姫川大輝は逆行する_が、どうにも弟が弟じゃない。   作:ある日の残り香

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 マイペース更新です。
 定期更新なんて私にはできない。
 難産でした。


第十二話【復讐計画会議】

 ドアがノックされる。アクアと黒川が来たようだ。特に追い返す理由もないので、二人を部屋に上げた。

 

「姫にい……改めて、朝はごめん……。」

「いや、こっちこそ誤解を招いたようで。」

 

 そんなふうに謝り合う俺たちを黒川がニコニコと見守っている。

 

「で、なんのようだ?ルビーたちの撮影を見学しに行かなくていいのか?」

「姫川さん、復讐の話です。」

「……。」

「姫にい、あかねから話は聞いてるよ。だから、まずは姫にいを止めに来た。」

 

 黒川はどうやら俺の計画をアクアに話したらしい。しかし、まさか止められるとは思わなかった。

 

「俺がいうのもなんだが、俺の計画は完璧だろ?止める必要があるのか?」

「姫にいの死を前提とした計画を、果たして完璧な計画と呼べる?」

「お前らが死なないなら__」

 

 最初、俺は平手打ちが飛んできたのだと思った。だがそれは違った。

 

 握り拳(グー)だった。

 

 メガネが吹き飛んで床に落ちる。グーパンとはいえ、アクアの細腕。たいした威力ではない。だが、心にはズシンと響くものがあった。

 

「人には死ぬなとか言っといて、自分の命は別勘定なのはダメでしょ!」

「そうだよ、姫川さん。あなた、自分がアクアちゃんの兄であることを忘れてない?あなたが死んでも、アクアちゃんの人生には影が落ちることになるんだよ。」

 

 その言葉は、きっと以前の俺には響かなかっただろう。だが、俺は昨日、アクアの慟哭を聞いた。それを、受け止め、兄としての責任を果たすと約束した。その重さを今自覚することができたがゆえに、自分の計画の杜撰さを思い知った。

 人間は満たされている時ほどその人間本来の知性が垣間見え、窮する時ほどそのパフォーマンスは低下する。また、満たされている時ほど失うことを恐れるようになり、飢えている時ほど失ってでも何か行動を起こそうとするものだ。これまでの俺は、後者だった。奪われる苦しみへの恐怖だけが俺を突き動かした結果、俺は俺自身の命というものの値打ちをはかり間違えた。

 しかし、昨日にアクアから与えられた多くの愛情が、先ほどの衝撃が、俺の命の重さを思い出させてくれた。その命の重みを感じ、俺は自分の復讐計画の欠点を理解できるようになった。

 

「ごめん……。」

「意外とすぐに説得できたね……」

「もっとかかると思ってたのに。」

 

 拍子抜けした様子の二人をよそに、俺は復讐計画のやり直しをしなければならないなとため息をついた。

 

「それで、姫にい。そろそろ教えてくれないかな。私たちの本当の父親について。」

「……もう処女懐胎だとか言って誤魔化すのはやめるよ。」

「そんなので誤魔化せるわけないでしょ。」

 

 俺は、二人の目を見る。二人の目は、同じだ。今の二人なら、一人で突っ走って命を捨てる真似なんかはしないだろう。そう踏んで俺は、告げることにした。

 

「アクア、よく聞け。俺たちの父親の名前は……」

 

 俺は、神木プロダクションのホームページにある社長紹介をスマホで開くと、それを二人の前に提示した。

 

「カミキヒカル。ララライ出身の、芸能事務所社長だ。」

「これが……私とルビーの母親で__」

「アイさんを殺した犯人……」

 

 見比べれば、アクアにも似ているその男性に、二人の目は釘付けになる。しかし、次の瞬間に黒川が大声を上げる。

 

「待って!!彼のプロフィールが正しければ、姫川愛梨が姫川さんを妊娠した時の彼は__」

「1●歳、ということになるな。」

 

 そうだ、俺の母親である姫川愛梨は小児性愛者である。カミキヒカルの美しさに目をつけ、彼の体を求め続けた異常者。カミキヒカルを化け物たらしめた悪魔の女だ。

 

「身内の恥だな、これに関しては。俺の両親は、どちらもどうしようもない。」

「……アイも年下の子供と子供を作ったって、こと?」

「そうなるな。」

 

 アクアの目に、若干の軽蔑に似たものが見えた気がする。前回の人生ではそんな表情を見た記憶はない。

 アクアは少し気分が悪くなったのか、トイレへ向かった。その間に、黒川が俺の方に近づいてくる。

 

「いつから知ってたの?」

「……幼少期、母さんがカミキヒカルに俺の本当の父親が上原清十郎ではないと言っている姿を目にした。それから、俳優をしながら探偵に依頼して頭髪を確保してDNAを鑑定したら、親子で確定した。」

 

 嘘である。前世の記憶を頼りに探偵を雇ったのだ。DNAの鑑定書がいつかなんらかの証拠として使えるだろうと踏んで。

 

「姫川さんも、辛かったですよね。」

「ああ。だが、今はアクアたちがいる。独りじゃない。」

 

 トイレの方から、嘔吐する声が聞こえた。アクアにとって、この事実は大きなショックだったらしい。自分の母親であり、敬愛するアイドルが自分より年下の少年とそういう行為をしたという事実や、自分の母親を殺した人間の顔に、自分の身体にも流れているDNAを感じたことが。

 

 しばらくして、アクアが戻ってくる。

 

「ごめんね。心配かけて。」

「いいや……辛かったら横になってもいいんだぞ。」

「ううん、大丈夫。それより、復讐の計画を立てよう。」

 

 ここで、俺たちはそれぞれがどのような復讐プランを計画していたのかを暴露しあった。認識のすり合わせのためである。

 

「とりあえずあかねと姫にいのアイデアはダメ。危険が大きすぎる。」

「アクアの計画もダメだ。逆上したカミキヒカルに殺される。」

「殺される"かも"じゃないんだ……?私はアリだと思ったけどな、アクアちゃんの案。」

「ダメって言ったらダメだ。そもそもアイの名誉が地に落ちるし、カミキヒカルの子供であるアクアとルビー、それから俺にも飛び火する。」

 

 こうして、全てが白紙に戻った。そもそも、俺と黒川とアクアでは復讐の到達地点が違ったことに思い至り、まずはそこから決定することにした。

 

「俺は逮捕を望んだ。塀の中に入れて、出てこれないように。」

「私は殺したい。今後、彼の刃がいつアクアちゃんやルビーちゃんに向くかわからないから。」

「私は名誉を傷つけて、そいつが永遠に社会から後ろ指を刺されるならそれでいい。逮捕できたらいいけど、こういう奴は大抵罪を犯さないように人をうまく使うイメージがあるし、私刑が1番効果的になると考えてる。」

「私刑を狙うのと殺すのはナシだな。前者は逆上が、後者は発覚による逮捕が怖い。かといって逮捕するにも現行犯以外がなぁ……。」

「完全犯罪なんて不可能だからね。たとえトリックが完璧でも、人間である以上どこかでボロが出る。特にこの現代の相互監視社会なら尚更……あかね、わかる?」

「うう……でも、今後のことを考えると死んでもらうのが1番安心するでしょ?」

「「……。」」

 

 俺とアクアは黙ってしまった。たしかに、本音を言うのならば殺してしまいたい。それも、妹に被害が及ぶ可能性があるなら痛切に。

 

「向こうがリョースケにやったみたいに殺人教唆するか?」

「どうやって?」

「まず女の子を引っ掛けて……」

「罪のない女の子を巻き込むなクソ兄貴!」

「いてっ!!殺人教唆の時点で同じだろ……」

「姫川さん、殺人教唆なんてよほどうまくやらなきゃバレるから無理だと思うよ。それこそ、人を使って動かす才能でもないと。」

「それもそうか……。」

 

 ならやはり、直接殺すしかないか。だが、個人が罪を犯さずに人を死なせる方法はこの世に存在しない。あってはならないのだ。この制約に普段は感謝すれど、今ばかりは忌々しく思った。

 俺は思考を巡らせる。どうすれば、何も犠牲にすることなく奴を破滅させることができるのか。その答えがいつになっても見つからない。そもそも、前世(と、これからは便宜上呼ぶことにする)のアクアだって、自分が殺されることでしか復讐を完遂できなかったのだ。

 何も差し出すことなく、最善の結果だけを求めるのは傲慢なのだろう。それでも、俺は諦めたくなかった。

 

 

 

 太陽は気づけば真上を通り、そして西へ沈み始めていた。

 

「カミキヒカルに張り込んで、奴が誰かに殺人教唆をするところを録音して警察に突き出す?矢切からの10。」

「バレたら一巻の終わりだな。計画の露見と、迷惑防止条例による逮捕及び報道されて詰みだ。11でイレブンバック。」

「これに関しては姫川さんの言葉に一理あるね。クラブの2であがり。」

 

 気づけばトランプをしばきながら、計画についてああでもないこうでもないと言い合っていた。進捗は0である。

 

「いくつか計画は出てきたが、どの計画も犠牲が出ちまうな……」

「映画を撮るにも、アイの真実が露見すればルビーも含めて私たちも叩かれかねないんだもんね……うーん……。」

「難しいね……。」

 

 そうだ、無犠牲でなければいくつか復讐の案は浮かんでいる。だが、無犠牲に拘った途端に何も出なくなる。俺たち三人は似たもの同士なのかもしれない。

 

 

「……ご飯食べよっか、そろそろ。」

「そうだねアクアちゃん。」

「ああ。」

 

 

 

 食事を終えて戻ってくると、ちょうど帰路でルビーたちとばったり会うこととなった。だが、ルビーの雰囲気が俺の知るルビーとはまったく別の存在なっているように俺は思えた。

 だが、それ以上に感じたのは敵意?のようなピリピリとした感情だ。有馬とMEMも雷雨の家犬の如くビビってる。

 

「ルビー、お疲れ様。撮影は無事に終わった?朝のことは、ごめんね。」

「ありがとうお姉ちゃん。いいんだよ、急に変なことを言ったのは私だから。」

 

 自然とルビーはアクアと腕を組んで、俺から離れたところにアクアを連れていった。その光景をぼーっと見ていると、横から有馬が申し訳なさそうに解説してくれた。その横にはおろおろしたMEMもいる。

 

「あの写真、ルビーにも見せたんだけど……すっごく怖い顔してて……ガチのシスコンにあの写真を見せたのは失敗だったわ。もし心配だったら防刃ベストぐらいは買っておきなさい。」

「姫川さん、アレは"マジ"のやつだよ〜……あかねのことで勘違いしがちだけど、ルビーはああ見えてアクたんへの独占欲が強いの。」

「え。」

 

 つまり、嫉妬である。可愛いなぁ俺の妹たちは。なんだ、雰囲気が変わったのも俺に対する嫉妬か。心配しちゃったよ、本当に。

 

「今日のルビーは、いつもに増して甘えん坊だね。どうしたの、撮影大変だった?」

「うん……」

 

 妹の特権とでも言うかのように、自然とアクアに抱きついてアクアの胸(絶壁)に顔を埋めているルビーは、一瞬こちらを見ると鼻で笑った気がする。

 

「私もあれやろうかな。」

「恋人特権ってか?黒川。」

 

 変わらず、微笑ましい光景が繰り広げられていた。アクアの両脇にはあかねとルビーが侍り、取り合いの様子になる。

 俺は、こういういつもの日常、何気ない日常のこの光景を守りたい。そのためには、復讐は成就しなければならない。誰も犠牲にならない復讐を。そう、覚悟を新たにした。

 それでも、ああ。今だけは……この光景が永遠に続いて欲しいと思った。

 

"時よ止まれ、汝は美しい(Verweile doch! du bist so schön!)"

 

 

 

 鴉が鳴いた。

 

「困ったな。思ってたのと違う。」

 

 白い髪の少女は、二つのイレギュラーによって生じた歪みを見て、眉を顰めた。




姫川大輝
 死ぬのが惜しくなった。今の幸せなまま生きていたい。
 ルビーの様子がおかしい。前世でもこうなっていたのか?まあ、多分嫉妬か。俺の妹は二人とも可愛いな。
 原作だと本読まないけど、流石にゲーテの『ファウスト』は知ってるよね?
 __知らないかも。(メフィスト)

星野アクア
 雨宮吾郎と雪宮五里という重度のアイヲタが消滅したため、アイに対する感情が崇拝から母親に向ける愛に変わってしまい、カミキヒカルとの関係に吐き気を催してしまった。
 それでもアイは大切な母であり、命を奪われるべきではなかった。だから私はカミキヒカルに復讐をする。

黒川あかね
 アクアちゃんの本質が「俺」であるという考察を以前したが、今のアクアちゃんは「私」こそが素であるように思えた。かなちゃんも今のアクアを昔に戻ったみたいだと表現しているし、「俺」は適応機制によって生まれた防御人格だったのかなと思い始めている。

星野ルビー
 姫川大輝とアクアの写真を有馬に見せられた時、素で体の奥底から「は?」という低い声が出た。姫川大輝に対する嫉妬が深まった。

有馬かな
 姫川とアクアの関係をルビーの前で揶揄ったら死ぬ。それを理解した。

MEM
 もしかして、単独初セリフ?
 報われて欲しい人の一人。

ツクヨミ
 ルビー相手にしか煽れない。


結局復讐計画が完成してないじゃない!?
果たしてプライベート編で復讐計画がプロトタイプでもいいから完成することはあるのか、次回「そして旅行は終わり(視点:星野ルビー)」

ネクスト姫川ヒント
ふくしゅうかるてっと
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