不死終末黙示録 狩人篇   作:FROMG・E

16 / 32
第十五話 【落葉を携えるもの】

狩人は開かれた扉の向こう側に続く階段を昇り、時計塔内部へ足を踏み入れた。

 

時計塔内部はかなり広く、天井には鐘が幾つも釣り下がっていた。

 

時計盤からは光が差し込み、暗く淀んだ時計塔内部を煌々と照らしている。

 

その時、時計盤付近の椅子前に、あの狐毛の女が立っているのが見えた。

 

椅子にはまた、落葉を携えた女狩人が足を組んで座っており、すぐさま彼女の正体がかの「マリア」である事を察知した。

 

「・・・ほう、訪問者とは。珍しいこともあるものだ」

 

不意に、マリアが静かな口調で言葉を紡ぎ始めた。

 

それは狩人に対してではない、あの、狐毛の女に対して発した言葉であった。

 

だが、狐毛の女は口を綴んだまま、一言として言葉を発しない。

 

それを意に介する事もないように、あるいは、狩人には聞こえぬ会話が繰り広げられているかのように、マリアは次々と言葉を紡ぎ始めた。

 

「貴公、教会の秘密を見てきたのだな」

 

「貴公、悪夢に彷徨う狩人よ」

 

「見たのだろう?英雄の獣、そして教会の、憐れな患者たちを」

 

英雄の獣とは恐らくルドウイークの事であろうか、マリアはあの実験棟や悪夢の惨劇を知っているような口ぶりで言葉を紡いでゆく。

 

助言者曰く、彼女は最初の狩人、助言者ゲールマンに師事した古い時代の狩人の一人であるといい、医療教会の設立や、この先に広がる、狩人の罪の秘密にすらも関与していたらしい。

 

「・・・そして、殺した・・・」

 

マリアは僅かに哀れみにも似た、負の感情を込めた篭り声でそう言った後、机の上のグラスに注がれた赤い飲み物をぐいと飲み干す。

 

「ああ、責めはしない」

 

「あれらは悪夢に囚われた、それもひとつの救いだったろう」

 

「それで、どうだ?」

 

「貴公、何か得るものはあったのか?」

 

マリアがそう問いかけた瞬間、狐毛の女は紫焔の九尾を昂らせながら、ようやく、ただ一言口を開き、言葉を紡いだ。

 

「何もない。月光の糸なる剣の他には、ただ罪の痕を覗き見たのみ」

 

狐毛の女はそう言って月光の聖剣を静かに抜き放ち、光波を纏わせる。

 

「・・・そうだろうな」

 

「悪夢など、また悪夢の抱える秘密など、所詮はそういうものだ」

 

「だが、ならばもう、この悪夢を離れたまえ」

 

「獣の狩人、ゲールマンの思いを知るものならば」

 

マリアがそう言った刹那、助言者より静止の言葉が掛かる。

 

だが狩人はそれを無視し、再び彼女らの会話を盗み聞き始めた。

 

「・・・貴公の敵はここにはない」

 

「そして、この部屋の遺物は選別だ」

 

「貴公の力にするとよい。そして狩りに戻りたまえ、狩人よ」

 

そう言ってマリアは静かに目を閉じ、だが一向に離れぬ狐毛の女に違和感を覚えたのか、再び話し始める。

 

「・・・どうした?狩りこそが、狩人の使命だろう?」

 

「それとも、まだ何か求めているのか?この悪夢の奥に」

 

「そう、たとえ、私を殺してでも・・・」

 

狐毛の女は静かに口を開き、殺意の波動を放ちながら言葉を紡ぐ。

 

「やつしのシモンなる狩人より、時計塔のマリアを殺せとの命を賜った」

 

「マリアとは、貴様の名であろう」

 

その瞳から発される強烈な殺意は波動となって部屋を包み、それはまた、眼前に対峙していない狩人にまで伝播するほどの、おぞましい色の「呪い」にも似た感情の波であった。

 

「・・・ほう、貴公、恐ろしい目をしているぞ」

 

「フフッ・・・フフフフッ・・・」

 

マリアは不敵に微笑みながら狐毛の女の瞳をじっと見据え、言葉を紡ぐ。

 

次の瞬間、両の掌より眩い月光波が迸ったかと思うと、時計塔一帯を轟音と共に衝撃波が走り、狩人は思わず後方へ吹き飛ばされ、意識を失ってしまった。

 

気が付くと狩人は、時計塔入口付近の燭台に凭れ掛っていた。

 

「おお、生きていたか。随分目覚めが遅かったのでな、死んだかと思ったぞ」

 

助言者は茶化してくるが、狩人には何が起きたのか、全く理解が出来なかった。

 

辺りを見回すと、あの狐毛の女は消えており、椅子に座ったマリアは血を流し、既に死亡していた。

 

遠眼鏡を用い、死体を詳しく観察してみれば、左手からは半ば鈍ったような赤色をした死血が一定の間隔で滴り落ちており、マリアの端正な顔つきと相まって、宛ら芸術の如きであった。

 

椅子の横には小さな八角形の卓が置かれており、盃の中には先程飲み干したはずの、赤い液体が並々と注がれていた。

 

狩人はマリアに接近した後、ゆっくりと手を伸ばす。

 

先程月光波を受けたとは思えぬほど奇麗なままのマリアの死体は、甘く芳醇な血の香りをいっぱいに漂わせており、だがそれは鮮度の高い、生者の血の香りであった。

 

何かに気が付いた狩人は、すぐさま死体から離れようと後ろへ飛び下がろうと足を浮かせる。

 

刹那、体勢を崩す程の勢いでマリアが腕を掴んだかと思うと、抵抗の意志も空しいまま、その顔を眼前まで引き寄せられた。

 

その腕力は到底女の膂力とは思えず、上位者の加速を以てしても振り解けなかった。

 

マリアは狩人を引き寄せると、甘く優しい声で静かに囁きかける。

 

「死体漁りとは、感心しないな」

 

その声は血族の女王アンナリーゼを思わせる魔性の囁きであり、同時に、懐の内臓が熱く蠢くのを感じ取った。

 

そして何を思ったのか、不意にマリアはゆっくりと手を離す。

 

反動で転びそうになった狩人は思わず後退り、警戒の構えに入った。

 

僅かに笑い声を上げたマリアは椅子脇から落葉を取り出し、ゆっくりと、だが美しい所作で立ち上がり、こう言葉を紡ぐ。

 

「だが、分かるよ。秘密は甘いものだ」

 

「だからこそ、恐ろしい死が必要なのさ」

 

「・・・愚かな好奇を、忘れるようなね」

 

そして、落葉に力を徐々に込めながら両手を掛けて変形音を鳴らし、警句にも似た言葉で平穏を締め括った。

 

落葉を持つ狩人の、死闘が始まった。

 

狩人はすぐさま落葉を抜き放った後、変形させて構えた。

 

マリアの出方が分からぬ以上、一旦距離を取って挙動を伺うしかない。

 

だが、そうしているうちにもマリアは体勢を崩す事なく、ゆっくりと間合いを詰めながら静かな足音で歩み寄って来ていた。

 

互いに距離をじりじりと詰めてゆき、やがて双方の間合が重なった。

 

最初に刃を放ったのは、マリアであった。

 

両の刀を肩の位置で交差させたまま両袈裟斬りを繰り出すも、間一髪の処で刃を受け流されてしまう。

 

「流石にこれは避けたか、だが次はどう出る?」

 

助言者は狩人の凄まじい反射神経が織り成す驚異的な身体能力を評価しながら、マリアの次の手をじっくりと観察していた。

 

一方の狩人は好機を逃すまいと、間を置かずに秘儀『古狩人の一閃』を繰り出した。

 

だが、刃の速度が亜光速に匹敵するその一閃を、マリアは"見て"躱した。

 

これまでに居合の一閃を躱した存在はなく、眼前の敵はまさしく「古強者」に相応しい実力者であると見える。

 

そしてそのまま背後に回られた狩人は、マリアの乱れ付きを真面に食らい、思わず膝をついた。

 

「流石は、ゲールマンの弟子といった所か。狩人が勝つのは当然として、この戦い・・・」

 

実力を読み違えたと考えた狩人は、落葉の刃に己の粘液を纏わせ、群青色に輝く神秘の刃を作り上げた。

 

「面白い」

 

助言者は匂いたつ血の酒を呑みながら一人観戦者を気取り、楽しそうに勝負の行く末を見ていた。

 

刹那、時計塔の中央にて狩人とマリアの刀がぶつかる。

 

金属音と共に互いの刃が擦れ合い、まさに死闘の如きであった。

 

狩人は刃を前へ押し、マリアの落葉を弾いて体勢を崩し、そのまま袈裟斬りを放って胴に傷を入れる。

 

温かな鮮血が飛び散り、再び懐が熱を帯び始めた。

 

そして右腕に螺旋の力を込めて貫手の形を取った後、奥義『螺旋波紋貫通打』を繰り出し、内臓攻撃と共に長く伸びる臓腑を腕に巻き付け、引き摺り出してマリアを蹴り飛ばした。

 

狩人は熱い血に塗れた内臓鞭を振り回し、マリアの落葉を絡め捕って椅子奥目掛け、槍投げの要領で投げ飛ばした。

 

すぐさま輸血液にて傷を癒し、加速を用いて落葉を奪取するマリア。

 

そして、再び狩り道具を絡め捕ろうと伸び来る臓物鞭をエヴェリンにて撃ち弾き、体勢を崩した狩人の腹部へ落葉を突き立て、内臓攻撃を繰り出してきた。

 

狩人も負けじと上位者の触手を伸ばしてエヴェリンを掴み取り、粉々に破壊してしまった。

 

だが、銃火器の喪失に際してもマリアは冷静であった。

 

大きく後退したかと思うと、変形させ二刀と化した落葉を己の胸中へ突き立て、赤黒く染まり、歪んだ緋色の血刃を作り出したのだ。

 

光沢を放つその刃文は鈍虹色の渦が浮き出しおぞましく彩られた、見紛うはずない誠の緋色たる血刃であった。

 

かつてマリアが厭ったとされる血刃、カインハーストの騎士や、人里の連盟員が好んだ、おぞましき獣の隣人たる血刃。

 

血の力ではなく、高い技量をこそ要求する名刀たる落葉を握る筈の彼女は、今この瞬間、砂塵の様に消え去った。

 

一切の躊躇なく血刃を振るうマリアに、もはや業の狩人としての誇りは残っていないのだろうか。

 

深く絶望したその時、狩人は思い出した。

 

人里の連盟、資料室に仕舞われた「狩道具目録」に記された一節を。

 

"だが彼女は、ある時、愛する「落葉」を捨てた。暗い井戸に、ただ心弱きが故に"

 

以前は疑問の残る壱節であったが、眼前の現象を見て初めて納得した。

 

ただ心弱きが故に、彼女は分身たる落葉を手放し、厭った筈の、禁忌たる血の力に手を出したのだろう。

 

ゆえにマリアが握る落葉は既に「落葉」ではない、似姿を象っただけの、おぞましき偽物である。

 

狩人は再び立ち上がり、より強固な、群青色に輝く神秘の刃を形作り、マリアに切先を向けた。

 

かつては同じ「技量」こそを要求する名刀を振るった先人として、名誉ある弔いの介錯を執り行おうとしていた。

 

狩人がマリアをここで殺したならば、彼女の名誉は秘かな秘密として、誰にも汚される事はないのだから。

 

これこそが「遺志継ぎの狩人」の党首である悪夢の狩人の矜持であり、慈悲と葬送を伴う弔いの刃でもある。

 

狩人は地を強く蹴り、天井に釣り下がる鐘の上に着地した後、秘儀『古狩人の一閃・流星』を繰り出した。

 

上空へ飛び上がった後、神秘の粘液を纏った居合斬りを繰り出すその秘儀は、まさに流れ落ちる星を現す流星の剣技であり、見る者を魅了すると同時に、驚異的な威力をすら誇る完璧な業である。

 

思わず冷や汗をかいたマリアは加速を用いて軸をずらし刃を避け、落葉を振り血刃を放つ事で、神秘の粘液纏う真空斬撃波を部屋の隅へ弾いた。

 

弾かれた斬撃波は棚を破壊し、塵の煙幕を広げる。

 

刹那、マリアの首筋をぬめりとした感触が伝った。

 

首元に視界を移すと、そこにはあの、群青色に輝く狩人の刃があり、今にも首を撥ねんとする位置まで迫っていた。

 

狩人は斬撃波を放った時、避けられる可能性とその対処を想定し、実行していた。

 

体内から秘薬を分泌して透明化し、マリアの隙を作ったのだ。

 

首の柔肌に神秘の群青刃が食い込み始め、だがマリアは焦りを見せずに加速し、狩人と距離を取った。

 

そして、マリアは落葉を突きの構えに固定し、切先に手を当てた。

 

後に狩人が名付けたその業の名は、秘儀『古狩人の刺突』。

 

マリアは落葉より放たれる血の刺突波を放ち、狩人の右腕を捥ぎ取った。

 

それは、刺突の業を研鑽し、高め、無駄のない関節連動に依る威力増幅、そして最後に純粋な加速を乗せる事で生み出される究極の一撃であり、貫通力は通常の刺突攻撃を遥かに上回る、まさに完璧な古狩人の奥義であった。

 

抉り取られた傷口は深く鋭い跡となり、剥き出した組織片と骨からは、血が滝のように零れ出している。

 

ほんの数瞬避けるのが遅ければ、半身諸共消し飛んでいた事が容易に伺える威力である。

 

狩人は落ち着いて輸血液を打ち、右腕を復元させた。

 

刹那、迸る閃光と共に、蒼と緋の刃が弾け合う。

 

マリアと狩人は互いに膂力を拮抗させ、刃同士が重なり合ったまま動かない。

 

熱く燃えるような血刃と、冷たく流れる粘液刃が絡まり合い、神秘の煙となって二人を包む。

 

狩人は不意にマリアを突き飛ばし、後方へ大きく飛び下がった。

 

間を置かずに追撃を図るマリア。

 

狩人は静かに目を閉じて落葉を変形させた後、居合の構えを取り、秘儀『古狩人の一閃』を繰り出した。

 

回避の隙すら与えない、神速の一閃。

 

一直線に撃ち放たれた群青色の斬撃はマリアの腹をばくりと斬り裂き、狩装束の隙間より、血塗れの臓腑を濁流の如く溢れさせた。

 

刹那、狩人の両足も噴水の如く血を吹き出し、触手を絡め何とか持ちこたえた。

 

満身創痍の双方、輸血液を打つ事で致命傷は塞いだものの、呼吸は荒くなり始め、限界が近い事に変わりはなかった。

 

だが、どちらも相手に休息の隙を与え、呼吸を整えさせるような愚行はすまい。

 

ゆえに緊張状態の解けない双方は睨み合ったまま、ただ回復の兆しの見えない緊張の間を過ごす他はなかった。

 

刹那、マリアは周囲に飛び散った数多の鮮血を自身の周囲に集合させた後、それを血の刃に変えて一気に放出した。

 

狩人は大きく後ろへ飛び下がり、血の刃を躱す。

 

地面に散った血液は焔を纏っており、この時ようやく、マリアが血族の傍系である事を悟った。

 

先程から懐で熱く熱を帯びていたのもアンナリーゼの肉塊であり、それはまた、血族の末裔たる香りに強く惹かれていたのだろう。

 

そしてマリアが大きく刃を振るうと、飛び出した血の斬撃波から焔が地を這う蛇竜の如く現出した。

 

燃え盛る血は狂熱を現し、穢れた血族が持つ血の特性でもあった。

 

それはカインハーストの資料にて知った情報であり、同時にそれは呪いでもあるとされていた。

 

「最後の炎だ。気を抜くな、狩人よ」

 

助言者の声援に応えるように眷属の死血を絞り飲み、三度神秘の刃を形作る。

 

より強固な刃と化した群青色の粘液には暗黒宇宙の色が映し出されており、奥には無数の瞬きたる星雲が輝いていた。

 

狩人は天井へ大きく刃を振るい、流星群の如き神秘の光を斬撃波から現出させた。

 

神秘の光は流星群となって地面へ降り注ぎ、退路を徐々に奪ってゆく。

 

するとマリアは空中へ飛び上がり、螺旋を描きながら斬撃波を繰り出して流星群を打ち消した。

 

狩人も同時に飛び上がり、袈裟斬りによる螺旋の斬撃波を繰り出す。

 

互いの斬撃波が空中にてぶつかり合い、弾けては消えてゆく。

 

そしてそのまま、彼らは十数秒に渡って空中にて刀の弾き合戦を行い、再び地に降り立った。

 

互いに息が上がり切り、残された力はあと僅かだろう。

 

狩人は最後の大技に入るべく、落葉を居合の型に構えた。

 

ゆっくりと息を吐き出し、同時に力と呼吸、意識を整える。

 

マリアも同じく、先程右腕を抉り抜いた刺突奥義の構えにて秘儀を迎え撃つ準備に入った。

 

双方の間を旋風が舞い、渦巻く霞が頬を撫でる。

 

暫くの時が過ぎ、先に動いたのはマリアの刃であった。

 

マリアは最後の力を全て振り絞り、炎蛇の如き焔を纏った刺突攻撃を繰り出した。

 

「!」

 

血を纏った真空刺突波に蛇の如く炎が纏わり付き、それに追従するようにマリアの牙が狩人の心臓目掛け襲来する。

 

その時狩人は何を思ったのか、居合の構えから落葉の短刀部分を取り外し、襲い来るマリアの焔纏いし刃を弾き飛ばした。

 

突然の事に思考が追い付かず、動きが止まるマリア。

 

その一瞬の隙に狩人は落葉の柄頭を繋ぎ直し、秘儀『古狩人の一閃』を繰り出した。

 

数秒の間の後、マリアの首や腹から群青色に輝く神秘の粘液が零れ出した。

 

長きに渡る死闘の、決着の瞬間であった。

 

思わず息を吸い込み、悶え苦しみ出したマリアはやがて天に腕を掲げながら、霧と共に消えた。

 

【YOU HUNTED】

 

狩人は『連盟の誓い』による弔いの意を示し、その数秒後、思わず吐血したかと思うと心臓の辺りに痛みが走り、炎と共に肉が弾け飛んだ。

 

マリアの刺突の残滓の、最後の抵抗であった。

 

弾いてなお肉体を砕くそれを、果たしてまともに食らっていればどうなっていただろうか?

 

その時、恐らくは狩人の敗北に相違なく、瀕死に於いてなおその威力の業を繰り出すマリアは、まさしく優れた狩人であった。

 

「弾いてもなお、威力は残る、か。まともに食らっていれば、上半身程度は消し飛んでいたな?狩人よ」

 

助言者は乾いた笑い声を上げ、狩人をからかう。

 

その後、恢復剤を打ち込んで肉体を修復した狩人は時計盤を見て、奇妙な文様が刻まれている事に気が付いた。

 

それはカレル文字であるようで、仔細の分からぬ狩人は助言者に教えを請いながら、それぞれの解読を始めた。

 

「深海」「湖」「淀みのような何か」「オドンの蠢き」「姿なきオドン」「導き」「瞳」「月」「拝領」「輝き」「不明」「狩り」「獣」「獣の抱擁」の14個であった。

 

その中でも二つ程、正体不明のカレル文字が存在し、こればかりは助言者にも判らないという。

 

恐らく、それら2つのカレル文字は古い時代に見出され、後に禁忌に列したカレル文字、あるいは抹消されたものである可能性が高いという。

 

その時、時計塔が揺れ始めたかと思うと、眼前の時計盤が稼働を始めた。

 

「な、星見盤もなしに動き出すとは・・・狩人よ、誰かの姿が見えるかね?」

 

助言者が戸惑いを見せる中、狩人の視界にははっきりと、狐毛の女が円盤を時計盤に掲げる姿が映し出されていた。

 

十数秒後、ようやく時計盤が止まった時、そこには外へ続く道があった。

 

「その先にこそ、かつてのビルゲンワースが犯した罪の痕がある」

 

「さあ、足を踏み出して秘密を拝領したまえよ」

 

狩人は祭壇を乗り越え、雨の降る外地へ静かに足を踏み出した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。