一生同じデッキを擦れる世界で生きていく 作:コダワリー
オタクはこだわりの強い生き物だ。
中には一度好きになったものを一生擦る続けるオタクもいるだろう。
実際俺はそういうオタクだ。
しかし俺が大好きなカードゲームには、どうしても環境というものが存在する。
新しいカードが定期的に出て、古いカードはインフレにおいていかれてしまうのだ。
無論、古いカードだって強化される時はある。
だけどそれが必ずしも現代環境に追いつけるものとは限らず、そもそも長年強化が来ないことだってある。
俺の一番好きなデッキもそうだった。
数年以上強化がされず、しかも一番新しい強化が微妙強化だったから、いまだに時折ネタにされる始末。
かつては隆盛を誇ったデッキも、今や過去の遺物と化していた。
そんな俺に、思わぬ転機がやってきた。
なんと、カードゲームアニメの世界に転生してしまったのである。
しかも大好きだったカードゲームの、大好きだったデッキの使い手として。
俺は歓喜した。
なぜならカードゲーム世界であれば、同じデッキを一生擦ることができるからだ。
だって、アニメの中のカードゲーマーは、二十年たっても同じカードを使っていたし。
俺は心に決めた。
この世界で、大好きだったデッキと共に生きていく。
幸いカードゲームアニメの世界、すなわちホビアニ世界は平和だ。
たまに世界が滅びかけたりもするけれど、衣食住には困らない。
それに仮にカードバトルで死んでしまっても、なんやかんや生き返れることがほとんどだしな。
だから俺は、このカードゲーム「モノトゥーンカード」の世界を、今も楽しく生きている。
周りからはちょっと変わり者だと思われているけれど。
俺は俺の生き方をやめるつもりはない。
□
いきなりさっきと真逆のことを言うが、カードゲームの世界は過酷だ。
突如として悪のカードバトラーにカードバトルを挑まれる可能性がある。
少なくとも今、俺はそういう状況に置かれていた。
――まぁ、もうすぐ決着が着くのだが。
「俺は<ヘルフィナイト・アーチフィーンド>で攻撃!」
『ば、馬鹿なぁあああ!』
俺と戦っているのは黒尽くめの男。
ダークストーカーとかいう悪のカードバトラーだ。
正確に言うと、この世界では悪のカードバトラーをブラックバトラーと言う。
ブラックバトラーにも色々種類がいて、ダークストーカーというのは組織名。
この黒尽くめは、その組織の下っ端ってところだな。
どうやら俺は、このダークストーカーとの因縁に巻き込まれてしまったらしい。
まぁ、このカードバトルには勝たせてもらったけど。
『く、おのれ……鹿田ユヅミ! 俺が負けてもダークストーカーは健在! いづれ、さらなる敵がお前を狙うだろう! ダークストーカーに栄光あれ――!』
俺のモンスターの攻撃で吹っ飛んだ黒尽くめが起き上がると、定型文みたいな捨て台詞を吐いて消滅した。
カードゲーム……というかホビーアニメではありがちな光景だ。
ちなみに、俺が負けると俺はカードになってしまう。
カードになったら、この黒尽くめの親玉が倒されるまで俺はカードにされたまま。
そんなのごめんだ、というわけで黒尽くめとのカードバトルに勝利したわけだが――
『鹿田ユヅミ! どうしてボクを使わないのさ!』
一人の少女が、俺の隣で文句を言っている。
それは、一言で言うと妖精だった。
ボーイッシュな雰囲気の、赤髪の少女妖精。
癖のあるショートヘアに、妖精らしいドレスと羽が特徴的。
如何にも”カードの妖精”ですよ、と言わんばかりの少女である。
んで、俺は鹿田ユヅミ。
この「モノトゥーンカード」の世界に転生した、一介のカードバトラーだ。
『ダークストーカーはすっごく危険なブラックバトラーなんだ! それに対抗するためにはボク”ファイアリィ”の力を使うべきだよ!』
この少女――ファイアリィはカードの妖精なので、ファイアリィをカードバトルの中で使用することができる。
確かにファイアリィの効果を見た感じ、ファイアリィを使っていればもっとバトルは有利に進んだだろう。
だけど俺はさっきのバトルでファイアリィを使わなかった。
その理由は、至って単純である。
「――まぁ、なんだ。悪いなファイアリィ、俺はどんな理由があっても君を使うつもりはないんだ」
『ええ!? そんな無茶だよ! ボクはダークストーカーに対する対抗カードなんだ! それを使わないと、君にも相当な負荷がかかるのに!』
対抗カードというのは、まぁだいたい文字通りの意味だ。
カードゲームアニメだと、受けるダメージが実体化する闇のゲームみたいなものが存在することがたまにある。
そういう時、対抗カードをデッキに入れているとある程度実体化したダメージを軽減できるのだ。
デッキに入れているだけでも、ダメージ軽減は効果がある。
だけど今回、俺はそもそもファイアリィをデッキに入れすらしなかった。
なぜ、そうまでして俺がファイアリィをデッキに入れないのか――
「だって……ファイアリィを入れると俺の<ヘルフィナイト>デッキが純構築じゃなくなるし……」
純構築とは、いわゆるデッキを一つのテーマで完全に染め上げること。
俺のデッキは<ヘルフィナイト>モンスターとそのサポートカードで構成されている。
他に入れるとしたら、<ヘルフィナイト>を含めた種族全体をサポートするカードと汎用カードくらい。
他のテーマのデッキは、一切入れないというのが俺の方針だ。
申し訳ないがファイアリィはテーマカードだからな、俺のデッキには入れられない。
『で、でも! ボクと君のデッキは相性が悪いわけじゃない。むしろいいはずだ! だったら入れたほうが――』
「――
ファイアリィの発言を遮って、俺は少しだけ寂しそうに言う。
確かに、ファイアリィの言うことは最もだ。
いわゆる出張テーマや混ぜ物をすることで、デッキがより強くなることは確かにある。
偶然環境級のデッキと噛み合って、あまり日の目を見ていなかったテーマが環境に躍り出ることもなくはない。
前世であれば、俺もそういった混ぜ物や出張を許容していた。
というより、許容せざるを得なかった。
「相性がいいってことは、よりその相性の良さを活かそうとするとデッキに相手のテーマのカードが増えていく。そうすると――<ヘルフィナイト>のデッキじゃなくなっちゃうじゃないか!」
まず、使いたいカードを決めます。
それと相性のいいカードを入れていきます。
最後に使いたいカードをデッキから抜いたらデッキは完成です。
なんて格言もあるくらい、使いたいカードを優先した上で強さを追求するとデッキは歪んでしまう。
複数のテーマを混ぜものしたデッキに一種類しか入ってないテーマカードのデッキを、そのテーマと呼称してもいいのか!?
その問は、もはやカードゲームの命題の一つである。
だから俺は、この世界においては純構築以外の構築を避けるようにしていた。
『じゃ、じゃあ君は……そのプライドのためにボクをデッキに入れなかったの!?』
「べ、別におかしなことじゃないはずだ! そもそもモノトゥーンカードは
『いや、もちろん否定はしないけどさ……! むしろ、そういうプライドは確かに素晴らしいと思う!』
――自分で言うのもなんだが、俺は拗らせていた。
一つのデッキに執着するあまり、それを優先するために自分の命すら危険におかしてしまう。
でも、この世界はホビーアニメの世界。
一つのデッキに愛着を持って、それをこすり続けることが否定されるはずがない。
むしろファイアリィだって俺の行動に困惑しながらも、俺のプライドは素晴らしいと褒めてくれた。
ただまぁそのうえで、ここまで徹底して拘るのが――
『でも、君が変わり者なのは、否定できないだろ!?』
「そうだが!?」
『認めるんだ!?』
俺がこの世界においても、「変わり者」と呼ばれることは事実である。
なにせホビーアニメで普段のデッキとは関係ないゲストみたいなカードがデッキに入り込んだら、それを上手くつかって立ち回るのがセオリーというものだ。
しかし俺は、そういったゲストを拒否している。
一生同じデッキを擦れる世界といっても、擦りすぎると「変わっている」と評されるのは不思議なことじゃない。
でも、それはつまり――
「だって、変わってる”だけ”なら別にいいだろ。誰からも否定されるわけじゃないんだし」
俺は、否定されていない。
だからいいんだ、これでも。
どれだけ俺が変わっていると評されようと、周囲から変な目を向けられようと。
それでも俺は、一生同じデッキを擦って生きていくんだから。
前世からこだわりの強かったカードゲーマーが、異世界で変人だと思われながらも受け入れられるお話。
たまにやらかします。ヤンデレとか。