姫川大輝は逆行する_が、どうにも弟が弟じゃない。   作:ある日の残り香

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 そういえば、冒頭の姫川さんは死んでいません。縄に手をかけたところで意識が本作時系列に逆行したので。
 お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、本作には「原作キャラ死亡」のタグがついていない以上、原作で死亡したキャラクターを除いて死亡することはありません。
 果たして、姫川お兄ちゃんはアクアを救えるのか。もしよろしければ最後までお供してくだされば幸いです。

 読んでるあなたも姫アク♀やアクア女体化の二次創作を書いてくれたら私の食事が増えるので助かります。


第七話【復讐の決意】

「……要件はなんだ、黒川。」

「アクアちゃんの本当の父親のこと。何か知ってる?」

「お前に対してそれを話す理由があるか?」

 

 黒川はアイとアクアたちの関係すら知らないはずだ。それなのに、今の黒川からは、何でも知っている、何でもお見通しだというような雰囲気さえ感じられた。

 

「__お前こそ、アクアの企みについて何か知ってるか?」

「姫川さんが教えてくれないなら、こっちにも教える義理はないですしょう。」

「……兄として、妹に無茶な真似はさせたくない。だから、俺はアクアにも、アクアと繋がってるお前にも、父親について直接的なヒントを出すつもりはない。」

「なら、私と姫川さんは利害が一致する。私もアクアに無茶させないために情報を探っているから。」

「どういうことだ?」

「私が、アクアちゃんの代わりに復讐を遂げようと思うんだ。」

「は……?」

 

 それはつまり、黒川があの映画を作るということか。あるいは、黒川がカミキヒカルについてなんらかの暴露を行おうとしているということか?

 そのように疑問に思っていると、彼女は花束の中から何か光るものを取り出した。

 

「アクアくんの復讐相手は、私が殺す。」

 

 それは、ナイフだった。

 

「そうか、待て。」

 

 まさかだが、黒川は……黒川の考える復讐は、直接命を奪う方向なのか?

 

「待て……それはお前が捕まるだろ。常識的に考えて。」

「証拠の隠滅も含め、私なら完全犯罪を達成できるよ。」

「あのな……逮捕されなかったとしても、一般的に罪を犯した人間は強烈なストレスに晒され続けることになるんだぞ。もっと自分を大切にしろ。他の方法だっていくらでもあるはずだ。そんなことを聞いたら余計にお前にだけは教えられない。」

「私は、アクアちゃんのためなら人を殺しても心が傷まないよ?」

 

 黒川のその発言は、中学生や高校生の発するイタいソレとは違い、ドス黒く重い決意のようなものを帯びていた。こいつは、本当にやるつもりだ。そう感じさせるだけの、スゴ味がある。

 

「……アクアには、話したのか?」

「ううん。アクアちゃんには話してないよ。十中八九止められるし、アクアちゃんも知ったら、共犯になっちゃうから。」

「その言い方だと、俺を共犯者にしたいというようにも聞こえるが?」

「だって姫川さんも、アクアのためなら何も惜しくないでしょ?」

 

 俺は何も答えない。確かにこれ以上父親以外の家族を失いたくはない。そのためなら、どんな手も使うと決めていたはずだ。そのはずだったのに、俺の脳には最初から「クソ親父を殺す」という手段はなかった。

 

「……殺しは、ダメだ。」

「このままだと、アクアちゃんやルビーちゃんが殺されるとしても、そんな綺麗事を吐けるの?」

「……今のあいつらが、既に目をつけられてるって言いたいのか?」

「確証はないけど、可能性はあると思う。」

「そんなわけ、ない。だって、まだアクアの復讐は動き始めてないじゃないか。目をつけられる要素なんて__」

 

 ルビーは、アイの夢であるドームライブを目指している。

 アイは、ドームライブの当日に殺害された。

 ルビーのドームライブ当日、ニノによる襲撃があった。

 

__初めから狙われていたのは、アクアじゃなくてルビーだったのか。

 

 それに気づいたアクアは、カミキヒカルの矛先を自分に向けようとあの映画を撮影した、そういうことなのか?

 その上で……今目の前にいる黒川同様、前の人生における黒川もカミキヒカルに対してナイフ凸をしようとしているのに気づいたとしたら。

 アクアは、大事な妹であるルビーを守るために、そして黒川という大切な知り合いが罪を犯す前に、復讐を決行したのではないか?

 あいつは、自分を大事にしていない。それは前回の人生の末路からして確かなことだ。その上で、あいつは周囲の人間に対して優しい。周囲の人間のために無茶をたくさんしてきたという話も聞いたことがある。有馬と黒川を誑かすだけあるくらいには。

 

「黒川、お前がホシを殺そうとしてもおそらくアクアは気づくぞ。その結果、アクアがさらに手をつけられないくらいに暴走する可能性が高い。」

「何を根拠に__」

「兄の勘だ。」

 

 しかし、分かったことはアクアが何かをしなくともカミキヒカルから先に手を出される可能性があるということ。即ち、アクアの復讐を止めるだけでは根本的な解決には一切ならないということだ。

 

 じゃあ、殺すか?

 

 無理だ。俺には人を殺せない。だからといって、他の誰かに代わりにやってもらうなんてこともしたくない。

 ならやはり、先日思いついたように俺を襲撃してきたところを抑えるべきなのではないだろうか。そうだ、公権力に任せる以上の解決策はない。

 

「……黒川、俺に協力してくれ。俺がアクアやお前らの代わりに復讐の弾丸になる。」

「……具体的には?」

「父親と俺が接触し、人気のない場所で奴と二人きりになる。そこで、俺の出生にも関わるララライの闇を暴露すると奴に脅しをかける。」

「殺人教唆をするような人間が、脅しただけで止まるような人間には思えないけれど。」

「俺はそこで殺されるつもりだ。」

 

 黒川の目に驚愕が映る。何を言ってるんだこの人はとでも言いたいように、口をパクパクさせている。

 

「脚本はこうだ。俺が奴を脅した時、奴がそのまま殺しに来たらそれでヨシ。偶然近くで天体観測をしてたお前がその現場をカメラに収めて通報する。奴が殺そうとしなかったら俺から掴み掛かられた演技をして、そのまま背後の崖に落ちる。その時の揉み合いになってるところをうまく撮ってくれ。で、黒川がそのまま通報して奴はお縄につく。」

「正気じゃないですよ。」

「ナイフ持って突撃するよりは正気だ。」

「そもそも、どうやってターゲットと二人きりになるんですか。そんな場所で。」

「俺、自動車免許を取ろうと思うんだ。」

「????」

「そんで、新車を買った時に"親子水入らずでドライブしようぜ"って声をかける。相手はそれだけでも面食らうだろうな。向こうは俺を認知してるか危ういし。向こうも芸能界の人間だ、俺を泳がせてスキャンダルをどこかに持ち込まれるよりは、まずは話し合いに応じるはず。」

「メチャクチャな計画……」

 

 黒川は本気で困惑しているように見えた。俺の完璧な計画のどこに不備があるというのだろうか。

 

「決行は『東京ブレイド』の千秋楽が終わり、俺が免許を取って車が納車されたタイミングだ。決行が近くなったらまた連絡をする。」

「なんでそんなふざけた計画にならなきゃならないんですか!」

「この計画の利点は、アクアやルビー……それからアイには全く飛び火しないまま奴を塀の中に放り込めることだ。俺とあいつらのDNA鑑定さえ表に出さなきゃ、アイツらと俺の親父の関係は表には出ず、アイツらが殺人犯の子供だという謗りを受けることも回避できる。」

「……。」

 

 俺は覚悟を決めた。命をかけてでも、妹たちを守るという覚悟を。

 

「少しぐらい、あいつらに兄らしいことをしてやりたいんだ。あとのことは、お前に託したい。」

「……はい。わかりました。」

 

 黒川は満面の笑みで明るく返した。その顔を見て安心し、俺はその場を離れる。

 

 

 

 黒川あかねは、姫川大輝が立ち去るのを見届けると作り笑いをやめた。話を切り上げるために作った笑顔だった。

 

「姫川さんの精神状況は思ったより深刻かも。発言や発想が全て支離滅裂で、自己犠牲に満ちている。強迫障害、サバイバーズギルト……とも少し違うけれど……」

 

 黒川あかねは考察する。

 

「自分が生きていることに、罪悪感を抱いている……?強いストレス負荷によって脳が萎縮した状態で、自分が全てを解決しなければならないと思い込んでいるが故に、あのような思考に当たっているのだとしたら……」

 

 今の姫川大輝を放置することは、危険だ。

 

 

 

 俺は今度こそ、アクアを救う。

 俺が逆行した理由はきっと、そのためだ。

 

 傾きかけた夕陽が、影を伸ばしていく。




姫川大輝
 本人は自分が正気だと思っている。
 地の文だからと言って、姫川さんが正しいとは限らない。

黒川あかね
 姫川さんに必要なのは精神を療養できる場なのではないかと思い始めている。

星野アクア
 結局、ララライでアイと父親が出会ったことは鏑木Pのおかげでわかっているが、金田一さんを姫川さんにお酒で潰されたし、姫川さんも情報を全然教えてくれなかったから詳しい情報は何も得られなかった。
 『東京ブレイド』の千秋楽後に暇してたらルビーに宮崎ロケについて来ないかと誘われた。今後のことを話し合いたいし、あかねにも声をかけよう。
 この時点だと、父親を追ってる理由がまだアイの無念を晴らすためであり、別に殺そうだとかはあまり考えてない。死なせずとも破滅させるか、後悔させるかが現状の復讐。ルビーがカミキに殺されそうになっていることが判明する終盤ほどは切羽詰まっていない。

カミキヒカル
 才能ある人を殺したい。まだルビーとアクアは収穫するには早いと思ってる。アクアもルビーも、アイに似て綺麗に育った。今後が楽しみ。


 本作であんまり扱っていないキャラたちももっと動かしたい。特に、姫川ドライブ組。


次回、「アクアセラピー(視点:星野アクア)」
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