物語シリーズ×トランスフォーマー二次創作   作:嘘烏

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【物語シリーズ・ドライブシーズン第二作 続・変物語】

【挿絵表示】

”――リベンジは、俺が果たす…!”
「春休みの戦争」から半年。一人暮らしを前に、引っ越し準備を進める大学一年生の阿良々木暦。
彼がひょんなことから発見したのは――「キューブ」の欠片だった。
欠片を触ったことをきっかけに、怪異以上に不可思議な物が見え始めるようになった暦は、再び地球の運命を賭けた戦いに引き戻される…!

それは、失った過去を取り戻す物語―――
これぞまさに、現代の[怪異!][怪異!][怪異!]
青春は、かわり続ける運命だ。

[100%リベンジで書いた続“変”です]
pixivにも上げてます。
https://www.pixiv.net/novel/series/15615735


続・変物語
第続話 こよみリベンジ其ノ壱


001

「地球。人類が誕生した星」

 

「彼らは我々とよく似た種族だ」

 

「深い思いやりを持つ一方で、非常に暴力的である」

 

「この星で人類を見守るうちに、隠された事実が明らかになった」

 

「我々と人類は以前にも接触していたのである」

 

――紀元前一万七千年前。

 

見渡す限りの荒野。岩と砂と申し訳程度の草が広がる地を一頭の虎が疾走していた。

強靭な四肢で硬い土を蹴り、獲物を求めて大地を奔る。

その眼光は鋭く、原始の地球において頂点捕食者としての威厳を放っていた。

たった一頭でも自身の何倍も大きい獲物を倒すことができるだろう。

しかし虎は今、逃げていた。

 

後ろから追いかけてくるのは、毛皮を身に纏った数人の男たち。

彼らの手には、鋭利に磨かれた石を先端に固定した簡素な槍が握られている。

言葉を持たぬ彼らのコミュニケーションは、視線とわずかな身振りだけだ。

 

本来虎にとって、この肌のすべすべした細身の生き物は取るに足らない存在だ。

足は遅く、力は弱く、一度嚙みつけば簡単に死ぬ。

しかし、そのような生き物でも自分のようなものを殺すことがある。

虎の記憶にもそのような場面がいくつもあった。

この生き物たちは、道具を使い、罠を仕掛け、自分のような捕食者を組織的に追い詰め、殺す。

背後に迫る男たちの咆哮と、風を切って投げられる石槍の音から逃れるために、虎は必死に駆けた。

 

虎が切り立った岩壁の影へと逃げ込んだ、その時だった。

追っていた男たちが突如として足を止め、その場に凍りついた。彼らの顔から好戦的な色が消え、代わりに剥き出しの戦慄が浮かぶ。

 

男たちの前には深い谷が広がっていた。

そこ自体は彼らが見慣れている、岩が突き出す不毛な荒地。

しかし今日、谷底には数え切れないほどの鋼鉄の巨躯がうごめいていた。

鈍い銀色に輝く無機質な四肢、複雑に組み合わさった歯車と動力源。そこには、原始の地球には存在し得ない、異質な金属の軍勢が静かに佇んでいた。

呆然と立ち尽くす古代人たちの前に、一際巨大な影が立ちはだかる。

 

地面を揺るがす轟音と共に、身長12メートルに及ぶ巨人が谷底から跳躍し、岩壁の上へと降り立った。

その巨人は、鋼鉄の皮膚を不気味に蠢かせながら古代人を見下ろす。

彼らが手にする石槍など、その鋼の身体には微かな傷も付けられないだろう。

戦慄し、槍を構えることも忘れた一人の男に向け、巨人は巨大な金属の腕を振り下ろした。

逃げる暇さえ与えず、巨人の指が男を無慈悲に掬い上げる。

空中で捕らえられた男の身体は、鋼鉄の拳の中で容易く握り締められた。

肉体がひしゃげる絶望的な音が荒野に響き渡り、他の男たちはその圧倒的な力の前に、怯え、ただ平伏することしかできなかった。

 

Transformers Revenge of the Fallen

×

Monogatari Series

続・変物語 こよみリベンジ

002

春休みの「地獄」ならぬ、春休みの「戦争」からおおよそ六カ月が経った。

「戦争」。

あの鋼鉄の巨人たちが僕の日常を――文字通り物理的に――踏み荒らしていった三日間を表現する、適切な言葉を僕は他に知らない。

キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードに出遭った一年前といい、今回といい、どうにも僕は春休みに劇場版クラスの災難に巻き込まれる運命のようだった。

 

それから約半年。

アメリカへと拉致され、ミッションシティで人類の存亡を賭けて走り抜けたあの日々は、今や遠い異国の、あるいは映画のスクリーンの中の出来事だったのではないかと錯覚しそうになるくらいの思い出へと変わっていた。

トランスフォームしていた。

 

しかし、惑星規模の国際問題(臥煙さん曰く星間問題)に巻き込まれた後遺症とでも言うのだろうか。

大学生になった僕の半年間も、やっぱり一筋縄ではいかなかった。

都市伝説、街談巷説、道聴塗説。

振り返れば、鋼鉄の巨神たちが去った後も、僕の周囲では相変わらず非日常が日常のふりをして列をなしていた。

まるで僕という存在が、説明のつかない現象を引き寄せるマグネットにでもなったかのように。

国立曲直瀬大学へと進学した僕を待っていたのは、かつての幼馴染――老倉育との、三度目にして今度こそ真っ当な(といっても彼女の僕への憎悪は相変わらずだったけれど)再会だった。

彼女を僕の家に匿った事をきっかけに、ひたぎに一度別れを切り出されたのだが、その話はまた別の機会に語らせてもらいたい。

それだけじゃない。

僕の影に潜む吸血鬼の「親」に位置する吸血鬼の開祖、デストピア・ヴィルトゥオーゾ・スーサイドマスターなんていう、名前からして物騒極まりない死体城の主が来日したり。

「迷子」の捜索に奔走し、ロリトリオ・リターンズに歓喜したり。

そして……夏には、僕の家に「しでの鳥の監視」と言う名目で居候していた死体人形、斧乃木余接と、ある理由からお別れすることになったり。

と、まあその辺は実際に「忍物語」「宵物語」「余物語」を読んで確認してもらいたい。

アニメも新シーズン来るし。いつかは分からないけど。

 

「……さて。そんな思い出話に耽っている場合じゃないな」

現在、時刻は午後五時。九月四日。

僕は自宅の自室で、足の踏み場もないほどの段ボール箱に囲まれていた。

一人暮らしを始めるための引っ越し準備だ。

国立大学に通うには、この直江津の家からは少しばかり距離がありすぎた。

いくら僕のカマロが速度が出ると言っても、法定速度は守らなければならない。

ということで、遅まきながらの自立である。

 

「ほら兄ちゃん! ボサっとしてないで、この段ボール運んじゃいなよ!」

背後から飛んできた怒声と共に、僕の背中を強烈な衝撃が襲った。

阿良々木火憐。ファイヤーシスターズの大きい方。

今度の連休に両親とパリへ家族旅行に行こうという中(ちなみに僕は大学の予定が入っていて行けない。無念)、兄思いの彼女は僕の引っ越しをという純粋かつ暴力的な善意で手伝ってくれている。

一方、その隣で。

 

「お兄ちゃん、そこにあるフィギュアの箱、勝手に捨てていい? 邪魔だし。今日からここは私の部屋になるんだから、お兄ちゃんの加齢臭が染み付いた遺物は一掃しなきゃね」

「それはこっちに持ってきて。そして四つ上しか離れていない兄に加齢臭なんて言うな」

小さい方の妹――阿良々木月火は、自分の領土拡大という極めて現実的な野心のために、僕の荷物をゴミのように仕分けていた。

 

「っていうかお兄ちゃん。この荷物、一気にカマロに乗せればいいじゃん。あいつ、見た目より中広いんだし」

月火が窓の外を指差して言った。

「……いや、流石にこの量は無理だろ。それに、新車なんだからあんまり汚したくないし」

僕は適当な嘘を吐いて誤魔化した。

外には秋の入り口の柔らかな日差しを浴びて、イエローのシボレー・カマロ――バンブルビーが静かに佇んでいる。

妹たちには、あのアメリカでの騒動の詳細は伏せてある。

車が新しくなっているのも、最初に買った中古のカマロは不幸にも黒塗りの高級車に追突してしまい、お釈迦になってしまったので両親に泣きついて最新型に買い替えてもらった、ということにしてある。

なんとも情けないカバーストーリーではあるが、妹達を硝煙と爆発にまみれた戦場に巻き込む訳にはいかないのである。

もちろん、両親には臥煙さんを通じてそれなりの「事情」は伝わっている。

もっとも、怪異やら宇宙生命体やらという非現実的な部分は伏せられた、警察官らしい隠蔽工作済みの事情ではあるけれど。

「……まあ、無理のない範囲で運ぶよ。少し休憩にしよう」

僕たちはリビングに降りると、つけっぱなしにしていたテレビへと目を向けた。

火憐と月火が画面を凝視している。

ニュース番組の画面には、避難する市民を捉えた海外の都市の映像が映し出されていた。

 

『――続いてのニュースです。中国・上海の臨海工業地帯にて大規模な事故が発生しました。政府当局の発表によると、原因は可燃性のガスと化学薬品の流出によるものであるとのことです。現在、広範囲にわたる避難勧告が出されており、現場周辺は謎の毒霧に包まれている模様です……』

 

003

「この6カ月の間に、新たなオートボットの軍団が私の指揮下に加わった」

 

「我らは人間と同盟を組み、戦っている。勇敢なる極秘の部隊と共に」

 

「『NEST』と呼ばれる秘密攻撃部隊が地球の各地に潜むディセプティコンの生き残りを探し出し、そして――」

 

「叩きのめす」

 

報道の裏側。

夜の帳が下りつつある上海の工業地帯は、昼間の喧騒が嘘のように死に絶えていた。

政府が発表した「化学薬品の流出」という大義名分は、街から人影を一掃するのには十分な効果を発揮している。

立ち並ぶ巨大な煙突の間を、不気味なほど冷たい海風が吹き抜けていた。

そんな静寂を切り裂くように、場違いな陽気さを撒き散らしながら、一台のアイスクリームワゴンが廃墟と化した路地を進んでいた。

白とピンクに塗り分けられたその車体は、どう見ても戦場には不釣り合いで、屋根の上に鎮座する巨大なコーンのオブジェが、夕日を浴びて不気味に艶めいている。

スピーカーから流れるのは、子供たちを誘うはずの軽快なメロディ。

しかし、そのメロディの合間に、無線通信を通じた二つのダミ声が重なった。

『シャリリーン、どうだいアイスクリーム? 悪者ロボット覚悟しな、ヒーコラ言わせてやるぜ?』

カーステレオからではなく、車体そのものが喋っているかのような、悪ガキっぽく野卑な二重の音声。

それは、新たにチームに加わったオートボットの双子、マッドフラップとスキッズだった。

 

少し離れた湾岸部では、砂塵を巻き上げて数台の軍用バギーとジープが、連携の取れた動きで包囲網を形成していた。

その中心で一際目を引くのは、月光を反射して流線型のボディを煌めかせている銀色のシボレー・スティングレイ・コルベットだ。

その背後、巨大なコンテナを牽引するトラックが走行したまま後部のハッチを開けた。

ガコン、という重厚な音と共に金属製の扉が開き、暗い内部から三台の女性型オートボット――アーシー、クロミア、エリータ・ワンが、ホログラムのライダーをシートに投影したまま滑り出した。

「アーシー、クロミア、エリータ・ワン。各自、臨戦態勢」

凛とした電子音声が響くと同時にバイクたちが、そして続いてコンテナから吐き出された各車両が、獲物を袋小路へと追い詰めるように展開していく。

その頭上を、重々しいローター音を響かせながら数機のMH-60ブラックホークが通過していった。

先頭を行くヘリの貨物室、身を乗り出すようにして眼下の廃墟を凝視していたのは、この半年でより精悍さを増したウィリアム・レノックス少佐だった。

彼の肩には、米軍とオートボットによる合同対テロ部隊「NEST」のエンブレムが刻まれている。

「中国政府は毒物の流出を理由に、この区画から市民を完全に避難させた。……いいか、敵の襲来はここ6カ月でこれで6回目だ。我々の任務は、奴らを確実に仕留め、そしてこの戦いを絶対に世間の目に触れさせないことだ。各自、気を引き締めておけ」

レノックスの指示と共に、ブラックホークが空き地へと着陸。重武装を施した兵士たちが次々と降下し、地上部隊と合流する。

 

しばらくの間、無機質なコンクリートの迷宮をジープの列が走行していたが、先頭を行くブラックのGMC・トップキックが、一際大きな倉庫の前で急ブレーキをかけた。

タイヤがアスファルトを噛む音と共に停車するトップキック。

駆け寄ったレノックスが、その巨大なボンネットに信頼を込めて手を置いた。

「よし、アイアンハイド。エコーを確認……近いぞ。2時の方向にスチール反応」

レノックスの言葉が終わるか終わらないかのうちに、トップキックの巨躯が爆発的な勢いで分解され、再構築されていく。

シャーシが跳ね上がり、タイヤが肩へとスライドし、重厚な装甲が組み合わさって、巨大なキャノン砲を両腕に備えた黒い戦士が姿を現した。

アイアンハイド。

オートボットの武器担当であり、最も血気盛んな戦士。

彼は鼻を鳴らすと、忌々しげに呟いた。

「奴がいる。……匂いで分かる」

 

NESTの歩兵部隊が、音もなく廃工場の影へと散開していく。

闇に紛れる彼らのヘルメットに装着された暗視ゴーグルが、不気味な緑色の光を放っていた。

しばし、張り詰めた空気が辺り一面に漂う。

この半年でレノックスの右腕としての信頼をさらに確固たるものにしたロバート・エップス軍曹が、携帯端末の赤外線カメラを覗き込みながらレノックスに囁いた。

「レノックス、熱を探知。かなりデカい……。おい、こっちに近づいてくるぞ」

エップスの警告が響き渡ると同時に、廃工場の敷地内に放置されていたはずの「それ」が咆哮を上げた。

「オオオオォォォン!!」

鼓膜を突き刺すような、金属の咆哮。

そこに放置されていたはずの、数百トンもの質量を誇る巨大油圧ショベルカー――テレックスRH400が、物理法則を無視した速度で「変形」を開始したのだ。

白いボディに走る鮮血のような赤のライン。

ディセプティコンの破壊兵士、デモリッシャー。

彼は立ち上がるなり、アーム部分を変形させた巨大な両腕をコンクリートの地面へと叩きつけた。

ドォォォォォンッ!!

衝撃波が走り、積み上げられていた工事用の鉄パイプが無数の礫となって空へと打ち上げられる。

「伏せろ!!」

レノックスの叫びも虚しく、降り注ぐ鋼鉄の雨がNESTの隊員たちを襲った。

土煙の中から姿を現したその怪物は、彼らの知るどんな「人型」の概念からも逸脱していた。

身長約23メートル。

通常のトランスフォーマーのような「脚」は存在しない。代わりに、車体そのものが巨大な二つのタイヤとなり、それを上下に配置して独楽のように回転させながら、廃墟を蹂躑して進む特異な形態。

「パンサー・ワン、攻撃を要請する!今だ!」

無線に向かってエップスが吠えた。

『ガンシップ出動中、攻撃態勢』

上空を旋回していた攻撃ヘリコプター、コブラが急降下し、デモリッシャーの側頭部へ向けてミサイルを連射する。

だが、デモリッシャーは巨体に似合わぬ俊敏さで巨大な腕を振り回した。

ガギィィィンッ!

ミサイルを装甲で弾き飛ばすと同時に、彼はそのままヘリの機体を叩き落とした。

「うわあああぁぁぁ!」

制御を失ったブラックホークが地上に激突し、凄まじい爆発と共に夜の上海を赤く染め上げる。

 

その火柱の影。

工場の入り口に放置されていた、一台のシルバーのアウディ・R8。

誰の目にも止まっていなかったその高級外車のヘッドライトが、冷徹な殺意を宿してパッと点灯した。

ヴォォォォォン……!

低く、しかし野心に満ちたエンジン音が響き渡る。

混乱の最中、獲物を狙う猟犬のようにアウディが加速し、戦場からの離脱を開始した。

ディセプティコンの斥候、サイドウェイズ。

 

「アーシー! ツインズ! ターゲットがそっちに行った!」

レノックスの無線が、夜の上海に響き渡る。

シルバーのアウディ・R8――サイドウェイズは、獲物を嘲笑うかのような鋭いエンジン音を響かせ、入り組んだ路地へと滑り込んだ。

その加速力は凄まじく、テールランプの残光だけを闇に残して消え去ろうとしていた。

「――ターゲット確認!」

アーシーの凛とした声と共に、三台のバイクが火花を散らして急旋回した。

レッドのアーシー、ブルーのクロミア、パープルのエリータ・ワン。

彼女たちは一列の編隊を組み、サイドウェイズが巻き上げる砂塵の中へ躊躇なく突っ込んでいく。シートに投影されたホログラムの女性ライダーたちが、本物のプロレーサー顔負けのハングオンを披露し、コンテナの角をミリ単位の精度で攻めていく。

『任せろ任せろ!』

その直後、けたたましい陽気なメロディと共に、アイスクリームワゴンもコンテナの影から飛び出してきた。

フロントを激しく上下させ、ポンコツ同然の車体を軋ませながら、マッドフラップとスキッズの双子がサイドウェイズの進路を塞ごうと躍り出る。

しかし、サイドウェイズもさるもの。

彼は嘲笑をノイズとして撒き散らすと、一瞬でギアをローに入れ、ドリフトでワゴンの懐を潜り抜けた。

しかし、三台のバイク――アーシー、クロミア、エリータ・ワンが、流体のような滑らかさでアウディの背後へと迫る。

「逃がさないわ!」

走行しながら、投影されていたホログラムのライダーが霧のように霧散する。

彼女たちは走行しながら、複雑な金属音と共に二本の脚部を展開する。

シート部分が跳ね上がり、タイヤがフレームごと展開され、彼女たちは人型の戦闘形態へとトランスフォームした。

右腕に内蔵された小型速射砲が火を噴き、サイドウェイズの背面に弾丸を叩き込む。

激しい火花がアウディのリアバンパーを削り、跳ね返った弾丸が廃工場のコンクリート壁を穿つ。

だが、サイドウェイズもまた、ディセプティコンきっての逃走のスペシャリストだ。

彼はロボットモードへと変形すると、ドラム缶を掴んで投げつけた。

アーシー達は重力に逆らうような身軽さで、サイドウェイズが投げつけたドラム缶をバク転で回避しつつ、射撃を継続する。

サイドウェイズは目前に迫った古びたアパートを避けることなく、そのままフロントガラスを突き破って突っ込んだ。

ベランダを粉砕し、洗濯物を撒き散らしながら、建物を「貫通」して反対側の路地へと脱出する。

彼女らの機動力をもってしても、追跡劇に一瞬の隙が生じた。

「しまっ……! 先回りするよ!」

アーシーたちが路地を迂回する一方で、先行していたツインズはバランスを崩して路上のゴミ箱へと激突。

『うお!危ね危ね!』

スピードを殺しきれず、アパートの角でワゴンの前後が無理やり分離。ピンクと白の車体がバラバラになりながら、二人の小柄なオートボットが路面をごろごろと転がった。

 

「やべミスった。俺大丈夫、俺大丈夫。あー、脳味噌凍っちまった――」

「これは戦いだぞ!何やってる!」

ピンクのボディのスキッズが、白い方のマッドフラップを殴りつける。

 

その頃、アウディは既にNESTの包囲網を突破しようとしていた。

「レノックス、奴がハイウェイに出るぞ!」

エップスの叫びに、レノックスはヘルメットの通信機を叩いた。

「サイドスワイプを出せ! 」

その瞬間、闇の中から銀色の閃光が解き放たれた。

月光を弾き、冷徹なまでの美しさを湛えたシボレー・コルベット・スティングレイ。

ヴォォォォォン!!

野獣の咆哮にも似た排気音を轟かせ、銀色のボディが走行したまま「変形」を開始した。

 

「サイドスワイプだ、道を空けろ!」

ガギィィィン!!

両腕に装備されたブレードを展開。

足首に備わった巨大なローラーを火花と共に高速回転させ、彼はスケートのように路面を滑走する。

焦ったサイドウェイズは逃げ切れないと判断し、走行しながらロボットモードへと変形。

マシンガンを振り向きざまに連射した。

 

「死ね!オートボット!」

だが、サイドスワイプはスケートのような滑らかな動作で弾丸を紙一重で回避。

 

「こちらアーシー、援護する!」

再び合流した三台のバイク部隊が側面から牽制の射撃を浴びせ、サイドウェイズの逃走経路を一点に絞り込む。

 

サイドウェイズは再びビークルモードに戻り、全開の加速で逃げ切ろうとした――が、サイドスワイプの速度はその遥か上を行っていた。

跳躍。

背中の4連砲でサイドウェイズの車体に「切れ込み」を入れると、ブレードを投げつけた。

サイドスワイプは走行する速度を利用して、アウディを中心線から美しく、かつ残酷に左右へ両断した。

ギギギギィィィンッ!!

断末魔のような金属音が響き、二つに割れたサイドウェイズの残骸がアスファルトの上を無様に転がり、やがて爆発炎上する。

着地したサイドスワイプは、背後の爆炎を振り返ることもせず、ブレードをカシャリと収めた。

 

「ぶちのめしてやるのは気分がいいぜ!」

彼の傲岸な勝利宣言が、上海の夜に冷たく響いた。

 

004

上海を南北に貫く巨大なハイウェイ。

その高架が、悲鳴のような震動と共に波打っていた。

背後から迫る全長十八メートルの「厄災」――デモリッシャーは、逃げ惑う一般車両を回避することなど考えもしない。

巨大な二つのタイヤを独楽のように垂直回転させ、彼は路面をもはや「走行」するのではなく、アスファルトごと「粉砕」して突き進んでいた。

前方を走るトラックが、ゴミのように弾き飛ばされ、対向車線のビルへと突っ込む。

逃げ遅れた乗用車は、その重厚なタイヤの下で空き缶のように踏み潰され、火花とガソリンの匂いを撒き散らした。

 

少し離れた並走車線を、猛スピードで駆ける数台の軍用ジープ。

その激しく揺れる荷台で、ロバート・エップス軍曹は、片手で手摺りを掴み、もう片方の手で無線機を口元に叩きつけた。

吹き抜ける暴風が彼の声を掻き乱すが、その瞳は獲物を捕らえた猛禽類のように鋭い。

エップスは空を見上げた。

雲に覆われた上海の夜空。そこには、肉眼では捉えられない高度で待機する「切り札」がいた。

 

「航空支援、『ビッグブッダ』からの投下を開始しろ!」

同時刻、上海上空――。

高度三千フィートを、巨大な影が滑るように飛行していた。

米空軍が誇る超大型輸送機、C-17グローブマスターIII。

機体は上海の象徴であるテレビ塔、上海タワーの展望台を掠めるような低空へと急降下を開始した。

 

『こちらサイクロン98、攻撃目標120』

機体内部に、赤い警告灯が明滅する。

油圧シリンダーが重厚な音を立てて作動し、輸送機後部の貨物ハッチがゆっくりと、しかし確実に開放されていった。

そこから覗くのは、上海の100万ドルの夜景。

そして、吹き込んでくる猛烈な気流。

『投下五秒前……四……三……』

カウントダウンの声が、風の咆哮に混ざる。

『二……一……Go!!』

凄まじいGと共に、ファイヤーパターンが刻まれた巨大なピータービルト379・トレーラーが、空中へと踊り出た。

 

落下速度が加速する。

だが、その途中でトレーラーは変形を始めた。

ガギィィィン!!

手足が展開され、空中で重厚な巨躯が組み替えられていく。

両手から姿勢制御のための気体を激しく噴射し、空中でくるくると華麗に回転しながら落下軌道を修正する、鋼鉄の守護神。

シュォォォッ!

背中から三つの巨大なパラシュートが展開された。

その白い布地には、誇り高きオートボットのエンブレムが刻まれている。

 

「オートボット! 奴は私が追う……!」

 

威厳に満ちたその声は、上海の風に乗って地上の戦士たちへと届けられた。

オプティマス・プライム。

彼はオレンジ色のエネルゴンフックを手首から展開し、自らのパラシュートの紐を無造作に切り裂いた。

自由落下。

ドォォォォォンッ!!

ハイウェイのアスファルトを陥没させながら着地した彼は、その衝撃を殺すこともなく、走行の勢いそのままに再びピータービルトのトラックへとトランスフォームした。

ハイウェイを猛烈な加速で突き進む一台のトレーラー。

ファイヤーパターンが刻まれたその車体は、迫りくるデモリッシャーの巨大なホイール――自分を押し潰そうとする死の回転へと、真正面から突っ込んでいく。

激突の直前。

走行の勢いを殺さぬまま、ピータービルトが爆発的に変形した。

オプティマス・プライムはアスファルトを蹴って高く跳躍すると、その巨躯を空中でもう一度ひねり、デモリッシャーの肩へと飛び乗った。

 

デモリッシャーはもがき、巨大な腕を振り回してハイウェイの支柱を次々と粉砕していく。高架が自重に耐えかねて崩落し、大量の瓦礫と爆炎が地上の工業地帯へと降り注いだ。

その火の海の合間を、ブラックのGMC・トップキックがエンジンを限界まで唸らせて急行する。

アイアンハイドだ。

彼は崩落するハイウェイの斜面を駆け上がり、デモリッシャーの駆動部――下部で回転し続ける巨大なホイールへと肉薄した。

「止まれェ!」

咆哮と共に、オプティマスはエネルゴンフックをデモリッシャーの装甲に深く突き立て、暴走する巨体にしがみつく。

デモリッシャーの赤と白の頭部に照準を合わせ、至近距離からイオンブラスターを連射する。

 

「ガアアァァッ!」

デモリッシャーの悲鳴が混じる中、アイアンハイドもまた下部のホイールにしがみつき、両腕の重キャノン砲を全開で放った。

ドォォォォォンッ!!

一点に集中した高エネルギー弾が、デモリッシャーの車輪を木っ端微塵に粉砕した。

バランスを完全に失ったデモリッシャーの巨躯は、ハイウェイから脱線し、断末魔のような金属音を立てながら下の廃工場へと墜落した。

数千トンの金属塊が地面を抉り、土煙を上げながら力なく滑っていく。

静寂が戻り始めた戦場。

ゆっくりと、しかし確かな足取りで、オプティマスとアイアンハイドが瀕死の怪物へと歩み寄った。

「くたばれディセプティコンめ」

アイアンハイドがキャノンを向けたまま、吐き捨てるように言う。

オプティマスは静かに、そして重厚な声で問いかけた。

「最期に言い残す言葉は?」

オイルを血のように垂らし、潰れた光学センサーを明滅させながら、デモリッシャーは不気味に笑った。その声は、深淵の底から響く呪詛のようだった。

「……この星に君臨するのは、貴様じゃない……『ザ・フォールン(The Fallen)』様は蘇る……!」

その名を聞いた瞬間、周囲の空気が凍りついた。

後方から駆け寄ったエップスが、思わず銃を握り直す。

「……嫌な予感がする」

オプティマスの蒼い光学センサーが、冷徹な光を宿した。

「好きにはさせん!」

オプティマスはイオンブラスターを最大出力でチャージすると、デモリッシャーの残された右の光学センサーを見据え、一気に引き金を引いた。

閃光が夜を貫き、上海の長い夜が、ひとまずの終焉を迎えた。

 

005

翌日。

引っ越し作業二日目――あるいは、僕の平穏な日常の有効期限が切れる少し前のことだ。

火憐と月火は、昨日の上海のニュースに触発されたのか、「護身術の再確認」という名目のスパーリング、あるいは喧嘩を庭で繰り広げている。

ドカバキという、おおよそ年頃の女の子からは聞こえてこない衝撃音をBGMに、僕は自室のクローゼットの奥底、もはや地層のようになっている衣類の山に手を突っ込んでいた。

その時、携帯電話が着信音と共に振動した。

ひたぎ――戦場ヶ原ひたぎからだ。

僕は画面をスライドさせ、耳に当てる。

『……もしもし、暦? 箱詰めの途中で見つけた昔の恥ずかしいポエムでも読み返して、現実逃避の真っ最中かしら?』

耳に飛び込んできたのは、ひたぎらしい、鋭利でありながらもどこか慈しみを感じさせる声だった。

同じ国立曲直瀬大学に進学した僕たちだったが、彼女は五月頃、通学の便を考えて大学の女子寮へと移っていた。僕の一人暮らしも、実は彼女に背中を押された部分が大きい。

「現実逃避というよりかは、一年間を振り返ってた所だよ。ひたぎとの思い出をさ」

『あら。一年も付き合っていて、まだそんな殊勝な台詞が吐けるのね。でも私がいない間にあなたが他の女――例えば老倉さんあたりに浮気をしないか、監視カメラの設置は検討しておくわね』

「冗談に聞こえないからやめてくれ。……ひたぎの方はどう? 寮の生活には慣れた?」

『ええ。快適よ。少なくとも、安眠は保証されているわ。……でも、そうね。暦がこっちに来れば、また少し騒がしくなるのでしょうけれど』

少しだけ声音が柔らかくなる。

それが彼女なりの「早く来て」というサインであることを、僕は知っている。

 

「暦の方はどうなの?引っ越し作業は順調かしら」

 

「ああ、その通りだよ。今はちょうど、懐かしいものを見つけたところだ。春休みに着てたパーカーがまだあってさ」

『あら。また思い出に浸っているのかしら? 引っ越し業者はあなたの感傷に付き合ってくれないわよ』

「分かってるよ。ただのパーカーさ。……ん?」

電話を肩で支えながら、僕は無意識にパーカーのポケットに手を突っ込んだ。

指先に、冷たくて硬い、何かの感触が触れた。

取り出そうとした、その時だった。

指の隙間から、その「何か」が滑り落ちた。

フローリングの床に当たり、高く乾いた音を立てる。

前屈みになり、拾い上げる。

それは、親指の先ほどの小さな、歪な形をした「破片」だった。

鈍い銀色に輝き、表面には幾何学的な、それでいて有機的な紋様が刻まれている。

一見すればただの金属片。けれど、それが何であるかを、僕の直感は即座に理解した。

『キューブ』の欠片――オールスパークの残滓だ。

あの日、僕の手の中でメガトロンの胸へと埋め込まれ、粉々に砕け散ったはずの聖遺物。

その極小の破片が、どういう因果か僕のパーカーのポケットに紛れ込んでいたらしい。

 

『……暦? どうしたの、急に黙り込んで。もしや、エッチな雑誌でも見つけて、どう隠蔽するか思案に暮れているのかしら?』

「違うよ、ひたぎ……。パーカーのポケットに、『キューブ』の欠片がくっついてた」

『なんですって? 暦、それって……』

ひたぎの驚愕の声が聞こえた瞬間だった。

指先で、その冷たい金属に触れた刹那。

「ッ!?」

 

視界が、爆発した。

視界が白濁し、現実の景色が情報の奔流に塗り潰される。

それは日本語でも英語でもない。

無数の文字。

数学、幾何学、天文学。

三次元の概念を遥かに超越した、超高密度の数式が、僕の視神経を逆流して脳髄へと流れ込んでくる。

古代の叡智、天体の運行、原子の構造、そして――まだ見ぬ星々の座標。

「あ、が……あ、あああああああッ!!」

声にならない悲鳴が漏れる。

意識が、肉体を離れて宇宙の深淵へと放り出されるような感覚。

視界の端で、僕の影が、生き物のように激しく波打った。

「――お前様! 何じゃこの感覚は!何があった、その様子は……ッ!?」

影の中から、金髪の幼女――忍野忍が飛び出してきた。

彼女は僕の異変を察知し、即座に僕の腕を掴もうとしたが、その手は空を切った。

「お前様、その手にあるものは……!? 待て、放せ! それはただの金属ではない!」

忍の叫びも、今の僕には遠い場所の出来事のように聞こえた。

拾い上げた欠片が、突如として赤熱化し始めたのだ。

「熱……っ!」

限界だった。

僕は熱さに耐えきれず、反射的に手を放した。

だが、その欠片はただ床に転がるだけでは済まなかった。

ジュゥゥゥゥッ!!

超高温を宿した「破片」は、触れた瞬間にフローリングの床材をバターのように焼き切り、煙を上げながら、一階へと貫通していった。

僕は焼けた指先を押さえながら、床にぽっかりと開いた小さな、けれど深淵のような穴を見つめることしかできなかった。

その下には、キッチンがある。

そしてそこには今、火憐と月火が休憩のために降りているはずだ。

『暦! 暦、返事をして! 何が起きているの!?』

床に転がったスマートフォンから、ひたぎの悲痛な声が響く。

「ひたぎ、ごめん。あとで電話するから。……ちょっと、大変なことになった」

僕は震える声でそう告げると、階段へと駆け出した。

 

006

階下で爆発音が響き、僕は階段を転がり落ちるようにしてリビングへと駆け込んだ。

「火憐ちゃん! 月火ちゃん! 無事か!?」

叫びながらキッチンを覗き込んだ僕の視界に飛び込んできたのは、異様な光景だった。

二階の床を焼き切って落下した『キューブ』の欠片は、ダイニングテーブルの真ん中に突き刺さり、そこから血管のような青白い電気の奔流――スパークを四方八方へと撒き散らしていた。

「な、なんなのこれ!? 電磁波!? 静電気!? 髪の毛が逆立つんだけど!」

月火が怯えたように椅子を蹴って立ち上がり、火憐が身構える。

だが、スパークが触れた瞬間から、阿良々木家の日常を支えていた家電製品たちは、一斉に産声を上げるように邪悪なモーター音を上げ始めていた。

「待て、離れろ! そいつらに触るな!」

僕の制止は、金属のひしゃげる音にかき消された。

まず変貌したのは、朝食の友であるはずのトースターだ。

ガコン、という不快な音と共に、トースターの側面から細長い手足が突き出し、不気味な小型ロボット――イジェクターへと変形した。

「ギギギ、ギヒヒッ!」

それは電気コードをネズミの尻尾のように振り回し、パンを焼くためのスロットから取り出した小型のヌンチャクをジャラジャラと鳴らしながら、テーブルの上で狂ったように踊り始めた。

「お兄ちゃん、何これ! フィギュア!? 精密すぎる動くフィギュアなの!?」

「そんな呑気なもんじゃない、そいつは――」

次の瞬間、月火が悲鳴を上げた。

「いやあああああぁぁぁぁぁぁ! 」

月火の目の前にあったコーヒーメーカーが、大口を開けたロボットに変形。

あろうことか、股間に位置するノズルから、熱々のコーヒーを「排泄」するかのような勢いで月火に向かってブチまけたのだ。

「熱い! 汚い! 気持ち悪い! どこから出してんのよ、この変態機械!!」

和服に茶色の液体を浴びせられ、月火が半狂乱で叫ぶ。

だが、それは悪夢の序章に過ぎなかった。

 

キッチンの至る所で、小型トランスフォーマーたちの産声が上がっていた。

ガスコンロはバーナーを逆噴射させて小型の二足歩行戦車となり、ダイソンの掃除機は強力な吸引力で周囲のナイフを吸い込んではガトリング砲のように撃ち出している。

 

食器粉砕機は自走する回転刃の塊となり、電子レンジは高エネルギーのマイクロ波をビームのように照射。

 

ワッフルメーカーは巨大な口のようにガシャガシャと開閉し、火憐の脛に噛み付こうと跳ね回っていた。

 

「何だか分かんねえけど、月火ちゃんを泣かせる奴はぶっ飛ばしてやるぜ!」

火憐が正拳突きをカプチーノボットに叩き込むが、鋼鉄の身体に拳を弾かれ、「痛ったぁ!」と悶絶する。

その隙を逃さず、ハンドミキサーとスタンドミキサーがドリル状の腕を回転させ、凶器の群れとなって襲いかかる。

さらにはWi-Fiルーターのシスコ・アイロネットが、六本の脚を動かして壁を這い回り、月火がカウンターに置いていた携帯電話までもが、手足を生やして小型の人型へと変形した。

「ギ、ギギギギギッ!」

手のひらサイズの家電ボットたちは、どこに隠し持っていたのか、物騒な小口径の機銃や簡易ミサイルポッドを展開。

室内には火花が飛び散り、銃撃の音がフライパンや鍋を叩き、キッチンは一瞬で戦場へと化した。

「火憐、月火! 逃げろ!!」

階段を駆け下りてきた僕が、ドアを蹴破るようにして叫ぶ。

「兄ちゃん! これどうなってんのさ!?」

「いいから外だ! 外に出るんだ!」

ミキサーのブレードが僕の頬を掠め、イジェクターのヌンチャクがキッチンの照明を粉砕する。

降り注ぐガラスの破片を背中に浴びながら、僕は呆然とする妹二人の腕を強引に掴み、煙の立ち込める玄関を抜けて、一目散に家の外へと逃げ出した。

アスファルトの上へ転がり出るようにして脱出した僕たちの背後で、阿良々木家の窓ガラスが内側からの爆発的なエネルギーで派手に砕け散った。

 

「バンブルビー!!」

僕の絶叫に応えるように、ガレージのシャッターが内側から吹き飛んだ。

凄まじいタイヤの焦げる音と共に、イエローのシボレー・カマロが庭の砂利を跳ね飛ばして急行する。走行の勢いそのままに、車体は複雑な金属音を立てて立ち上がった。

バンブルビーは重厚な足音を響かせて窓際に詰め寄ると、右腕を瞬時に変形させ、プラズマキャノンを展開した。

照準が、窓から這い出そうとしていたダイソン型の暗殺ロボットと、月火のスマホが化けた不気味な小型機に固定される。

ドォォン!! ドォォン!!

精密な射撃が次々と家電ボットたちの核を貫き、彼らは青白いスパークを散らしながら沈黙していく。

だが、その火力は一般住宅にはあまりに過剰だった。

最後に電子レンジボットを撃ち抜いた瞬間、漏れ出したガスと電磁波が反応し、阿良々木家のキッチンは派手な爆発を巻き起こした。

「ちょ、ちょっと、お兄ちゃんの車が……ロボットに……!?」

「何なのあれ……かっこいい……じゃなくて! 私たちの家がぁーっ!」

呆然と立ち尽くす火憐と月火の目の前で、阿良々木家のキッチンは見る影もなく炎上し、派手な火柱が上がった。

「ビー、そこまでだ! ガレージに戻れ!」

僕は慌てて指示を飛ばした。

近所の住人たちが窓を開け、スマホを手に取り始めている。

これ以上の露出は不味い。

ビーは「キュゥゥン」と、申し訳なさそうに電子音を漏らすと、壊れたシャッターの奥へと静かに姿を隠した。

 

数分後、近隣の通報を受けた消防車がサイレンを鳴らして到着し、同時に自転車で駆けつけてきたひたぎが、僕たちの元へ駆け寄った。

「暦! 無事なの!? って、何よこの惨状は。あなたの家で第三次大戦でも起きたのかしら?」

庭では月火がコーヒーメーカーの残骸を、罵倒と共にヒステリックに蹴り飛ばしていた。

「プラチナむかつく」はその罵倒で最も穏当なものである。

「メタルの屑め!ガラクタのスクラップめ!この!」

……もっと過激になると、今のようになる。

僕は火消しに追われる消防士たちの目を盗み、黒焦げになったキッチンのテーブルから、未だに微かな熱を帯びている『欠片』を見つけ出した。

慎重にピンセットでつまみ上げ、用意していた鉛入りの筒状ケースに放り込む。

「……いいか、二人とも。そしてひたぎも」

僕は煤だらけの顔を上げ、呆然とする妹たちを見つめた。

「これは『ガス爆発』だ。僕が引っ越しの荷物を整理中に、うっかり古いコンロを落として引火させた。それ以外に理由は存在しない。……いいな? 口裏を合わせるんだ」

僕の必死な、そして情けない嘘に、火憐と月火は顔を見合わせ、やがて力なく頷いた。

 

消防隊による消火活動が一段落し、辺りに焦げたプラスチックとオゾン、そして何かが終わってしまった後の虚脱感が漂う中、僕はひたぎを庭の隅へと連れ出した。

手元には、先ほど回収したばかりの、あの忌まわしくも神聖な『欠片』を収めたケースがある。

「ひたぎ。これを持っててくれ」

「……冗談でしょう? 私にこの『火種』を預けろと言うの? 下手をすれば私の女子寮が、今度は掃除機の反乱で壊滅するかもしれないのだけれど」

ひたぎは眉をひそめながらも、僕の手から重みのあるケースを受け取った。彼女の指先がかすかに震えている。それが恐怖からなのか、それともこの金属が放つ未知のエネルギーに当てられたからなのかは、僕にも分からなかった。

「僕が持っているよりは安全だ。僕はこれから引っ越し業者と、そして何より……[[rb:警察 > 両親]]への言い訳に忙殺されることになる」

「いいわ。これは私が厳重に封印しておく。……でも暦、一つだけ約束して。二度と、こんな『拾い物』はしないで。私の心臓が止まってしまいそうだわ」

彼女はケースをバッグの奥深くに仕舞い込むと、ひび割れた窓ガラスの向こうに視線を投げた。そこには、役目を終えて静まり返ったガレージの影が見える。

「……さて。あの子はどうするつもり?」

ひたぎの問いに、僕は言葉を詰まらせた。

僕は静かに歩を進め、歪んだシャッターの隙間からガレージの中へと入った。

暗がりの中、バンブルビーが、まるで叱られた子供のようにひっそりと佇んでいる。僕が近づくと、青い光学センサーが弱々しく点滅した。

『……暦』『ケガはない……か?』

カーオーディオから、複数のラジオ音声を繋ぎ合わせたバンブルビーの声が漏れる。

ミッションシティでの戦いでバンブルビーの発生回路は奇跡的に回復したが、彼にとってはラジオ音声の方がお気に召しているようで、会話する時はそれが主だった。

 

「ああ、大丈夫だ。……それよりビー、お前に話があるんだ」

僕は彼のボディにそっと手を置いた。冷たい金属の感触が、今はどこか悲しく感じられた。

「明日からの僕の一人暮らしだけど……予定していたアパートに、お前を連れていくことはできない。あそこの駐車場は狭いし、管理人の目も厳しい。今日みたいなことがまた起きたら、今度こそ誤魔化しきれない」

バンブルビーが寂しげに「ヒュン……」と鳴った。

「お前は、僕の車である前に……オートボットの戦士なんだ。僕の日常を守るために、こんなガレージに閉じ込められているべきじゃない。……オプティマスやアイアンハイド、彼らと一緒にいた方がいい」

 

『……僕は君の』『……ガードマンだ』

途切れ途切れの音声が、ガレージの壁に反響する。

「分かってる。でも、僕ももう大学生だ。……自立しなきゃいけないんだよ」

僕は精一杯の笑顔を作って、ビーの手に触れた。

「それに、お別れじゃない。何かあったら、すぐに呼び出す。……だろ?」

しばしの沈黙の後、ビーは頷き、カマロに戻った。

『……了解した、暦。……でも、洗車は忘れないで』

その陽気な、けれどどこか寂しげな返答に、僕は鼻の奥がツンとするのを感じた。

 

007

さて。

こうして僕の阿良々木家における平和な引っ越し準備は、実家のキッチンが半壊し、妹たちが最新の家電製品に命を狙われるという、実に僕らしい「いつもの」大惨事で幕を閉じた。

いや、「いつもの」と片付けられてしまう程に、年がら年中大惨事に巻き込まれているのは、僕としてはたまったものではないのだけれども。

消防車が去り、野次馬も散り、夕闇が直江津の街を藍色に染め上げる頃。

僕は、一人自転車に乗り込むひたぎの背中を、庭の隅から見送っていた。

彼女のバッグの中には、あの忌まわしき『キューブの欠片』が眠っている。

本当なら、あんな危険なものを彼女に預けたくはなかった。

けれど、今の僕の周囲には「監視」が多すぎる。

警察官の両親に、鋭すぎる直感を持つ二人の妹。

そして、何より――僕という存在そのものが、不運を引き寄せる避雷針のようなものなのだ。

「……ごめん、ひたぎ」

僕は小さく呟き、彼女が角を曲がるまで見守っていた。

だが。

その僕の視線よりもさらに鋭く、そして冷酷な「眼」が、彼女を捉えていることには、流石の僕も、影に潜む忍も、気づくことはできなかった。

 

庭の片隅、刈り込みの甘い植え込みの影で、一台の青いラジコンカーが、不自然なほど滑らかにその車輪を回転させた。

青いボディを鈍く光らせる、ゴツゴツとしたタイヤを履いたモンスタートラック。

玩具屋の棚に並んでいれば、子供たちが真っ先に手を伸ばしそうなそのビジュアルだが、ラジコンカーはフロント部分から無数のアンテナと、獲物を品定めするような鋭い光学センサーを展開した。

これではST認証も受かるまい。

そのレンズが捉えているのは、自転車に跨がろうとするところのひたぎ。

正確には、彼女がバッグの奥深くに仕舞い込んだ、あの『欠片』が放つエネルゴン反応だ。

ピピピ、という電子音が響く。

スキャンデータは瞬時にバイナリデータへと変換され、この惑星の通信網を「バイパス」して、遥か上空へと送信された。

 

雲一つない、成層圏のさらに外側。

静止軌道上に、地球のどの宇宙機関も把握していない異形の人工衛星が滞空していた。

無数のパネルを蝙蝠の翼のように広げ、世界中の通信プロトコルをリアルタイムでハッキングし続ける、情報の支配者。

サウンドウェーブ。

『女がキューブの欠片を持ってる』

暗黒の宇宙空間、通信を受けて彼の光学センサーが不気味な紅い光を放った。

胸部から青い光が不気味に明滅する。

サウンドウェーブ(SOUNDWAVE)、了解。……彼女を追跡し、奪い取れ」

情報参謀の冷徹な音声が、真空の宇宙に響くことはなかったが、電子の波となって地上へと降り注いだ。

 




次回豫告
「火憐だぜ!」

「月火だよ!」

「「2人合わせてファイヤーシスターズ!」」

「いやー、まさかこのクロスオーバーで続編を作るとは思わなかったねー」

「確かに前作の『変物語』ラストで色々と伏線を入れていたけども」

「果たして1作目を超える演出が作者にできるのか!?」

「マイケル・ベイを信じろ!」

「しかし、冷静に考えてみると〈物語〉シリーズとトランスフォーマーシリーズって全くと言っていいほど接点無いよな」

「強いて言うならお兄ちゃんの車がビートルなくらいかな?」

「それも、このクロスオーバーだとカマロになってるし」

「ここまで来たら、もはやクロスオーバーと言うより合体事故と言うべきなんじゃないかな」

「それでも、一度始まったものは最後までやり遂げるしかないぜ!」

「「次回、こよみリベンジ其ノ弐!!」」

「頑張るのは火憐ちゃんじゃなくて、作者なんだけどね」
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