不死終末黙示録 狩人篇   作:FROMG・E

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第二十三話 【メンシスの長】

<メルゴーの高楼>

 

塔の中は暗く、冷たく籠った靄が狩人の視界を遮った。

 

鎖の擦れる音と、赤子の鳴き声が永遠にどこかから聞こえ続けている。

 

生気に溢れる新鮮な血液の匂いが霧の中を漂い、同時に殺人者特有の香りも混じっている事に気が付いた。

 

狩人は携帯ランタンを腰にぶら下げ、先を急いだ。

 

踊り場の周辺には鉄仮面を被せられた奴隷のような小人がうろついており、彼らはまた、狩人を発見するや否や拳を振り翳して襲い掛かって来た。

 

すぐさま上位者の翼を展開し、奴隷たちを一飲みにする。

 

狩人が目覚めた時、マッドマンとミコラーシュは何処かへ消え去っていた。

 

そして月見廊下に残された、生暖かい血痕。

 

すなわちマッドマンが単身、ミコラーシュを追い掛けてこの奥へ走り去った証左に他ならないだろう。

 

そうなると、この流れ落ちた血がどちらのものかは判別できかねるが、それは追い付いてから知れば良いだけの事である。

 

周囲には埃と共に積み上げられた古い書籍が山となって隅に捨て置かれ、その中身は既に文字が擦れ、解読不可能となっていた。

 

階段中央の広場から上を覗き見れば、そこには一つの巨大なシャンデリアと無数の鎖に繋がれた籠牢が釣り下がっており、それはまた、悪夢の異常性と天地逆転の構造を象徴しているようでもあった。

 

やがて砕けた大鏡の側を抜けて下層の広場へ降り立った狩人は、辿り着いた先に、一際巨漢の鉄仮面の奴隷が徘徊しているのを発見した。

 

その奴隷は右手に分厚い断頭鉈を、左手にはごく太く長い鎖を持っており、剣道の防具にも似た腹部の鎧には、蝙蝠の図柄が打ち出されていた。

 

象徴学において蝙蝠とは「闇と混沌の気付き」を意味するとされ、まさしくこの状況に相応しい象徴であろう。

 

恐らくその奴隷は処刑人としての地位を与えられた、奴隷たちの長であろうか。

 

鉄仮面の処刑人は狩人の気配を察知するや否や、分厚い断頭鉈を担ぎ上げ、ゆっくりと歩き始めた。

 

狩人は獣の爪を展開して迎撃の準備を整えた後、一気に彼我の距離を詰め、鎧諸共処刑人の腹部を引き裂いて臓物を引き摺り出した。

 

想定外の挙動に驚いた処刑人は体幹を崩して後退り、首を左右に振って奇声を発し始めた。

 

すると、彼女の声に応えるように次々と影から鉄仮面の奴隷たちが湧き出し、一刻を争う事態だと判断した狩人は一呼吸の間も置かずに小アメンの腕を展開した後、処刑人のぽっかりと開いた洞の如き腹腔内にそれを深々と突き刺し、処刑人を粉々の肉片に変えた。

 

その後、襲い掛かって来た鉄仮面の奴隷たちも秘儀『古狩人の一閃・千重波』によって切り捨てられ、周囲には再びの静けさが訪れた。

 

やがて、広場の隅々まで探索を終えた狩人は昇降機にて上層へ移動し、外周通路を上へ昇り始めた。

 

道中には無数の小さな悪夢の獣が徘徊しており、だがどれも狩人の敵ではなかった。

 

走狗の如く斬り倒されてゆく、小さな悪夢の獣達。

 

死体を喰らう、悪夢の獣の心臓。

 

最上部へ辿り着き、門を潜った狩人は橋を渡り、階段を駆け上がり先を急いだ。

 

境界をくぐった先は悪夢の館によく似た空間であり、凍り付くような白く淀んだ瘴気と滴る水の音が、訪問者を歓迎するように辺りを包み込んでいる。

 

「ああ、ゴース、あるいはゴスム・・・」

 

不意に響く、聴き慣れた声と軽い足音。

 

「我らの祈りが聞こえぬか・・・」

 

姿を現したのは、幾度も狩人の前に姿を見せたメンシスの男、ミコラーシュであった。

 

彼の語るゴースとは恐らく、漁村に死に倒れていた上位者、母なるゴースに間違いないだろう。

 

だがかの上位者は既に死んで永く、その声はどこに届くというのだろうか。

 

その疑問に答えたのはアンナリーゼであった。

 

彼女曰く、上位者とは死してなおその遺志を悪夢に残し、しばしば人の声に感応して願いを叶える事があるという。

 

それが悪夢の上位者であれば尚更であり、それこそが穢れた血族と、上位者の繋がりの本質であったのだという。

 

「やがてこそ、舌を噛み、語り明かそう」

 

「明かし語ろう・・・」

 

「新しい思索、超次元を!」

 

刹那、高笑いを上げながらミコラーシュは走り出し、狩人もそれに惹かれる様に走り出した。

 

「悪夢の底に浸かる少女、夢の主」

 

「ああ、それはまさに・・・」

 

「けれど、我らは夢を諦めぬ!」

 

「何者も、我らを捕え、止められぬのだ!」

 

ミコラーシュは狂ったように何かを呟きながら走り続ける。

 

すると、周囲の本棚の隙間から本が崩れたかと思うと、糸操り人形の如き亡者が這い出して来た。

 

それはまた、月蝕の獣の戦いの折、ミコラーシュが使役した失敗作の一つである糸繰りの亡者であり、だが狩人はその存在を知らない。

 

亡者たちは狩人の行く手を阻むような動きをとり、主たるミコラーシュの元へ行かせまいと、一斉に襲い掛かって来た。

 

その拳は鎧を砕き、指の力は堅牢な肉体をすら、紙屑のように引き裂くとされるミコラーシュの操り亡者たち。

 

狩人は獣の爪を展開した後、全身より無数の触手を生やし、それぞれの腕で奥義『螺旋波紋正拳』を繰り出して糸繰り亡者達の胴体を一人残らず抉り裂いた。

 

螺旋の効果により糸繰り亡者達は次々と破裂し、消滅してゆく。

 

やがて彼らの骸が霧と同化する頃、ようやく狩人はミコラーシュが消えている事に気が付き、捜索を再開した。

 

迷宮の如く捻れた空間の中には随所に小さな悪夢の獣が徘徊しており、何かを秘匿しているようにも見えた。

 

狩人は左掌に暗黒小宇宙を展開して深淵の眷属を召喚し、獲物の対処を試みた。

 

狩人の眷属は両腕に備えたノコギリ状の大爪を振るい、小さな悪夢の獣たちを次々と肉塊へ変えてゆく。

 

その隙に狩人は捜索へ戻り、数分後、ようやくミコラーシュを角部屋に追い詰める事に成功した。

 

ミコラーシュは観念したのか逃走するのを止め、狩人と一定の間合いを保ちながら、部屋の隅を回り始めた。

 

刹那、両者の拳が部屋の中央で火花を上げ、衝突する。

 

狩人はミコラーシュの顎に掌底を打ち込み、上空へ突き上げた後、神秘の粘液を固めた大槍で腹部を貫き、天井に突き立てそのまま固定した。

 

少し遅れた後、地面に散らばっていた骨が次々と結合を始めたかと思うとそれは先の亡者と化して、狩人へ殴り掛かってきた。

 

狩人はルドウイークの長銃を展開して散弾を撃ち放ち、亡者を手摺から下の階へ落とした。

 

シャンデリアに骨が繰り返し衝突し、悪夢の音楽を奏でる。

 

刹那、狩人の腹部から無数の触手が顔を出した。

 

どうやらミコラーシュは狩人が亡者に気を取られている隙に自力で脱出をしたようであり、エーブリエタースの先触れを召喚して腹を貫いていた。

 

花開く無数の触手が内臓を搔き混ぜ、得体の知れぬ冒涜的な音を奏でている。

 

勝利を確信し、高笑いを上げるミコラーシュ。

 

だが次の瞬間、狩人はミコラーシュの背後に宙返りをして落葉を抜き放った後、突きの姿勢をとり、秘儀『古狩人の刺突』を繰り出した。

 

「ギャアアアアアアアアッ!」

 

音速を超える落葉の刺突波はミコラーシュの胸を貫き、密着した勢いはその肉体諸共四肢を砕いて肉塊とした。

 

その衝撃波は館の壁すら揺らし、直線状の柱をすら、粉々に砕いてしまうほどであった。

 

げに恐ろしき、古狩人マリアの「業」である。

 

ミコラーシュは断末魔をあげて倒れた後、霧と化して消滅した。

 

「アッハハハ!おお、素晴らしい!夢の中でも狩人とは!」

 

狩人が落葉の血を払い、鞘に納めたその時であった。

 

捻れた空間の底から、不意にミコラーシュの声が響いてきたのだ。

 

冷たく重い深淵の底から、ゆっくりと這い寄る瘴気のように。

 

「けれど、けれどね」

 

「悪夢は巡り、そして終わらないものだろう!」

 

初めは空耳かと錯覚したミコラーシュの声は依然として響き、狩人は音源を特定するべく部屋を出た。

 

悪夢に身を置き、人を超越した存在を殺す為には、恐らく今の攻撃では不十分であったのだろう。

 

なればこそ、次の一撃で、確実な死をもたらさねばならない。

 

「はあ・・・」

 

「ああ、ゴース、あるいはゴスム」

 

「我らの祈りが聞こえぬか」

 

僅かに笑いの含まれたその声は迷宮の最奥部より響いており、狩人はその声に導かれるまま、足を進めた。

 

上り下りを繰り返した後、やがて深淵の底へ続くような淀みを湛えた螺旋階段が目に入る。

 

狩人は意思を固め、螺旋の底へ身を委ねた。

 

道中には何故か小さな悪夢の獣が徘徊しており、どの個体も下半身が軟体生物の如き姿をしていた。

 

七本の指を備えた、しなやかでぬるりとした質感の腕。

 

右の掌には赤桃色の粘塊を握り、だがその爪は鋭く、そして僅かに蠢いていた。

 

小さな悪夢の獣達は獲物の気配に気が付くとずるりと体を起こし、無数の瞳の宿った口腔内部からおぞましい色の触手を生やして身体を包み込んだかと思うと、その姿を異形へと変化させて襲い掛かって来た。

 

狩人は落葉を変形させ、小さな悪夢の獣達を迎え撃つ。

 

強靭な脚を利用して壁を伝い、天井から加速度を生かした落下攻撃を見舞う小さな悪夢の獣。

 

同時に狩人も飛び上がり、互いの頭が中空にて衝突する。

 

そのまま狩人は触手を伸ばして小さな悪夢の獣の四肢を縛りつけてそれを分離。

 

壁に叩き付けて獲物を固定した後、秘儀『古狩人の一閃・連撃』を繰り出した。

 

小さな悪夢の獣は触手諸共全身を輪切りにされた後、狩人の懐から伸び出る血管状の触手に掴まれ、悪夢の獣の心臓に捕食された。

 

狩人は輸血液を打って失った分の遺志を補充し、先を急ぐ。

 

刹那、壁に擬態した小さな悪夢の獣が狩人に掴み掛かり、全身を茨状の骨槍で縛り付けた。

 

前身に穴が開き、そこから神秘の粘液と共に、おぞみ色の血液が滝のように零れ落ちる。

 

血を啜り、その甘さに興奮して高笑いを上げる小さな悪夢の獣。

 

だがその歓びもつかの間、狩人の胸中より飛び出た赤黒い肉片により臓物を抉り抜かれ、骨を全て砕かれてしまった。

 

小さな悪夢の獣は痛みで思わず怯み、獲物から手を放す。

 

刹那、狩人にその隙を狙われ、秘儀『古狩人の一閃』により縦真二つに断たれた後、霧となる直前に悪夢の獣の心臓に喰われ死亡した。

 

無限とも思える館の奥へ延々と続く廊下をひたすら進み、やがて狩人は本棚の下に空間を見つけ、飛び降りた。

 

そこにはミコラーシュが狩人を歓迎するかのように両手を広げ、不気味に笑いながら待ち受けるように佇んでいた。

 

「アッハハハ!」

 

「白痴のロマ、秘匿は破れ、見えぬものは浮かび上がった」

 

「深海の底から宇宙が、我らに瞳を授けるのだ!」

 

その声に応えるように、壁の中から小さな悪夢の獣たちが次々と這い出し、同時に床に散らばる骨の欠片もまた、糸操りの亡者となって蘇ってゆく。

 

すぐさま狩人は背部より上位者の翼を二対現出させ、ミコラーシュを除く全ての獣たちを一飲みに平らげた。

 

これから始まる死闘に観客は不要、一対一の、互いの血を分けた真なる決闘が始まるのだから。

 

一瞬で獣を排除した狩人にミコラーシュは驚きながらも笑みを消さず、そのまま両手を握って空に掲げ、小宇宙を展開して無数の神秘、その先触れを見えさせた。

 

それは秘儀『彼方への呼びかけ』の成功作とも呼べる、真なる上位者の呼び声であり、威力・神秘、共に相応の純度を誇る『宇宙からの徴』であった。

 

狩人は加速を用いて間一髪ながらもするりとそれらを躱してミコラーシュの背後に回り込み、ルドウイークの長銃を展開した後に銃口を背部に押し当て、禁忌の血晶弾を撃ち放った。

 

上位者の力を得た狩人の血に含まれる神秘からなる血晶弾の威力はまた、通常のそれとは桁を大幅に違える代物であり、尋常の上位者ですら、まともに受ければ致命傷を免れない。

 

神秘の血晶弾を直に受けたミコラーシュは衝撃で前方へ大きく吹き飛び、檻から大量の吐血を撒き散らしながら狂気の笑みを含んだ顔で狩人を見つめた。

 

腹腔には巨大な洞ががらんどうの深淵のように口を開けており、その端々には腸の切れ端がぶら下がり、夥しい量の血を垂れ流し続けていた。

 

もはや生きている事すら疑問の傷ながら、ミコラーシュは未だ健在であった。

 

それはまた、彼も上位者の力の一端を手にしているからに他ならず、その力の源は悪夢の地下深くに秘匿されている。

 

すぐさま異常を悟った狩人は回復する暇も与えず、加速を用いて接敵しながら落葉を抜き放った後、蒼き神秘の刃を纏わせて大きく飛び上がった。

 

ミコラーシュも何かを悟ったのかすぐさま後方へ飛び下がり、輸血液で傷を癒す。

 

そして両の掌にエーブリエタースの先触れからなる触手を生やし、反撃に備える。

 

同時に狩人は空中の無防備な姿勢から居合の構えを取り、秘儀『古狩人の一閃・流星』を繰り出した。

 

空中より撃ち放たれる、超音速の一閃。

 

蒼き神秘の刃より伸びる群青色の残光は流れ落ちる星をあらわし、それはまさに、大いなる種族の齎した神秘の先触れである。

 

流星群の光に驚いたミコラーシュは防御の態勢を取ったが、その時すでに刃は彼の体を摺り抜けていた。

 

群青色の斬撃は、上位者の力の源たる紫色の水晶核を捕え斬り、傷の内より、狂気に満ちたおぞましい濃血を溢れ出させた。

 

再生の核を奪われた肉体は尋常ならぬ神秘に侵され始め、赤黒い血が徐々に腐敗の緑血へ色変わりを始めてゆく。

 

斬り裂かれた柔肌の内から、おぞましく蕩け異形と化した腸が滝のように溢れ出し、辺り一面を腐敗の海へと変えてゆく。

 

「ギャアアアアアアアアッ!」

 

やがて濁流の如き死血を流しきったミコラーシュは断末魔をあげた後、両膝をついた。

 

「ああ、これが目覚め、すべて忘れてしまうのか・・・」

 

ミコラーシュは悔しげな声でそう言い残した後、腹の傷から最後の人の形、心臓を象った脈動する朱き臓物を落とし、霧と化して死に倒れた。

 

【メンシスの檻】

 

甘く甲高い物悲し気な声には、遂に至れなかった上位者の道への後悔や苦悩、獣を克した歓喜から来る、筆舌に尽くし難いほどの絶望が含まれているのだろうか。

 

【YOU HUNTED】

 

やがて悪夢の主、ミコラーシュの死体の霧が消える頃、轟音と共に地面が揺れ出した。

 

狩人は思わず床に手をつき、重心を低く保たんと警戒の姿勢に移行する。

 

何かの仕掛けが作動しているのだろう金属音と共にせり上がってくる振動はまた内臓にまで響き、暫しアンナリーゼを驚かせた。

 

数分後にようやく振動は止み、狩人は手摺から上を見上げ、音の正体を確信した。

 

どうやら入り口にあった橋が上昇し、上層に道を繋げた音であるようだ。

 

数秒後、金属の擦れ合う音と共に、背後の門がゆっくりと上昇し、口を開いた。

 

狩人は橋を渡って新たなる道を進み、やがて中広い書斎に辿り着いた。

 

書斎は本棚こそ埃を被ってはいたが、幾何学模様の刺繍された絨毯はよく手入れされ、毛並みも揃えてあった。

 

絨毯はビロード製の高級な品であり、本棚の装飾も細部に銀細工の施された、極めて華美な印象を与える代物であった。

 

純銀製のワイングラスの置かれた小さな円卓の中心には一冊の日記が置かれており、狩人はそれを惹かれるままに読み開いた。

 

 

 

【見知らぬ夢の邂逅は、我らに新たなる啓蒙をもたらした】

 

【新たなる夢の地はまた温かく、そして清らかな場所であった】

 

【奇妙な装束を纏う一人の少女は、自らを夢の主と名乗り、我らは彼女の力を求めんとした】

 

【滲む血の見えぬ主、上位者オドンは我らの声に応え、彼女を夢のまどろみへ誘った】

 

【それを期に我らは、彼女を深き悪夢の祭壇に秘匿した】

 

【彼女は殺してもけして死ぬ事は無く、儀式の末に獣の赤子を残した】

 

【最後に彼女は未熟な仔を抱いたまま、悪夢の奥底で静かなる眠りについた】

 

【我らメンシス学派はこれを上位者と紐づけ、聖体の一つ" dreamy=sweet(甘き夢を見せるもの)"と呼称し、悪夢を創り渡るその神秘の一端を拝領した】

 

 

 

日記には、メンシスの男が書いたであろう神秘との邂逅、それに繋がる言葉が綴られていた。

 

狩人は日記を最後まで読み、記述された情報の全てに目を通し、机に戻そうとして気が付いた。

 

本の裏表紙が異様に分厚く、さすると異物感があったのだ。

 

不審に思った狩人は細長い爪を伸ばし、裏表紙の隅を四角を描くようにそっとなぞった。

 

すると、中央の部分が僅かに浮き上がったかと思うと、それは箱の蓋のような挙動を取り、外へ飛び出した。

 

蓋の裏は二重底のような構造になっており、白絹で包まれた窪みの内側には、一本の鍵が入っていた。

 

【祭壇の鍵】

 

鍵を取り出した後、絨毯に落ちた蓋の裏を見ると、そこには"祭壇の鍵"と書かれており、狩人は書斎をくまなく探索し、祭壇への入り口を探した。

 

通路の突き当りに立てられた書斎、そしてその中央に置かれた意味深な日記と祭壇の鍵。

 

上位者を祀ったとされる祭壇への道がこの書斎に隠されているのは誰の目で見ても明らかであり、それこそが、この悪夢を終わらせる最後の道である事は疑いなかった。

 

数十分後、一冊の本に小さな鍵穴があるのを見つけると、試しに祭壇の鍵を刺し、時計回りに回してみた。

 

重い枷が外れるような、何かの開いた音が鳴ったかと思うと、激しい振動と共に本棚から埃の塊が霰の如く落下を始め、やがて本棚に偽装された隠し扉が白い煙を吐き出しながら口を開き、狩人を誘う道が姿を現した。

 

暗く冷たい道の奥から白く凍り付いた空気が重く流れ込み、狩人の足を包み込む。

 

この先へ進めば、もはや後戻りは出来ないだろう。

 

だが、この先へ進まねばこの悪夢にも終わりはない。

 

狩人は意を決し、先に進んだ。

 

暫く進むと、先程見た形状の鉄籠型昇降機が姿を現し、狩人はそれに乗り込んで最下層へ移動を始めた。

 

 

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