられていた」

 

その時、唐突に助言者が口を開いたかと思うと、かつてのカインハースト、ひいては狩人の歴史を語り始めた。

 

「同様にカインハーストでは、銀が悪意ある血を弾くともされ、それは古狩人達に歪んだ形で伝わった」

 

「あの老ゲールマンも、右足が義足だった」

 

「右足の話の源流が何処なのか、今となっては知る由もないが・・・ひょっとすると、ゲールマンはカインハーストの騎士だったのかもしれんな」

 

銀が悪意ある血を弾くという話を聞いて、狩人は吸血鬼と人狼の伝説を思い浮かべていた。

 

思い返してみれば、確かにヤーナムの獣たちも人狼のそれと酷似した外見を備えており、あながち遠からずの関係にあるのやも知れないと考えた狩人は、引き続き助言者の言葉に耳を傾けた。

 

「かくいう私も、あの月の魔物に左足を奪い取られている」

 

「だがしかし、私は過去に、月の魔物を一度殺しているのだよ。何ともおかしな話だが、それが真実だ」

 

「今にして思えば、あれが全てのはじまりだったのやも知れんな・・・」

 

<謁見の間>

 

「・・・訪問者よ」

 

数分後、階段を昇り終えた狩人が謁見の間に足を踏み入れた刹那、最奥の玉座より威厳のある、壮年の女の声が響いてきた。

 

「人無きとて、ここは玉座の間」

 

「故なくばそのまま去り」

 

「あるいは、我が前に跪くがよい」

 

謁見の間、その最奥に鎮座していたのは、禍々しい鉄面を被った、一人の女性であった。

 

狩人は両の掌より触手を伸ばし、戦闘の準備を整えたが、何とも信じ難い事に、体がひとりでに跪いたのだった。

 

それは催眠に似た動きであり、本能に直接働きかけるような、甘く濃厚な神秘の声がそうさせるのだろう。

 

狩人はただ静かに、甘き声の主たる女に従う他はなかった。

 

「・・・貴公、訪問者・・・星の香りの狩人よ」

 

「私はアンナリーゼ。この城、カインハーストの女王」

 

狩人を「星の香りの狩人」と称したその女は、名をアンナリーゼといい、どうやら彼女こそが、あの不死たる血族の女王に違いないようであった。

 

処刑隊の死体の懐に仕舞われた手記の内容と一致する現実に、狩人は納得の心持であった。

 

「フフフ・・・」

 

「血族の長。すなわち教会の仇」

 

アンナリーゼが何か言葉を続けようとしたその時、異変は起きた。

 

不意に背後から、おぞましいあの甘く芳醇な血の香りと共に、夥しい殺意の念が襲い掛かって来たのだ。

 

咄嗟に振り返ろうとするも、跪いた姿勢から動く事が出来ない。

 

「・・・何者だ?」

 

アンナリーゼが発した、静かで、覇気に満ちたその声を皮切りに、身体の拘束が解けた狩人が振り返ると、そこには車輪を手にした、鴉羽の狩人が立っていた。

 

悪夢の僻地で見た狩人とは異なる、人ならぬ雰囲気。

 

まるで、あの悪夢の獣のそれに酷似した雰囲気を醸し出す鴉羽の狩人は車輪を回し、おぞましい怨霊の念を現出させる。

 

「狩人、あれは人ではないぞ。腕をよく見ろ」

 

助言者の言葉を受け容れた狩人は腕を凝視し、そして気が付いた。

 

その腕は触手の如く蠢いており、更に、あの赤桃色の粘液を纏っていたのだ。

 

助言者も、狩人も、この男の正体を確信した。

 

それは、夢の垣根を超えて幾度も対峙してきた上位者の眷属、悪夢の獣である。

 

すぐさま落葉を抜き放った狩人はぬるりと加速し、人の身に成りすました悪夢の獣を秘儀「古狩人の一閃」にて一刀両断した。

 

狩人らしい絶叫の後、人型を成した獣は身を捩らせ、粘液を滴らせながらその身を変容させ始めた。

 

おぞましい紋様を這わせ、放射形状を為した偽狩人の瞳はどろりと蕩けて消え去り、背部より無数に蠢き立つ触手が顔を出す。

 

真二つに断たれた両の半身から零れ出た脳は地面を這い回った後、粘性を残したあの腕へと形を成し始める。

 

抜け殻の様に残った鴉羽の狩装束は、内側より血と油、桃色の粘液を分泌させる黒翼へ変わり、そして最後にあの、暗い穴をぽっかりと明けた仮面の如き顔と、鬣状の触手を形作り、天井に至る程に肥大化を始め、悪夢の獣が再び狩人の前に姿を現した。

 

耳を劈く金切り声を上げた悪夢の獣は、その痩せさらばえた拳で狩人を吹き飛ばし、アンナリーゼの眼前まで大きく跳躍した。

 

穢れた血族たるカインハーストの女王はまた、上位者と交わる事で赤子を生む因習があるとされ、ゆえに悪夢の獣は彼女を喰らうべく、この謁見の間に襲来したのだろう。

 

追撃、そして再び息の根を止める為に立ち上がろうとした狩人は、刹那、その身を走る閃光に苦痛の声を上げる。

 

足元を見ると、そこには小さな悪夢の獣が二匹掴まっており、黒獣の蒼き雷光を放ち続けていた。

 

ぬるりと加速しようにも、黒獣の蒼き雷光がその身を縛り付け、もはや意識を保つのが精一杯であった。

 

そんな狩人を放棄し、悠然と女王の前にその巨躯を曝け出した悪夢の獣は、一際大振りの爪を展開し、女王の鉄面を撫で回し始めた。

 

金属の擦れる音が謁見の間に響き渡り、それはまた、狩人の無常を嘲笑う獣の喜ぶ声を現すが如きであった。

 

「・・・無礼者」

 

「穢れとて、私は女王」

 

「礼儀を知らぬ獣風情に、賜う言葉など持っておらぬ」

 

「去るがよい」

 

絶体絶命と思われるこの状況に於いてなお、アンナリーゼは静かに、その気品と威厳に満ちた声で、悪夢の獣を圧倒した。

 

たとえ穢れとて、女王の威厳と気品は十二分に持ち合わせており、それは例え上位者をも食らう異形すら怯ませるのだ。

 

思わず女王の威圧感に押された悪夢の獣は、怒りの感情を剥き出すように威嚇し、吠え盛った。

 

アンナリーゼの威圧は、狩人の武力たる威圧を遥かに超える、本能に直結する血の畏れであり、それを許す事の出来なかった悪夢の獣は、赤桃色の粘性物質に塗れた舌状の触手を大きく伸ばし、心臓を貫き、臓物を纏めて引き摺り出した。

 

「その程度、我が命は終わりはせぬ」

 

「獣風情にくれてやる命など、ありはしないのだよ」

 

もはや瀕死の重傷にあっても、まるで痛みなど感じぬと言った風体と様相を以て、アンナリーゼは悪夢の獣に再び威圧の念を込めた声を放つ。

 

悪夢の獣が怒りの金切り声を上げたその刹那、衝撃音と共に血飛沫が舞った。

 

それと同時に狩人も足元の邪魔者を排除し、痺れの残る体を引き摺って玉座へ駆け寄る。

 

やがて揺れが収まり、埃と血煙の晴れたその眼前に広がっていた光景、それは怒りの頂点に達した悪夢の獣によって四肢を引き裂かれたアンナリーゼの肉塊であった。

 

身体を力任せに引き裂かれ、桃色の肉塊と燃えるように朱い穢れた生き血が、深紅の絨毯を極彩色に彩っている。

 

そして悪夢の獣は、絨毯に零れ染込んだ、血族の穢れた血を、そのおぞましい赤桃色の粘性物質で吸い出した後、まるで慎重に味見するかのようにじっくりと舐め啜り始めた。

 

助言者の引き留める声すら届く間もなく、蒼く輝く粘液を落葉に纏わせた狩人は大きく飛び上がり、秘儀の構えを取る。

 

だがそれを放とうとした刹那、再び眼前を覆い尽くす閃光により、地面に叩き付けられた。

 

一体何が起きたのか分からぬまま、狩人の意識はまどろみの底に落ちていく。

 

最後に見えた光景、それは大きく触手を逆立て、蒼き雷光を全身に纏ったまま煙の如く消えてゆく、悪夢の獣の姿であった。

 

数分後、目を覚ました狩人はだが、未だ痺れ、まともに動きを取る事が出来なかった。

 

先程、悪夢の獣を斬ろうとした寸前に撃ち放たれた、黒獣の蒼き雷光。

 

それは星を由来とする上位者を狩る獣の雷光であり、エーブリエタースの精霊を媒介として上位者へ為りかかった狩人の肉体を暫く留めるには、およそ十二分過ぎる威力であった。

 

数十分の後、ようやく体を動かす事に成功した狩人が女王の間へ急ぐと、そこに広がっていたのは、原型を一切留める事なく轢き潰された、アンナリーゼの僅かな残骸であった。

 

【女王の肉片】

 

辺りには、血桃色に彩られた臓器状の肉片が僅かに蠢くばかりであり、何を思ったのか狩人はその蠢く肉片を懐へ仕舞った後「狩人の確かな徴」を使用してカインハーストの城を後にした。

 

<狩人の夢>

 

そうして夢の屋敷へ戻った狩人は、人形の前で意識を失った。

 

「お目覚めですか、狩人様」

 

どれほどの時間がたったのだろうか。

 

気が付くと狩人は屋敷の中におり、人形の膝元に横たわっていた。

 

かつて、老ゲールマンの手により作られたという人形の腿はひんやりとして、だが不思議な柔らかさと共に、甘く芳醇な血の香りを纏っている。

 

「遺志をあなたの力としましょう。傷を癒してください」

 

人形はそう言って優しく狩人を起こし、輸血液を二本程打ち込んだ。

 

見る間に傷は癒え、更に力が体中に漲る感覚が身体を駆け巡る。

 

狩人は立ち上がり、お辞儀をする人形に向けて『連盟の誓い』で賛美の意を示した。

 

「目覚めたかね、狩人よ」

 

屋敷の外から手招きをする助言者の元へ向かった狩人は、彼の恐ろしい予想を超えた事実を突きつけられた。

 

「あの悪夢の獣だが、予想以上に強いと見える」

 

「あの青い雷光は黒獣、ローランを由来とする上位者殺しの力だ」

 

「あの獣、上位者に留まらず、獣の力すら得ていると見ていい」

 

狩人は助言者の言葉を受け、教室棟やカインハーストにて収集した資料を片端から読み漁り始めた。

 

当然、血の医療が本格的に発足する以前、ひいては医療教会の初期に穢れた聖血を持ち帰った後、医療教会との関わりを断ったカインハーストや、思考の瞳に上位者の道を見たビルゲンワースの資料にローランに関わる情報がある筈もなく、その光景は宛ら滑稽な道化師の様であった。

 

助言者はそんな狩人を尻目に、懐から葉巻を取り出した後、発火ヤスリで火を付け、静かに煙を吐く。

 

「フゥ・・・過去の資料をあてにし過ぎるな。不測の事態は、常に己の影に潜む」

 

「だが・・・」

 

葉巻を加えたまま車椅子を立ち上がった助言者は屋敷の中に戻った後、とある狩道具を持ってきた。

 

「火薬庫の力、そして血晶石。これだけは例外だ。たとえ不死の獣とて、無事ではいられまいよ」

 

それは、聖杯と呼ばれる神の墓にて見つかる秘宝たる「呪われた深淵の血晶石」を嵌め込まれ、規格外の力を秘めた回転ノコギリであった。

 

「さあ、持っていくがいい。貴公の落葉も相応にして凄まじいが、これはまた別格だ」

 

【回転ノコギリ】

 

狩人はそれがいかなる代物であるか、そしてどれ程の力を持っているかを、十二分に承知していた。

 

なにしろ、かつて人里の連盟にて、組織に属する狩人達の狩道具の点検・強化を一手に担っていた、その張本人であるのだから。

 

それは連盟の長、ヴァルトールともう一人、連盟直系の処刑人であり、常に赤目の大男の群れを率いていた狂気の狩人「妖狩りの処刑人、ヴィンツェンツ」が振るっていた狩道具であり、ゆえにその機構や弱点、強化すべき点など、全ての要素が頭に入っているのだ。

 

狩人はそれを受け取るや否や、作業台にて工房の道具を用いて分解掃除を始め、内部機構に何らかの装置を組み込んだ後、再び外へ出ていった助言者の元へ戻った。

 

「古い狩人の悪夢・・・あの辺境ならば、ひょっとすると、悪夢の獣の影響を受けていないかもしれん。調査に向かう事を勧める」

 

最後に助言者は、オドン教会の裏手へ行くよう指示した。

 

あの『血に酔った狩人の瞳』をアメンドーズに見せる事で、資格者を古い狩人の記憶たる悪夢の辺境へ誘うのだと。

 

そうして狩人が去った後、助言者は壁の隠し扉より一本の刀を取り出し、少し溜息を吐いた。

 

「・・・狩人が血族の武器を厭わなければ、これも渡せたのだが・・・」

 

それは、存在すら架空では無いかと噂される、血質に最も特化した血晶石を三つ填め込んだ、血質特化型の千景であった。

 

多くの地底人が終に完成させる事の無かった伝説の千景。

 

宇宙悪夢的に低い確率でしか見つける事の出来ないとされる、呪われた深淵に沈むとされる血質の血晶石。

 

それを嵌め込まれた千景の血質攻撃はまた、恐ろしい威力を誇るとされ、尋常の獣に用いればたちまちにして干乾びるほどの出血を強いるという。

 

<オドン教会>

 

その頃、狩人はオドン教会の裏手に張り付き監視する、アメンドーズの元へ辿り着いていた。

 

アメンドーズは『血に酔った狩人の瞳』を見ると、掌に小宇宙を展開した後、ゆっくりと腕を下に伸ばし始めた。

 

「よし。では狩人よ、アメンドーズに握り潰されたまえ」

 

狩人は助言者の言葉に従い、アメンドーズの掌に収まった。

 

『だから奴らに呪いの声を』

 

『赤子の赤子、ずっと先の赤子まで』

 

『すべての血の無きものたちよ』

 

意識を失う狩人の耳に届いた、謎の女の声。

 

正体も意図もはっきりとしないその言葉は、かつて古き悪夢の辺境へ誘われた罪人たちへ向けた、咎の言葉である。

 

やがて狩人は、血みどろの古い悪夢にて目を覚ました。

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