姫川大輝は逆行する_が、どうにも弟が弟じゃない。   作:ある日の残り香

2 / 28
深夜テンションじゃなきゃこの作品を書けない。
しかし深夜だとイカれた文章しか書けない。

トレード・オフだね。


第二話【仮定を誤った推理が真実に到達することはない】

 まずは現状を整理しよう。

 俺は時を超えて、過去へと逆行した。

 ただし、その過去は俺が前まで生きてきたモノと違い、アクアが女の子として生まれている。

 アクアは黒川と交際しており、周囲もそれを認識している。

 アクア以外については俺の記憶とは相違ない、はずだ。

 

「あの。」

 

 考え込んでいると、アクアが困ったような顔でこちらに声をかけてきた。

 

「さっきからずっと俺のこと見てますけど、なんか顔についてますか?」

 

 どうやら、思考中ずっとアクアの方を見ていたらしい。黒川の顔が直視できないほどに恐ろしいものに変わり始めている。

 

「いや、ちょっと考え事をしていた。お前の顔、どこかで見覚えがあってな。」

「……そうですか。」

 

 アクアのその反応には含みがあると感じた。そういえば、アクアはいつ自分が「カミキヒカル」の子供であると知り、それを映画にしようと脚本を練り始めたのだろうか。少なくともこの舞台公演の最中、どこかでサンプルを確保して遺伝子鑑定を行うくらいには、この時点ではまだ真相へは至っていないのだろう。

 

 俺の目的は、映画の製作を阻止すること。その上で、カミキヒカルの余罪を暴き、弟たちに手を出される前にアイツを塀の中に放り込むことだ。

 そのためには、アクアを「真相」へと辿り着かせるわけにはいかない。嘘をついてでも、「真相」から遠ざけて見せる。それが俺の精一杯の【愛】であり、同時に残酷な決意でもある。仮定を誤った推理は、正しい真相に辿り着くことはない。

 だが、DNAや科学的なアプローチをされては、嘘をつくことができなくなる。その点についてはより注意しなければならない。

 

「それじゃあ、お互い頑張ろう。っても、今日は本読みだけどな。」

 

 アクアにとっては、どちらの方が幸せなのだろうか。永遠に真相へと辿り着けないが、カミキヒカルには殺されない人生か、真相に辿り着き、あの映画を撮ってカミキヒカルに殺される人生。

 アクアから離れながら、脳内でそうぽつりぽつりと考える。

 

 

 

 稽古は前回同様に進んでいく。気持ち前回よりも日中などに参加する時間を増やし、俺はアクアの動向に注目しながらも稽古に励む。二度目とはいえ、一度終えた役の感覚を取り戻すというのはそう簡単なことではない。

 

 それからしばらくして。原作者のキラーパス台本が届いて以降、アクアの演技が鈍り始めた。アクアも俺と同じ「欠けてる人間」だ。今ならその正体がわかる。あいつが感情演技をうまくできないのは、そのせいだった。

 そのように後方理解者面をしていた俺は、そんな苦境を乗り越えようと有馬にアドバイスを求めるアクアを見て感慨に耽っていた。偉いぞ。今にアクアは成長し、本番ではあの演技を見せるんだからな。

 前回は参加していなかった時間帯。この先起きることも知らなかった俺は、そんなふうに呑気に考えていたのかもしれない。

 

「アクアちゃん」

 

 彼女が話すのは、子役などに対する演技指導としては基本中の基本の状況設定。

 

「もしお母さんが死んじゃったらどうする?」

 

 俺は、台本を取り落とした。有馬のその問いかけだけは、アクアにしてはいけないものだからだ。予測不能回避不能、それは俺にとっても、有馬にとっても同じことだった。黒川と目があった気がする。

 

 次の瞬間、アクアが崩れ落ちた。本人は立ちくらみだと言って稽古場からはけていくが、どうみても立ちくらみなんかではない。PTSDの発作だ。

 はけていったアクアに、彼女だからと黒川が付き添っていく。同性であれば、あるいはすでに兄妹であるとカミングアウトさえしてしまっていれば、そばにいてやれたというのを歯痒く思う。

 しばらくして、保護者代わりに五反田泰志が来た。

 

 __あの映画、『15年の嘘』の監督が。

 

 

 

 この時、俺の脳内にはある突拍子もない可能性が過っていた。しかしその突拍子もない可能性は、あるわけがないと唾棄することができる範疇を超えており、俺の思考を満たした。

 

・アクアは五反田監督の元で映像編集の修行をしてきた。

・五反田監督が撮影した映画作品には、アクアたちの本当の母親である「アイ」が幾度か出演している。

・五反田監督は、「アイ」の件で強いショックを抱えている。カミキヒカルへの恨みもあるだろう。

・アクアの幼少期からこれまでの発達段階で、彼の影響を強く受けている可能性は高い。

・五反田監督は、アクアの死後も『15年の嘘』の放映を決行した。

 

__五反田監督こそが、アクアを唆して「カミキヒカル」へ社会的制裁を与えようという復讐を企んだ張本人なのではないか?

 

 突拍子もない可能性だ。だが、完全に否定することはできない。

 問題は、彼がアクアとの間に強い信頼関係を築いていることだ。もしも本当に彼が全ての黒幕だとして、俺は彼からアクアを守ることができるのだろうか。

 

 頼むから、シロであってくれよ。

 アクアが信頼する人間が、アクアを地獄へ導こうとしているなどという、この推理が外れてほしいと俺は切に願った。




仮定を誤った推理は、正しい真相に辿り着くことはない。
(ブーメラン)



姫川大輝
 もしかして五反田監督が黒幕か……?
 そんなまさか、弟が転生していて幼少期から大人並みの情緒や精神を持ってるなんて誰が予想できるんでしょうか。弟が自分の腹を刺して相打ちを狙ったなんて誰がわかるのでしょうか。

星野アクア
 アイ……アイ………。
 姫川さんめっちゃ見てくるじゃん。女好きって噂聞くし警戒しておこう。

黒川あかね
 姫川さん、アクアが倒れることをわかってた?
 もしかして、あの人も何かを知っている?
 姫川大輝、劇団ララライに所属。姫川愛梨と上原清十郎の間に生まれ__(ぺたぺた)
 ある程度、姫川大輝の「真実」に近づくことはできるが、「本当の父親」や「アクアについて詳しいこと」などには至らない。

有馬かな
 またしても何も知らない有馬かな。
 読み合わせの後、姫川とご飯を食べに行ったが「もしもアクアと死後に関する約束をしても、その約束だけは果たすな」と釘を刺される。意味がわからない。横にいたメルトは姫川さんがヤバい人なのではないかと警戒し始める。
 今回の件のあと、稽古場で「アクア心配だよな……」って姫川がずっと言ってて不気味がる。

五反田泰志
 とんでもない冤罪をふっかけられそうな男。可哀想。


続け。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。