不死終末黙示録 狩人篇   作:FROMG・E

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第二話 【血の医療の街、ヤーナム】

<ヨセフカの診療所>

 

やがて狩人は、見知らぬ診療所のベッドの上で目覚めた。

 

ゴシック調の建築様式を感じさせるその診療所は、深淵をすら感じさせるほど黒一色の装飾に包まれており、狩人はその見慣れぬ光景に少し驚きを隠せないでいた。

 

長らく放置されていたのだろう、医療器具の多くはかつての輝きを失い、埃と蜘蛛の巣に塗れたまま、静かな眠りについている。

 

床板も相当に傷んでおり、底の抜けかけた穴からは隙間風が、緩やかな湧き水のように吹き抜けていた。

 

だが不思議な事に、空気中からは一切のカビの匂いをすら感じ取る事は出来ず、まさに悪夢のようだと感じ、狩人はベッドを降りた。

 

ふとベッドの横に目をやると、そこには一脚の肘掛椅子が置かれており、恐らくは診察用のそれである事が伺える。

 

僅か油に濡れた革の上には、一枚の走り書きされた羊皮紙と、狩人が肌身離さず首にかけていた筈の、淀みの狩人証が文鎮のようにして置かれていた。

 

【「青ざめた血」を求めよ 狩りを全うするために】

 

走り書きされた手記は間違いなく自身の筆跡であり、だがその内容は理解不能の文言であった。

 

青ざめた血とは何なのか、狩人は自らが連盟にいた頃の研究資料の記憶を必死に辿ってみるも、答えは当然見つかる筈もない。

 

諦めて出口の扉に手を掛けた時、何処からともなく、見知らぬ謎の声が聞こえて来た。

 

「…狩人よ、私の声が聞こえるかね?」

 

思わぬ者の接触にぎょっとした狩人は後ろへ飛び下がり、腰に提げた狩道具「落葉」を抜き放つ構えを取り、そして気が付いた。

 

今し方装備していた筈の狩道具が、ない。

 

いや、あるいはただ「有る」と錯覚していただけなのか。

 

最後の獣狩りの時には確実に装備していた己の狩道具を失っている事に気が付いた狩人は辺りを見渡し、どこかに落としていないかと探し始める。

 

「狩人よ、もう一度問う。私の声が聞こえているかね?」

 

またしても聞こえる幻聴に、狩人は自らの頭を疑う他は無かった。

 

「幻聴ではない、助言者だ。私が君に語り掛けているのだ。此処は私の記憶の中、語り掛ける程度の干渉は出来るというものだよ」

 

するとまた、何処から幻聴では無いという文言が放たれる。

 

どうやら、声の主はあの助言者であるようだ。

 

「さあ、扉を開けたまえよ。君の狩人証がそこにあったのならば、必ずこの悪夢の何処かに、君の狩道具も落ちているはずだ」

 

狩人は助言者の言葉に従い、扉に手をかける。

 

随分と長い事放置されたのか、立て付けの悪い扉はゆっくりと乾いた音を立てながら開いた。

 

足元にパラパラと埃の塊が落ちるのは、此処が長い年月の経過した廃墟である確定的証左に違いない。

 

扉の先には一階へ下るための階段が続いており、その先からは懐かしい、鉄の混じった生臭い香りが漂っている。

 

血と獣の香り、そして死体の香り。

 

「狩人よ、この先に罹患者の獣がいる。獣は人の身では到底耐えられぬ程の膂力と、尋常ではない狂気を君にぶつけて来る。だから君に、獣の狩りを伝授しよう」

 

狩人は助言者の忠告を無視して階段を降り、そして件の獣を発見した。

 

一階には採血用の古めかしい道具が所狭しと並んでおり、獣はその最奥部、出口の手前にて何かしらの死骸を貪り喰らっていた。

 

長い獣毛と血走った白濁の見られる瞳、狼と見紛う頭蓋と耳まで裂けた唇からは、ずらりと並んだ犬歯が覗いており、ダラダラと血の混じった涎を垂らしている。

 

間違いない、これは人を襲い食らう、血に酔った獣である。

 

狩人はその獣を見るや否や、目にも止まらぬ速さで背後へ回ったかと思うと、獣の尾部目掛けて鋭い手刀を突き刺した後、ひも状の内臓を掴み、まとめて引き摺り出した。

 

狩人の業の一つ「内臓攻撃」と呼ばれるそれはまた、狩りの基本となる技術の一つとされ、大抵の獣や人間相手にはこれが最も有効な攻撃手段である。

 

狩人は自ら綴った指南の書「獣狩指南之書」に書き記した文言を思い出しながら、目の前の獣を一撃で打ち倒す事に成功した。

 

「成れ果ての獣」

 

狩人が人里の連盟にいた頃、件の獣に付けたその名である。

 

元は人間だったそれは、もはやかつての面影を微塵も残してはおらず、ゆえに成れ果てと名付けたのだ。

 

「ほう、素手の狩りを心得ているとは。貴公、ただの狩人ではないな?相当の熟練者と見える」

 

助言者の推理はあながち間違いではないと言える。

 

だが狩人はかつての歴史を語ることはせず、そのまま先を急いだ。

 

今は狩りに集中する時である。

 

狩道具なき今は、一瞬の気の迷いが死に直結するのだから。

 

階段を上った先の扉を開けると、そこには広い中庭が広がっていた。

 

長らく手入れの施されていない雑草は伸び放題で、端々に腰を据える樹木らは葉を全て落とし、一切の生気を感じさせない。

 

ふと、手前の樹木の根元に目をやると、そこには己の狩道具が揃って捨て置かれていた。

 

「落葉」及び「ルドウイークの長銃」、彼らは狩人が最後に使用した時と変わらぬ状態で、自らの主人を待ち侘びているかのように置かれていた。

 

狩人の落葉は自らがその刃を鍛え、研ぎ上げた特別製であり、従来のそれに比べると、圧倒的な性能の差を感じさせる逸品である。

 

銃も同じく専用の改造が施されており、それに加えて砲身を強化する事により、通常の数倍以上の威力の弾丸を発射する事が可能となった逸品である。

 

だがそのどちらもが相当の技術を要する狩道具であり、結局使い手は製作者である狩人のみとなってしまった。

 

「落葉か。かつて私は、それを捨てた狩人が居たのを知っている。その者の名はマリア」

 

「マリアは血族でありながら血刃を厭ったと言われ、それ故に彼女は技術を要する落葉を振るったのだ」

 

連盟の著書に載っていたその話はもはや過ぎた話題であり、だが狩人は、助言者の言葉をまるで初めて知る事柄のように黙って聞いていた。

 

<ヤーナム市街>

 

狩人は薄ら錆びた鉄門を軋ませながら開き、市街へ繋がる道を進み始める。

 

悪夢の獣狩り、最後の夜が始まろうとしていた。

 

道中、梯子を上っていると、どこか遠くから獣の甲高い鳴き声が耳に届く。

 

「聖職者の獣だ。狩りの対象だが、貴公なら苦もなく狩る事が出来やもしれんな」

 

助言者は半ばふざけたように狩人を持ち上げるが、それは間違いだ。

 

互い命を懸けた死合いに確実などという言葉はなく、特に極まった者同士であれば、どちらが死んだとて何ら不思議ではないのだ。

 

そんな事を考えながら狩人が誰も居ない市街を抜ける視界の端を、白黒の、異邦の装束を纏いし少女が通り過ぎ、虚空へ消え去ってゆく。

 

それはまさに狩人の居た、幻想郷の民その者の装束であったのだが、残念かな狩人は彼女に気が付く事はなかった。

 

「やはりな・・・獣がいないのはそれとして、生きた人間もいないとは。いや、殺されていると見るべきか」

 

道端には無数の死体が転がっており、どれも腸を引き摺り出され、頭蓋を潰され脳梁を撒き散らされ、おぞましい死臭を放っている。

 

広場の中央には磔刑に処された人獣が火炙りに遭い、その周辺にもまた、無惨に食い散らかされた死骸が転がっていた。

 

ただ不思議な事に、どの亡骸にも桃色の粘液がべっとりとこびり付いており、狩人は同一犯の可能性を感じていた。

 

だが、これだけの市民を一度に狩る事が出来る獣など、果たしてどれ程の強さを誇るのか?

 

己の手に余るのではないかと狩人は拳を握り込み、しばし考え込むばかりであった。

 

迷宮のような市街地を進む中、狩人はとある民家にて一枚の手記を発見する。

 

【獣狩りの夜、聖堂街への大橋は封鎖された 医療教会は俺たちを見捨てるつもりだ あの月の夜、旧市街を焼き捨てたように】

 

これは間違いなく、この市街に住まう人間が書き残した手記である。

 

聖堂街への大橋が封鎖された、旧市街を焼き捨てた、どの文言からも悲痛な感情が漂っており、医療教会という組織にこの獣狩りの秘密が隠されているのではと、秘かに考える狩人だった。

 

「狩人よ、聖堂街前の大橋へ一度足を運ぶとよい。恐らくは、そこに獣がいるはずだ」

 

そうして狩人は助言者の言葉に従い、その端を目指すべく歩みを進め始めた。

 

今は目の前の問題を解決する方が優先であり、医療教会についてはより情報を集めてからでも遅くはないと感じた為である。

 

船渠を抜け、下水道に入った狩人は、腐乱臭と死臭の混じった、冷たく重い霧に包まれる。

 

下水道には無数のネズミや蕩けた腐肉の亡者、更には巨大な豚の化け物までが巣食っており、狩人はそれらを一刀の下に斬り捨てていくのであった。

 

やがて下水道を抜け、市街地へ戻った狩人に助言者がふと言葉を漏らす。

 

「・・・ん?狩人よ、そこに誰かいないかね。古い、烏羽の狩人がいるはずだが・・・・・」

 

狩人が周囲を見渡すと、そこには人の代わりに、大量の血の遺志と共に臓物に塗れた装束と桃色の粘液、そして二振りの短剣が落ちていた。

 

助言者曰く、この装束はかつて狩人狩りのアイリーンなる古狩人が纏っていた品であるらしく、だが既に手遅れ、命を落としていた。

 

この特徴的な嘴は、かつて欧州へ赴いた時に聞いた黒死病を防ぐマスクによく似ていると、狩人は頭の中で思考を巡らせる。

 

そしてその特別な外見の装束を纏っていた狩人がいた事を、同時に思い出した。

 

鴉羽の装束に二振りの短剣「慈悲の刃」そして「獣狩りの短銃」を携え、慈悲の狩りを行っていた女狩人「屍漁りのベイヴィル」。

 

彼女は狩人の盟友の一人であり、慈悲の狩りを連盟に広げる立役者となった、その一人でもある。

 

【嘴の仮面】

 

【鴉羽の狩装束】

 

【鴉羽の腕帯】

 

【鴉羽のズボン】

 

【慈悲の刃】

 

【獣狩りの短銃】

 

狩人はそれらの品を懐に入れると、後ほど狩人の夢にて弔う事に決め、先へ進んだ。

 

そうこうしているうちに、目の前に聖堂街の大橋と思しきものが姿を現した。

 

辺りには砕け散った馬車や獣達の死骸が積み上げられており、それら全てが桃色の粘液で塗り固められていた。

 

次に出てくる獣は恐らく、その粘液の持ち主で間違いはないだろう。

 

最奥の鉄門は固く閉ざされており、やはりあの手記に残されたとおり、この市街地は既に捨てられてしまったのだろう事が容易に伺える。

 

狩人がその脇の扉に目を付けた次の瞬間、門の向こう側から掠れたような金切り声を上げ、巨大な獣が飛び出してきた。

 

その獣は、先程の診療所で対峙したそれとは明らかに異なる異形であった。

 

背の丈は狩人を優に三倍以上は越しているであろう。

 

肥大化した左腕には背部より灰色の獣毛が長く伸びており、その巨大な掌には赤黒い血痕と渇いた臓物がこびりつき、酷い死臭を漂わせている。

 

鹿とも狼とも似つかぬその頭部には異形の大角が生え、耳まで裂けた口には鋭い牙がびっしりと生え揃っている。

 

瘦せ細った身体からは肋骨が浮き出ており、獣の狂気を醸し出している。

 

狩人はその獣に既視感を覚えていた。

 

「獣狩指南之書」その二項に登場する「僧侶の獣」と、殆どの項目が一致しているのだ。

 

助言者曰く、聖職者の獣と言うらしい。

 

聖職者とはすなわち神に仕える者、僧侶も神父もそれ即ち聖職者であると言えるだろう。

 

そして、聖職者こそが最も恐ろしい獣になるのだと。

 

つまりは僧侶の獣も広い括りで見れば聖職者の獣に相違なく、狩人は酷く落ち着いた様子で獣の品定めを始めた。

 

狩人が初めて討伐に成功した僧侶の獣はまた、この獣と似通った性質を持っていた。

 

一方が肥大した腕、長く伸びた獣毛、痩せ細った体躯、大振りの爪、そして角の生えた狼の如き頭。

 

余裕の表情を浮かべる狩人は、未だ狩道具すら構えていない。

 

両の手を広げ、死を受け入れるかの如き姿勢で居たのだ。

 

次の瞬間、聖職者の獣は笛の如き咆哮を上げ、狩人に飛び掛かって来た。

 

狩人は呼吸を整えた後、ルドウイークの長銃を構え、聖職者の獣の頭部目掛け弾丸を撃ち放った。

 

通常の幾倍もの威力を誇る水銀弾は聖職者の獣の頭蓋並びに右角を打ち砕いて貫通し、背後の建造物に突き刺さる。

 

聖職者の獣は体勢を崩し、狩人は好機を逃さず内臓攻撃を繰り出した。

 

狩人の手刀は聖職者の獣の眼孔を貫き、そこから血の塊とも思える臓腑を引き摺り出した。

 

同時に神速の蹴り上げを見舞い、顎を砕いて怯ませる。

 

衝撃と共に吹き飛ばされる聖職者の獣、追撃の好機を狩人は見逃さない。

 

狩人は落葉を抜き放ち変形させて大きく飛び上がった後、交差斬撃を繰り出して聖職者の獣の首を見事に討ち取った。

 

噴水の如き流血と共にずるりと浮き上がる聖職者の獣、最後の足掻きであろうか。

 

狩人が左手に握ったその頭を握り潰すと、遂に聖職者の獣は息絶えたのか、轟音と共に倒れ込む。

 

【YOU HUNTED】

 

目覚めて間もないとはいえ、この程度の獣であれば無傷で狩る事など造作もない。

 

そうでなければ、あの強者渦巻く幻想郷において、狩人として生き残る事など出来ようはずもないのだから。

 

狩人は十字を切り、かつて狩人であっただろう獣に弔いの意を示す。

 

ふと、聖職者の獣が倒れたそばに目をやると、血溜りに光る何かが落ちており、それは剣の形状をした狩人証であった。

 

【剣の狩人証】

 

どうやらこれは医療教会の狩人が身に着けた狩人証の一つであり、だがそれを身に着けた狩人はごく低い地位を与えられるのみであったという。

 

「狩人よ、それこそが古い狩人達の生きた証、狩人証だ」

 

「それがあれば、より強い武器を求める事が出来る。君は恐らく、それをしたがらないだろうがね」

 

狩人は剣の狩人証を懐へ仕舞い込むと、引き続き聖堂街へ続く道を探索するべく市街の道へ足を進める。

 

だが次の瞬間、聖職者の獣の死骸が爆発四散したかと思うと、その内より新たな獣が這いずりながら姿を現した。

 

「アレは・・・あんな獣は見た事が無いぞ。気をつけろ、狩人よ」

 

助言者が戸惑う所を見るに、この獣こそが狩人の悪夢を作り出した本命のようだ。

 

それは確かに異形と呼ぶに相応しい獣であった、うねうねと生えているのは触手だろうか。

 

形容し難い形貌をしたそれは、白黒の水玉に似た斑点に覆われており、更に骨の飛び出したような肉体の内側からは瞳のような球体をぶら下げたひも状の何かが無数に飛び出しており、四肢と思しき肉ははそれぞれで異なる形状をしていた。

 

右の手足は粘液を湛えた軟体動物を思わせる形をしており、左の手足は無数の棘を生やした刃状の骨を主体としつつも、付着した肉組織は腐敗しているのか、ヘドロのように蕩け、地面に落ちて蠢いていた。

 

細く伸びた顔には瞳が七つあり、それ以外の窪みからは、心臓のような物が飛び出しぶら下がっている。

 

ばっくりと裂けた口には大小ばらばらの牙が無数に生えており、そのどれもが切先の方向を定めていない。

 

長く伸びた舌は二枚に分かれ、桃色の粘液を滴り落としている。

 

狩人はこの獣を見るや否や、最後に妖怪の山で死闘を繰り広げた、あの恐ろしい獣を想起した。

 

間違いはない、この獣こそが、悪夢への水先案内人であると。

 

類稀な直感でそれを感じた狩人は秘儀「加速」を用いて獣の背後に回り込み、落葉の連続刺突攻撃を繰り出す。

 

そしてすぐさま飛び上がった後、ルドウイークの長銃にて無数にぶら下がる瞳と心臓を全て撃ち抜いた。

 

止まれば死ぬ、狩人は本能としてそれを肌にひしひしと感じていた。

 

甲高い悲鳴を上げ、獣は体幹を崩しよろめき始める。

 

これを好機と見た狩人はルドウイークの長銃にて腹に穴を開け、更に落葉で傷口を抉るように回転を伴う刺突攻撃を繰り出した。

 

傷口より、甘く腐臭を漂わせる緑色の血液が噴き出す。

 

狩人の腕と落葉に、半ば蕩けかけた内臓が螺旋を描きながら巻き付き、締め付ける。

 

獣は苦しみ悶えながらも桃色の粘液を一面にばら撒き、やがてそれは人の形を成してこちらへ駆け寄ろうとしていた。

 

加速を用い、獣の腹の内より臓物をまとめて引き摺り出す狩人。

 

それに伴い、獣の口から無数の肉片と骨片、汚泥にも似た何かが濁流の如く吹き出し始めた。

 

獣の排出する濁流に呑まれ、粘液の眷属たちが次々と消滅してゆく。

 

あっという間に辺り一面は死屍累々の光景と化し、最後に立っていたのは瀕死と化した獣と、臓物と緑血に塗れた狩人のみであった。

 

もはや腐りかけたその緑血は尋常ならぬ者さえ狂気に陥れるほどの神秘を含んでおり、一筋の傷すら負っていない筈の狩人の肉体は、既に半ば蕩け始めていた。

 

狩人は目からどす黒い血涙を流しながら、輸血液を打ち込み再び落葉を構える。

 

獣も既に自らの最期を感じたのか、七つの瞳を紅く光らせ、両の腕を虚空に掲げ臨戦態勢を取る。

 

互いに相手の出方を窺い、一歩も動かない。

 

先に動いた方が死ぬのだ、それが一刀一足の間合である。

 

獣が勢いよく飛び掛かった次の瞬間、狩人は刺突の構えより加速を用い、神速の一閃にて獣の心臓を抉り抜いた。

 

「勝ったな」

 

刹那、ぽっかりと開いた胸腔より、一層の腐臭を纏いし緑血が噴水の如く溢れ出した。

 

獣の心臓は冒涜的なまでの暗く重い鼓動を打ちながら、緑血を辺りにばら撒いて痙攣を起こしている。

 

狩人は落葉より心臓を慎重に引き抜き、万力の如き力を籠めて握り潰した。

 

獣は耳を劈く程の鋭い断末魔を上げながら地面に倒れ込み、ゆるりと蕩けながらその姿を消していった。

 

【悪夢の欠片ー ヤーナム市街 ー】

 

悪夢の欠片を手に入れた狩人はそれを懐へ仕舞い込み、聖堂街への道を探す為、再び歩み始めた。

 

 

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