姫川大輝は逆行する_が、どうにも弟が弟じゃない。 作:ある日の残り香
思いつきで書き始めてしまった。
わ、わたしはTSアクアが見たかったんです。
その上で姫川さんも救いたかったんですよ!
自分をすり減らす復讐者の女の子は可愛いなぁとか、妹に甘いお兄ちゃんって良いなぁとかそんな不埒なことは考えてないですよ!
アクア(雨宮吾郎)の尊厳はなくなってます。可哀想なことに。
でも大丈夫、きっとお兄ちゃんが幸せにしてくれるからね。
第一話【姫川大輝は逆行する】
俺の名前は姫川大輝。
かつては天才俳優だなんだと持ち上げられており、成功しているように見えたが、実生活においては大切なものをほとんど奪われるだけの惨めな人生を送った男だ。
最初に両親、そして……血の繋がった弟。その両方を同じ人間に奪われた。
などと、薄暗い部屋で声には出さずに振り返る。
あまりにもネガティブな分析ではないかと、友人たちが聞けば慰めようとするだろう。喪失感という古傷を疼かせながらも、これ以上失わないために。
だが、今この部屋には誰もいない。それが正しい姿なのだと思う。俺は腐っても天才役者だ。どれだけ精神が壊れていようが、アレから5年も経てば、少しは取り繕う演技ができるようになった。その甲斐もあってか、不安だからとこの部屋に押しかけてくる連中も減った。不安に思われたのは、一時期の俺の言動やSNS運用のせいなのであるが。
俺は今日、ここでこの人生を締めくくるつもりだ。何もない、この殺風景な部屋で。家主には、多大な迷惑をかけることにはなるだろう。せめて処理が行いやすいように一昨日から断食を行った上、床には防水マットを何重にも敷いた。
天井からぶら下がる麻縄が、俺を待ち焦がれるかのようにゆらゆらと揺れていた。俺はそろそろかと思い、関係各所へのメールを送信すると、踏み台に登り、麻縄に手をかけた。
しかし、次の瞬間には麻縄は消えていた。それどころか、俺はベッドの中にいた。混乱しつつも、辺りを見渡す。男が暮らしているにしては小綺麗で、この部屋の主人は遊んでいる人間だとわかるような部屋を視界に収めると、俺はその部屋がかつて自分の暮らしていた部屋であると理解した。そう、今では殺風景になってしまったあの部屋だ。
走馬灯か。そう思うと笑えてくる。そうだ、俺は死にたかったんじゃなく、苦しみから逃れたかったのだ。弟が生きており、両親に関する真相が世間に知られていないあの頃に戻りたかったのだ。その本心を突きつけられているようで、笑うしかなかった。
だが、だからどうしたというのか。もう戻らないものをいくら望んだとて、手に入ることはない。女をいくら抱いたとて、美味いものをいくら食ったとて、どんな絶景を目に収めたとて苦しみから逃れることはできない。過去に戻れでもしない限り、この苦しみは__
〜♫
電話が鳴る。走馬灯の中でも電話は鳴るのだななどとどうでもいいことを考えながら、俺は電話をとった。
「……。」
「もしもし?姫川?おい、無言電話か?」
「はい、姫川です。なんですか金田一さん。」
「なんですかって……今日は『東京ブレイド』のスタッフさんで顔合わせをする日だって言ったよな?!もう時間過ぎてるぞ!早く来いバカタレ!!」
そう説教されながら、電話が切れた。このあたりから、俺の額には変な汗が出始めていた。通話が終わると、スマホには今日の日付が表示される。それは、まさしく『東京ブレイド』の顔合わせの日。初めて、弟と会った日付だ。まさか、本当に……いや、本当にそんなことがあり得るのか?
俺は、逆行した。時を遡ったのだ。
俺は飛び起きると身支度を早々に済ませ、家を飛び出す。この際、逆行するなら両親が生きていた頃に飛ばしてくれなどと贅沢は言わない。どうせ、その時代に戻ったところで、托卵によって生まれた俺がいる時点であの二人の結末は変わらなかったのだ。
だが、弟は__アクアは違う。アイツは、救える。俺は大人で、アクアが死ぬ日もおおよそわかっている。クソ親父に殺されたが、一矢報いたあの日を。
アイツがいつから、クソ親父の存在を知って"あの映画"という復讐を思いついたのかは知らない。だが、あの映画を製作さえさせなければ、クソ親父……カミキヒカルが俺の弟を殺す可能性は下がる。
カミキヒカルには、いくつかの余罪があったはずだ。クソ、こうやって過去に戻れるなら、辛くとも全ての記事を読むべきだった。アクアの奴が行動を起こす前に、カミキヒカルの余罪を暴く。あるいは、奴の標的をアクアから逸らす。それが俺の目的になった。
ようやく、顔合わせの場……Bスタジオに辿り着いた俺は肩で息をしながら現場入りする。もう一度会いたいと、そう願い続けた弟が、そこにいるのだと思うと涙が溢れてきた。
「遅いわバカモンが……ってなんで泣いてんだ?」
俺のもう一人の親とも言える金田一のおっさんの説教と困惑がこだまする。スタッフたちも泣いている俺を見て混乱している。
「悪い、ちょっと女の子にフラれて。」
そんなふうに誤魔化しつつ、顔を上げる。弟を、アクアを探そうと見回す俺をよそに、雷田さんが俺を紹介してくれている。そういえば、前の時は俺はここで居眠りして叩き起こされたんだったな。
そして、俺はようやくアクアを見つけた。見つけるまで時間がかかった上、見つけると同時に固まった。
俺の記憶より一回り低い背丈。俺の記憶よりも可愛らしい体格。
どう見ても、男には見えない姿。
俺が混乱しつつ固まっていると、黒川が前に出てくる。
「姫川さん、アクアちゃんには手を出しちゃダメですよ。私の恋人ですから。」
"アクアちゃん"だと……?
「え、女の子なのか?アクアって黒川の彼氏じゃ……」
「悪かったな貧相で。あかねの恋人なのと、役柄で勘違いしてるからもしれないが、俺はれっきとした女だ。」
「姫川さん、今ガチ観てたじゃないですか。なんでそこだけ記憶から抜け落ちているんですか?」
逆行したのはよかったが、どうやら今回はアクアが女の子らしい。
余計にちゃんと守らなきゃじゃねえか。あのクソ親父から、この芸能界から。
ってか、何があって今ガチで百合ップル成立まで漕ぎ着けたんだよ。こいつらは運命の糸かなんかで結ばれてんのか?
……帰ったら今ガチ観るか。
姫川大輝
お兄ちゃん。原作完結後に立ち直れなかった姿。今度こそ家族を失いたくない。あかねちゃんからめっちゃ怪しまれるし警戒される。
アクアが復讐を成し遂げたことを知らない。カミキヒカルに殺された被害者だと思っている。
星野アクア
女の子になっていた。前世はちゃんと雨宮吾郎(原作通り)。しかし、転生後は原作と異なり女の子。男であるのに女に転生したとなればルビーから引かれ、排除されるのではないかと危惧し、前世から女ですよというような態度をとっているうちに自己が曖昧になっている。
見た目は身長は160cmあるかないか程度で、どちらかといえば中性的であり、今回の刀鬼役もそのまま配役されている。大体ストレスでホルモンバランスが狂ったまま成長したせい。
今ガチではメイクや簡単な変装をして「男性」として参加するがこれは番組側の都合であり、「シーズンの半ばごろに実は女性であり、番組側から用意された仕掛け人であることが判明する」という脚本によるものだ。これにより、男女比が崩れることによる競争の加速や関係の変化などで後半の緩急をつける予定であったが、原作通りのあかね炎上事件が発生し、このイベントを発生させる余裕が消失する。結果として本当に最後の最後まで「男性」として参加しつつ、最後の告白イベントで「実は_」と白状。これに視聴者も演者も驚愕するが、あかねは「うん、知ってた」とだけ言いアクアの唇を奪いカップル成立となった。さらなる驚愕が視聴者と演者の間に発生した。
今ガチ以前は口調が丁寧な女性という感じで周囲に接していたが、それ以降は社会イメージに合わせて原作アクアそのままに"俺っ娘"になっている。ヲタクウケが良い。
原作とは異なり、"女性であること"も復讐に使える武器として捉えているフシがあるが、まだ純潔。今後はあかねと姫川が見張り始めるのでその手は封印される。
黒川あかね
姫川の変化に対して訝しんでいる。アクアを前にした時だけ、雰囲気が変わる……これってもしかして横恋慕?
アイはすでにインストール済み。
有馬かな
アクアが女の子だと知った時に人間から出たとは思えないような声を発した女。なんとなく観ていた今ガチに出ていた好みの男が、アクアの変装だと知ってまた変な声が出た。あかねがその上で掻っ攫っていってさらに変な声が出た。
星野ルビー
シスコン妹。アクアに男ができるなんて想像もしたくないし、もしも現れたら消し去ってやりたいとさえ思っている。このままあかねと結婚してほしい。
同性な分、原作よりもアクアに甘えている。無自覚に、血縁者の愛に飢えているのかもしれない。
鳴嶋メルト
アクアに対して憧れを抱いている。彼はそれを恋心などではなく、純粋な尊敬の念だと思っているが……。
続くかはわからない。