姫川大輝は逆行する_が、どうにも弟が弟じゃない。 作:ある日の残り香
これはもうハッピーエンド確定でしょう。書いていてようやく安心できました。
※セリフ変更について
黒川あかねのセリフを修正しました。原作の百五十八話で黒川あかねが「アイドルやってるかなちゃん解釈不一致だから」というセリフがあったにも関わらず、その文脈を"ライブ最終日に見に行けない理由の誤魔化しだ"と誤って記憶しており、アイドルの有馬かなを"アイドルの有馬かな"として普通にテンション爆上げで楽しむ黒川あかねという存在が爆誕していたので、「可愛い格好をしてる有馬かなが"アイドル役をしている"というフィルターをかけることで限界ヲタク化してる黒川あかね」という原作にちょっと近い形に修正されました。
多くの光。煌びやかな空気。会場を包む一体感。いつもは赤のサイリウムが多いこの空間も、今日ばかりは白いサイリウムが多く輝いていた。
「壮観だね、姫にい。」
「ああ。」
横ではアクアが3色のサイリウムを手に俊敏な動きを見せていた。俺は車椅子に座りながら、それを微笑ましげに眺めると、再び舞台の上に目を映す。
12月25日、快晴。B小町ライブツアー最終日。アクアは、この日このライブを直接見ることが叶わなかった。
そうだ、この日が__命日だったから。
「私は、たぶん。有馬を利用してた。」
「どうした、急に。」
アクアが口を開く。身体は変わらずヲタ芸を打っているが、その声のトーンだけは真剣だった。
「私ね、ルビーがアイドルをやるためのメンバー集めのために、有馬を勧誘したんだ。かなりしつこく。」
「ふむ……でも本人も望んではいたんじゃないのか?受けたってことは。」
「どうだろうね。たしかに私は、有馬ならアイドルとして強く輝けると信じてたし、そんな有馬のことを見ていたかったのかもしれない。」
「……。」
「でも、実際のところはここ一年……ルビーは誰よりも輝きを持つようになり、有馬の光もその光に隠されてしまった。有馬はきっと、たくさん辛い思いをしたと思う。嫉妬や悔しさに苛まれたのかもしれない。それは、すべて私が有馬をアイドルに勧誘したせいなんだ。」
アクアは、語る。後悔と罪悪感を。
「そうか、お前はそう思うか。」
「……うん。」
「でもよく見てみろよ。」
俺は有馬の顔を見る。その顔は、楽しんでいる人間の顔だった。強い目的を持って、その目的を果たすために輝く人間の顔だ。どれだけ強大な壁があろうと、それでも打ち勝ってやるんだという強い意志を持った人間の顔だ。
「有馬かなは、この選択を後悔していない。」
「……。」
「芸能界には限らないが、何事もやってりゃ辛いこともある。でもそれ以上に、楽しいからやってるんだよ。俺だってそうだ。演劇で自分より才能がある奴が現れたら悔しくて猛特訓して喰らいつくし、スポンサーの意向でくだらないことをさせられることもある。でも、それでも楽しいんだよ。」
「有馬……。」
「だから、よく見てやれ。あの瞳が……誰に向いているのかを。」
曲が切り替わる。この曲は、有馬がセンターを務める曲だ。アクアは誰も気づかないような微笑を浮かべると、サイリウムの色を切り替える。全てを白(有馬)に。
私は歌う。全ては、これまで応援してくれたファンたちと、私を救ってくれたアクアのために。ステージに立つや否や、アクアはいるかとか探してみたが、すぐに見つかった。わかりやすすぎるんだもの。
その手には3色のサイリウム。ルビーと私とMEMちょ。箱推しってわけね。最後ぐらい、私だけを推してくれてもいいのに。そんな暗い気持ちが胸に湧くが、これでもプロ。すぐに切り替えた。
しばらくして、私がセンターを務める楽曲に移り変わる。その時、アクアが微笑みを浮かべると、全てのサイリウムの色を切り替えた。その色は、私のメンバーカラー。
目が合った気がする。「有馬らしく輝け」そう言うかのように、彼女は笑い、ヲタ芸を始めた。
なら、そうね。
私は全力を超えて、このライブを成功させてやるわ。
そして、あなたの「推しの子」に成ったと胸を張って言えるような、伝説を残してやるわ。
私の一挙手一投足で、会場に爆ぜ散るかのような声援が響く。
私を見て、みんな。私を見て、アクア。
そんな素晴らしい時間も、終わりはある。このライブもついに終盤に差し掛かった。
「姫にいも楽しめてる?」
「ああ、可愛い女の子たちを見るのは健康にいい。」
「……なんか複雑だな。」
俺は感慨深さで涙が出ていた。歳をとると涙もろくなると言うが、あれは本当にそうだ。
そんな時、アクアがため息をつく。
「どうした?」
「実は私、このあと予定があるんだよね。」
「え?!ライブなのに?!」
「……ライブだからだよ。一昨日急にミヤコさんから説明を受けたの。」
「そうか……それは……。」
アクアは結局、最後まではこのライブを楽しめないらしい。それはすごく、悲しいことだ。そう思っていると、アクアはサイリウムを俺に渡した。
「応援してね。」
「なるほど、わかった。」
お前の分まで、B小町のみんなを応援してやる。行ってこい、アクア。アクアの顔が、少しだけ嬉しそうに綻んだ。
最後の楽曲が終わると、有馬かながステージ上のマイクからファンへの感謝を述べ始める。それから、子役時代の思い出を語り始めた。
「私には、その頃から強いライバル意識を持っている相手がいました。それから、高校生になって再会したその人は、ただ堕ちていくだけだった私を救った上で、私をこの道に……アイドルという舞台に立たせてくれた人でもあります。」
アクアの話だ。アクアは、色んな人を救い、繋いできた。だからこそ、こうして感謝を集め、愛されるのだろう。
兄として鼻が高いよ、アクア。
「その人は今日、この会場にいます。」
ああ、さっきまでお前たちを強く応援していたよ。ミヤコさんからの頼みではけていったけど、俺にお前たちへの応援を託してまで。
「それでは、呼んでみましょうか。」
__ん?
「アクアー!!!」
「……。」
ステージの上に、青を基調さとしたアイドル衣装を見に纏った美少女が現れる。
「……星野アクア、です。」
「今夜ばかりの特別なステージ、なんと彼女も一緒に歌ってくれます!!それでは、本当の本ライブ最後の楽曲__ミュージックスタート!!」
アクアと目が合った気がする。俺は、この時自分のすべきことを把握した。サイリウムの色を変更する。全てを、青に。
車椅子の上で、俺はアクアのようにヲタ芸を打つ。全てはステージの上の……ようやくこの日を迎えられた妹に向けて。
アクアのダンスはたしかに他のメンバーと比べると拙いものがある。だが、一昨日から頑張って身につけたにしては上出来なものであり、そこには熱意と責任感を感じとれた。
会場の声援は凄まじかった。一夜限りの幻のアイドルを、皆が目に焼き付けていた。その、青い宝石のような少女の姿を。
ライブは終わった。最後にはステージ上でアクアが有馬かなに、長文の労いと心の底からの賞賛、それから少しばかりの恨み言を告げた。
「……最後に、卒業おめでとう。これからも俺__いや、私も有馬のこと応援してる。」
「あんたこそ、早く復帰しなさいよ。役者として。」
二人が抱き合う。会場は割れんばかりの拍手に包まれた。
「かなちゃんかなちゃんかなちゃんかなちゃんアクアちゃんアクアちゃんアクアちゃんアクアちゃん!!」
いつのまにか、俺の横には限界ヲタクが一人立っていた。
「黒川、いつの間に……」
「__は!!?しまった、つい気配を出しちゃいましたね。」
「まさか最初から……?」
「はい、アクアちゃんのヲタ芸を見ながら、かなちゃんを応援してましたよ。ここが特等席なので。いやぁそれにしてもまさかアクアちゃんがアイドルとして舞台に立つ姿を見れるなんて思いもしなかったなぁ、私のアクアちゃんは今日も輝いていたし、今日のかなちゃんは本当にすごかった。ああ〜!!今日というこの日を死ぬまで忘れることはないんだろうなぁ〜!!あくまでもアイドルをやってるかなちゃんは解釈違いというスタンスでやらせてもらっているけど、そもそも可愛い格好しているかなちゃんを見るのは好きだし、今回のかなちゃんは"アイドル役"として見たらもう100点満点超えて666点だし、もうこれは文句なしの大満足!!最高!!!」
「めっちゃ早口。」
だが、黒川の言う通りだ。俺はきっとこの日を死ぬまで忘れない。前世の心の傷に、蓋がされていく。無念の中死んだアクアが、供養されていくような錯覚を覚えた。
「すっっっっっっっっごく、恥ずかしかった!!!!」
「ざまぁみなさい、アクア」
苺プロの打ち上げでは、アクアが顔を真っ赤にしていた。当然ながらお酒は飲んでいないので、羞恥心だけで顔を赤く染めている。
「俺もいていいんですか?」
「……ああ、お前もあいつらの家族だしな。それに、お前がいないとアクアのやつがブーブー言いそうなんだよ。」
壱護さんは俺と対面し、お酒を酌み交わしながらそう呟く。
「にしても、車椅子がOKなお店をわざわざ探してくださったんですか。お手数をおかけしました。」
「いいんだよ、まだ歩けねえんだろ?」
「いや、頑張れば歩けますよ。まだリハビリは始まったばかりですけど」
「無理して壊したらもう役者としても復帰できなくなるだろ。そんなのは勿体ねえ。」
あれから2ヶ月程度だろうか。少し前に退院して、今は週に一度通院している。肉も骨もだいぶ回復はしてきた。だが、運動能力の低下はまだ根強く残っている。医者の説明では、根気強くリハビリを続ければ役者をやれるぐらいには回復するらしい。
壱護さんと話していると、俺の横にアクアが座る。
「姫にい、応援ありがとね。」
「ああ、可愛かったぞ。アクア。」
「……そっか。なら恥ずかしかったけど、頑張ってよかった。」
アクアは顔を赤らめ、顔を逸らした。その様子を見て壱護さんは咳払いをする。
「それで、今だから聞くが……お前ら本当にやましいことはないんだよな?」
「「ない。」」
ホントかよと言いたげな目で壱護さんはこちらを見ながらまたお酒を呑む。気まずいので、俺もお酒を飲んだ。壱護さんは何かを思いついたのか、ニヤつきながら口を開いた。
「おいアクア。お前姫川が結婚しても祝福できるか?」
「……は?誰がなんだって?」
アクアの声がとても低くなる。テレビのバラエティに出ている時に使っているキャラよりも低く、ドスが効いているその声に壱護さんさえも気圧される。
「た、たとえ話だ!ほら、姫川もあと数年すりゃいい奥さん見つけて結婚するかもしれねえだろ?」
「……まあ、そうだな。」
「ぇ?」
実際、俺は可愛い女の子が好きだ。もし俺のことを好きだと言う女の子がいて、その子が俺のことをお金じゃなくて人間として見てくれているのなら、恋愛を経て結婚をする可能性もゼロじゃない。子供こそ作るかはわからないが、漠然と30代の間には結婚したいという欲求はあった。
「ぇ……あ……ひめにい?ぁ、そっか姫にいも……そう、だね。いつかは、結婚……するんだよね……どこかの、女と……」
「アクア?」
「た、たとえ話だって言ってるだろ、アクア。」
壱護さんは「こりゃ想像以上に重症だな」とため息をつき、さらに酒を一杯呑む。
「__というわけだ、姫川。アクアの精神衛生のため、結婚は諦めてくれ。」
「____。」
どうしてこうなった。2回も目の前で死にかけたからだろうか。それとも、宮崎以降も甘やかし続けたせいだろうか。
「結婚がどうとか聞こえたけど、何の話ですか?」
アクアの後ろに黒川とルビーが立った。4対1で壱護さんと向き合う形になる。壱護さんはこれまでの話の流れを説明する。
「お姉ちゃん、それ恋だよ。お兄ちゃんを誰にも取られたくないっていう、まさしく恋愛感情、独占欲だね。だけどね、気持ちはわかるけど実兄だよ?考えなおそ?」
「べ、別に私が姫にいと私がどうこうなりたいわけじゃないよ。兄妹だし……ただ、姫にいが誰かと一緒になるのが……ちょっとモヤモヤする、だけ。」
「姫川さん、アクアちゃんのために結婚は諦めてください。恋愛もダメです。」
「俺の人権は?」
こうして、俺は結婚できない男となった。俺は「アクアが黒川と結婚するならスピーチも読むしバージンロードも一緒に歩いてやるぜ」って言ったら泣かれた。「約束ね」と言われた。
「……性転換手術、しようかな。」
「落ち着け黒川。まだ法改正の可能性がある。」
黒川の思考が極端な方向に行きそうになったのを修正しつつ、この打ち上げは続いた。未成年がいるため、夜遅くまでとは行かなかったが。
アクアに車椅子を押されながら帰路につき、俺はSNSを眺める。B小町と、アクアの話題が流れていく。あいつらは、よく愛されている。多くの人からの愛を受けて幸せにこれからも生きてほしい。
「ん?」
「どうしたの?」
一件の動画が拡散されていた。
『車椅子のあんちゃんがアクアが出た途端、サイリウムを全部青くしてヲタ芸を打ち始めたと思ったら、姫川大輝だった。』
リプ欄では「流石シスコン……。」「この怪我でこれほどの動き、やはり実力者か。」「ヲタ芸赤ちゃんを思い出す。」などというものが溢れており、俺は今になって羞恥心が押し寄せてきた。
「ってか、ヲタ芸赤ちゃんって何だよ。」
「……あ!?」
都合よく、リプ欄にはその動画が転載されていた。ありがたい。でも、なんか妙に拡散されているなこの転載リプ。アクアが俺を止めようとしたが気にせず、動画を再生した。
「__アクアとルビーじゃねえか!!」
「まだ残ってたんだ……この動画……」
アクアも顔を赤くした。この動画だけでも多く拡散されており、「アクルビじゃねえか!」「赤子の頃から可愛くて草」「この二人が今日、成長してアイドルとして舞台に立ったんだな……」などのリプと同時に、B小町のライブのたびに俊敏なヲタ芸を披露してきたアクアのまとめ動画などもツリーに吊り下げられており、お祭り騒ぎとなっていた。
「お前、愛されてんな。」
「うるさいっ!!」
これについては、翌日ニュースでも取り上げられていた。ああ、この国は平和だ。
「ということで、本人取材です。星野アクアさん、星野ルビーさん。一言お願いします。」
「若気の至りってやつだね。ちょっと恥ずかしいかも!」
「……私の__俺の人権ってどっかに落ちてなかったか?」
アクアはあまりの羞恥心からか、テレビ向けのキャラを忘れかけていた。なお、この頃になるとアクアの素はすでに一部のファンにはバレていたし、SNS投稿で俺と一緒にいる時のクールもクソもない写真がルビーによって放出されているため、ファンの認識としての今のアクアはブラコンポンコツ妹キャラである。
「では、あの頃アイドルを応援していた自分たちがアイドルとして舞台に立った感想等あればよろしくお願いします。」
「まだまだ夢半ば、ドームライブを目指してこれからも頑張ります!!」
「もう二度とやらねえ。有馬の頼みだったからやっただけだ。」
「え〜?私やMEMちょが卒業するときはやってくれないの?」
「……勘弁してくれ。」
アクアが天を仰ぎ、リポーターさんは微笑ましそうに笑う。なんて平和なニュースなんだろう。
なお当然、有馬かなの卒業もしっかりと大きく話題になった。B小町がスタートダッシュを切れたのは有馬のお陰であったと考える古参は多く、そんな彼らにとって有馬かなの卒業は非常に寂しいことであったが、それが役者として高みを目指すという前向きなものであったことを歓迎し、これからの有馬の活躍にも期待を示した。
ちょうど、その時にファンが投稿した『有馬かな出演作品等まとめ』では、子役時代から現在に至るまでの有馬かなが出演した作品やライブから1シーンずつ抜粋してまとめられたものであり、ファンは「これが卒業アルバムか」とその動画へと集結した。
「はぁ……」
「どうした有馬、人気者がため息なんかついて。」
「いや、あのね……あの動画がバズったせいで私に『真・ピーマン体操』のオファーが来たのよ。」
「そりゃ……ご愁傷様?」
本人にとっては、黒歴史を一部掘り返されたようなものであったらしい。アクアは俺と有馬のそのやり取りを横で聞いてほくそ笑んでいる。
「だから、アクアとの共演って約束にしてやったわ。私一人で死んでたまるか。ヒトリニサセネーヨ!!」
「え?」
「有馬、よくやった。」
さっきまで横でほくそ笑んでいたアクアが、鳩が豆鉄砲を食ったように素っ頓狂な声を出した。
「逃がさないわよ、アクア。」
「姫にい、たすけて。」
「頑張れ、アクア!俺はお前を応援するぞ……!!」
後日、『真・ピーマン体操』をルビーと一緒にB小町のチャンネルでレビューした。有馬とアクアから苦情が来た。
姫川大輝
結婚できない男。
星野アクア
姫にいは誰のものにもならないでほしい。
星野ルビー
お姉ちゃん、それは恋だよ。
姫川を「お兄ちゃん」と呼び始める。
黒川あかね
なんとかしてアクアと結婚することを決意。
有馬かな
アクアセラピーにより復活。
アクアとは適切な距離感の友達としてこれからも仲良くやっていく。
真・ピーマン体操。
MEMちょ
有馬かな卒業後も二人で出かけたり、ルビーを誘って三人で出かけたりする。原作のような悲しい事件が起きないので、曇りゼロ。
斉藤ミヤコ
姫川が結婚できなくなった理由を聞いて申し訳なくなった。でも、そのくらいの責任は取ってもらわないと。
斉藤壱護
あの兄妹、いつか過ちを犯すんじゃないかと心配でしょうがない。まあ、杞憂ではあるのだが。
鳴嶋メルト
どうして。どうして登場シーンないの?
これでもアクアとのCPでは割と大手だよね?
五反田泰志
映画編がないので出番が少ない。もっと絡ませたかった。
雨宮吾郎
霊圧が消えた……?
天童寺さりな
天国のせんせまで届け!私の歌!!
ニノ
獄中。
カミキヒカル
アクアのアイドル衣装を拝めなかったことで死んだことを後悔する。
次回、最終話。
終わる時にスパッと終わったほうがいいのさ、こういうのは。