不死終末黙示録 狩人篇   作:FROMG・E

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第十八話 【赤い月、青ざめた血の空】

<隠し街ヤハグル>

 

数分後、狩人が目覚めると、眼前にはおぞましい光景が広がっていた。

 

形容し難い色に染まり、青ざめたような禍々しい色をした空。

 

そこに浮かんだ紅い月はおぞましい光を放っており、だが狩人には既視感があった。

 

あの日、幻想郷に異形の妖が大量出現した日。

 

その日の月の色も今と同じように赤く大きく輝いており、血をざわつかせるような光を放っていた。

 

辺りの塔には一面に大型のアメンド―スがへばりついており、助言者曰く、あれこそがアメンドーズの成体であるという。

 

街のあちこちには赤い獣が徘徊しており、まさに悪夢の光景であった。

 

「月の香りの狩人。此処は何処だ?」

 

不意に、背後から声がした。

 

後ろを振り向くと、そこには純狐がおり、彼女は困惑している様子だった。

 

「貴公、星の香りの狩人よ」

 

同時にアンナリーゼも話し始める。

 

「先程も申したが、あの心臓こそが悪夢の核」

 

「なればこそ、人を夢に導くは必然と言えるだろう」

 

狩人は純狐に対し、アンナリーゼの所見を狩人自身のものとして述べた。

 

「悪夢の心臓が核となり、ここへ・・・」

 

「俄かには信じ難いが、眼前の光景。これが真実か」

 

純狐も納得したようで、一足先に進みだしていた。

 

狩人も追従するように走り出し、助言者の言葉に従いながら道を切り開くべく先頭へ飛び出した。

 

階段を下りていった先には建物の入り口があり、その前には巨大なアメンドーズと、無数の赤い獣たちが屯していた。

 

赤い獣の排除を純狐に任せ、狩人はアメンドーズの首を、獣の爪を展開して斬り落とした。

 

そうして建物の内部へ侵入した一行は、鐘を鳴らす老婆のような喪服を纏った女に遭遇した。

 

「狩人、鐘女だ。奴が赤い獣を召喚している・・・」

 

助言者が言葉を言い終わる前に。純狐は掌から月光の弾幕群を発生させ、周囲の赤い獣ごと鐘女を消滅させた。

 

「助言者よ、これで良いのだろう?」

 

腕に付いた血飛沫を払い落としながら純狐が静かに呟く。

 

どうやら助言者の声は、彼女にも聞こえているようだ。

 

「暗いな・・・少し待て、月の香りの狩人よ」

 

「純粋な太陽の光」。

 

不意に純狐が何かを呟いた途端、一項の頭上に赤く輝く巨大な光球が飛び出し、辺りを昼間のように照らし出した。

 

どうやら彼女の異能は、あらゆる概念を「純化」して力とする事が可能であると言い、それは頗る驚異的な能力であると狩人は内心ながらに考えていた。

 

鍵のかかった鉄格子を破壊して先へ進むと、そこは行き止まりの通路であり、死体の傍には一枚の手記が落ちていた。

 

【メンシスの儀式を止めろ。さもなくば、やがて皆獣となる】

 

メンシスの儀式という言葉は恐らく、以前拾った手記に書かれていた「狂人どもの儀式・悪夢の儀式」と同義の一節に相違なく、だがそれは秘匿の蜘蛛により隠されていたと書かれている。

 

それが月を呼び、今こうして復活しているのは、狩人が秘匿を破った事により再び儀式が復活した事に他ならず、それを止める為には「赤子」なる存在を探し、泣き声を止める必要があるのだと。

 

そうして道なき道を進み、広場を抜け鐘女の群れを蹴散らした一行は脇道を降りた先の隠し通路から建物内へ再び入り込み、飛び降りた先は牢屋の中であった。

 

牢屋の中央には椅子があり、そこには一体の干乾びた遺体が放置されていた。

 

いかなる最期を遂げたのだろうか、安らかならざる死に顔を浮かべた遺体は聖歌隊員の装束を纏っており、手には鍵が握られていた。

 

聖歌隊の装束はまた、狩人の同胞たる「遺志継ぎの狩人」の一人「歴史の探究者、村木」が好んでいた装束であり、彼はだが隠された闇を探る最中、狂った血の狩人に殺されるという悲劇の末路を辿ったのだ。

 

【上層の鍵】

 

「狩人よ。それは上層の鍵、聖歌隊の拠点に近づくものだ」

 

助言者曰く、この鍵はオドン教会の上層、例の施錠された扉の先へと進む為の鍵であると言う。

 

そして聖歌隊の本拠地たる上層にこそ、彼らの秘匿した神秘の聖体「エーブリエタース」が祀られているのだと。

 

その時、牢の外で轟音が響き渡り、鉄格子が地響きと共にぐにゃりと歪んだ。

 

「狩人、牢を蹴破り、外に出たまえ」

 

「位置は遠いが、此処は記憶。恐らくは近い筈だ」

 

助言者の言葉に従い、鉄格子を小アメンの腕で引き裂く狩人。

 

狩人と純狐が牢を出た後、建物内を暫く進むと、アメンドーズ像の下に辿り着き、その下へ続く広場には三人の古狩人と思しき影が徘徊していた。

 

三人の古狩人は皆、ヤハグルの狩装束を身に纏い、その内の一人は「獣の爪」と呼ばれる、不死の黒獣の骨を削り出した狩道具を腕に縫い付けており、血に酔った狂人である事は疑いようもあるまい。

 

ちなみに狩人の展開する獣の爪とは、言葉のままの意味を表す獣の如き大鈎爪であり、この狩道具は全くの無関係である。

 

狩人は広場へ足を踏み入れた後、獣の爪を縫い付けた古狩人を秘儀『エーブリエタースの呼び声』にて叩き潰した後、その死体を操って残りの狩人たちを相手取った。

 

その内の一人は純狐の弾幕によって肉塊となり、最期の狩人も獣の爪により内臓を引き摺り出されて殺害された。

 

そうして一行は外へ繋がる小さな門を潜り、外へ足を踏み出した。

 

門の先はヤハグルの下層街であり、階段下から、無数の死体を溶かし寄せ集めたような、骸の異形が襲い掛かって来た。

 

狩人は落葉を構え、純狐は超高密度の月光弾幕を展開し、骸の異形に向けて撃ち放った。

 

骸の異形はあっさりと倒れ、塵芥と化して消滅した。

 

下へ階段の続く広場には骸の明かりが金色の炎を灯しており、その足元には手記が落ちていた。

 

【見たまえ!青ざめた血の空だ!】

 

助言者曰く、これこそが狩人の求める「青ざめた血」の一つであると同時に、儀式の始まりを告げる先触れの空であるという。

 

付近に何台か放置された馬車の裏手には、鉄兜と荒縄を纏った、ヤハグルの狩装束を着た狩人の遺骸があった。

 

「メンシス学派の信徒、ヤハグルの人さらい。狩人とは所詮、名ばかりよ」

 

ヤハグルの狩装束はまた、鏖殺の狩人たちが最も好んだ狩装束の1つであり、それはまた、荒縄と鉄兜により蟲が目の中に散るのを防ぐ効果に加え、未熟な連盟員にとって生命線と言って差し支えない、物理攻撃に対する防御効果を一定値以上保証する重厚さを兼ね備えた、極めて優秀な装束であった事に他ならない。

 

街の壁には、逃げ惑う者達の石化した遺体が埋まっており、皆、恐怖で顔が歪んでいた。

 

助言者曰く、ヤハグルの民はメンシス学派の手に掛かり遺志を奪われ、そして皆「石」となってしまったのだという。

 

そして解けたように固まったその所以は、赤い月の接近にあるという。

 

赤い月の接近は人の境を曖昧にし、それは人を獣に導くのみならず、人間が個を識別する為の「境界線」すらも曖昧にし、それゆえに皆、自我を失い肉体は蕩け、やがて全てが混じり、融合し合うのだと。

 

先程の死体の寄せ集めも、赤い月によって死体の境が曖昧になったが故の産物であるらしい。

 

では、その遺志はどこへ集められたのか?

 

全ての答えは最下層広場に行けば、明らかになるという。

 

そして狩人と純狐は、助言者の言葉に従い道を進み、やがて最下層広場へ足を踏み入れた。

 

ここにヤハグル民の遺志が集められたというが、腐臭の他は何も感じ取れない。

 

次の瞬間、周囲を囲む建物から鐘の音が聞こえ始めたかと思うと、尋常ならぬ血の香りと共に、おぞましい存在の接近の気配が近づいてきた。

 

「これは、生きているのか、死んでいるのか」

 

不意に純狐が、上空の赤い月を指差す。

 

狩人が顔を上げると、そこには黒い靄から這い出して来んとしている、形容し難い異形の化物が佇んでいた。

 

異形は腐臭漂う灰色の肉汁を垂らしながら地上に迫っており、尋常ならぬほどの遺志を集めた産物とは、すなわちこれであるという。

 

人の死体を繋ぎ合わせて形成されたであろう異形の化物はまた、手足や胴体が指や腕、首、足ならぬ足を構成しており、首は蕩け腐った人肉で頭蓋を融合させ、造り上げられていた。

 

そして気が付くと、周囲の建物の廊下には鐘女と呼ばれる魔女たちが立ち並んでおり、皆一様に一方向へ視線を定めながら、引切りなしに鐘を鳴らしていた。

 

「・・・死穢を纏う者は容易く殺せよう」

 

純狐は死を純化した弾幕を鐘女に向けて撃ち放ち、殺害した。

 

「再誕者、メンシス学派の生み出した儀式の産物だ」

 

「上位者を人工的に作り出そうとした、その成れの果てさ」

 

「いわば破綻した計画の、憐れな末路とも呼べる、腐り切った骸の異形にすぎない」

 

助言者曰く、再誕者とはメンシス学派が悪夢との交信、ひいては上位者との交信の為に産み出した失敗作の一つであるという。

 

メンシス学派は悪夢の上位者たる赤子を求め、ヤーナムの人をさらい、死体を繋いで上位者の赤子を再現しようとしたのだろう。

 

その製法もまた、赤い月に依る境界の融合によるものであろう事は容易に想像ができる。

 

だが、いざ完成したものは出来損ないであり、悪夢の上位者とはなり得なかった。

 

狩人は思考を巡らせながら落葉を構え『古狩人の一閃・連撃』で再誕者の手足を斬ってゆく。

 

元が人間の死体であるが故か、再誕者は呆気なく死に傷を負い、鈍く泡立つ断末魔を上げながら腐臭漂う肉汁と臓物を撒き散らして融解し、斃れた。

 

【YOU HUNTED】

 

続いて狩人は、聖歌隊の本拠点たる上層を目指すべく悪夢の獣の心臓を強く握り、〈オドン教会〉の文字に触れ、純狐の手を握ると共に意識を落とした。

 

<オドン教会>

 

数分後、オドン教会の上層扉前にて一行は目覚めた。

 

狩人は鍵を開け、金の装飾の施された華美な扉をゆっくりと押し開けた。

 

<聖堂街 上層>

 

階段を昇った先には、恐るべき光景が広がっていた。

 

薄暗い広場は乾燥していて、だが神秘の香りを一面に充満させており、捻れ曲がった大樹の枝と禍々しく青ざめた夜空が広がっており、落下防止の鉄格子の間には、異形の生物が一点を見つめる形で蠢いていた。

 

「狩人よ。あれは星の子、上位者エーブリエタースの眷属だ」

 

助言者曰く、あれは星の子と呼ばれる、上位者と人間の交わりによって生まれる赤子であり、だがその多くはへその緒を持たぬなりそこないとして、上層の入り口に打ち捨てられたのだと言う。

 

ゆえに狩れ、あるいは彼女らは皆、一様にして天を仰ぎ祈るのだという。

 

その祈りがいつしか深海の、宙に住まう父なる上位者に届くと信じて。

 

狩人は星の子を掴み上げ、懐から取り出した悪夢の獣の心臓の前に持って行った。

 

星の子が赤子のなりそこないであるならば、真なる上位者の赤子たる心臓と邂逅させる事で、何らかの神秘を生み出すと考えたのだ。

 

だが狩人の思惑を外れ、悪夢の獣の心臓は大きく口を開けた後、星の子を喰らった。

 

だが同時に心臓を形作る神秘の粘液に、何か上位者の似姿のようなものが映ったのを見逃さなかった狩人は、この行為も無為ではなかったと喜んだ。

 

なりそこないと言えど、恐らくは眷属である星の子は供物と成り得る代物であり、いずれは「悪夢の扉」を開く鍵、その糧となろう。

 

狩人と純弧が少し道を進むと、右手に、狩人の悪夢に建っていたあの時計塔が見えた。

 

そして、白霧の懸かる橋の道中には幾匹もの星の子がおり、悪夢の獣の心臓はそれらを全て喰らい尽くしていった。

 

結局、道中を徘徊する星の子はすべて眷属にすぎなかったが、相応の神秘は確かに宿していた。

 

そして二人は橋を渡った階段の先、恐ろしい雰囲気を漂わせる棟に足を踏み入れた。

 

「ここは孤児院、聖歌隊発祥の地」

 

「医療教会の頭脳、その揺り籠だ」

 

助言者曰く、聖歌隊員は皆、元は孤児であったという。

 

ウィレームらビルゲンワースは膝元に孤児院を設け、彼らに学習と実験の舞台を授け、いつしか彼らは、総じて医療教会の密かな頭脳となったのだ。

 

無数に蠢く星の子らを喰らわせ、狩人と純弧は孤児院に足を踏み入れる。

 

孤児院の中には人ならぬ蠢きをする頭部を備えた異形が死体を啜っており、それは狩人に飛びついて脳髄を啜り上げた。

 

「狩人よ、それは脳喰らい。啓蒙を啜りし神秘の眷属だ」

 

純弧は拳に純化させた月光を収束させ、脳喰らいの管状に肥大した頭部を叩き潰した。

 

脳喰らいは青い霧と化して消滅し、吸い取られた啓蒙は精霊としてその場に残った。

 

「痛みはないか、月の香りの狩人よ」

 

「一時とて、貴公は我が同伴者。死なせるわけには、いかぬのでな」

 

狩人は精霊を潰して啓蒙を取り戻し、純弧に敬礼をすると共に先を急いだ。

 

大広間に出ると、突如としてシャンデリアが左右に揺れ出し、青い眼を持つ罹患者の獣が何体も降ってきた。

 

「愚かな獣共に、死の歓びを」

 

純弧は頭上に純化した死の高密度弾幕を展開し、罹患者の獣達を纏めて迎撃した。

 

「狩人。ジュンコは強い、これでは狩人の名折れだな」

 

その声が純狐に届いているという事実も忘れ、助言者は狩人を茶化し笑っていた。

 

やがて大広間を探索していると、純弧がとある物を見つけた。

 

それは銀製のペンダントで瞳の形を模しており、中央には宇宙の輝きを秘めた石が填め込まれていた。

 

【星の瞳の狩人証】

 

助言者曰く、これは医療教会の上位会派の一つ「聖歌隊」の発行していた狩人証であり、彼らは思索の途中、突如訪れた気付きにより、その研究はおぞましいモノにすり替わっていったという。

 

【すなわち、地上にある我々のすぐ頭上にこそ、まさに宇宙があるのではないか?】と。

 

かつて聖歌隊では、イズの地と呼ばれる地下遺跡が宇宙に触れていると考えていた。

 

そんな彼らに、果たしてどのような神秘の邂逅があったのかは分からない。

 

だが同時に得られた「イズの大聖杯」が、後に聖体エーブリエタースを齎した事を鑑みると、それが途方もない超越的思索であった事は言うまでもないだろう。

 

そして一行が大広間二階へ足を運ぶと、そこには布袋を被せられ、目隠しされた脳喰らい達が徘徊していた。

 

狩人は落葉を、純弧は月光刃を構え、脳喰らい達を一刀の下に斬り捨てる。

 

【孤児院の鍵】

 

最後の一体が吐き出した吐瀉物の中には、古く錆付いた鍵が入っており、恐らく前任者は食われ、殺されたと見える。

 

そして狩人は脳喰らいの全滅を確認した後、大扉をゆっくりと押し開けた。

 

扉の先には星見台の描かれた床を備える露台が広がっており、その中央には右腕を水平に、左腕を垂直にしたまま直立する干乾びた人間の死体が時計塔を向いたまま放置されていた。

 

「狩人よ、それは交信の儀」

 

「聖歌隊が、見捨てられた上位者と共に星からの徴を探す為に到達した道筋だ」

 

それを聞いた狩人は、死体の隣で「交信」の構えをし、星からの徴を探した。

 

当然、付焼刃の交信で新たなる神秘に見えよう筈もなく、狩人が唯一手にしたものは、純弧の冷たい視線のみであった。

 

狩人と純弧は大広間に戻り、先程脳喰らいが吐き出した鍵を用いて最奥の大扉をゆっくりと開いた。

 

大扉の先は孤児院の入り口であり、狩人と純弧は左壁沿いにあった脇道を進んだ。

 

廊下を暫く進んだ先に居たのは、純弧がクラウンピースの報告書で知り、少し前に対峙したきのこ頭「星界からの使者」であった。

 

「・・・青く膨れたきのこ頭。月の都に住まう玉兎、そのなれ果て」

 

どうやらあの月面上においても、何者かの手により上位者の実験が行われていたようであり、助言者曰く、それはヨセフカの系譜を継ぐ者ではないかとの見解であった。

 

純弧は月光刃を展開し、星界からの使者を一刀両断した。

 

「ほう、星界からの使者を一撃とは。中々どうしてやるものだ」

 

助言者は純弧を褒め称え、狩人は星界からの使者の遺骸を悪夢の獣の心臓に喰わせた。

 

その先は大きな庭になっており、下を覗くと、実験棟の庭に生えていた星輪草が一面に蕾を携え生えていた。

 

「・・・来るぞ」

 

不意に助言者が低い声を上げ、すると、地面から次々と星界からの使者が這い出し、庭一面を埋め尽くしてしまった。

 

「烏合の衆、たとえ無限の渦中にありとてこともなし」

 

その光景は、まるで時計塔を守護する失敗作たちのようであり、恐らくこの奥に、聖体エーブリエタースが眠っているのだろう。

 

そう考えた狩人は雷光ヤスリを落葉に擦って雷光を纏わせ、純弧は超拡散弾幕を頭上に展開して星界からの使者を迎え撃った。

 

すぐさま巨大な星界からの使者が数体現れ、一行を潰さんと巨大な手を振り翳す。

 

大きく飛び上がった狩人は居合の構えから『古狩人の一閃・雷電』を放ち、巨大化した星界からの使者を一刀の下に斬り伏せた。

 

純弧は、狩人が落葉に雷を纏わせたのを確認すると、雷を純化した弾幕を新たに展開し、無数に押し寄せる星界からの使者に撃ち放った。

 

純化した雷"神鳴"を受けた星界からの使者達は、その身から沸騰した血液を溢れさせ、腐った果実のようにぐしゃりと潰れた。

 

「フフフ、星の香りの狩人よ」

 

「貴公の狩業は、いつ見ても素晴らしいものだ」

 

「血族の騎士に相応しいと見えよう」

 

アンナリーゼは狩人を褒め称え、臓物を熱く蠢かせた。

 

数分後、星界からの使者は全滅し、庭の中央には狩人と純弧のみが立っていた。

 

「行き止まりか」

 

二人で先へ続く道を探すが、どこにも見当たらない。

 

助言者に助けを求めようと口を開いたその瞬間、大聖堂窓の硝子が粉々に割れる音と共に耳長の獣が三頭現れ、庭に降り立った。

 

耳長の獣は背部に長い触手を無数に蠢かせ、一際長く伸びた尾の先端は濡れた獣毛が刃状になっており、蒼く輝く粘液が纏わり付いていた。

 

「嫦娥の配下、玉兎の獣」

 

「醜き血の傀儡」

 

純弧は瞼を閉じて両手を横に広げ、瞑想を始めた。

 

数秒後、彼女の背後から九尾の紫焔が伸び始め、鱗粉の如き弾幕が玉兎の獣達の周囲を覆い始めた。

 

「死蝶の鱗粉。汝らの魂を浄化せん」

 

「純化された獣を殺す神秘の弾幕」。

 

純弧はゆっくりと瞼を開き、ただ一言、そう呟いた。

 

刹那、玉兎の獣達の穴という穴から、夥しい量の血液と臓物が溢れ始めた。

 

「これは・・・上位者の呪いか?」

 

助言者は眼前で起きる現象の数々に、ただただ圧倒されるばかりであった。

 

数十秒後、玉兎の獣の肉体は液状に蕩けて腐り落ち、もはや原形を留めぬほど異形化したであろう、おぞましい造形の骨格が残るのみであった。

 

狩人は玉兎の獣が庭に侵入した経路である大聖堂の窓を探した。

 

「階段上ではないか、狩人よ?」

 

助言者の言葉に従い、階段上へ足を運ぶと、そこには窓枠すら残さず削られた円形の大穴が開いた窓の痕跡があり、狩人は純弧と共にこの穴を潜り抜け、屋内へ侵入した。

 

途中、純狐の装束が引っ掛かりそうになったが、狩人は裾を触手で持ち上げる事で損傷を防いだ。

 

穴の先は屋内であり、下には大聖堂の祭壇が見えた。

 

恐らくは大聖堂の二階であろう。

 

その証拠に、奥の手摺は先のエミーリアとの戦闘で破壊されたと思しき痕跡が残っていた。

 

狩人と純弧は先を急ぐべく、渡りの奥へ歩き始めた。

 

渡りの最奥には昇降機があり、二人はそれに乗って大聖堂地下へ向かった。

 

そして昇降機が止まった先には星の子が幾匹か佇んでおり、皆一様にして同じ方向を見つめているようであった。

 

「・・・月の香り」

 

純弧は不意にそう呟き、両手に月光刃を展開させた。

 

 

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