不死終末黙示録 狩人篇   作:FROMG・E

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…本エンディングはラストの真エンディングとなります。

…仔細としては、悪夢の上位者の赤子と化した狩人が最後の助言者を斃した事で獣狩りの夜明けを迎え、真なる悪夢の上位者として狩人の夢を自らのものとし、幻想郷へ帰郷するものとなっています。

…次回はエピローグとなります、最後まで引き続き読んで頂ければ幸いです。


END4 【悪夢の帰郷】

次の瞬間、助言者は加速を用いて狩人へ接近し、刺突の構えを取ったまま月光の聖剣から神秘の光波を発射した。

 

薄緑色に輝く神秘の光波は三日月の形を成して狩人を斬り裂き、腸を一面にばら撒いた。

 

追撃を図るべく、更に月光の聖剣を袈裟斬りに振り下ろす。

 

だが、最後の一撃は加速により躱されてしまい、空を斬るばかりであった。

 

輸血液にて回復した狩人は落葉を鞘に納め、懐から、慈悲の刃を取り出し変形させて構えた。

 

「ほう。それは、古狩人アイリーンの得物ではないか」

 

助言者はそう言って狩人に飛び掛かり、再び神秘の光波を纏わせた袈裟斬りを見舞う。

 

閃光と共に弾ける金属音。

 

刹那、助言者は絶句し、凄まじい痛みに悶え始めた。

 

腹部をよく見れば、そこには深々と突き立てられた慈悲の刃があり、だがそれを握る手は人のそれではなかった。

 

赤黒く蠢くそれは上位者の触手であり、神秘の粘液を纏った慈悲の刃が、助言者の身体を蝕み始めていたのだ。

 

更に追い打ちを掛けるように、狩人の触手が体内へ潜り込み、慈悲の刃と共に腸を無差別に引き裂き始める。

 

苦痛に耐え切れなくなった助言者は月光の聖剣で触手を断ち切り、加速によってその間合いを大きく離した。

 

そして腰の千景を徐に抜き放つと、その刃を腹へ突き立て、切腹による緊急手術を敢行。

 

慈悲の刃と狩人の触手を強引に摘出し、肉体への致命傷と引き換えに苦痛の種を取り除くという、狂気の対処法を執り行った。

 

「フフフ・・・流石は狩人」

 

「人間の弱点を理解し、それを実行する無慈悲さを同時に持ち合わせる合理性」

 

「こと狩りという点において君ほど優れた狩人など、そうはいまい」

 

助言者は輸血液で回復しながら狩人を称賛し、だがその顔は苦痛の表情を浮かべたままであった。

 

再び月光の聖剣に神秘の光波を纏わせ、同時に左手にエヴェリンを持ち、構えた。

 

刹那、炎を纏わせた回転ノコギリを両手に抱えた狩人が上空より飛来し、その燃え盛る刃を回転させながら飛び掛かって来た。

 

同時に衝突する、互いの得物。

 

回転ノコギリは焔の刃で月光の聖剣を削り始め、数秒後、高い金属音と共にそれは半ばから圧し折れてしまった。

 

神秘の光波は光の糸となって空中へ解け消滅し、だが同時に回転ノコギリも機構の内側から粉々に崩壊した。

 

共に相討ちとなった両者の得物、両者に残されたのは銃一本のみ。

 

助言者は落ち着いたままエヴェリンを構え、骨髄の灰を篭めた銃口を鉄兜の覗き穴に当て、零距離で撃ち放った。

 

早撃ち勝負に敗北した狩人は一時的盲目となり、だが第三の目は既に助言者を捕らえていた。

 

すぐさま応報の如くルドウイークの長銃を展開し、助言者の心臓目掛けて血晶弾を撃ち放つ。

 

上位者の神秘により強化された血晶弾は凄まじい衝撃波と共に銃口より撃ち放たれ、有り余る力によって狩人をすら吹き飛ばして辺りを血の海へと変えた。

 

胸部に巨大な洞を作り出した助言者は呼吸困難で苦しみ、だがすぐさま輸血液にて傷を癒す。

 

一方、吹き飛ばされた狩人は触手によって威力を相殺しており、その身は全くの無傷であった。

 

そうして懐からレイテルパラッシュを抜き放った後、英国騎士の剣術「フェンシング」に倣った構えを取った。

 

「ほう、あれほど血族を嫌った貴公が、よもやそれを用いるとは」

 

「・・・なるほど、君も何かにのまれたか。狩りか、血か、それとも悪夢か?」

 

助言者は、最初の狩人であり助言者であった老ゲールマンの台詞を拝借しながら地面に腕を突き刺し、かつての地下遺跡より発掘した狩道具「失われた葬送刃」を掴み、取り出した。

 

「まあ、どれでもよい」

 

「そういう者を始末するのも、助言者の役目というものだ・・・」

 

かつて老ゲールマンを目覚めに導いた時も、今と同じ心持であった事を思い出す。

 

「・・・今宵、助言者の狩りを知るがいい」

 

かつて、最初の工房で生み出された仕掛け武器のマスターピースにして、老ゲールマンが用いたそれとは性質を異にする遺跡の聖遺物『失われた狩道具』の一つ。

 

狩人の悪夢より生み出される聖杯の遺跡はまた、彼らの遺志から生み出された様々な狩道具が眠る墓場でもあり、失われた葬送刃もまた、そのうちの一つから発掘された、慈悲の遺志が産み出した遺産である。

 

そして助言者は踏み出した。

 

終わりなき悪夢の、夜明けの一歩を。

 

狩人は加速を用いて彼我の距離を詰め、反撃の隙すら与えぬと言った勢いでレイテルパラッシュを突き出し、秘儀『加速螺旋刺突』を繰り出してきた。

 

次の瞬間、甲高い金属音と共に火花が一面を包み、それはまた、助言者が自らの得物で攻撃を防いだ音であった。

 

助言者は失われた葬送刃の窪みにレイテルパラッシュの機構部を噛み込ませ、威力を相殺。

 

更に、手甲の積層革の隙間に鎌切先を深々と差し噛ませる事で狩人の脱出を困難にさせ、自らの流れに持ち込むという戦術を取ったのだ。

 

一方狩人は、自らの得物たるレイテルパラッシュを失われた葬送刃の根元、湾曲し欠けた隙間に噛み込まれており、無理に外そうとすれば刃が圧し折れかねない状況に陥っていた。

 

「さあ、狩人よ。この状況をいかに脱するかね?」

 

助言者は笑いながらエヴェリンに骨髄の灰を篭めており、刹那、発射音と共に撃ち放たれた血質水銀弾が狩人の脇腹を抉り取った。

 

傷口からは神秘の精霊が無数に顔を覗かせており、同時に腸のひもが零れ出ていた。

 

この窮地に対し、狩人はレイテルパラッシュを銃剣形態へ変形させて水銀弾を発射し、助言者の軸を半ば強制的にずらして刃を緩めるという強行に出る。

 

そうして軸をずらした隙にレイテルパラッシュを回収して形状を戻した後、逆回転蹴りと同時に秘儀『螺旋刺突・回転裂』を繰り出す事に成功した。

 

狩人の蹴りで顎を砕かれた助言者は軸をずらされた影響で覚束ぬ体幹を完全に崩され、無防備となった所へレイテルパラッシュの一撃を喰らい、腸を全て引き摺り出されてしまった。

 

一体となって螺旋を描き、蛇の如く大地を撥ね回る腸の鞭。

 

助言者は致命傷により倒れ伏し、指一本すら動かさない。

 

狩人は触手を伸ばして腸の鞭とレイテルパラッシュを手にすると、距離を取って輸血液を打ち込み、回復の態勢を整えた。

 

その時であった、意識を失ったはずの助言者より蒼白い波動が撃ち放たれたかと思うと、倒れ伏した身体がひとりでに起き上がり、そのまま輸血液を数回補給。

 

瀕死の重傷から一転、傷を癒して完全復活を果たした。

 

やはり助言者も一度、月の魔物を斃した影響で人ならぬ力を手に入れており、ゆえに身体性能が尋常のそれを大きく逸脱しているのだろうか。

 

「フゥ・・・死んだかと思ったぞ。ここからは、本気でいかせて貰おう」

 

失われた葬送刃を回転させながら、首を鳴らして静かに言葉を紡ぐ。

 

刹那、狩人の背後より助言者の声が響いたかと思うと、内臓攻撃の手刀が腹より飛び出し、腸が引き摺り出されてゆく感覚が伝わって来た。

 

そのまま蹴り飛ばされ、更に腸の鞭で首を絞められてしまう。

 

助言者は失われた葬送刃を曲刀に変形させ、同時に腸の鞭を引き寄せて彼我の距離を詰める。

 

目論見に気が付いた狩人は背部より伸ばした上位者の翼で腸の鞭を食い千切って脱出し、滞空姿勢からルドウイークの長銃を展開した後、骨髄の灰を篭めて血晶散弾を撃ち放った。

 

だがそれもまた、残された腸の鞭とエヴェリン、失われた葬送刃の曲刀形態によって全て叩き落されてしまう。

 

もはや互いに千日手であり、このままでは拮抗状態が一筋の糸となって膠着する事は目に見えて明らかであった。

 

――狩人よ 底知れぬ神秘に見える者よ――

 

埒が明かぬと判断した助言者は失われた葬送刃を鎌状に変形させた後、溜めの構えを取り、中空へ留まる狩人目掛け飛び上がった。

 

空中歩行によって距離を詰められてゆく狩人はなぜか酷く落ち着いており、次の瞬間、それは訪れた。

 

背後より現れて助言者を襲ったのは、大爪振るう狩人の眷属であった。

 

深淵より出づる狩人の眷属は、その一際巨大な一振りの大爪で助言者の脚を斬り落とし、更に上段蹴りを極めて延髄に損傷を与え、全身麻痺を引き起こした上で地上目掛け勢いよく叩き落した。

 

土埃と花吹雪が巻き上がり、地上が二色の煙に包まれる。

 

やがて煙幕が晴れた頃、地上へ降り立った狩人の眷属は眼前の光景に困惑を覚えた。

 

衝突痕の底にいる筈の助言者が消え去っていたのだ。

 

同時に狩人も降り立って捜索したがその姿はどこにも見えず、だが次の刹那、絶命の声が上がると共に狩人の眷属の首が刎ねられ、おぞましい死血と共に霧と化して消滅しまった。

 

驚いた狩人が背後へ向き直ると、そこには先程の傷を残したままの助言者が失われた葬送刃を構え佇んでおり、両者は同時に輸血液を打ち回復した後、加速を用いて距離を詰め、間合いの境にて衝突した。

 

激しい打ち合い合戦の末、勝利したのは助言者であった。

 

狩人のレイテルパラッシュは機構が衝撃に耐えきれず崩壊し、その隙に両腕を断ち斬られてしまう。

 

すぐさま触手と小アメンの腕を生やして補完したが、蓄積したダメージまでは補いきれない。

 

助言者は輸血液を打って傷を癒した後に大きく飛び上がり、失われた葬送刃を振るって狩人に斬撃波を飛ばした。

 

斬撃波は狩人の脇腹を捕え裂いた後、烈風の如く白い花弁を散らした。

 

脇腹より臓物が零れ、だが次の瞬間狩人は輸血液で傷を癒し、欠損を復活させてしまった。

 

――だが君はもはや人でなく 故に悪夢は終わらない――

 

助言者は地上に降り立った後、加速にて彼我の距離を詰めて失われた葬送刃を振るい、落葉の刃がそれを食い止める。

 

群青色の神秘の刃を纏った落葉は失われた葬送刃へ僅かながら干渉しており、磁石に惹かれる金属のように引き込まれているのを実感した。

 

その現象に只ならぬ危機感を覚えた助言者は失われた葬送刃を曲刀へ変形させた後、狩人を蹴飛ばした。

 

体幹を崩した狩人は尻餅をつき、それは一瞬の隙となった。

 

助言者は失われた葬送刃を刺剣の如く構えた後、加速を用いて狩人の心臓に深々と突き刺した。

 

更に追い打ちを掛けるように、空いたもう一つの腕に握られたエヴェリンからも零距離連続掃射が行われ、全身が蜂の巣と化してゆく。

 

長の鉄兜から霧の如く血飛沫が吹き上がり、助言者はそのまま、力無く項垂れたように座り込む狩人を蹴飛ばして刃を引き抜いた。

 

「およそ弔いとは呼べぬ狩りだが、それでもなお、星に由来する隕鉄には、対象を弔う意志が宿る」

 

助言者は再び失われた葬送刃を変形させ、未だ血の滴る狩人の首に刃をかけ、一息に振り抜いた。

 

「・・・?」

 

鉄塊を叩いたような衝撃と共に閃光が飛び散り、鎌を振るう腕が急停止する。

 

振り抜いた筈の刃は止まり、万力に固定されたかの如く、引き戻す事すらできなかった。

 

何が起こったのかを確認する為に助言者が腕の先を見ると、それは衝撃の光景であった。

 

狩人は星の短刀を失われた葬送刃の根元、湾曲し欠けた隙間に噛ませた上で、更に小アメンの腕の蠢く指先を用いて柄を握り、固定していたのだ。

 

流石の助言者とて、上位者の膂力を前に無傷で自らの得物を引き抜く事は困難を極める。

 

あの僅かな一瞬の隙にここまでの対処を施すとは、げに悪夢の狩人恐るべし。

 

そして狩人は口からエーブリエタースの腕を伸ばし助言者を撥ね退けた後、失われた葬送刃を触手で絡め捕って花畑の上に放り投げた。

 

だがいかなる奇跡であるか、飛去来器の如く投げられた葬送刃は弧を描くように回転しながら助言者の手に戻り、眼前の敵を再び立ち上がらせてしまった。

 

――だから手向けに一度だけ この鎌を振るおう――

 

互いの狩人は共に稀代の技術と力の持ち主であり、ゆえにその勝負は一進一退の攻防戦となる事はある種自明の理であった。

 

助言者は死神の如き立ち姿で狩人に接近し、失われた葬送刃を振るう。

 

狩りの歴史より失われたもの、弔いの慈悲、あるいは遺志を継ぐそのやりかたは、老ゲールマンと呪われた狩人狩りにのみ受け継がれ、彼らを除く全ての狩人より忘れ去られた。

 

助言者は老ゲールマンの狩りと、古狩人アイリーンの恐ろしくも優しい弔いの狩りを真似、多くの狩人を目覚めに導いてきた。

 

悪夢の上位者たる狩人もその例外ではなく、ゆえにここで斃れる訳にはいかないのだ。

 

助言者は加速を用いて狩人を翻弄し、マダラスの笛を吹いて大毒蛇を召喚、夢の花畑に現身を顕現させた。

 

マダラスの毒蛇は木々を揺るがす程の咆哮をあげ、花を轢き潰しながら這い回り、狩人に襲い掛かった。

 

だが狩人は素早く繊細な加速でその大振りな連撃を紙一重で躱してゆき、更にその隙間を縫って移動し、鱗を剥ぐという高等行為さえ行っていた。

 

助言者はまた、マダラスの毒蛇が決定的な攻撃手段に成り得るとは微塵も考えておらず、ゆえにこれは一瞬の隙を作り気を逸らす囮、本命攻撃の為の釣り餌であった。

 

やがてそれを示すように釣り餌は傷を深めてゆき、遂に狩人に捕縛されてしまった。

 

狩人は上位者の腕を現出させてマダラスの毒蛇を高く放り上げた後、自らも翼を拡げて空中へ飛び上がり、秘儀『古狩人の一閃・連撃』にて肉片になるまで裁断し尽くした。

 

神秘の刃を纏った落葉に斬り刻まれた毒蛇の遺骸からは冒涜的な香りが漂い、次の瞬間、捕食器官と化した上位者の翼が肉片塊を一飲みに食らい、やがて死臭と共に狩人は地上へ降臨した。

 

死の香りと共に舞い降りるその光景は、宛ら死神の如きであった。

 

助言者はエヴェリンの摘みを回し、引き金に指をかけた。

 

本来は単発の水銀弾を発射するエヴェリンだが、助言者に改良を施され、ガトリングのように連続発射が可能となっていた。

 

エヴェリンの銃口より血質水銀弾が雨霰の如く飛来し押し寄せ、狩人はそれをひらりひらりと全て躱してゆく。

 

しかし狩人の回避した先には、一連の行動を予め予測していたかのように助言者が待機しており、失われた葬送刃を肩に担ぎ、力を溜めていた。

 

次の瞬間、狩人の腹を失われた葬送刃が裂き、おぞまし色の腸が溢れ出した。

 

狩人は輸血液を打ち、傷を癒す為に大きく飛び下がる。

 

それを逃がすまいと、助言者も彼我の距離を詰めるべく加速を用いた。

 

この時、双方輸血液を半分以上消費しており、やがて底が尽きるのは時間の問題であった。

 

ゆえに急ぎ決着を付けねばならぬ、序盤のように体勢を立て直し続けていては、永遠にこの死闘は終わりの兆しさえ見せないのだと考えたのだ。

 

「?」

 

その時、助言者の足に違和感が生じた。

 

まるで足元に蔦の絡まったような、妙な異物感が。

 

不思議に思った助言者が足元を覗き見ると、そこには自らが引き千切り捨て置いた筈の、おぞましく蠢く腸の鞭が大地に根を張っており、それが植物の蔦の如く頑強な足枷として、足首に絡み付いていた。

 

足を動かせば動かすほどきつく締まっていくそれは、恐らく分身体としての意思を持って動いているのだろう事が伺え、だがそのお陰で撤去は困難を極め、一歩間違えれば自らの足ごと斬り落としかねない様相であった。

 

前を見据え、狩人に動きがない事を確認した助言者は千景を抜き放って足元蠢く腸の蔓を慎重に斬り裂いた後、再び加速を用いて一気に彼我の間合いを詰めた。

 

最高速度の瞬歩は狩人さえ感知させぬうちに首元に刃を迫らせる事を実現し、だがそれは間一髪で躱されてしまう。

 

助言者が間合いを通り過ぎる僅かな隙の間に狩人は小アメンの腕を展開し、義足を掴み引っ張った。

 

その膂力は宛ら巨大な獣の如きであり、加速の直進力を軽く凌駕するものであった。

 

突然の後進力に態勢を維持できなくなった助言者は転倒し、だが同時に、思わぬ方向へ働いた加速力は小アメンの腕を振り解く事に成功した。

 

「フ、フフフ・・・流石は狩人」

 

「ああ、こんなに苦戦しているのは久し振りだ・・・」

 

「一体いつぶりであろう、ゲールマンとの死闘以来か・・・」

 

再び間合いを離して相対する、二人の化け物たち。

 

その歓びはまた、長らく死闘に身を置いていなかったが故の歓喜なのか。

 

あるいは、血に酔った獣の側面が見せる本能の爪痕なのか。

 

助言者は言葉を紡いだ後、歓びの声を上げながら過去を遡り、腰から千景を引き抜いた。

 

おぞましい緋色の血刃を形成したそれは、僅かな鈍虹を刃文に浮べ、同時に狩人も落葉を変形させ、再び群青色の粘液、神秘の刃を纏わせた。

 

狩人の落葉に纏う群青色の神秘の刃と、助言者の千景に這い付く緋色のおぞましい血刃が衝突し、僅かに双方の体液が後方へ飛散し、それは瘴気の煙となって周囲を包み込む。

 

群青色の神秘と緋色の劇毒、果たしてより強くあるのはどちらなのか。

 

互いに刃を鍔迫りながらひたすらに睨み合い、刻一刻と時間だけが過ぎてゆく。

 

やがて痺れを切らし行動に出たのは、狩人であった。

 

狩人は赤黒い触手を鞭の如く伸ばして助言者の義足を蹴り飛ばそうとし、その一瞬、落葉の力は緩んだ。

 

当然、助言者がその隙を逃す筈もなく、狩人の落葉を回転させて刃を逆向きにし、加速を用いて一気に押し込んだ。

 

凄まじい加速力で群青色の神秘の刃を押し込まれた狩人は体幹を失いかける。

 

最後の好機と考えた助言者はその隙に刃を横薙ぎへと振り抜き、腸に劇毒たる、呪われた血を滲ませた。

 

刹那、狩人の肉体に呪われた血が滲み込み、神秘の血と乖離を始めた。

 

月の石を握り込むも、掌に取り込まれるのみで魔物の似姿を顕現する事が出来ない。

 

やがて全身に劇毒が回り始めた狩人は震えだし、とどめの隙を見出した助言者は一気に踏み込んだ。

 

――悪夢の主に 安らかなる終わりを――

 

この一閃で、長い永い悪夢が、遂に夜明けを迎える。

 

勝利を確信した助言者は追撃と言わんばかりにエーブリエタースの先触れを伸ばし、とどめの前座を与えんとした。

 

だがその刹那、狩人は獣の爪を展開して先触れを斬り刻みながら突き進んで助言者の腹を裂いた後、臓物束を掴んで引き摺り出し、致命傷を負わせる事に成功した。

 

虚無の洞と化した腹の内からはおぞましい淀みの蟲が湧き出始めており、それはまた、生きる意志の減少を示していた。

 

衝撃の光景に助言者は驚いたような表情をした後、最後の灯の輝きと言わんばかりに失われた葬送刃を変形させ振り被り、狩人の首を狩ろうとした。

 

たとえ死に瀕しようとも、これで全てが終わるのだから。

 

たった一度きりの最後の好機、これを逃せば、己に明日と目覚めはない。

 

助言者は勢いよく鎌を振り抜き、だが次の瞬間、彼の首を冷たい感触が通り過ぎた。

 

狩人が握る、赤黒く艶めかしい鮮血に濡れたそれは、最後の上位者の介錯に用いられた葬送刃の欠け刃たる星の短刀であり、次の瞬間、鋭滑な筋傷を開いた首元から、噴水の如き血飛沫が溢れ出した。

 

噴き出す鮮血と腸の肉片が鮮やかな緋の彩から徐々に濁りを伴う緑の混じった彩へ色褪せてゆき、同時に甘い腐臭を伴う死の香りを放ち始める。

 

狩人の傷は見る見るうちに癒え、だが一方で助言者は腐り落ちた緑血を眺めながら膝をついて震える腕を天に掲げ、もう片方の腕で心臓を抑え込んだ。

 

長い狩人の夜は、最後の助言者の死を切欠として明星を迎え、長く凍てつき、淀みを湛えた時の濁流は堰を切ったように流れ始め、全ての箍が外された狩人の夢は、もはや役目を終えつつあった。

 

凡ては一時の幻、泡沫の夢は、弾けるような目覚めと共に消え逝く運命にある。

 

「すべて、長い夜の夢だったよ・・・」

 

僅か一瞬、助言者は苦悶の表情を浮べ、だが安らかな笑みを浮かべた後、霧と化して消滅した。

 

【HUNTED HUNTER】

 

後には最初の狩人たるゲールマンが狩りに用いた蝙蝠羽の狩装束と助言者の用いた官憲装束、そして、最後の慈悲に縋った聖遺物の狩道具、失われた葬送刃が残されるのみであった。

 

【失われた葬送刃】

 

【千景】

 

【エヴェリン】

 

【ゲールマンの狩帽子】

 

【蝙蝠羽の濡装束】

 

【官憲の服】

 

【官憲の手袋】

 

【官憲のズボン】

 

【マダラスの笛】

 

【星の爪】

 

【古びた狩人証】

 

永い悪夢は終わりを迎え、それと共に、狩人の夢は新たな上位者の揺り籠となった。

 

だが、この精神世界はもはや何者をも歓迎する事は無く、夢幻の狭間に漂う閉ざされた揺り籠として、ひっそりと闇朧に浮かぶのだろう。

 

葬送の遺志は助言者から悪夢の狩人へと引き継がれ、それはまた、後の世にいかなる結果をもたらすのだろうか?

 

狩人は助言者の遺品を拾い集めて懐へ仕舞い、庭にそびえる巨大樹の下に墓を建て、手を合わせた。

 

"最後の助言者、ここに眠る"

 

所詮は狩人の自己満足、本体の居る筈のない偶像的象徴物である。

 

だがそれは獣に染まった昏い精神に弔いの心を呼び起こし、人のよすがを留める慈悲の精神、その様式美を思い出させるのだ。

 

宵の明星の輝きだす頃、空は群青色に変わりつつあり、水平線の先には消えゆく緋色が僅かに残るのみとなっていた。

 

やがて夜明けの光は緋色を搔き消して全てを群青色に染め、全ての終わりを悟った狩人は屋敷へ向かい、悠然と歩き出した。

 

既に火の消え、煙の昇る夢の屋敷の入口には人形がおり、だがそれはもはや動かぬまま花壇に打ち捨てられ、僅かに埃を被っていた。

 

数瞬の後、狩人は意識を失い、やがて目覚めたのは幻想郷の一角、妖怪の山の中腹であった。

 

<妖怪の山 中腹>

 

既に日の暮れ、赤い満月の昇る夜空には無数の星が瞬いており、月の上には巨大な紫焔の九尾が纏い付くように立ち上っていた。

 

それはきっと狐毛の仙霊たる純狐のそれであり、彼女は無事に月へ帰還を果たしたのだろう。

 

そう考えた狩人は息を吸い込み、自らの塒を目指して足を進め始めた。

 

──────その頃、山の反対側でおぞましい狩りが行われていよう事など、露ほども知らぬままに。

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