姫川大輝は逆行する_が、どうにも弟が弟じゃない。 作:ある日の残り香
もしも、カミキヒカルとの最終決戦で姫川が死亡していたら?
そんなIFのお話。※本編とは無関係です。
19話からの分岐。アクアが病んでます。
リバ注意(アク姫)
色々と終わってるので、不安な人は読み飛ばした方がいいです。
多分番外編は書くとしてもほぼこんなノリです。
本編は割と綺麗に纏められた自負がありますが、オマケは期待せずにいただけると幸いです。本編よりも見切り発車多めでお送りします。
※本エピソードには近親恋愛が含まれるほか、近親●姦を仄めかす描写が描かれます。宗教上や個人の信条による理由があったり、道徳心や倫理観が真っ当な清廉潔白人間はこのエピソードは読まないことを推奨します。
OK?
↓
オマケ①【星野アクアは逆行する(閲覧注意)】
記録1 あなたがくれた命
あのあと、あなたは変わり果てた姿で私の前に現れた。
冬の海に落ちたあなたの身体は、長らく発見されなかったせいかひどくふやけ、押しては返す波に削られたせいで、実際に鑑定を行うまで私はそれがあなただとは信じることができなかった。
葬式は寂しかった。姫にい側の親類は誰もこなかった。姫川家も、上原家も。金田一さんが、喪主を務めていた。
私は、呆然としていた。棺の中は、見れなかった。その遺体はあまりにも損傷しており、エンバーミングにも限界があったからだ。私はただ、棺に追い縋って泣いていた。
私はまた家族を失った。
今度はもう、復讐すべき対象もいない。
私は精神に異常をきたした。食事が喉を通らず、夜は眠れず、全ての欲求が死に果てていた。でも、姫にいの救ってくれた命だから、死ぬことはできなかった。嘔吐してでも栄養は摂取し、夜は睡眠薬を服用して脳を休めた。死ぬわけにはいかなかった。衰弱していく身体に、頼むから生きさせてくれと鞭打って。
そんな生活が5年続いた頃。私はついに力尽き、病院に搬送された。
「お姉ちゃん……!!死んじゃダメ……!!」
「アクたんっ……」
「アクア!!アンタまだ死ぬには早いわよ!!」
「姫川さん、どうか……どうかアクアちゃんを追い返して……」
私が逝くのを拒み続ける、私の大切な人たち。私の手を強く握り、無言ながらも涙を流しているミヤコさん。
「……た…ない」
私は、掠れた喉で声を出す。
「死にたく……ない……」
姫にいからもらったものを、失いたくない。姫にいがくれた大切な命を、こんな簡単に失いたくない。
私は必死に、生きようと足掻いた。生きたいと願った。だが、現実は非情だった。
ああ、ここで私は死ぬんだ。姫にいがくれた命さえ、大事にすることができなかったんだ。
もしも願いが叶うなら……もう一度、あなたに会いたい。
私は、目を閉じた。
記録2 アイとの再会・記憶の連続
私が再び目を開けると、そこにはアイがいた。驚いて周囲を見渡すと私の身体は、乳児の頃まで回帰していた。
しばらくして意識がはっきりしてくると、私は状況を確認する。記憶の連続性、現在の時系列、現在の環境についてを。
記憶の連続性に関しては、"アイの元に生まれてから"これまでの記憶がはっきりと存在している。意識もおそらく、そこから連続したものだ。また、これとは別に「雨宮吾郎」という人物の記憶も存在する。こちらについては正直"実感が湧かない"。だが、医者の記憶なんていうのは知識バフや頭脳バフの観点から見ればチートである。ありがたく使わせてもらおう。
現在の時系列に関しては、私たちが生まれてまもない頃。思考ができたり、かろうじて発話が可能なまでに発達した頃だ。ただ少しつかまり立ちして歩いたり、単語を一つ声に出すだけでアイから「天才!」と褒めてもらえる。なるほど、これは心に大きなゆとりが生まれる。
現在の環境については、前回と同じ。基本的にはアイがお仕事の間、私とルビーの世話をするのはミヤコさん。この頃のミヤコさんは色々な意味で若いなと思う。前世においても、ミヤコさんは若く美しい人だったけれど、人間性としては老成していた。ああいう人を聖母だと呼ぶのだろうと思うほどに。今のミヤコさんは、そうなる前のミヤコさんだ。私たちが背負わせてしまう前の、年相応(そういえばミヤコさんって何歳だっけ)の精神を持った人だ。可能ならば、前世のように彼女に負担をかけたくはない。ルビーに関しては、前世と同じくアイにべったりだ。ちっちゃい私の妹、きゃわ。
そんな少しもどかしく、小恥ずかしい日々の中、ようやくルビーと対話を図ることが叶った。アイが寝静まったあと、アンチと激闘しているルビーと。
「……なにしてるの?」
「赤ん坊がしゃべった!キモーッ」
「あなたもでしょ。」
前世でもこんなやりとりをした気がする。
「ルビー、あなた記憶は?」
「記憶……?前世のこと?」
「……あなたは、前の記憶はないの?」
「前世の記憶ならあるけど……お姉ちゃんは?」
「雨宮吾郎って人の__」
「待って、なんて言ったの?雨宮吾郎って人の、何?」
そういえば、前世は「言ったら抹殺される」とか変にビビったせいで、後々取り返しのつかないことになったんだよね。
「私は彼から意識は連続していないけど、彼の記憶はある。でも、私にはそれが他人事に思えてしまう。まるで、雨宮吾郎って人の人生が綴られた本を読んだ読者のような気分ね。」
「……あなたは、誰?」
「私は星野愛久愛、もう一度この命を受けた。この人生は二周目よ。」
「いや、そうじゃなくて……せんせの記憶を持ってるなら、意識はせんせのはずだよね?なんで?私はさりなの意識のままなのに……なんでせんせは?」
「……きっと、前の周回で未練がなくなったんだと思う。」
「未練……って、待って。せんせ、死んじゃったの?」
「うん。雨宮吾郎は私たちが生まれた日に、死んでる。前の周回の私はその転生者。」
早いうちに、ルビーには真実を伝えておきたかった。今ならまだ、転生したばかりだし、アイがいる。メンタルの回復要因は揃っている。
「なんで……せんせは、なんで死んじゃったの?」
「……山で、足を滑らせたの。」
「どうして?どうして山に入ったの?」
「……山の祠に、アイの子供が無事に生まれますようにって手を合わせに行こうとして、そのまま帰れなかった。彼、アイの主治医だったから、元気な双子を産ませてあげるんだって張り切りすぎちゃったんだよ。」
「……。」
「って、他人事みたいに言ってるけど私のことなんだよね。たはは!」
しかし、これくらいの嘘はついておかないと。ルビーがまた復讐に囚われては面倒だから。
「せんせ……」
ルビーが私に抱きついてくる。
「私、せっかく健康な体に生まれたのに……なんで……」
「……彼の記憶しかない私だけど、雨宮吾郎はさりなちゃんのことが大好きだった。死ぬまで引きずってたし、携帯の待ち受けもさりなちゃんだったんだよ?そのせいでロリコンだなんだと言われるくらいには。それに、さりなちゃんおかげでアイというアイドルを知ることができたし、それが回り回って今のあなたに繋がったなら……きっと雨宮吾郎は救われているよ。」
まあ、当の本人は「普通の子供を産ませてあげたかった」と少し後悔していたんだけど、これは黙っておこう。
「__ところでお姉ちゃん。」
「ん、なに?」
泣きじゃくってたルビーは泣き止むと、突如口を開く。
「せんせの記憶があるってことは、せんせの裸体とかせんせがえっちなことをしてる姿も知ってるってこと?ずるくない?」
「こんのエロガキ……」
あなたの発言のせいで記憶から引っ張り出されて来ちゃったじゃん。自分(実感はなくとも)の裸体に興奮するわけがない。むしろ羞恥心や嫌悪感が湧いてくる。あー!!つらい!!忘れたい!!
記録3 子役、有馬かな
「上原清十郎と姫川愛梨の心中」という流石に私にはどうしょうもない事件のニュースが流れてからそこそこの年月が経過した頃。みんな知っているだろうから経緯は省略する。私は五反田監督の映画に出演することとなった。
「……有馬かな。」
前世において、私は有馬とは親友だった。少なくとも、私はそう信じている。そんな彼女の運命を私は知っている。子役として売り続けようとした母親によって、没落していく彼女な運命を。
孤独の中に泣いた彼女の半生を。素直になれない彼女の、悲しい心のうちを。寂しさを。後悔を。
「なーに?ここは現場よ?おしゃべりがしたいなら別のところに行ってくれる?」
幼いが故の自信に満ちた自己中心性。天上天下唯我独尊。それを纏った彼女は、たしかに人の神経を逆撫でするかもしれない。それでも、私は彼女の本質を知っている。反省し、成長した彼女の本質を知っている。
「あなたは、ずっと子役でありたいの?それとも、将来は役者になりたいの?」
「?言ってる意味がわからないわ。」
「もし、将来は役者になりたいなら……周りの人への感謝は大事にして、自分の強みを理解した上で、周りをよく見なさい。我儘にならない程度にね。」
「はぁ〜?どの口が言ってるの?あなた、無名でしょ!」
「……このあとわからせてあげるから。私は、将来役者になるって。」
有馬の性格上、ここまで煽られた上に私に負ければ、悔しさをバネにこれらを吸収する。当然、これだけでうまくいくとは思えないが、少しはマシになると私は信じた。
私が役者となると宣言したことに、ルビーは驚いていた。
「お姉ちゃん、役者目指してるの?」
「うん、会いたい人がいるから。」
「へぇ……どんな人?」
私のお兄ちゃん。そう答えようとしてハッとする。DNA鑑定さえ回避すれば、私は何も知らなかったという扱いで彼を私の手に収めることができるのではないだろうか。事実、戸籍上彼の父親は上原清十郎であり、カミキヒカルなんて文字はどこにもない。婚姻届は受理される。
「……好きな人、かな。」
私の脳は「それはダメだ」と警告し続ける。それでもだ。こんなチャンスは二度のない。まだこの世界の誰も、私と姫にいが兄妹であることを知らない。姫にいも、まだ確信は得ていないはずだ。それまでに既成事実さえ作ってしまえばこちらのものだ。姫にいを、私だけで独占することができるのだ。私は姫にいが誰かと結婚する姿を見なくて済むし、姫にいも結婚できるのでwin-winだ。
アイも、姫にいも救ってみせる。その上で、姫にいの人生は私が手に入れる。他の誰にも渡したくない。
その後私は前世同様、有馬を泣かした。素で喋れば不気味だよね、そりゃ。それでも、子役じゃなくなればそれは通用しなくなる。演技はこれから身につけていかないと。姫にいと並び立つためにも。
夕飯の時間、ルビーがアイに今日の現場での私の様子を報告している。微笑ましい光景だ。アイとルビーが仲良く話している。アイが生きている。この幸せな家族の光景が、ずっと続くように願った。
「それでね、お姉ちゃん役者を目指してるんだって!」
「ええ〜!いいねぇ!アクアはいい役者さんになれると思うよ!」
「……これから頑張る。」
私は少し恥ずかしくなって、顔を逸らした。そんな私を知ってか知らずか、ルビーが言葉を続ける。
「お姉ちゃんね、好きな人がいるんだって!その人に会うために__」
「あばばばばば?!!ルビー!!??な、なんで言っち__」
「へぇ〜!!アクアもおませさんだねぇ?」
私は、少し居心地が悪くなった。
記録4 アイ殺しの犯人
ある日私は、魘されるような演技をしながら夜中にアイを起こした。
「アクア?大丈夫〜?」
「うぅ……ドームの日、朝……パパがママを殺し……うぅ……」
不吉な言葉の羅列を魘される演技をしながら口にする。
「カミキ……ヒカ……」
「アクアっ……」
アイが私を強く抱きしめる。
「大丈夫だから、私は死なないから。ここにいるから。」
「……アイ?」
目が覚めたというような演技をしつつ、アイの顔を見上げると、彼女の顔には冷や汗が浮かんでいた。
アクアが口にしようとした名前に、娘が知るはずのない名前に動揺したのだろう。これで少しでも警戒心を強めてくれればいいのだが。
前世において、カミキヒカルにアイの新たな住所を密告できた可能性がある人物は絞られる。「アイ」「斉藤壱護」「斉藤ミヤコ」だ。もしかすると、「アイ」がメンバーに話してしまった可能性もあるが、その場合は「ニノ」が容疑者となる。が、おそらくこれは「アイ」だろう。
大方、娘たちの教育を考え、父親も揃っていたほうがいいとどこかのタイミングで考えてしまったのではないだろうか。それが、自らの命を奪う選択だとは知らずに。
それにしても、逆行してもアイを救うのは困難極まりない。私は前回の人生において復讐するための推理はほとんど行っていないからだ。そのほとんどが、姫にいから答えを与えられて得た知識である。途中式に当たる部分はほとんど知らないのだ。親鳥から餌を与えられる雛鳥が獲物の狩り方を知らないように。その上、こんな身体じゃ襲撃してくるストーカーをなんとかするのも難しい。
……壱護さんにも相談しておくか。
記録5 完全無敵のアイドル
結論から言うと、アイは無事にドームライブを終えた。拍子抜けなことに、ストーカーは襲撃してこなかったのだ。やはり、私の推理通りアイの住所をバラしたのはアイ本人だったのだろう。
アイはステージで最後に、自分には二人の娘がいるという爆弾発言をして炎上した。壱護さんは頭を抱えたし、苺プロは潰れはしなくとも少し傾いた。
壱護さんは所属アイドルの管理が行き届いていなかったとして、自らがほぼ全てのヘイトを買って表舞台から姿を消した。後任となったのは前世同様ミヤコさん。彼女の誠実な対応により、炎上はなんとか鎮まっていった。
ほとぼりが覚めた頃、アイはマルチタレントとして活動を開始した。アンチは多いが、それでも信者はゼロじゃないし、実力もあるので程々に仕事はあった。
「いや〜!ごめんね☆」
「……ほんと、うちのバカアイドル様はよォ。」
バイトさん、こと壱護さんはアイのその態度に青筋を立てながらも心底ホッとしたような表情をしていた。
アイはまだ生きている。でも、カミキヒカルもきっとどこかで生きている。
こんどこそ、姫にいは殺させない。
殺してみせるよ、カミキヒカル。
黒い星が瞬いた。
記録6 ララライ入団
「ダメ。」
「なんでダメなの?」
「ララライはダ〜メ。」
私が10歳になったころ、私はアイとよく口論をするようになった。
「お姉ちゃん反抗期?ママがあれだけ反対してるんだから、やめといたほうがいいよ。」
「……誰がどう言おうと、私はララライに入りたい。」
「役者なんて、苺プロでもできるじゃん。どうして、その……ダークライ?にこだわるの?」
「ララライだよ、ルビー。言ったでしょ、私には会いたい人がいるの。」
「ほんとお熱だね、お姉ちゃん。」
「そりゃそうだよ。さりなちゃんにとっての雨宮吾郎みたいなものなんだから。今ね、すごい反動が来てるの。」
「……ああ、それなら納得かも。」
私の目下の課題はいかにしてララライに入団するか、ということだった。アイは私がララライに入ることを頑なとして認めない。親心として、娘に自分と同じ道を歩んでほしくはないのだろう。カミキヒカルと出会った場所であるララライに、娘を送りたくはないのだろう。
入団する上での演技力は問題ない。ジュニアとしてやっていけるだけの演技力は身につけているし、入団する上での手続きも把握している。抜かりはない。
だからこそ、保護者からの許可さえ得られれば、ララライへの入団は不可能なことではないのだ。
「アイ、お願い。一生のお願いだから。」
「ダメだよ、アクア。絶対に……。ララライだけは、ダメ。」
「……ママ、だめ?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
1ヶ月にも及んだ小競り合いは、たった一言で完結した。
記録7 あれから3年
ララライに入団した私は、姫にいと接触を図った。向こうには、私についての記憶はなかった。少し寂しかったけれど、好都合。
私はありとあらゆる方法でアプローチを行なった。弁当を作ったり、休日のデー……お出かけに誘ったり、一緒に稽古したり。
「お前といると安心するよ、なんか。」
「そう?ならよかった。私も"大輝"と一緒にいると幸せだよ。」
「……っ!お前なぁ……」
流石に「姫にい」という呼び方は封印した。今は大輝と呼んでいる。私が13歳、大輝が17歳の時のことである。
この時、私は歳の差というものに絶望をしていた。この歳の差のせいで、既成事実を作ることができないのである。それどころか、大輝はロリコンと呼ばれたくないがために、私と付き合うことすらしなかった。その上、だんだんと大輝の中で私の立ち位置が「妹のような存在」になりつつあった。いや、実際妹なんだけどね。このままじゃ、負けヒロインになってしまう。
これが2歳差程度であれば、まだギリギリ"できる"タイミングはあったのだろうが、中学生と高校生じゃ流石に無理があっ__
そういえば、ママがカミキヒカルとヤッたのって私の記憶が間違ってなければたしかお互い16歳と14歳だったね。お互い未成年じゃん。
へぇ……ふぅん……なるほど、夜這いをかけるか。
__結論から言うと失敗しました。
「あ、お前なぁ!?自分の年齢分かってんのか?!」
「13です。大人です。」
「ガキだよ、クソガキ!」
「そんなこと言ったら大輝も広義的にはガキじゃん。セーフ。」
「ダメだろ、社会的に。」
「じゃあいつになったらいいの?」
「あー……?」
失敗したが、私はタダでは転ばない。
「……お前が18になったら、だな。」
「言質はとったよ、大輝。それまでは、誰ともシないで。大輝の初めては、私がもらいたいから。」
「色気がねえお前に言われてもなぁ。」
まあ、これも一種の既成事実と呼べなくはないだろう。これで、私が18歳になったら結婚してくれるはずだ。(論理の飛躍)
ウッキウキで家に帰ったら、アイとルビーに帰りが遅くなったことを怒られた。
記録8 今日あま
高校入学を控えた私は、有馬からの頼みで今日あまに出演していた。私はこの時点では黒川あかねや不知火フリルほどではないにしろ、女優としても活躍していたため、「ストーカー役」の穴埋めで入るというのにはかなりの反発があった。
それでも、「有馬の頼みだから応えたい。ギャラはなくていい。」とゴリ押した結果、出演することになった。
現場に入った私は前世同様ギョッとする。あまりにも、士気が低い。その上、俳優も素人ばかりだ。メルトの演技も、記憶の9倍は酷い。有馬が女優として真っ当な道を歩めていても、ここは回避できなかったのかと思うと、何か運命じみたものさえ感じる。
今回もメチャクチャにしてやった。
「悪い……拳当たったよな、リキっちまって……」
「謝らなくていいよ。わざと当たりに行っただけだから」
「えっ」
「やっぱさ、演技は感情ノッてなんぼだよね。いいお芝居だったよ、メルトくん。おかげで有馬も本気出せたんじゃないかな?」
私は知ってる。メルトがこの後、このドラマで自分の立ち位置を自覚し、死に物狂いで足掻くことを。
私は、前世を懐かしんで笑みをこぼした。メルトはそんな私を見て顔を赤くしていた。
記録9 今ガチ
「あかね、大丈夫?」
「……あ。大丈夫だよ、アクアちゃん!」
「絶対大丈夫じゃない。んっ。」
私はあかねにココアを差し出した。
今回、私は今ガチに出演していない。出演する理由がないと思っていたからだ。しかし、始まってしまってから思い出した。この撮影中、あかねは自殺未遂を起こすことを。
今の私とあかねはララライの仲間であり、競い合うライバルでもあり、親友でもあった。介入することは不可能じゃない。
「ねえアクアちゃん、私、どうすればいいのかな……」
「……わからない。でも、これだけは忠告しておくよ。」
「?」
「いくら誰かに何かを言われても、傷跡を残すために悪役を演じようとかは考えないで。これは恋愛"リアリティ"ショーだから。頭の弱い視聴者さんは、それがあかねの本性だって思い込む。そうなったら、あかねの本業にまで悪影響が及ぶ。」
「……じゃあ、どうすればいいの。」
「あかねはさ、人のことをよく見てるよね。だから、あかねは主役にならなくてもいいんだ。」
「どういうこと?」
「恋のキューピットや相談役になればいいんだよ。得意でしょ、プロファイリング?」
その後の放送から、あかねは情報屋キャラとして視聴者から「なんでそんなことも知ってるんだよ!」「この子面白い」「もう探偵やれ」「ラブコメに出てはいけない人すぎる」「出る番組を間違えてる超人」などと話題になり、番組の盛り上げに貢献した。その後、サスペンスの主演や犯人役としてのオファーが数多く舞い込むこととなった。
「うまく行ったね、あかね。」
「でも私の世間からの印象、右●さんとか古畑●三郎とか名探偵●ナンとかみたいになっちゃったね。」
「うん、私もまさか恋のキューピットどころか名探偵になるとは思わなかった。」
今のあかねはきっと、私がいなくてもちゃんと立てる。前世の依存関係のような、歪な関係にならなくてよかった。心の底から、そう思った。
記録10 ルビーについて
実はルビーは普通科の進学校に進んだ。それはもう、猛勉強の末に。理由を聞いてみれば、「かつての私のような子を、一人でも多く救いたいから。せんせなら、きっとそうした。」とのことだ。ルビーはあまり頭が良くはなかったから、非常に苦しい道であることは間違いない。だが、それでも私は応援したい。雨宮吾郎の記憶を元に、ルビーにはよく勉強を教えるようになった。
ルビーがアイドルになれば、カミキヒカルに目をつけられることは、確実だったし。カミキヒカルの悪事の尻尾が掴めない以上、迂闊なことはできない。
「ねえお姉ちゃん。」
「なに?ルビー」
「姫川さんとは最近どうなの?」
「……あの人奥手だから、全然進展しないんだよね。」
「まあ、お姉ちゃん16歳で姫川さん19歳だもんね!法改正前なら結婚できたけど、今じゃ手を出したら逮捕だよ。」
「……18歳になったら結婚してくれるって言ったもん。」
「びっくりした、せんせが私に言った言葉とほぼ同じじゃん。」
「私の記憶が正しければ、彼のセリフは「16歳になったら考えてやる」みたいな感じだったと思うよ。」
「むぅ……そんなこと言ったら、お姉ちゃんのソレだって本当なのか疑わしいじゃん!!」
少し言い争いになった。平和な姉妹喧嘩だ。
記録11 あるインタビューにて
「それでは次の質問です。尊敬している俳優、好きな俳優はいますか?」
「姫川大輝です。」
「どのあたりが……?」
「私にとっては永遠の憧れで、切磋琢磨するライバルでもありました。今では差を広げられましたが、いつか"私が隣に立って"みせます。」
「ちなみに、プライベートでも仲が良いとお聞きしましたが、どうなんでしょう?」
「最近構ってくれません。歳の差がなんだとか言って。あの人は奥手ですからね。据え膳食わぬは武士の恥という言葉もあるのに。」
「……あ……えっと……と、ところで話は変わりますが、好きなタイプは?」
「姫川大輝です。」
何気ない質問、兄弟子のような関係性の俳優を尊敬している俳優として挙げた注目の若手女優の回答。何気ない深掘り、兄弟子と妹弟子のプライベートの微笑ましいエピソードを聞き出そうとした。しかし、そこから記者が感じたのは、ガチ恋感情。トドメの質問に、彼女は一歩も下がらずに応えた。
このインタビュー映像を写したスマホを片手にアイが「これなにかな〜?」と聞いてくる。このインタビューは少し炎上した。
【悲報】アイの娘の星野アクアさん、16歳にして年上の俳優にお熱
【速報】恋する乙女、最強のインタビューww
【朗報】姫川大輝、星野アクアが未成年の間は交際拒否を表明
【朗報】姫川大輝さん、あの顔で童貞
【悲報】星野アクア推しワイ、恋するアクアちゃんの表情に無事脳破壊
トレンド3位「星野アクア」、トレンド1位「姫川大輝」
……"少し"炎上した。
「アクア。これ、なにかな〜?」
「……。」
「アクア、黙ってちゃわからないよ。」
「……他の女たちを牽制したかった。」
「……アクア、これは大事な話だから聞いて。」
「……なに?」
「あなたたちのパパの話。」
「私とルビーの、父親……」
アイの口から語られたのは、姫川愛梨によるカミキヒカルへの性的虐待だった。そして、それが元で姫川の姓を持つ姫川大輝に対して、母親としては警戒せざるを得ないということ。
「……お母さんだってそれ、ダメじゃん。年齢的に。」
「ダメだってわかったから、今こうしてアクアを諭してるの。」
「その理屈は、ずるい。何も言い返せないじゃん。」
「幸いなことは、姫川大輝くんがアクアに対して紳士的な対応をしていること。それでも、今後はどうなるかはわからない。」
「……。」
「だからアクア、ララライを辞めて。」
アイの言葉が、100%彼女なりの愛情であることはわかっていた。それでも、私が蒔いた種のせいだとしても、私は大輝と離れたくなかった。
「ララライは、辞めない。」
私は強く言い切った。アイは「あちゃー」と頭を抱えた。
それから「血筋だね〜欲張りだ」と笑った。
二人揃って、壱護さんから雷を落とされた。
記録12 謝罪(?)会見
私は大輝と横並びで座っている。目の前には報道陣。思ったよりも大事になってしまった。
「交際の事実はない、という認識でよろしいですか。」
「はい、ありません。流石に未成年に手を出すほどバカじゃありません。」
「今現在はありません。」
私は毅然と答える。大輝は呆れて笑っている。
「今現在は、といいますと?」
「18歳になったら……と、3年前に言質を取りました。あと2年です。」
「……そういや言ったなぁ、そんなことも。」
大輝は天を仰いだ。
「その約束は今も生きている、という認識でよろしいですか?」
「はい!」
「……これでもし「いいえ」なんて言おうものなら、俺が滅多刺しにされるだろ。」
しないよ。絶対に死なせないから。せいぜい監禁するだけ。
「本件については炎上と表現されていますが、どちらかといえばお二人の恋愛を肯定する意見が多いですが、いかがお考えでしょうか?」
「嬉しいですね。これからも私と大輝を応援していただけると幸いです。」
「ファンの方々から肯定されているといえど、私は法律を守ります。それが彼女に対する誠意ある対応だと思っておりますので。」
大輝は紳士だなぁ。前世だと女遊びを結構してたって聞いたけど、今回はそんな話は聞かないし。
この謝罪会見は、当然火消しになんてならなかった。
記録13 東京ブレイド顔合わせ
私は今回、「刀鬼」役で出ることが決まった。大輝との殺陣があるという事実、それだけで胸が躍るなと思って私は現場入りする。
「今日、大輝遅いね。」
「そうだね、アクアちゃん。何かあったのかな?」
金田一さんが怒って電話をかけてからしばらくして、大輝がやってきた。何故か、泣きながら。私は心配になって駆け寄ろうとしたが、彼の次の言葉で思考が停止した。
「悪い、ちょっと女の子にフラれて。」
おん、なのこ?
「ぇ?」
私の声に、大輝が顔を上げる。
「あれ?おま……ア、クア?」
「大輝、説明して。」
何もわかっていないような顔をした大輝の胸ぐらを掴むと、私は怒鳴りつけた。
「こんの浮気者……っ!!!!!!!!」
「え?えっ?」
この場にいる全員が、私の味方になった。
メルトも飛び出してきた。
「姫川さん、アンタ見損なったよ!アンタのこと、ちゃんとした紳士だと思ってたのに!!星野を泣かすなんてっ……!!アンタが1番やっちゃダメなことだろ……!!」
次には黒川も飛び出す。
「冗談にしても酷いんじゃないかな、姫川さん。」
しかしそれらも、金田一さんの一喝で止んだ。
私は病んだ。
しかし、前世でもここから大輝が前世の記憶を思い出したということを思い出し、後で内緒で話に行くことにした。今なら記憶があやふやな分、既成事実も作れるはずだ。
記録14 既成事実
心地よい感覚の中、目を覚ます。一つのベッドの中に、私と大輝はあられも無い姿で同衾していた。
顔合わせ終了後、未だ混乱を隠せていなかった大輝を大輝の家まで送ると私はそのまま大輝の家に上がり込んだ。困惑する大輝に私はこう告げた。
「どうしたの?彼女なんだから家に上がるのは変なことじゃ無いでしょ?」
当然嘘である。交際の事実などない。それでも、私の目には星が煌めいていた。嘘を本当に思わせるほどの輝きが。そうやって大輝を押し切ると私は手料理を振る舞った。そして、彼のコップにお酒を注ぎ続けた。
「アクア、もうおれ、酔っれるかぁ……」
「……そろそろ狩るか♦︎」
というのが昨夜のこと。流石に遺伝子レベルで何かを察知していたのか、お互い身体が反応するのには時間がかかったし、正直うまくいかなかったけど、なんとか既成事実を作ることはできた。あんまりそれ自体は気持ちの良いものではなかったし、今も痛いし、気分もすぐれないけれど。
それから一晩が経ち目が覚めると、私は彼が起きるのを待った。もうこれで、一線は超えた。
……あれ?なんで既成事実が欲しかったんだっけ?
まあいいか。
「……んん?アク、ア?」
「おはよ、姫にい❤︎」
目覚めると同時に私から接吻を受け、姫川は状況を理解するや否や顔から血の気が引いていく。
「……この状況は」
「えへへ……大輝。責任とってね。」
「お前__俺たち兄妹だぞ?」
「え?」
意外だな、この状態で既に確信してたんだ。
……いやおかしい。少なくとも前回は「その疑いがある」程度だったはずだ。まさか……
「ねえ、大輝……もしかして、記憶ある?」
「一応、"俺が死ぬまでの記憶"はあるつもりだ。だが__」
私は大輝のその言葉を聞くや否や、最後まで聞かずに強く抱きしめた。
「会いたかった……っ!!会いたかったよ、姫にい……っ!!」
「どわっ!?__俺もアクアには会いたかったが……何か勘違いをしてないか?」
「え?」
大輝の口から語られたのは、思っていたのとは違うものだった。
「俺の知ってる限りアクアは男だったし、アクアはカミキヒカルに殺されている。俺はそれを苦に自殺した。」
「……わ、私の知ってる大輝はカミキヒカルに殺されて、私は衰弱死した。」
どうやら、死ぬまでというのは「前世」のことらしい。でも、これで確信した。今の大輝は"姫にい"だ。私と出会ったばかりの頃の。
「姫にい、まだ世間は私たちが兄妹だって知らない。私のママもそう。だからさ、このまま世間を騙し切っちゃおうよ。だから結婚して?」
「あのな、お前……俺たちは兄妹なんだぞ?それに歳も……歳、も……」
「そうだね、16歳の妹を食べちゃったんだよ。……わかるよね?」
「……わかった、18歳になったら結婚してやる。だから、絶対口外しないでくれ。」
「やった!」
この平穏を守るためにも、カミキヒカルは殺さないとね。
「……まあ、復讐に狂って死なれるよりは俺が繋ぎ止めた方が安全か。俺の中に弟(アクア)の記憶がある分複雑だが。」
大輝が小声で呟いた。私の耳には届かなかった。
記録15 カミキヒカル死亡確認
「そうだ、二人とも。パパのお墓参り、行く?」
「え?」
「え、ママって処女懐胎じゃなかったの!?」
アイのその言葉に、私は思考が停止していた。今世におけるカミキヒカルは、その足取りが全くつかめていなかった。神木プロダクションは検索しても出てこず、カミキヒカルと検索してもヒットする記事はなかった。奴のことだから、潜伏してアイを狙っているものだと思ったが……。
「……ねえ、パパはなんで死んだの?」
「ヒカルはね、自殺したんだ。私がアイドルを卒業した時に。」
「どうして……?」
「それは私にはわからない。でも、事実としてヒカルは自殺したんだよ。」
墓参りを済ませた私は意味がわからな過ぎて困惑していた。納得に足る理由がどこにもなかった。私が殺すべき怨敵は、もうこの世にいなかったのだ。
ルビーがお手洗いに行っている間に、私はアイへこの胸の中にある気持ち悪さ、消化不良を解消するためにただ言葉を吐き続けた。
「納得できないよ。」
「ヒカルは、奪われるばかりの人生を過ごした。私も、彼からきっと奪ってしまったんだと思う。彼に愛を与えて、それを奪ってしまった。それからアイドルとしてのアイの輝きさえも、卒業時の炎上で奪ってしまった。私は、彼の手元から全てを奪ってしまったんだよ。」
「アイ……」
「アクアと姫川大輝くんを見てると、昔の私とヒカルを思い出すの。」
アイは、悲しそうな目でこちらを見た。
「ねえアクア、あなたは彼のことを心の底から愛してると、胸を張って言える?」
「うん、言える。たとえ何を犠牲にしても、私が大輝の側にいる。」
「それって、本当に恋愛感情なのかな?」
「……何が言いたいの、アイ。」
「恋は執着の一種だけど、執着は恋とは限らないんだよ。アクア。」
「わかんないよ、そんなこと言われたって。」
ただ一つ確かなことは、私は大輝を……姫にいを他の誰の手にも渡したくないだけだ。私だけを愛して欲しい、ずっと私のそばにいて欲しいだけなのだ。
これが恋愛感情じゃなかったとしても、彼を繋ぎ止めるためには「結婚」という社会契約を結ぶことが何よりも手軽である。
「誰かが言ってたよ、独占欲は恋愛感情に等しいって。だから、私のこれはきっと、恋愛感情だ。」
私は自分を言いくるめるように、そう呟いた。
私には、大輝が必要だから。
たとえこれが、依存だとしても。
記録17 時は流れて
18歳の誕生日。私は花束を抱えて歩いていた。カバンには、筆記用具と印鑑、それから婚姻届。行き先は、もちろん大輝の家。
「……大丈夫、大丈夫。」
ついに待ちに待った日がやってきたのだ。
大輝の部屋の前に着くと、私は呼び鈴を鳴らす。
「__大輝、私18歳になったよ。」
ドアが開いた。
「年貢の納め時ってことだろ?」
私は大輝の部屋に入る。部屋はきれいに掃除されており、埃一つなかった。私は机の上に、私の名前をすでに書いた婚姻届を置く。
「……私と、結婚してくれる?」
断られるわけがない、と言えるほど私の狂気は継続していなかった。あれから大輝や友人たちとの時間、それから役者として充実した時間を過ごしてきたことにより、私の心にはゆとりができ始めていた。他人のことを思いやれるだけのゆとりが。
だからこそ、私なんかよりも大輝を幸せにできる人がいるんじゃないか、大輝にとっての幸せは私のそばにいることじゃないんじゃないかとも思うようになり始めたのである。
私は受け入れてくれるといいなと思い、もしそうじゃなかったとしても、しっかりと飲み込んで、身を引こうと心に決めていた。心は苦しくなるだろうけど、大輝と私が兄妹であることだけは揺るぎない事実なのだから、大輝との繋がりが消えてしまうわけでもない。ただ、とてつもない苦しさが押し寄せてきて、私はそれに耐えられるのかわからないという恐怖はあった。
緊張した面持ちで、私は大輝の返事を待った。大輝は何も言わず、ペンをとった。
その日、ララライの公式SNSと姫川大輝、星野アクアのSNSが更新された。
記録18 愛すること
【悲報】アクアちゃん、ついに18歳の誕生日を迎える
【速報】姫川ニキ遂ニ陥落ス
【悲報】令和の四大若手女優の一角、婚姻成立を報告
【朗報】まだ俺たちには不知火フリルと黒川あかねと有馬かながいる
【訃報】星野アクア推しワイ、ついに息の根が止まる
「ネット、すごいことになっちゃったね。」
「ほんとだねぇ〜」
ルビーとアイがスマホの画面を見ながら笑っている。
「そういえば、苗字はどっちになるの?」
「上原愛久愛海になるよ。星野大輝って響きも捨てがたかったけど。」
「わぁ、すごい名前〜☆」
「アイがつけた名前だよ!!」
「あれ?姫川じゃなくて上原なの?」
「うん、大輝の本名は上原大輝だから。私も芸名では星野アクアのままだよ。」
「へぇ〜」
私とルビーのそのやりとりを、アイはどこか遠いものを見るような、それでも喜びを噛み締めるように眺めていた。おそらく、カミキヒカルのことを思い出しているのだろう。
「孫の顔、できたら見せてね。アクア。」
「それは保証できないかなぁ……」
私も大輝も、自分たちが兄妹であることについては自覚しているため、性行為には抵抗があるのだ。かつては既成事実を作るという目標に対して盲目的になっていたため、あっさりとその抵抗を乗り越えられたが、もはや結婚することが確定した以上、どうしてもシなければならない理由もない。よほどのナニかがない限りは子供は望めないだろう。別に性行為がなくとも愛し合い続ける方法はいくらでもあるのだから、問題はない。それでも、子供について考えることがないと言えば嘘になる。
「……もし私に子供ができたら、私はちゃんとママになれるのかな。」
ふと、口から出た不安。私は雨宮吾郎の記憶を通して、多くの「母親」を見てきた。正確には、彼の理想の母親と、彼が直面した母親たちを。彼自身の母親は、彼を産むと同時に亡くなった。それもあり、彼は劣悪な家庭環境で育つことになった。そんな中で彼が夢想した、母親への幻想。彼の理想の母親像。親とはこうであるべきだという思想。それを打ち砕いた、天童寺氏などの人間的で弱い母親たち。私がどちらになるのかなんて、想像できなかった。雨宮吾郎が嫌悪した後者の母親になるのではないかという恐怖もあった。
「大丈夫だよ、アクア。」
「アイ?」
「私はね、いいお母さんじゃなかったと思う。それでもね。自分勝手なことだけど、私はあなたたちを産んで良かったって思ったよ?」
「……。」
「私ね、誰かを愛することってなんなのかわからなかったんだ。だから、私がアイドルとして振り撒いてきた愛は嘘なんじゃないかってずっと思ってたし、私は「愛してる」っていう嘘でこのキャリアを積み上げてきたと思っていた。」
アイは私とルビーを抱きしめながら、優しく諭すように、思い出の縁を愛おしく撫でるように話し続ける。
「でも、二人が生まれてから私は気づいたんだ。愛するのって、難しいことじゃないって。難しく考えすぎていたんだ、私は。」
「ママ……。」
「愛してるよ、二人とも。私の可愛い子供たち。この気持ちに嘘はない。愛っていうのは、自己満足なのかもしれない。でも、相手を想う気持ちこそが愛なんだよ。私の愛が二人にちゃんと届いていたのか、自信はないけれど、私は二人にたくさんの愛を注いできたつもり。それを受けて、アクアはどう思った?」
「……アイが私たちを愛してくれてたことは、ずっとちゃんと伝わってたよ。たしかに、色々と危なっかしくて、間抜けなところもあったし、大変な目にもあったけど、それでもアイは私たちの母親として無償の愛を注いでくれた。」
「そうだよ、ママは史上最強のアイドルでもあったけど、私たちにとって史上最強のママでもあったんだよ!」
「……ふふ、ありがとう。二人とも。アクアは優しいから、きっといいママになれるよ。私よりもしっかりものだしね。」
「……ありがとう、アイ。」
ああ、あったかいなぁ……。
この日々が、ずっと続けばいいのに。
姫川大輝と星野アクアは幸せに暮らした。二人の間に子供がいたのかは、最後まで二人から明言されることはなかったが、彼らが結婚した16年後には二人によく似た少年がララライに所属していたという事実はあった。
「大輝、後悔してない?」
「なにが?」
「妹と結婚したこと。」
「後悔するわけないだろ、こんな可愛い妹を一生独り占めできるんだからな。」
「シスコン……」
「お前が言えたことかよ、ブラコンめ。」
星野アクア(BADEND逆行)
前世での姫川の死がトラウマ。唯一甘えられる存在だった姫川が、死んでからどんどんと自分の中で重みを増していき、身内への愛着は気づけば偏執へと変わり、歪んだ愛情と成った。
しかし今世ではアイとの親子関係において反抗期を経験したことにより、最後は少しはマシになった。だが結婚後、結局やることはやってしまったらしい。
上原愛久愛海(旧姓:星野愛久愛海)は結婚前こそ炎上常連だったが、結婚してしまえばもはや炎上することはほとんどなかった。むしろおしどり夫婦として有名になる。
息子にはしわしわネームをつけて、自分(キラキラネーム)とはまた別の受難を与えることとなった。
……19話分岐だとTSの旨みがないんだよなぁ。もっと男と女の精神の間で揺れ動かすIF展開思いつかないかな。
姫川大輝
弟が妹になってたことに衝撃を受ける間もなく、食われた。内心とても複雑だったが、アクアが幸せそうに笑っていたのでヨシとした。
こんな都合のいい世界があるわけないので、今際の夢か何かだと思っていた。老衰して死ぬ時に「あ、これ現実か」と気づく。気づくと同時に妹に手を出したということの重みを味わう。
星野アイ
娘の好きな相手、なんかヒカルに似てるんだよなぁ……そういえば、愛梨さんの息子の大輝くんって……忘れよう!!
ララライ所属×姫川姓の男に娘が首ったけで心配になった。交際には正直反対だったが、アクアの意思が強すぎたので、裏から姫川大輝の身辺調査などを行い、危険な人物ではないかどうかを判別した。
うちの子たち、きゃわ〜❤︎
うちの孫、きゃわ〜❤︎
星野ルビー
姉が前世(逆行前)から好きだった人と結婚したという事実に、少しだけチクチクしたものが生まれたが、それさえ乗り越えて将来は名医になる。
彼女は生涯独身だったが、薬指には「G♡S」と刻印のある指輪をつけていた。甥っ子をとても可愛がっていた。
有馬かな
今世では前線でアクアたちと張り合えるため、女優としてメキメキ成長していく。精神がかなり安定している。
本家同様ハリウッドに進出するが、本家よりも喪失の経験が少ないことが吉と出るか凶と出るか。
黒川あかね
主にサスペンスでは敵なしの女優になる。バラエティでも推理などに挑戦。未解決事件を複数解決して神回を量産する。
アクアの息子の初恋相手。幼少期仲良くしてくれた年上のお姉さん枠兼師匠枠に収まる。
不知火フリル
アク姫に気ぶり続けた女優。有馬かな、黒川あかね、星野アクアとはライバル関係かとインタビューで問われれば「推しです。目の保養になりますよね。」と答え、時間一杯語り尽くして困らせていた。
結婚を機に芸能界を引退する。
五反田泰志
アイが生きてるので、アクアが入り浸る頻度がだいぶ下がっている。それでも、アクアにとっては気の置けない大人なので、割と関係は良好。アクアと姫川の結婚式では感極まって号泣する。
ドキュメンタリー映画『15年の嘘』はアクアからの頼みで撮影中止となった。アイも「最後のライブで派手に色々ぶちまけたし、まあいっか☆」と納得した。
鳴嶋メルト
アクアのインタビュー炎上からの謝罪会見を見て、自分の儚い恋が秒で終わったことを秒で理解させられた男。アクアのおかげで役者としてもそこそこ仕事をもらえるくらいには成長できたため、アクアに恩義を感じ、幸せを願っている。
ある映画でアクアと共演するが、「本当に演技上手くなったね、あの頃とは大違いだよ」と褒められ、脱水症状が出るまで泣いた。
MEMちょ含む今ガチメンバー
残念ながら接点ナシ。
斉藤夫妻
アイとアクアによる親子二代にわたって振り回される。壱護さんは本編よりも髪の毛が少ない。
カミキヒカル
あんなアイ、僕は知らない。
まだカミキヒカルとして完成してなかった人。自分の記憶の中にいたアイに会うため、自殺する。もうこの世に、史上最強のアイドルはいないのだから。
新野冬子
リョースケに死んでよって言ったら死んじゃった。
カミキヒカルも自殺しちゃった。
生きる理由もないが、死ぬほどの理由もない。
リョースケ
アイの卒業時のエピソードトークで浄化される。ニノに「もう死んでよ」って言われたから自殺した。
本編よりもハッピーエンドに見えるかもしれないけど、MEMちょがアイドルになれてなかったり、ルビーがせんせの遺志を継ごうとして全く別の人生を歩んだり、姫川さんが心の底からは救済されていなかったりとこちらもこちらで問題がある。
次回のオマケの候補(投稿するかは未定)
【ヒカアク系(バッドエンド)】
【雨宮吾郎の人格残存if】
【もしも逆行先が『15年の嘘』撮影終了後だったら】
【もしもTSしたのが姫川だったら】
【本編世界に転移したアクア♀】(可能性薄)
その他日常系
増えろ、アクア女体化。
でなければ、これからも私は自給自足をせねばならない。