一生同じデッキを擦れる世界で生きていく 作:コダワリー
PMA、プロフェッショナルモノトゥーンアカデミー。
この世界では名のしれたカードバトラー養成校だ。
カードバトラーを育成するための学校というのは、世界各地に存在する。
ここを卒業した人間がプロカードバトラーや、オペレーターの道に進むわけだ。
オペレーターってのは、事件を解決することに特化したカードバトラー。
警察や探偵も、一応このオペレーターって職業に含まれる。
なんかソシャゲのプレイアブルキャラの総称みたいだ。
で、俺の家はPMAの真横にある。
ガチで真横、歩いて数分の位置にPMAはあるのだ。
俺だって一応、この世界でカードバトラーとして生きていきたい身。
カードバトラー養成校に入学した方が将来的に有利なのは間違いないのだ。
しかし残念ながら、その道は閉ざされてしまった。
原因は入試。
入試には筆記と実技があって、筆記の方は問題なかったらしい。
というか、普通に満点だったのだとか。
まぁ、前世からあのしちめんどくさいカードテキストに向き合ってきたからな、学校の入試に出てくる試験くらいならどうってことはない。
しかし実技はそうもいかなかった。
カードバトラーとしての素質を見るため、実技では自分のデッキではなく試験用のトライアルデッキを使うことになっていたのだ。
本来カードバトラーは自分の使うデッキ以外のデッキを使うと因果が弱まってドロー力が下がる。
が、全員が同じようにデッキを変更するのであれば、その辺りは問題ない。
ただし、そのデッキを使うかどうかは、カードバトラー次第。
俺は耐えられなかった。
俺が<ヘルフィナイト>デッキ以外に浮気することが……!
かくして俺は実技試験を前に入試を辞退し、PMAの入学を諦めた。
まぁ正直、俺はあまり目立つことが好きなタイプではないから、ムリにPMAを卒業してエリートとして社会に出る必要はないと考えている。
むしろ適当にそこら辺の組織のオペレーターとして潜り込めたらいいな、くらいの考えだ。
だからPMAを諦めて、普通の高校に進学しても別にそこまで気にすることはなかったのだけど。
なんか、PMAからは未だに言われるんだよなぁ。
――編入してこないか、って。
□
その日、PMAの生徒会長である
そこではかのにっくき鹿田ユヅミが、なにやら見知らぬカードの妖精と共に校内に侵入しようとしていた。
まぁ、彼にはPMAへの出入許可証が出ているので、入口でそれをかざすだけで中に入れるのだが。
しかしそれはそれとして、ヒナタにとってはユヅミはこの世で最も許されざる存在だ。
小さな背丈でだいたい高校生としては平均くらいの身長のユヅミを見上げて叫ぶ。
「今日は何しに来たのよ! 鹿田ユヅミ!」
蒼羽ヒナタにとって、鹿田ユヅミは目の上のたんこぶだ。
その出会いは、PMAの入試にまで遡る。
ヒナタは麒麟児と称される天才だ。
幼い頃からカードバトルでは連戦連勝、同年代に負けたことは一度としてない。
カードの名門校PMAで一年生ながらに生徒会長を務めるのも、その才能あってのこと。
そんなヒナタの自信を木っ端微塵に打ち砕いたのがユヅミだ。
まず、入試における実技試験の番号は筆記試験の成績順で決まる。
ヒナタは当然自分が一番だと思いこんでいた。
一問だけどうしてもわからない問いがあったが、アレはどう考えても高校の入試に出てくる問題ではない。
だから満点合格者はいないはず。
――なのに、試験の番号はユヅミが一番だった。
おかしい。
それがヒナタの率直な感想だ。
ユヅミは正直、パッと見て平凡だ。
容姿も変な髪型の多いこの世界だとちょっとインナーカラーがある程度というおとなしい部類。
雰囲気だって、決して強者の風格を漂わせているわけではない。
強いて言うなら偏屈さは多少にじみ出ている。
こういう手合は、得てしてカードバトラーとしては優秀なものだ。
しかし、ヒナタという天才を差し置いて一番を取るほどか?
というのが、正直な印象だった。
『すいません、この試験は辞退させていただきます』
ユヅミが、そんなことを言い出すまでは。
は? とその場にいる誰もが思った。
試験番号一番――PMAの入試試験で最も知識のある人間が、突然の辞退宣言。
誰だってヒナタと同じ反応をするだろう。
しかし、ヒナタは直ぐに気を取り直す。
理由はなんとなく、察しがついたからだ。
そして案の定、ユヅミは「普段使っているデッキ以外のデッキを使いたくない」という理由で入試の辞退を申し出る。
ぶっちゃけ、こういうタイプの人間はこの世界なら「多少珍しい」程度で済む。
いないわけではないのだ、デッキに強いこだわりを持つ人間が。
そしてそういう人間がPMAの試験内容を聞くと、辞退を申し出たりするのである。
予め試験内容を確認しておけよ、とぶっちゃけヒナタは思うのだが。
何故かそういう偏屈な人間に限ってそういうことに頓着しない場合が多い。
頓着する人間が受験していないだけとも言うが、いや頓着はしろよ、とも思う。
まぁしかし、こういう手合にも門戸を開くのがPMAのいいところ。
ヒナタは知っていた。
PMAには”裏入試試験”なるものが存在する、と。
筆記で合格ラインの点数を叩き出したうえで実技を辞退した学生向けの試験だ。
「普段使ってるデッキでも試験を受けて良い」と言う条件でその学生に試験を受けさせるのである。
ただし、試験官の使うデッキは試験用のデッキではなく、ガチガチの本気デッキ。
試験官の強さはプロ級と言われていて、合格条件は勝利のみ。
通常の入試であれば敗北していてもカードバトルの内容次第で加点がはいるが、裏入試ではそれもない。
完全なる一発勝負。
しかし、こういうこだわりの強い人間はカードバトルにおいて強いのが必定。
多くの場合、裏入試を受けることになった生徒はこれに合格するという。
そして、以後三年間、PMAにおいて大きな存在感を放つのだ。
そういう生徒が、一年から三年に一回現れる。
鹿田ユヅミもそういう人間なのだろう、とヒナタは判断した。
しかし、ユヅミはPMAに入学しなかった。
どうして――ヒナタは打ちひしがれた。
以来、ヒナタにとってユヅミは目の上のたんこぶである。
ユヅミが時折、諸般の事情でPMAに出入りしているのもそれに拍車をかけた。
んで、その諸般の事情というのが――
「ああ、ヒナタ会長こんにちは。少し困っていることがあるので、聞いてもらえませんか?」
「ふん、何よ、言ってみなさい!」
何か困った時に、PMAを頼るからだ。
今回もそう、なんでも隣りにいるカードの妖精”ファイアリィ”のパートナーを探しているらしい。
いやその妖精はユヅミを選んだんだから自分でやれよ、とこの世界の人間なら誰もが思う。
だが、ユヅミは筋金入り、異物となりうるファイアリィを受け入れたりはしないだろう。
そしてヒナタは才能に驕ってこそいるものの、ノブレス・オブリージュを体現する性格をしている。
ユヅミに頼られたら、断れないのがヒナタであった。
「ふん、じゃあPMAでもちょうどいい生徒がいないか探しておくから、アンタも精進なさい!」
「わかりました、ありがとうございます」
それにしても、とヒナタは思う。
どうしてユヅミは裏入試を合格しなかったのだろう、と。
入試でユヅミと知り合って以来、ヒナタは時折ユヅミのカードバトルを目にする機会があった。
直接戦ったことも、ある。
そしてそれ故に、ユヅミが裏入試試験を突破できる実力があることは承知していた。
だからこそ、ユヅミが裏入試を突破できなかった理由が、気になって仕方がない。
しかしヒナタは元来人がいいので、込み入ったことを他人に聞くのが苦手なのであった。
――だからヒナタは知らない。
ユヅミは裏入試を突破できなかったのではない。
試験を辞退したあと、裏入試の存在を聞かされた時。
ユヅミはそれすらも辞退している。
何故か? 答えはとても単純だった。
この世界には、カードゲームアニメの主人公みたいな人間が複数いる。
PMAに裏入試で入ってくる人間など、その典型だ。
一年から三年に一回しか入ってこないのも、それが理由の一つ。
だからユヅミは裏入試での入学を避けた。
これは単純に、面倒だったからという理由もある。
しかしもっと根本的な理由としては――
主人公になったら
例えるならそれは、アニメニ年目の中盤に新しいライバルに敗北して再起不能になった主人公が旅に出て、旅先で宇宙からやってきたカードと出会うような。
結果として、デッキはその宇宙からやってきたキモイ……もといネオスペ……的なカードによって全く新しいものへと生まれ変わってしまう。
ユヅミは、それを避けたかった。
確かにデッキとしてはそこまで変わりはないだろう、現にそのネオスペ……的なカードの使い手はその後も以前のカードを使ったりもしているし。
でもユヅミはそれを受け入れられなかった。
かくしてユヅミはPMAの入学を諦め、普通の高校に進学したのである。
しかしPMAとしてはユヅミの実力は確かであると認めていた。
なので、こうして特権的に出入の許可を出したり、編入の打診をしているのである――
アカデミな場所といえば突然の隕石だからね、仕方ないね