姫川大輝は逆行する_が、どうにも弟が弟じゃない。 作:ある日の残り香
私は自分がこの作品を納得いく形で完結させられるとは思っていない。
そりゃそうだ、小説なんか書いたことない初心者が見切り発車で、深夜の狂気に任せて書いている作品が納得いく作品になるかなんてギャンブルでしかない。完結するのかも怪しい。
それでも、この作品を書かずにはいられなかった。欲望には勝てなかったのだ。
私の本当の本当の望みはきっと、「女体化アクア」や「姫アク♀」の二次創作が増えることなのだろう。
その願いが叶うといいな、そう思いながらもタネを撒く。
目にした人間の脳内にこの概念を植え付けるために。
完結まで狂気が続くことを願って。
誰かが言った。「ホームセンターにドリルを買いに来る客が本当に欲しいのは、ドリルではなく穴である。」と。マーケティングの基本的な考え方であり、マーケティングとセリングの違いを紹介する上でよく用いられる「レビットのドリル穴理論」だ。
世の中に、真の意味で「復讐」を望む人間はいるのだろうか。自分の人生を薪に焚べ、焼き尽くしてでも相手の社会的地位や生命を毀損することが、果たして復讐者たちの望みなのだろうか。
彼らが本当に求めているものは、「過去」であり、それを取り戻す手段がないからこそ、せめて自身の心に「納得」を得るため、自身の「過去」を奪った者に対して、同じだけの苦しみを与えようと願うのだろう。結果として、自分の人生を踏みにじろうとも。
しかし、復讐の果てに彼らが救われることはない。大抵の場合は燃え尽きてしまう。燃え尽きて正気に戻ると、汚れた自分の足や手を見て、絶望に沈むことになる。古来より復讐譚の最後に主人公が死亡するのは、筆者なりの慈悲なのだろう。現実の復讐者は、その後自分が「奪った」ものによって悪夢を見て、憔悴し、自分の人生を生きる余裕さえ失ってしまい、最後には地獄の道しか残らなくなるのだから。
俺には、あるだろうか。復讐をする覚悟なんてものが。
アクアが稽古中に倒れた翌日、俺は黒川に呼び出されていた。稽古場の裏で、言ってしまえば尋問を受けている。
「姫川さん、アクアちゃんに関して何か知ってますか?」
「……あまり。」
「嘘ですよね。昨日、アクアちゃんが倒れる直前の姫川さんの態度は妙でしたから。」
あのとき、目が合ったのは偶然ではなかったようだ。迂闊だったとしか言えないが、あの状況で動揺しないなんてのは無理がある。こちとらアクアの死によって精神が一度壊れているのだ。
ここは上手く黒川を躱さなければならない。俺が下手に情報を漏らせば、黒川経由でアクアに伝わり、アクアが「カミキヒカル」に到達する可能性は捨てきれない。
「……あの時の動揺はアクアがどうこうじゃない。有馬がアクアに提示した状況設定に思うところがあっただけだ。もしもお母さんが〜ってやつ。」
「両親のことですか。」
「……まあ、ネットで調べれば簡単にわかることだしな。黒川も知ってるか。そうだ、俺の両親は俺が幼い頃に心中してる。だから、その時の気持ちが蘇っただけだ。」
普通の人間なら、ここからは気まずくなってこれ以上の追及はしてこない。ひとまず、上手く躱せたと考えていいだろう。それに、これ以上に今の黒川が納得できる答えはないはずだ。アイの真相はまだ一般に公表されていないし、アクアたち以外は知らないし知る由もないことだ。アクアたちの母親(里親)は斉藤ミヤコであり、健在である。それが世間の一般認識である。だからこそ、俺が何かを知っているなんていう荒唐無稽な話よりは、俺が俺自身の問題であの時の妙な反応を見せたとするほうが辻褄が合う。
アクアが公表しない限り、誰もアクアとルビーがアイの子供だなんて事実に到達することはないのだから。
「……アクアと会ってから、姫川さんちょっと変ですよね。」
「そりゃ、あれだけ可愛い子を見たらな。それが妹分の恋人ともなれば余計に気を揉むさ。」
「私の恋人ですよ。」
俺は笑ってその場を去る。きっと、上手く乗り切れた。
黒川あかねは立ち去る姫川大輝の後ろ姿を、観察するかのように眺めている。彼女がすでにアクアたちの真の母親に気づいていることを、姫川大輝はまだ知らない。黒川あかねがアクアのためなら地獄にも堕ちれる女だということも、姫川大輝はまだ知らない。黒川あかねが姫川大輝についての考察を始めていることも、姫川大輝は知らない。
そんなことはありつつも舞台稽古はそれ以降順調に進み、ついに本番が目前に迫った頃。俺も思いもしなかったハプニングが発生する。いつも通りアクアの動向に注目していたところ、アクアのある奇行を目撃したのだ。
「あ、アクア……?何してるんだ……?」
「誤解だ。」
アクアが、俺が鼻をかんだティッシュをゴミ箱から採取して、ジップロックに入れている場面を目撃してしまった。サンプルってそこからとったのね。
「……アクア。仮にお前が俺のファンだとして、俺の私物が欲しかったとしても鼻かんだティッシュはやめとこうぜ?」
「誤解だ。」
「とりあえず、ばっちいから捨てようか。アクア。」
「……。」
アクアの表情が強張り、顔から血の気が引いている。おそらく、アクアはこれまでもこのようにして色んな人物のサンプルを確保してきたのだろうが、こうしてバレたのは初めてだったのだろう。
「落ち着け、アクア。俺はお前のソレをチクるつもりはない。」
「……何が望みだ。」
「別に弱みを握ってどうこうしようってわけじゃない。ただ聞きたいんだ。ソレを回収して何をしようとしたんだ?」
アクアは黙ったままだ。たしかにこの状況、アクア目線だと俺が親の仇の関係者だったら詰みなわけで。いや、正確には親の仇の関係者であることは確かなんだが。
ここからどうしたものか。なんとか警戒をまずは解かなきゃならない。サンプルを破棄させることはこの時点で諦めた。
「……なあ、アクア。お前ももしかして、同じ考えだったのか?」
「同じ考え、とは?」
「俺はお前を一目見た瞬間、とても他人とは思えなかった。もしかすると、なんても思ったりした。」
「……。」
「だが流石に、確かめるにしたってそのやり方はバレた時が怖くねえか?」
さて、ここからが大事だ。ここまで来れば、DNA鑑定を回避することは不可能に近いだろう。ここでサンプルを破棄させたとしても、またどこかで今回はバレないようにサンプルを確保するはずだ。
だから、DNA鑑定の結果という事実を使って誤解を招いてみせる。正直、前回通り俺が上原清十郎という故人の子供であると明かしても、アクアはしばらく復讐はすでに終わったと思い込んでしばらく自由の身になることだろう。
しかし、それだとあまりにも時系列的な矛盾が大きいことに後から気づき、結果として復讐へと戻ってきてしまった。そしてついにはあの映画を完成させてしまう。
そこで、上原清十郎以外の人間が本当の父親であるということはバラすが、それとカミキヒカルが結びつかないように出鱈目を言うのだ。その肝心な内容はまだ思いついてなどいないが。
「俺は、お前が俺と同じ父親の血を分けた人間だと思ってる。アクア。」
「……!」
アクアの目の色が変わった。
「お前もそう思ったからこそ、こっそり俺のDNAサンプルを確保しようとしたんじゃないのか?」
「……そうだ。」
話を合わせにきたか。復讐相手に繋がる手がかりを得られる可能性があるもんな。そうするだろう。
「……そのサンプル、持っていけ。鑑定費用は俺も出す。結果を確認するときは、俺も呼んでくれ。」
「ありがとう、姫川さん……なあ、姫川さんの父親ってどんな人間だったんだ?」
「それについては、まだ言えないな。お前が本当に妹だったならその時に話してやる。」
それまでに、上手い嘘を考えておかなければならない。信憑性がありつつ、それを頼りにしたら永遠に答えへと辿り着けなくなるような嘘を。
「それにしても、よかった。」
「なにがだ?」
「ずっとこっちを見てくるし、狙われてるのかと。姫川さんってほら、女性関係であまりいい噂を聞かないし。今回のも、弱みとして握られて何かされるのかと……。」
「……。」
俺は、妹からの信頼がなかった。
姫川大輝
実は逆行のアドバンテージがあまり強くない男。相手は転生者とチート推理女だぞ。
知ってること:「アクルビとは血を分けたきょうだい」「アクアにとって、演じることは復讐(インタビュー映像より)」「アイとカミキヒカルはララライのワークショップで出会う」「上原清十郎の件に関しては、カミキの密告に悪意はない(映画情報・真偽不明)」「カミキヒカルは神木プロダクションの社長」「カミキヒカルには余罪がある」「アクルビの母親はアイ」「カミキヒカルは『15年の嘘』の内容に怒り、アクアを殺害しようとする(誤認)」「アクアはカミキヒカルに刺されるが、カミキを道連れに海は沈む(誤認)」「有馬かなは葬式で、約束をしたからと言ってアクアの死体を叩く(語弊)」
黒川あかね
たぶん今の状況でも時間さえかければ自力で「カミキヒカル」にたどり着く。問題は原作同様に彼女はアクアが復讐は終わったという幻想の中にいる場合、カミキヒカルへ単独カチコミをかけてしまうことだ。
星野アクア
あやうく食われるかと思った。姫川は協力的だが、何も対価を求めないのが不気味。
姫川は果たして上手い嘘を考えることができるのか。
次回、「なあアクア……俺の母親、処女懐胎なんだ」。
続く、か?
ハーメルンの機能、実まだよくわかってない