姫川大輝は逆行する_が、どうにも弟が弟じゃない。   作:ある日の残り香

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「台本読んだ?大輝。」
「……ああ。」

「「カップル役って、マジか」」

 久しぶりに芸能界に復帰したアクアは、月9に出演することになるのだが……

「脚本協力がアビ子先生……なるほど、ヲタクの悪いところが出たな?」







オマケ⑥【あるドラマにて(本編の地続き)】

 

「鏑木さんの頼みだったら出るのもやぶさかではないですね。彼には随分とお世話になったので。それに、久しぶりに演技をしたい気持ちもありますし。」

 

 ミヤコさんから打診された仕事の依頼。かなり久しぶりの役者としての仕事。

 私も気づけば27歳。初期臨床研修も終え、医師として働くことができるようになった私だが、芸能界への未練も捨てきれずにいた。そのためどこかの病院に就職するだとか、開業したりだとか、専攻医の研修を受けたりしないまま、バラエティ番組などにゲスト出演するなどしつつ一年が経過していた。医者になってしまえば、役者をする時間を取るのは難しくなるからだ。

 とはいえ、あかねとの今後の生活を考えると医師として働いた方が安泰ではある。日本では同性婚は認められていないので、事実婚となる都合上、婚姻契約におけるさまざまな制度の恩恵を受けることができない私たちは、将来のこともしっかりと設計をして生きていく必要があった。たとえば、もし私があかねより先に亡くなったとして、婚姻契約を結んだ夫婦ではないあかねには寡婦年金は支払われない。だからこそ、貯金は多いに越したことはない。相続税で削れるにせよもしも私が死んでしまった時でも、あかねにも遺せるものが欲しいのだ。

 そんな話をあかねにしたことがあるが、あかねはぷくーと頬を膨らませて遺憾の意を示してきたことを思い出す。

 

「あ……でも、一つだけ"妻"と相談させてください。それまで、保留という形でお願いします。」

「わかったわ、気をつけて帰りなさい。」

「"お母さん"も体調には気をつけてね。」

「ふふ、わかったわ。アクア。」

 

 

 

 

 

 

「ただいま〜」

「おかえり、アクアちゃん」

 

 私は事務所から"自宅"へと帰る。あかねとの同棲が始まって、気づけば1年。ルビーは寂しがったが、よくよく考えれば頻繁に事務所で顔を合わせるし、いつでも遊びに来てよと伝えてあるため、今は元気にしている。

 玄関でハグをして、あかねの作ってくれた夕飯を食べながら、今回の仕事についてあかねに話を通す。それを聞くと、あかねの顔がパァと明るくなった。

 

「アクアちゃん、芝居するの!?」

 

 それはまるで、ファンが推しからの久しぶりの供給に湧く様子に似ていた。いや、事実あかねは私の大大大ファンであるのだが。

 

「うん、鏑木さんの頼みでね。ただ、少し問題があって……」

「問題……?」

 

 そう、問題があった。鏑木Pといえば、ネット番組を中心にしている人物であるが今回の作品は地上波……それも__

 

「月9!???」

「うん、ヒロインだってさ。」

 

 そう、月9である。若者から主婦まで多くの人が観る、ドラマの花形だ。今回、鏑木Pも役者の手配方面での協力という形でテレビ局と手を組んで、ある著名な人物が書き下ろしたオリジナルのドラマをやるらしい。

 

「お、お相手役は……?」

「それが教えてもらえてなくて……だけど、私がよく知ってる役者らしいんだよ。」

「……メルトくんかな?」

「鏑木Pが絡んでるなら、可能性は高いよね。」

 

 そう、私が問題があると話した理由。それは月9ヒロインということは、お相手役がいるということだ。あかねは役者として長いため、別に恋愛描写のある作品に出ようが特段気にしないプロとしての心構えがあった。

 だが、メルトだけは別である。もう10年も前になる東ブレの際、あかねは出演者のプロファイリングを陰ながらしていたようだが、メルトには「星野アクアに対して、仄かな恋心を無自覚に抱いていた」という結論を下して以降、私とメルトが個人的に会う機会が少なくなるように裏で細工をしていたと少し前に二人で飲んだ時に話してくれた。曰く、「だってメルトくんはイケメンだし、アクアちゃんと彼は波長も合いそうだから……何かしらのイベントさえ発生し続けてたら、あくまでもビジネスカップルな私だとアクアちゃんを取られちゃいそうだなぁってあの時は思って……」とのことらしい。

 まあ、当時の私は中身が雨宮吾郎成分を含むアラサー看護師だったので、メルトにコロッと行くことはよほど"私"を刺激されない限りはなかっただろうし、それ以降の宮崎アクアセラピー事件以降ならばあかねと大輝に対する依存が深まりすぎて、入り込む隙はなかったから杞憂であるのだが。

 

「で、本題なんだけど……あかねはもしもメルトが相手役だったら嫌?」

「……んー。」

 

 あかねはしばらく考え込むと、微笑んで答える。

 

「ううん。だって今のアクアは私の可愛い妻だもん。どんな演技をしようと、この真実だけは揺るがないから。それに、アクアちゃんの演技……私も観たいし!」

「ありがとう、あかね。今回の仕事、頑張るよ!」

 

 流石は私の処女を奪った女だ。今のあかねは揺るがない。正妻の余裕がある。彼女からの許しも出たなら私もプロとして全力で演技をするまでだ。お相手役が誰であろうと。

 

 

 

 

 

 

Prrrrr……

 

「もしもし大輝。」

「アクアか。俺もちょうど連絡をしようと思ってた。」

「台本読んだ?大輝。」

「……ああ。」

「「カップル役って、マジか」」

 

 声がハモる。そう、今回のドラマ……お相手役は大輝だったのだ。

 

「月9で兄妹俳優に恋人役やらせるの正気じゃねえし……作中設定もイトコなんだよな。」

「法律上は問題ない関係性だけど、なんかこう……ちょっと危ない雰囲気を感じるよね。」

「ああ。そこで脚本協力っていうか……今回のドラマのシナリオを書き下ろした人間が誰なのか聞いてみたんだ。」

「……著名な人って言ってたよね。ルビーかな?」

「いや、ないだろ。流石に和解してから仲良くしてるとはいえ、兄妹ナマモノを妹が出したとしたら絶望しかねえよ。」

「はは……たしかに。」

「で、勿体ぶらず答えを言うと……鮫島先生だ。」

「脚本協力がアビ子先生……なるほど、ヲタクの悪いところが出たな?」

 

 鮫島アビ子、『東京ブレイド』の作者。変わり者な性格ではあるが、作品のクオリティへのストイックさなどは尊敬に値する人物で、東ブレの舞台以降は親交が深まり、彼女の結婚式にも私たちは出席した。

 

「にしても、懐かしいなぁ東ブレ。そういえば、この前最終章の舞台が終わったんだっけ?」

「そうそう、みんなすごい演技だったぜ。」

 

 長い作品を完結までメディアミックスするとなると、どうしても役者の年齢問題は顕在化する。そのため、キャストは少しずつ変わっていたのだが、私たちの後継者たちも作品愛をもって完璧な舞台化を成し遂げていた。

 

「大輝は2作目までは出てたんだっけ?」

「そうそう。そういや……お前の後継の刀鬼役はお前のファンだって言ってたな。」

「ああ、あの子ね。この前テレビで久しぶりに顔を見たけど、だいぶ大人になったよね。結婚して子供もいるとかなんとか。」

「結婚かぁ……若人どもはどいつもこいつも……」

「……私のこと、恨んでない?」

 

 結婚の話題を出してからハッとした。そういえば目の前の兄は私のせいで結婚や恋愛ができない人生を送ることになってしまったのだった。だから、つい聞いてしまった。

 

「ん?別に。可愛い妹がいるから他の女に目移りしないしな。」

「そっか……ありがとう。」

「ああ、でも風俗は行ってるぞ。身体は女体を求めるからな。」

「……台無し。」

 

 大輝が私と出会って以降も風俗には行ってたと知ったら、小娘だった頃の私が聞いたら卒倒するかリスカしていただろうな。

 ……別に何も、モヤモヤなんてしてないよ。

 

 

 

 

 

 

「本日からお世話になります!ソニックステージ所属、鳴嶋メルトです!」

 

 主人公の元カレ赤塚平次役、鳴嶋メルト。

 

「ララライ所属、姫川大輝。よろ。」

 

 主人公の従兄弟の神保秀英役、姫川大輝。

 

「苺プロ所属の星野アクアです。演技は久しぶりですが、全力で臨みます。どうぞよろしくお願いします。」

 

 そして、主人公の神保マチ役の私、星野アクア。

 

 あとはサブキャラクターを務める役者陣。誰も彼も演技派の実力者だ。それはもちろん、私やメルトも含まれる。

 

 ドラマのあらすじは以下の通りだ。

 

 小説家として働く神保マチは、仕事の忙しさから恋人である赤塚平次との時間を取れないことを申し訳なく思い、別れを切り出す。しかし口下手なこともあり本心が伝わらず、拗れに拗れて大喧嘩。

 憔悴しきって実家に帰った主人公は、ちょうど訪れていた従兄弟の神保秀英と再会。彼と過ごす中で、その心を癒していく。

 一方で、赤塚平次も時間が経ち冷静になった頭で、彼女に謝りたいと思うようになるが中々機会が得られない。その間にも、マチと秀英は仲良くなっていき……従姉妹を守ろうと立ちはだかる秀英と、彼女に謝りもう一度話し合ってやり直したい平次。交錯する運命の行方は__

 

 と言うお話。

 

「なんか、月9ってこんな感じだっけ?昼ドラっぽくない?」

「思ったけども。」

「てか、最終回で主人公が秀英くん庇って刺されるじゃん。大輝大丈夫?演技でも私が大輝を庇って刺されるところ見て正気保てる?」

「今のお前なら大丈夫だ。お前が18歳くらいの頃だったら卒倒するか錯乱するかしてたかもしれん。」

「遠回しに老けたから平気って言ってないソレ?」

「いや、お前はいい女に育ったよ。妹でさえなければ恋してたかもな。」

「そっか……ならいいよ。」

 

 私たちのそんな雑談からのシームレスな痴話喧嘩未遂からのイチャつきを見て、放心する男が一人。何かを受信してスケッチをしながらメモを取る女が一人。

 

「……あ、アクア!久しぶり、今も姫川さんとは仲良しなんだな!兄妹仲が良いのって羨ましいわ。俺はほら、一人っ子だからさ。」

「久しぶりだね、メルト。最近もまたメキメキ演技が上手くなってるな、共演できて嬉しいよ。」

「そう言ってくれると嬉しいな、姫川さんにも負けないくらい良い芝居をしてみせるぜ!」

「ほほう……俺に負けないくらいとは大きく出たなメルト。俺にも年上としての意地がある。まだ壁として立ちはだかってやるよ。」

「……押忍!」

 

 メルト(27)はやる気を一層増し、大輝はそれを見て不敵に笑う。どちらも負けるつもりはなさそうだ。私も負けたくないので、家であかねに協力してもらって勘を取り戻そう。

 

「アビ子先生もお久しぶりです。こうして直接会うのは先生の結婚式ぶりですかね?」

「アクアさん、すごく綺麗なお姉さんになってますね……これで綺麗なお嫁さんとかっこいいお兄さんがいて……そこにさらにイケメンな友達が一人……ふふっ……ふへへへへ……あ〜〜〜この関係たまんないなぁ〜!!」

「相変わらずでよかったです。」

 

 アビ子先生(32)は私たちのことを"身内"カウントしているせいか、私たちの前ではまったく遠慮をしない。私たちは彼女とその夫を引き合わせた存在とも言えるため、たしかに彼女からしたら本当に気の置けない関係であるのだが、彼女からこちらへの扱いはもはや親戚だ。特に、私やメルト、あかね、有馬などの当時高校生だったメンバーに対しては度々「大きくなったなあ」などの親戚のおばちゃんのような反応を見せている。あんたもそこまで歳離れてないだろ。

 

「ところで、この作品なんですけど……コンセプトとかってありますか?」

「インモラルって良いですよね〜!!!!」

「「でしょうね」」「えええ?!!」

 

 私と大輝の声はハモり、メルトだけが彼女の発言に驚愕した。周りのスタッフや他の役を務める役者さんたちは苦笑いをしている。

 

 

 

 

 

 撮影が始まる前、本読みを行ったのだが、この時点から雰囲気がガラッと変わる。これが、全員の纏う気のような何かが空間に溶け出し、一つの世界を作り上げていくような錯覚をもたらした。この感覚が、私はたまらなく好きだ。

 

 

 

「別れましょう、私たちはきっと同じ時間を生きることができる存在ではなかったから。」

「そんな、どうしてだよ!俺は……俺はなにを、どこで……どこで間違えてしまったんだよ……」

「わからない……でも強いて言うなら__最初から、ぜんぶ間違ってたのかも?」

「そんな……どうして、今更になってそんなことを……っ!!俺は、俺だけはお前のことを心の底から愛していたのに!!」

「砂時計が二つあったとして、説明書がなければ実際に横に置いて試さない限り、砂が落ちるまでの時間の差なんてわからないもの……結果的に、合わなかったことを知れたのが最近だったのさ。」

 

 

 

 台本を読んでいく中で、私はこの神保マチというキャラクターの人物像を掴んでいく。遠回しでどこか詩的な言葉遣いをするため、周囲に誤解を振り撒く面倒な女、しかもそれを無自覚で行うというキャラクター性。知的な雰囲気を纏った見た目とは裏腹に、その内面はかなり天然気味というか、鈍感で、ある意味図太い。最終話で刺されるのも納得なキャラクター造形だ。

 だが、そんな彼女の全てを理解して、察することができる者が存在する。それこそが神保秀英だ。幼少期からマチと関わってきたせいか、マチの思考をほぼ完全に理解しており、彼女が説明しない結論や、そこへ至るまでの思考回路を"察して"動くことができるただ一人の存在。この男が甘やかすから、マチは自分の欠点に中々気づけない。

 最後、最終話で秀英を庇って刺されたマチに平次が吐き出した心の底からの本音、飾らない言葉によって初めて彼女は自分のこれまでの過失を理解し、退院後には獄中の平次に面会に赴くと言葉を尽くして誤解を解くことになる。そこで、平次も冷静になった頭で、自分のマチを取り戻したいという気持ちが結局は独りよがりの愛であったと回顧し、マチを幸せにできるのは自分ではなかったと、マチが幸せになるために背中を押す。結果として結婚するのはマチと秀英であるが、平次が被害者にしか思えない。

 

 

 

「側から見ると、平次くんに同情するね……コレは。」

「わかるな……。口下手で、追い詰められたから刃物を取り出しちまったけど、元の性格は穏やかで良識的だったから、マチが事前に事情を説明していれば普通に合わせてくれそうっていうか、支えてくれそうだよな。」

「そうかな?俺は平次はそこまで器用な人間には思えなかったな……なんというか、演じてて思ったけど……こいつは結論を何よりも求めていて、結論がない話に対しては無理にでも結論を求めてしまうような性格をしてるように感じたんだよ。だから、その時点ではなんとかなったとしても、将来的にはどこかで破綻してたと思うんだよな。結論を語らないマチと結論を求める平次とでは……。」

「「あ〜、たしかに。」」

 

 私たちは本読みが終わると、キャラ解釈や率直な感想についての意見を交換していた。後ろではアビ子先生がニヤニヤしながらうんうんと頷いていた。

 

 

 

 

 

 ドラマの撮影は順調に進んだ。私もだんだんと演技の勘を取り戻していき、"神保マチ"というキャラクターを完全に演じていく。演じている最中は、大輝……いや、"神保秀英"に対して強い恋愛感情のようなものを感じるほどに、役に入り込んでいた。そして、カットが入ると同時に役を脱ぎ捨て、役とはいえ、兄である大輝に対した恋愛感情を抱いていたことに対していつも恥ずかしさと、倒錯したナニかの感情が湧くのを感じていた。むしろ、その感覚が快感になりつつあったことには気付かぬふりをしていた。

 

 

 

「アクアって、黒川と演技の仕方が似てるよな。」

「え、そうかな?」

 

 休憩中、メルトからそんなことを指摘された。

 

「憑依型……っていうのかな、正しくはメソッド演技か。」

 

 そういえば、私は記憶が正しければ「雨宮吾郎」として転生してすぐ、「雪宮五里」というキャラクターを作成し、その役を羽織って日常生活を送ってきたのか。これも一種のメソッド演技ともいえる。それが私のオリジンだから、無意識にそんな演技をしているのかもしれない。

 

「……確かにそうかもね。でも、あかねほど高精度じゃないよ。」

「そうなのか……?」

 

 あかねはその異常なまでのプロファイリング能力で、キャラクターをほぼ完璧に理解し、真に迫る演技をする。これは、アイの演技だけには限らない。どの役も彼女は完璧に演じきる。

 私もあかねも、基本的には演技が終わってしまえばその役の人格は消えてなくなる。だが例外もあって、それがあかねの「アイ」だった。彼女の「アイ」は今ガチが終わっても、私たちの復讐が終わってもまだ残っている。

 

 昔はふと、不安になることもあった。あかねが私を想ってくれてる感情が、恋人としてではなく、母親としてのものなのではないかと。

 

 今ではそれが杞憂だと知っている。私があかねを想う気持ちが母親への愛ではないように、恋愛感情であるように。彼女のそれも恋愛感情だった。それを理解したのは、19歳の冬だったね。デートの帰りにホテルで……なんかちょっと話が逸れてきた気がする。戻そうか。

 

「私の演技は、演技としては少し淡白なんだ。これは東ブレの時にもそうだったけど、魅せる演技があまり得意じゃなくてね。自然体な"その人"を演じることはできても、観客に伝わるような"演技"はどうにもね。あかねはそれも含めて上手くできてる。私は裏方の経験があるから、演出やそのほか色々を利用して自分をよく見せているだけ。」

「なるほど……」

「メルトもすごいよ。あの頃とは本当に見違えた。コツコツと積み上げたもの全てが、君を押し上げている。大輝が言ってたけど本当に努力バカだね。」

「お、お、おう!ありがとな!!」

「ふふっ」

 

 私が仕返しに褒めると、彼はまさか褒められ返すとは思っていなかったようで、わかりやすく動揺した。その姿が少し可笑しくて、笑ってしまった。

 

「……はぁ〜」

「どうしたの?」

 

 そんな笑った私の顔を見て、メルトは頭をぽりぽりと掻いてため息をついた。

 

「……相変わらず、可愛いなって思っただけだよ。」

「え」

「わかってる。お前は黒川のお嫁さんだ。お前らは二人とも心の底から愛し合ってて、それが揺るがないことも理解している。」

「そう、だね。」

「……だけど、少し考えちまうこともあるんだよな。もしも今日あまの時、俺がもっとちゃんと演技ができてれば、お前と黒川が出会う前のあの時から仲良くできていたら……なんか違ったのかなって。」

「うーん……」

「って、悪い悪い!ガキの頃の儚い恋の話だ。今は割り切れてる。忘れてくれ。」

「……そ、そっか。こっちもごめんね、まったくそういうの気づいてなかったからさ。」

 

 メルトのぽつりと吐き出したその想いを私は受け入れることはできないだろう。もしもメルトが言うように、当時のメルトが私と親しくしたとしても、私がメルトに恋愛感情を抱くことはなかっただろう。

 

 それにしても、どうしてメルトは私のことを好きになったんだろう?

 

 それがわからない。(クソボケ)

 

 

 

 家に帰ってから、あかねにそんな話をした。

 

「アクアちゃん、それ本当に言ってる……?」

「だって、当時の私って根暗で演技もあまり上手くなかったし、好きになる要素はどこにあったのかなって……」

「アクアちゃん……メルトくんにとってアクアちゃんは演技というものを教えてくれたオリジンみたいな存在なんだよ。その上、舞台稽古中に聞いたんだけど「演技は感情乗ってなんぼでしょ?」とか言って笑いかけたんだって?」

「そ、そうだ……ね?」

「さて問題です。」

「はい。」

「同い年の美少女からそんなことをされた男子は、どんな感情になるでしょうか。」

「脳を焼いちゃったかぁ〜……」

 

 私の過失だったことがわかった。

 

「私って、もしかして知らぬ間に勘違いを量産してたのかな?」

「その可能性は高いよ、アクアちゃん。」

「くっ……アイの遺伝子とカミキヒカルの遺伝子が強すぎる……」

「カミキヒカルは関係ないよ、たぶん。」

 

 私って、かなり罪な女なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 ドラマの最終話の撮影が終わった。撮影の順番はドラマの時系列とは異なり、最後の撮影は私が刺される例のシーンだった。

 

「お疲れ様〜!」

「「うわぁっ!?」」

 

 そんな血糊がお腹をべっとり赤く染め、口からも垂れてる状態で現れた私に、演技が終わってリラックスしていたメルトと大輝は素っ頓狂な悲鳴をあげた。

 

「お前なぁ……血糊落として着替えてこい。」

「えへへ、ごめん。」

「し、心臓止まるかと思った……!」

「大袈裟だなぁ、メルトは。」

 

 苦言を呈されたので、私は血糊を落として衣装から着替え、二人の元へと戻った。

 

「ただいま。」

「「おかえり。」」

「いやぁ、かなりいいドラマに仕上がったんじゃないかな?これ。」

「ああ、端役に至るまでどいつもこいつも実力派……演技の質が高い。お前も勘を取り戻したおかげか、ブランクがあるとは思えないような高品質な演技だった。あとはスタッフさんの編集や演出次第だが……その辺は心配する必要はないだろうな。」

「本当ですよ、テレビで観るのが楽しみです!」

「アビ子先生、いつからそこに!?」

 

 気づくと、アビ子先生もそこに加わっていた。

 

「今日が最終話の撮影と聞いて、見学に来てたんですよ。旦那と一緒に。」

「それはそれは……多忙なのにありがとうございます。」

「いえいえ!こちらこそ皆さん良い演技をありがとうございます!これだけ良い演技をしてもらえると作家冥利に尽きますよ、本当に。」

 

 久しぶりの芝居は、とても楽しかった。まるで夢のような時間だった。やってよかったと、満足気なアビ子先生ややり切ったと言う表情で笑う共演者のみんなを見て思った。

 

 

 

 

 

 

 それからはバラエティ番組などに番宣のために出たりと忙しい日々が続いたが、ようやく第一話オンエアの日がやってきた。

 

「自分が出る作品を見るの久しぶりだなぁ。」

「ふふ、アクアちゃんの久しぶりの芝居……ふへへ……」

「あかねー、ちょっと怖いよ?」

 

 部屋のソファで二人腰掛けながら、テレビの前で待機する。

 

「そういえばね、主題歌は__」

「うん、知ってる。楽しみだね。」

 

 主題歌はケンゴが担当する。彼とは今ガチ以降も親交があるが、こうして仕事で関わりがあるというのはだいぶ久しぶりのことだった。

 

「あ、始まったよ!」

 

 ドラマが始まった。

 

 

 

 

 

 

【苺プロの反応集】

 

ルビー「わっ!お姉ちゃんが眼鏡かけてる!すごく頭良さそう!」

有馬「ふん、流石は私のライバル……演技が上手いわ。」

MEMちょ「やっぱり、こうして見るとアクたんは大人になったねぇ。」

 

ルビー「んー……マチちゃん、ちょっと口下手すぎない?」

有馬「いるわよね〜、こういう意味深な感じに喋るけど結論だけは喋らない人間。」

MEMちょ「演技が上手いせいか、観てて胃が痛くなってくるね……」

 

ルビー「あ、お兄ちゃんだ。」

MEMちょ「理解のある彼くん枠かぁ。」

有馬「……兄妹でやる役なのかしら、これ。」

ルビー「ね、ちょっとインモラルを感じる。」

 

MEMちょ「え!主題歌これ……!!」

ルビー「今ガチに出てた人だ!!」

 

〜〜〜〜〜〜

 

ルビー「ついに最終話かぁ。」

有馬「長いようで短かったわね。」

MEMちょ「前回のヒキといい、平和な終わり方をするとは思えないんだよなぁ〜……」

 

ルビー「お、おね、お姉ちゃんがさ、刺された……!!?ひっ、ひっひゅっ……」

有馬「ルビー!!?しっかりしなさい、これ演技、演技だから!!あれは血糊!!偽物よ!!!」

MEMちょ「社長〜!!!!!!」

 

有馬「ルビーは視聴中止ということで。」

MEMちょ「ここからどうなっちゃうんだ〜???」

 

有馬「あ、マチがついに自分の悪癖を自覚したわ。」

MEMちょ「でも失うものが多すぎたね……」

 

有馬「って、生きてるんかい!」

MEMちょ「よかったぁ〜……」

 

MEMちょ「平次くんも、悪い子じゃなかったから……ボタンの掛け違えさえなければ……」

有馬「どうかしらね、結論を求めるこの子と結論を語らないマチは……どこまで行ってもすれ違うことしかできなかったんじゃないかしら。」

MEMちょ「ちょっと、切ないね……」

有馬「ま、変な女に惚れちゃったせいよね。」

 

有馬「これ、ハッピーエンド?」

MEMちょ「うーん、身内である私たちから見るとたしかに気まずいものがあるけど、ハッピーエンドなんじゃないかな?」

ルビー「もう大丈夫、完全復__お姉ちゃんがお兄ちゃんとキスしてる!!!!!??????」

MEMちょ「ルビーが倒れた!???」

有馬「重症ね。ルビー安心しなさい、流石にキスしてるように見えるだけよ。本当にキスしてるわけじゃ……いや、今ガチのことを考えると……」

 

 

 

 こうして、ドラマは無事に最終話まで放映された。評価は賛否両論ではあるが、一部の層には突き刺さったらしい。

 否の意見としては、恋人役に兄妹俳優を起用した件や、主人公のマチのキャラ造形のクセの強さに対する困惑、マチと平次の最終話における扱い、そんな都合のいい従兄弟はリアリティがないなどといったものだ。一方で賛の意見は、概ね演技の上手さとドラマとしての品質の高さを評価する声、アビ子先生のクセの強さに慣れている人々の作品評価、それから一部のインモラル愛好者の声などがあった。

 結論としては、大衆向けというには尖りすぎているが、作品自体の品質は高いというものとなった。

 

 

 

 

 

 

 この仕事を通して私は役者として復帰する道を選んだ。そもそもだ。医師免許を取った理由は、目の前で誰かを失わないためであり、医者になるためじゃなかった。

 それに……私が出演するドラマを、まるで宝物を見つめるかのように眺めているあかねの横顔を見て、あかねの幸せのために私が本当の意味で"遺せる"ものを見つけたからだ。

 

 あかねに対して遺すもの。それは、お金なんかじゃなく私の姿。私が出演した作品だ。映像として、未来にも残していく私の足跡。いつでも私を思い出せる、そんな魔法のようなモノ。

 私は役者だ。役者はその短い人生を、フィルムの中に閉じ込めて永遠の存在になれる数少ない存在だとようやく気づいたんだ。

 

 

 

 




星野アクア
 アラサーになった。演技やりたいけど、将来のことを考えると安定した給与のある定職、それも医師のような高級がいいよねと思っていた。そうやってお金を遺すことがあかねに対して報いることだと思っていた。
 でも演技の楽しさと、自分が演技を楽しんでいる姿を見て幸福に満ち足りたような顔をしているあかねを見て、自分が本当にあかねに遺すべきものを知った。


姫川大輝
 結婚できない男。相変わらず妹が大好き。勝ち取った幸福な未来を満喫している。


鳴嶋メルト
 割り切ったといいつつ、やはり完全には消えないその恋心に苦しみ続ける。真面目な努力家。
 本編で出番が少なかったのはあかねの工作の結果だったのかァー!(後付け)


黒川あかね
 役者として活躍している。アクアとは夫婦(婦婦?)円満。


星野ルビー
 マルチタレントとして活躍中。B小町メンバーとは今も仲良し。


有馬かな
 役者として活躍中。日本にいるときは大体苺プロの事務所にいる。B小町のメンバーとは今も仲良し。


MEMちょ
 結婚後も苺プロによく来てはルビー達と仲良くしている。有馬のハリウッドでの活躍を応援している。


鮫島アビ子
 一体どこのGさんと結婚したんだろうね。




私の望む世界(アクアTS作品)が、今目の前にある……っ!!
なんかもう満たされたな……自給自足はここでおしまい。

読者に戻ります!
ここまでありがとうね!!

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