物語シリーズ×トランスフォーマー二次創作   作:嘘烏

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広島弁ランページ登場。
完全に悪ノリです。はい。
あとブルーティカスも出るよ。


第続話 こよみリベンジ其ノ捌

054

「……はぁ、……はぁ、……っ!」

肺が焼ける。

エジプトの熱砂が、喉の粘膜をやすりのように削り取っていく。

僕は巾着を抱え、ひたぎの手を引いて、瓦礫の迷路と化した村の路地をがむしゃらに走っていた。

背後では金属の激突音と、忍の悲鳴に近い唸り声が響き渡っている。

振り返りそうになる首を、ひたぎの強靭な意志が引き止める。

「前だけ見て、暦! 彼女を信じなさい!」

「……っ、分かってる!」

分かっている。分かっているけれど。

背後では、砂漠の静寂をズタズタに切り裂くような、暴力的な戦闘が繰り広げられていた。

「寄ってたかっておなごをいじめるとは、宇宙の法は随分と野蛮なようじゃな」

「小癪な小娘め! 塵も残さず細切れにしてくれるわ!」

猛り狂うスタースクリームが、その右腕から回転鋸――バズソーを起動させた。超振動する鋼の刃が、耳を劈くような高周波を撒き散らしながら忍へと肉薄する。

「かかっ、鉄屑風情が。主様の敵を自称するには、いささか語彙が足りぬのではないか?」

忍は不敵に笑い、その手にある妖刀『心渡』を構えた。

怪異殺しであるこの刀は、物質であるロボットの装甲を斬ることはできない。

だが、忍はそれを百も承知で、重厚な鉄棒として心渡を叩きつけた。

ギィィィィィィンンンン!!

激突。

忍は心渡を盾にし、超振動するバズソーを真正面から受け止めた。

火花が彼女の白い肌を焼き、金属が擦れる不快な高音が響き渡る。

「……ぬんッ!」

忍は吸血鬼の膂力を一点に集中させ、数トンの圧力を強引に弾き返した。

スタースクリームの巨躯が、一瞬だけ浮く。

その隙を、忍は見逃さなかった。

スタースクリームの巨躯を蹴り上げるように跳躍する。

「何っ!?」

「甘いのう、この愚か者めが!」

空中、忍の身体が独楽のように回転する。

物質を斬れぬ刀ならば、突けばいい。

忍は渾身の力を込め、心渡の切っ先をスタースクリームの紅く光る光学センサーへと突き立てた。

 

ガギンッ!!

「ギャァァァァァァァ!! 目が、目がぁぁぁッ!!」

センサーを一時的に潰されたスタースクリームが、顔を押さえてのけぞる。

だが、その悶絶の最中に振り回されたバズソーが、避ける間もなく忍の左肩を捉えた。

「――っ!?」

鋭い回転刃が忍の肩口を深く抉り、鮮血が砂漠の熱風に舞う。

「ぐっ……!」

忍が顔を歪めた瞬間、背後の空からさらなる轟音が響いた。 テレポートを繰り返すスカイワープと、雷鳴のような機銃音を轟かせるサンダークラッカー。

二機のF-22が、低空飛行のまま忍の背中に向けて、二十ミリバルカン砲の雨を降らせた。

ダダダダダダダダダダダッ!!

ドガガガガガガガガガッ!!!

「がはっ……、ぁ……!」

無数の弾丸が、忍の背中を、脇腹を、容赦なく穿った。

その衝撃で彼女は前方へと吹き飛ばされる。

「忍ッ!」

僕は足を止めようとしたが、ひたぎが僕の腕を今までになく強く引き寄せた。

「行かなきゃダメよ、暦! 彼女を信じなさい!」

 

「ええい、一旦引くぞ!」

目からオイルを噴き出すスタースクリームが変形、サンダークラッカーたちに護衛されながら、不様に高度を上げていく。

三機のF-22は、黒煙を引きながら急速に高度を上げ、砂塵の向こうへと消えていった。

 

砂塵の中に倒れ伏した忍の体から、シュウシュウと白い煙が立ち上る。

吸血鬼の再生能力。

肉を削り、骨を砕かれた傷が、不気味なほどの速度で塞がっていく。

忍は膝を突き、肩の傷を抑えながら、僕に向かって力なく片手を上げた。

まだ再生が追いついておらず、傷の裂け目から骨が見えてしまっている。

「……お前様…案ずるな。儂は……少し休んでから……後で、合流する……」

彼女の声が、風に溶けていく。

「行け……マトリクスを……オプティマスに……!」

僕は唇を噛み締め、再び駆け出した。

「ごめん、忍!……すぐに行くから!」

僕は最低だ。

忍を置いて逃げるしかない。

 

055

雲一つないエジプトの空ではスタースクリームが、二機の同型機を引き連れて旋回している。

彼らは走る僕らを上空から監視し、冷酷な電子音声を発した。

『――ランページ、罠にかけろ』

 

路地の角を曲がった瞬間、僕の視界に信じられない光景が飛び込んできた。

「……ッ!? なんだ、あれは……」

前方の広場に、不自然な威圧感を放つ巨大な影が鎮座していた。

鮮血のような赤のD9Lブルドーザー。

その運転席には、黒い鋼鉄の獣が獲物を探す猟犬のように陣取っている。

ジャガー型ディセプティコン、ラヴィッジ。

赤く光る単眼が僕らを捉えると、奴は喉の奥から金属の摩擦音に似た唸り声を上げた。

「……ッ!? 暦、あれを見て!」

ひたぎが指差した先、ブルドーザーの排土板が不自然に展開した。

バコン、と重々しい音を立てて開いたその内部から、まるで荷物のように四人の人影が放り出される。

「うわっ……!」

「痛たた……。一体何なのよ、もう!」

砂の上に転がったのは、見紛うはずもない姿。

パリでディセプティコンに拉致された僕の家族だった。

警察官としての矜持を崩さず、すぐさま立ち上がった父と母。そして、ボロボロの姿で周囲を警戒する火憐と月火。

 

「父さん、母さん! 火憐ちゃんに月火ちゃん!?」

「暦!? 何でこんな所にいるの!」

母が驚愕に目を見開くが、感傷に浸る時間は一秒も与えられなかった。

背後でラヴィッジが鋭い爪を立て、威嚇の咆哮を上げる。

「皆、私の後ろに!」

母が咄嗟に家族を庇うように前に出るが、火憐がそれを制して拳を固めた。

「下がってて母ちゃん! こいつは私がやる! あっちに行け、このメカジャガー!」

「火憐ちゃん、無茶だよ!」

月火が叫ぶ中、火憐の視線が僕を捉えた。

「兄ちゃんだ! 兄ちゃん、助けに来てくれたんだな!」

「お兄ちゃん!?なんでここにいるの!? 」

 

家族との再会。本来なら喜ぶべき瞬間が、最悪の戦場で訪れてしまった。

次の瞬間、鼓膜を突き刺すような、けたたましい駆動音が路地に響き渡った。

「――ちょっきんなぁぁッ!!」

建物の上から、赤い影が太陽を背にして飛び降りてきた。

着地と同時に四散する瓦礫。

ブルドーザーから、一本足のホッピングのような異形の形態へと変形したロボット――ランページが、その両腕をキャノン砲に変え僕らを睨みつける。

 

機械の音声とは思えない、ドスの利いた広島弁が響く。

ランページが腕のクローラをしならせ、超振動する鞭が空気を切り裂いた。

「なっ、広島弁……!?」

そんなのまるでヤクザじゃないか。

「おお、ええ表情じゃのう!ワシのスパークはのぉ、恐怖が大好物なんじゃあ!!」

ズドン!

「きゃっ!」

放たれたパルスビームがひたぎを掠め、背後の壁を爆破した。

「ひたぎ!」

「ええぞええぞ!もっと怖がれ、ブチ怖がれ!!恐怖にひしゃぎちまえぇ!!」

ランページが嘲笑い、僕を見下ろす。

「黙れ……お前の狙いは僕なんだろ……? 」

僕は巾着を握りしめ、家族を背に庇って一歩前へ出た。

「やめるんだ暦!挑発するな!」

「止めて、お兄ちゃん!どの道皆殺されちゃうよ!」

父さんや月火が叫ぶも、僕はランページに向き直る。

 

「お前の狙いは僕だ。僕がマトリクスを持っているから……違うか?」

「分かっちょるんじゃったら、黙ってとっととマトリクス寄越せや、阿良々木暦! 奥歯ガタガタ言わされたいんかワレェ!命ごと引っこ抜いて、その頭カチ割っちゃるけぇの!」

ランページの荒々しい怒声が響く。

だが、奴は気づいていない。

崩れた建物の影。

砂塵が舞う死角に、合流したビーと忍が息を潜めていることに。

ビーが角から顔を覗かせ、ゆっくりと頷く。

 

僕は巾着を高く掲げ、叫んだ。

「こっちを見ろ!これが目当てだろ!これがマトリクスだ!――バンブルビー!」

『イェア!』

ラジオのノイズを介した叫びと共に、建物の角から黄色い巨躯が飛び出した。

同時に忍も肩の傷を引きずりながらも、弾丸のような速さで跳躍する。

「主様の家族に手を出した罪、万死に値するぞ!」

バンブルビーがランページの巨躯にタックルをかまし、忍がその背中に飛び乗る。

「グヌォォッ!? この、チョコマカと……!」

激しい格闘戦が始まった。

ランページが一本足で跳ね回り、砂を巻き上げながら付近の廃車を紙屑のように吹き飛ばす。

だが、追い詰められたのはディセプティコンの方だった。

「……えぇい、舐めくさりおって! 『ジャックハンマー』解除じゃあッ!」

ランページの唯一の脚が、中央から不気味な音を立てて四つに割れた。

伸縮するバネが複雑に組み替わり、尖った四本の脚が地面を力強く掴む。

「……嫌なシルエットね」

ひたぎが呟く。

「――ワシゃあ、蟹のランページじゃあ!文句のある奴ぁぶちしばくゥゥ!」

ランページ自身が叫ぶ通り、そのシルエットは、先程までの一本足の異形から一変し、砂漠を蹂躙する巨大な『蟹』のようだった。

 

056

「うグッ!」

忍が彼の足に貫かれ、背後の廃墟に叩きつけられる。

それで僕の中の何かが切れた。

 

「……やっつけろ、ビー!……もう許すな……!」

僕の口から漏れたのは、自分でも驚くほど冷酷で、濁った殺意だった。

家族を、ひたぎを、そして忍を傷つけた鉄の獣に対する、剥き出しの敵意。

その言葉に応えるように、バンブルビーの顔面にカシャリと金属音が響く。

優しげな丸い光学センサーが、黄色い装甲――バトルマスクによって覆われた。

戦士の顔だ。

 

「殺される勇気もねぇ奴が『やっつけろ』なんてほざくなワレェ! 命を懸けとらん言葉に、重みなどありゃあせんのじゃ!」

四本足の蟹形態となったランページが、砂を蹴立てて猛進する。

その右腕、巨大なクローラの一部が触手のように伸び、超振動する鞭となって空気を引き裂いた。

ビキィィィィンッ!!!

鋭い一撃がビーの首筋を狙う。

だが、ビーはそれを見切っていた。

彼はボクサーのような軽快なステップで鞭を回避すると、懐へ踏み込み、ランページの腹部――エンジンブロックの直下に、全荷重を乗せた回し蹴りを叩き込んだ。

ドォォォォォンッ!!!

「ガハッ!? こ、こんの……レモン色のクソガキがぁ!」

 

「主様の言葉に、重みが必要か? ならば儂が、その言葉の代わりにこの一撃を重くしてやろう!」

砂塵の死角から、再生途中の肩を血で濡らした忍が跳躍した。

その手には妖刀『心渡』。

彼女はその『峰』をランページの顔面へと垂直に叩きつけた。

ガギィィィィィィィン!!

「ヌガッ!? 目がああああ、ワシの目がぁぁ!」

「まだじゃ! 畳み掛けるぞ、黄色いの!」

忍の打撃でランページがのけぞった瞬間、ビーがその背後にある崩れかけの壁を蹴り、高く舞い上がった。

空中でその巨躯を丸め、落下速度を威力に変える。

ドスゥゥゥッ!!

ビーの膝が、ランページの太い首関節にクリーンヒットした。

「あ、が……っ、ぐあぁぁぁ!」

砂地に這いつくばるランページ。

だが、奴も地獄の拷問官だ。

這いつくばったまま、四本に分かれた鋭い脚を、蜘蛛のように後ろへ向かって突き出した。

ザシュゥゥゥッ!!

「――ッ!」

ビーの左太腿の装甲が貫かれ、エネルゴンが火花と共に噴き出す。

それでもビーは止まらない。

足の痛みなど無視し、力任せにランページの右腕を掴み、逆方向へと強引にひねり上げた。

ギギギギギギ……メキッ!!

「ぐはぁぁぁっ! 腕が、腕がもげるぅ! 放せ、放せやぁ!」

「離さんよ。そして苦しめ。苦しんで地獄の底まで真っ逆さまに落ちるがよい!!」

忍が静かに宣告すると、ビーがランページの腰関節に足をかけ、全体重をかけて踏みしめる。

装甲が悲鳴を上げ、内部のピストンが圧力で破裂する。

その時だった。

「ガルルルルル……ッ!」

建物の角から、真っ赤な単眼を殺意に燃やしたラヴィッジが飛び出した。

背中に装備された二門のビームライフルを乱射し、僕らとビーをまとめて焼き払おうとする。

「暦、危ない!」

ひたぎが僕を突き飛ばし、家族が悲鳴を上げる。

 

「主様の家族に近寄るな、この駄犬が!」

忍が弾丸のような速さで割って入る。

放たれたビーム。忍はその軌道を見切り、心渡の刀身――その峰で弾丸を受け止めた。

ガガガガッ!

火花が忍の頬をかすめるが、彼女は一歩も引かない。

それどころか、心渡で牙を剥くラヴィッジの首を強引に押さえ込み、そのまま背後のビーの方へと豪快に放り投げた。

「グルァウ!」

飛ばされたラヴィッジは今度はビーの方に牙を剥く。

片側のドアを毟り、バトルマスクを剥がそうと爪を立てる。

援護しようとした忍にも噛みつき、鮮血がラヴィッジの銀色の牙を赤く染めた。

『ふざけるのも大概にしろ!!』

ビーは片手でランページを抑えたまま、ラヴィッジの『尾』を鷲掴みにした。

そのままラヴィッジを振り回し、ランページに叩きつける。

「ぐわっ!止めんか、ワン公!」

パルスビームが砂を焦がし、鋼鉄のジャガーの四肢が抜け出そうと藻掻いた。

「――ッ!」

ビーの手首が回転する。

バキバキバキバキッ!!!

凄まじい破壊音。

ビーはラヴィッジの尾を起点に、その内部機構を――脊髄に相当する中心軸だけを残して、周囲の装甲と脚を根こそぎ、まるで魚の骨を抜くように引き抜いた。

「……ギャウゥゥゥゥンッ!?」

一瞬の悲鳴。

ラヴィッジの単眼が激しく明滅し、そして永遠に冷たくなった。

 

「おんどれらぁ! 好き放題やりやがって! ミサイルばーんじゃい!!」

ランページが最後の力を振り絞り、胸部のランチャーからミサイルを全弾発射した。

至近距離。回避は不可能。

だがビーは、その飛来するミサイルの一発を、素手で空中で掴み取った。

「バ、馬鹿な!? 掴みよった!?」

ランページが激昂し、煽るように叫ぶ。

「刺せるもんなら刺してみぃや! ワシのスパークを貫けるもんなら……」

ビーの動きに迷いはなかった。

手に持ったミサイルの先端を、剥き出しになったランページのスパークへと杭を打つように深々と突き刺す。

「ガ、ギ…………」

ビーはランページの背後に回り、両腕を背負い投げの要領で固定。

そのまま、奴の腰関節を全力で蹴り倒した。

メキメキメキッ……!

引きちぎられる両腕。

そして、胸に突き刺さったミサイルが、ランページの生命の輝き――スパークを直撃した。

ドゴォォォォォォォォォォォンッ!!!

ランページの巨躯が内側から弾け、大爆発を起こす。

飛び散る赤い装甲。

砂漠の熱風に混じり、焼けたオイルの臭いが周囲に立ち込めた。

「ガハァァァァァ……! ……悔、しいのぅ……!!」

二対の赤い光学センサーが、最期の瞬間に明滅し、そして完全に消灯した。

沈黙。

砂塵がゆっくりと舞い降り、そこには無残に解体された赤いカニの残骸が転がっていた。

「……焼きガニじゃの。少々、火力が強すぎたようじゃが」

忍が心渡を体内へ戻し、小さく鼻を鳴らした。

ビーはゆっくりとバトルマスクを解除し、砂を払いながら僕たちの方を向いた。その瞳には、先程までの冷徹な戦士の面影はなく、いつもの優しい青い光が灯っていた。

「……兄ちゃん、……これ、何なの?」

火憐が、あまりの出来事に腰を抜かしたまま、震える指でビーを指差した。

月火も、父も、母も、目の前で起きた「巨大ロボットと吸血鬼によるヤクザ風ロボットの解体ショー」という現実を、脳が処理しきれていないようだった。

「説明は後だ。父さん、母さん、皆。……とにかく、ここから離れるんだ」

僕は巾着を抱え直し、廃墟の向こう――オプティマスが待つ広場を見据えた。

 

057

砂塵が舞い、焦げたオイルと火薬の匂いが鼻腔を突く。

解体されたランページの残骸を背に、僕たちは迷路のような路地を駆け抜けていた。

母が、警察官としての鋭い直感で先頭を走る。

「何が起こっているのかはよく分からないけど、どこかに抜け道はあるはずよ! 私の勘だと、この先の建物を抜ければ広場に出られるわ!」

状況を理解できていなくても、生き残るための最適解を導き出す。その強さは、紛れもなく僕の母親のものだった。

背後からは、絶え間なく爆発音が響き、空を裂くジェットエンジンの轟音が近づいては遠ざかる。

『――小僧はどこだ!』

『鼠一匹逃がすな、徹底的に炙り出せ!』

ディセプティコンたちの禍々しい怒号が、スピーカーから漏れるノイズのように大気を震わせていた。

一刻の猶予もない。

「……ここまでだ」

僕は、広場へと続くアーチ状の入り口で足を止めた。

「バンブルビー、四人を連れて安全なところに行くんだ。君のスピードなら、この戦火を潜り抜けられる」

ビーが、困惑したように電子音を鳴らし、僕の顔を覗き込んだ。

「駄目だ暦! 何を言っている、一緒に来るんだ!」

父が、僕の肩を強く掴んだ。その手は、隠しきれない恐怖でわずかに震えている。

「……行かせて、父さん」

僕は、父の手を優しく、けれど拒絶の意志を込めて振り払った。

「馬鹿なことを言うな! こんな地獄みたいな場所に息子を置いていけるか! 俺の息子なんだぞ!」

「……分かってる。分かってるよ。でも、僕にしかできないことがあるんだ。これを持っていかなきゃ、全部終わっちゃうんだ」

僕は胸元の巾着を、祈るように強く抱きしめた。

「父さん、兄ちゃんを行かせてやってよ!」

叫んだのは、火憐だった。

彼女は震える膝を叩き、鋭い眼差しで父を見据えた。

月火も言葉にならない不安を抑え込むように、父の袖を引いた。

「……あなた、行かせてやって」

母が、静かに、重みのある声で言った。

彼女は僕の瞳をじっと見つめ、すべてを悟ったように、わずかに口角を上げた。

「この子はもう、私たちの知らないところで、とっくに境界線を越えてしまっているのよ。……親が引き止めていい時間を、もう過ぎてるわ」

「……くっ……!」

父は苦悶の表情で天を仰ぎ、そして、折れるように僕を放した。

「……戻って来るんだぞ! 絶対だ! 夕食抜きなんて、生温い罰じゃ済まさないからな!」

「……ああ。約束するよ」

ビーがドアを開け、四人をその車内へと飲み込んでいく。

「ひたぎも乗って。君だけでも、安全な場所へ……」

僕が言いかけるより先に、ひたぎは僕の隣に並び、冷たく、それでいてこの世で最も温かい眼差しで僕を射抜いた。

「断るわ。何を今更、そんな陳腐な騎士道精神を振りかざしているのかしら」

彼女は、戦場ヶ原ひたぎだった。

どんな絶望的な状況でも、僕の隣を歩むことをやめない、傲慢で一途な恋人だった。

「あなたと一緒にいるわ。死ぬ時は一緒よ。……いえ、訂正するわ。あなたが生き残るために、私が死なせない」

「……ひたぎ」

 

バンブルビーが、別れを惜しむように一度だけ短くクラクションを鳴らし、猛スピードで砂塵の向こうへと走り去った。

残されたのは、僕とひたぎ、そして再生を終えつつある忍の三人。

「カカッ。ようやく水入らずじゃな、お前様」

忍が、血に濡れた唇を吊り上げ、不敵に笑った。

「主様の家族は、あの黄色いのが命懸けで守り抜くじゃろう。……あとは、儂らの仕事よな?」

「ああ。……行こう」

僕たちは、死の雨が降り注ぐ広場へと、一歩を踏み出した。

 

058

エジプトの村、防衛陣地。

そこはもはや、地上の地獄と化していた。

「敵が多すぎる! 弾薬はまだあるか!?」

レノックス少佐が、瓦礫の山となった土嚢の陰で叫ぶ。

正面の砂丘からは、オンスロート率いるコンバッティコンの部隊が、絶え間なく重火器の雨を降らせていた。

ドォォォォォォンッ!!

凄まじい衝撃波。部隊の背後にあった石造りの民家が、ヘイルストームの放った多連装ロケット弾の直撃を受け、一瞬にして粉塵へと変わる。

「無線が死んでる! 空軍の支援はどうなってるんだ!?」

「電波障害が酷い! まるで世界から切り離されたみたいだ!」

エップスが叫び、空を見上げたその時――。

バタバタバタバタッ!!

砂塵の向こう、低い雲を切り裂いて、二機の攻撃ヘリコプター、UH-60ブラックホークが姿を現した。

「おい、見ろ!ヨルダン空軍が来た!!」

エップスが双眼鏡を握りしめ、歓喜の声を上げる。

だが、その希望は一瞬で絶望へと塗り替えられた。

「ヒヤシンス!ボー!」

砂丘に陣取っていたブリッツウイングが、その背中の砲塔を空へと向け、冷凍弾と焼夷弾を発射する。

「避けろォォォッ!!」

エップスの絶叫も虚しく、一機のヘリのテールローターにミサイルが直撃。

半分が凍りつき、半分が火炎に包まれたヘリは、制御を失って駒のように回転しながら、部隊の目と鼻の先にある二階建ての建物へと突っ込んだ。

ズドォォォォォォォォンッ!!

爆発の炎が、NESTの陣地を赤く染め上げる。

「クソッ、もう一機は!?」

残る一機は、被弾を避けるように進路を北へ――ピラミッドのそびえ立つ採石場方面へと向けた。

しかし、そこには空の王者が待ち構えていた。

ピラミッドの頂上で、銀色の巨躯を陽光に輝かせたメガトロンが、冷酷に右腕のカノンを構える。

「……虫けらどもが、騒がしい」

放たれた一撃は、正確無比にヘリのメインローターを撃ち抜いた。

火花を散らしながら、ヨルダン軍のヘリは採石場へと墜落していく。

「デバステーター、マシンを掘り出せ。……主の到来に備えろ」

メガトロンは指令を下すと、不意にエイリアンタンクに変形し、下の戦場へと飛び立った。

そうして合体兵士デバステーターは、もはや人間など目にも入らぬと言わんばかりに、地響きを立ててピラミッドへと歩みを進める。

一歩ごとに大地が陥没し、その巨大な四肢が歴史を粉砕していった。

 

059

採石場の瓦礫の海。

墜落したヘリの残骸からは、黒煙と共にガソリンの臭いが立ち込めていた。

「おい! 大丈夫か! 返事をしろ!」

シモンズが砂を蹴立ててヘリに駆け寄る。

「おどれら大丈夫か?正義の味方が今来たからな」

「お姉ちゃん、手伝うよ」

影縫さんが兵士たちを励まし、斧乃木ちゃんが淡々と告げると、重機でも動かせないほどにひしゃげたヘリのメインローターを、素手で紙細工のように引き剥がした。

「……っ! 助かる、斧乃木ちゃん!」

神原がその隙間に滑り込み、気を失ったパイロットを引っ張り出す。

「左脚が折れているな。老倉先輩、止血帯を!」

「えっ、あ、はいっ!」

老倉は震える手で、脱ぎ捨てられた装備品の中から救急キットを探し出した。

 

「おい、兵士! 大丈夫か!? 無線機はあるか! 無線だ!」

シモンズが負傷した通信兵の胸元から、軍用無線機を力任せにひったくった。

ノイズの向こう側から、微かに司令部の声が聞こえる。

無線機を握りしめ、シモンズは老倉を振り返った。

その瞳には、かつてのセクター7、伝説の捜査官としてのギラついた執念が宿っていた。

「お嬢ちゃん、覚えておいてくれ。私が祖国のためにしたことを。……勝負の時だ」

シモンズは、巨大なデバステーターの背中を追い、砂漠へと走り出した。

「……正気なの!? 」

老倉の悲鳴に近い叫びが響くが、シモンズは一度も振り返らなかった。

 

ペンタゴン、統合参謀本部。

「プレデター到着まであと二分!」

「よし、スクリーンに映せ!」

モーシャワー将軍の号令と共に、巨大なメインモニターにエジプトの上空映像が投影された。

そこに映し出されたのは、衛星が見せていた「平穏な訓練風景」などではなく、大地が燃え、鉄の巨人が蹂躙する地獄そのものだった。

「……やはり騙されていたか!」

モーシャワーは苦渋に満ちた表情で拳を握りしめる。

村は爆炎に包まれ、NEST部隊は孤立無援。

敵の数はすでに二十体に達しようとしている。

「クソ、こいつは不味い……『ファイヤーストーム』作戦開始! 全員送り込め!海兵隊を現地に送れ!」

『こちらウォーロード、攻撃チーム、チェック・アウト! 全機、座標地点へ急行せよ!』

『一般機動部隊、電撃開始! ターゲットはディセプティコンだ!』

紅海に浮かぶ空母の甲板から、次々とF-16戦闘機がアフターバーナーの轟音と共に飛び立つ。

洋上では、戦車を搭載した無数の大型ホバークラフトが、水飛沫を上げてエジプトの海岸へと殺到していた。

人類という種が持つ、最大級の「暴力」が、鋼鉄の神々へ向けて解き放たれたのだ。

 

060

砂塵と火線が交差する村の境界線。

視界を埋め尽くす黒煙を突き抜け、僕たちの前に三つのシルエットが姿を現す。

「コヨミを確認。ターゲット、座標地点へ誘導するわ!」

紅いボディを日光に輝かせ、タイヤを模した足元で砂を滑るように進む女性型ロボット――アーシーが僕を呼んだ。

その隣には、青い装甲のクロミア、そして紫のエリータ・ワン。

三姉妹のロボットモードは、戦場にあってなお、どこか舞踏のようなしなやかさを保っていた。

「暦!」

その背後から、聞き慣れた重厚なバリトンボイスが響く。

漆黒の巨躯。両腕に装備された巨大な二門のキャノン。

半年前に僕を絶望から救ってくれた、あの見覚えのあるシルエット。

「アイアンハイド!」

「遅かったな、暦! だが、よくぞここまで辿り着いた!」

アイアンハイドが地面を穿つような一歩を踏み出し、僕らの前方に立ちはだかる。

彼は右腕のキャノンを空へ向け、スタースクリームらを牽制するように威嚇射撃を放った。

エリータ・ワンが、廃墟の向こう側にそびえる巨大な石の門を指差した。

「コヨミ、あの柱に向かって! オプティマスの元へ――!」

エリータ・ワンが僕の進路を指し示した、その瞬間だった。

シュゥゥゥゥゥゥッ!!

「危ない、伏せてッ!」

ひたぎが僕の首根っこを掴んで地面に組み伏せた。

直後、上空から飛来した追尾ミサイルが、僕の頭上を掠めてエリータ・ワンの胸部装甲に直撃した。

ドォォォォォォォォォォンッ!!!

「ああぁぁぁぁっ!?」

爆炎がエリータ・ワンの華奢な装甲を飲み込む。

彼女は言葉にならない悲鳴を上げ、僕たちの目の前で砂塵の中に崩れ落ちた。

「エリータ!!」

クロミアが叫び、倒れた姉妹を庇うように銃を構える。

 

「安心しろ!すぐに後を追わせてやるからな!」

ミサイルを放ったのはサンダークラッカー。

彼は三姉妹を嘲笑うように、両手の火器から火を噴きながら急降下してくる。

機銃が砂煙を切り裂き、ミサイルが砂岩を砕いた。

だが、アーシーとクロミアの怒りはそんなものに阻まれない。

「よくもエリータを…!」

彼女らは見事なバク宙で放たれたミサイルを躱すと、流れるような連携で小型キャノンを連射した。

アイアンハイドも援護する。

「うぐぅ!」

幾多の銃弾がサンダークラッカーのボディを撃ち抜き、彼を撤退に追い込んだ。

 

しかし。

「甘いぞ、オートボット! 貴様らの希望など、この砂漠の塵に変えてやる!」

炎の向こう側に、重武装の兵士たちが立ち並んでいた。

「コンバッティコン! フォーメーション・ブルーティカス!!」

指揮官オンスロートの峻烈な号令が響く。

上空からはアパッチ・ヘリから変形したボルテックスが、死神の鎌のようなローターを回転させながら機銃の雨を降らせる。

さらには漆黒無人機のブラストオフが宇宙遊泳のごとく飛行し、死角から精密誘導ミサイルを次々と叩き込んだ。

地上ではスィンドルが胸部の三連装砲塔を狂ったように乱射し、ヘイルストームが背中のランチャーから数十発のロケット弾を一斉に解き放つ。

「きゃぁぁぁッ!」

「クロミアッ!」

オンスロートが巨大なクローでクロミアの華奢な胴体を掴み上げると、紙屑のように廃墟へと投げ飛ばした。

 

「撃て撃て撃て!」

さらにボーンクラッシャーの同型機とダートボスが、不気味な電子音を上げながらパルスビームを連射し、アイアンハイドの厚い装甲をじわじわと削っていく。

 

その時だ。

「これ以上の損害は出させんぞ!」

砂煙を割って、救急車とシボレー・ボルトが戦場に乱入した。

軍医ラチェットと、技術兵ジョルトだ。

「ジョルト、あいつの回路を焼き切れ!」

「了解だ、ラチェット!」

ジョルトが両手の電磁ウィップを唸らせ、ボーンクラッシャーの首筋に飛びついた。

数万ボルトの超高電圧が走り、ディセプティコンの巨躯が火花を散らして痙攣する。

その隙を逃さず、アイアンハイドが胸にキャノン砲を撃ち込んで、地雷除去車を撃破する。

ラチェットの方は走行したままロボットモードへと変形し、その腕に装備された巨大な丸鋸を高速回転させた。

「死にたい奴から前に出ろ!」

跳びかかってきたダートボスに対し、ラチェットは迷いのない一閃を叩き込んだ。

ギィィィィィィィィン!!

「アギャッ!?」

丸鋸がダートボスの胴体を正確に捉え、一瞬にして上下二つへと両断した。オイルと火花が、ラチェットのグリーンの装甲を汚す。

 

「早く行け、暦! ここは俺たちが食い止める! 振り返らず、あの石柱に向かって走れ!」

アイアンハイドが降り注ぐ弾丸を正面から受け止めながら、僕に向かって叫ぶ。

「でも、彼女らが……!」

「案ずるな、エリータもクロミアもまだ生きている! だが、お前が辿り着かなければ、すべてが無意味になるんだ!」

アイアンハイドが柱を指差す。

「他人の心配をする暇があるなら、その『砂』をあいつに届けてこい! それが俺たちの、そしてオプティマスの望みだ!!」

彼は両腕のキャノンを最大出力で解放した。

バゴォォォォォォォンッ!!!

炸裂する蒼い衝撃波が、押し寄せるディセプティコンのプロトフォームたちを吹き飛ばす。

広範囲を覆う砂のカーテンが巻き上がり、僕たちとディセプティコンの視界が一時的に遮断される。

「暦、今よ!」

ひたぎが僕の手を強く引いた。

「……っ、ああ!」

僕は巾着を抱え直し、砂埃の中にぼんやりと浮かび上がる巨大な石柱へと、弾丸のように駆け出した。

 

061

砂塵のカーテンを突き抜け、僕とひたぎ、そして忍は巨大な石柱の影へと滑り込んだ。

背後からは、これまでの戦闘音とは明らかに質の異なる、地鳴りのような金属の軋み音が響いてくる。

「……何の音じゃ、これは。大地が悲鳴を上げておるぞ」

忍が顔をしかめ、振り返った。

その視線の先で、ディセプティコンの精鋭部隊『コンバッティコン』が、物理法則を無視した奇怪な変貌を遂げていた。

「フォーメーション・ブルーティカス、“フェーズII”へと移行せよッ!」

指揮官オンスロートの号令とともに、五機の軍用車両が猛烈な回転を始めた。

ウェスタンスターの大型トラックが胴体となり、アパッチ・ヘリのボルテックスが右腕へ、無人攻撃機リーパーのブラストオフが左腕へと姿を変える。さらに、ハンヴィーのスィンドルとロケット車のヘイルストームが強靭な脚部を構成していく。

数トンの鋼鉄が噛み合い、火花を散らしながら、そこに現れたのは――身長二十メートルを超える、文字通りの『移動要塞』だった。

「我が名はブルーティカス……! 者共、ひれふせ!」

その声は衝撃波となって大気を震わせ、近くの石造りの民家を振動だけで崩壊させた。

「なっ、合体……!? 冗談でしょう、あんなの勝てるわけないじゃない……!」

ひたぎが忌々しげに呟く。

ブルーティカスは無造作に右腕のローターを回転させ、周囲を薙ぎ払う一撃を放った。

「ぐあぁっ!?」

「しまっ……!」

果敢に立ち向かっていたラチェットとジョルトが、木の葉のように吹き飛ばされ、石造りの民家を二つ、三つと突き破って沈黙する。

「クソッ、化物め! 全員退却だ! 引けッ!」

アイアンハイドが苦渋の決断を下す。彼はブルーティカスの足元へキャノンを乱射し、視界を遮る爆炎を上げた。その隙にラチェットが、半壊したエリータ・ワンとクロミアを脇に抱え、後退を開始する。

正義の巨神たちが、たった一体の合体兵士の前に、文字通り蹴散らされていく。

「……笑えんな。あれこそまさに、現代の『怪異』そのものじゃ」

忍の言葉に、僕はただ巾着を握りしめることしかできなかった。

 

――その頃。

ギザの三大ピラミッド。

その頂上では、もう一体の超巨大合体兵士デバステーターが、まるで巨大な蟻地獄のようにその顎を広げていた。

ガゴォォォォォォンッ!!

巨大合体兵士デバステーターが、左腕の三連チェーンフックを射出し、数千年の歴史を持つ石積みに鋭い爪を立てた。

奴は一段、また一段と、山を登る怪物の如くピラミッドを侵食していく。

「……なんてこった……」

その足元、米粒のような小ささで一人、その巨躯を見上げる男がいた。

シモンズだ。

「……ピラミッドの中にマシンが……! そいつが起動したら、太陽が消える……!」

彼は汗にまみれた手で、奪い取った軍用無線機の周波数を合わせる。

「そうはさせん……この私の目が黒いうちはな……!」

 

062

紅海の波を切り裂き、巨大な艦影が陽光を浴びていた。

原子力空母、USSジョン・C・ステニス。

ワイルダー艦長が緊迫した面持ちで通信兵を睨みつけていた。

「USSステニスだ。そちらは?」

スピーカーから返ってきたのは、軍人とは思えない、異常なほどハイテンションな男の怒声だった。

『遅いぞ、何してた! お天気チャンネルか昼メロでもまったり見てたのか!? 衛星が三百個もあるだろうが! 何故さっさと応援を寄越さん!』

「……まずそちらが名乗りたまえ」

『名前は? 水兵!』

「ワイルダー。私は航空母艦USSジョン・C・ステニスの艦長だ」

一瞬の静寂。そして、相手の声のトーンがわずかに、本当にわずかだけ下がった。

『……ワイルダー艦長。私は「セクター7」の元捜査官、シモンズだ。マシンの親玉みたいな奴がピラミッドの頂上で太陽を爆発させようとしてる!』

無線の向こうの男は反応も待たずまくし立てる。

『機密アクセス許可が無いとかゴタゴタ言うなよ! 地球が滅びるぞ!』

受話器の向こうから聞こえる爆発音と、怪物の咆哮。

それを聞いてワイルダー艦長はすぐに決断した。

「……分かった、シモンズ君。聞こう」

 

海岸線では、数隻のLCAC揚陸艇が砂浜に乗り上げ、その巨大な口を開けていた。

中から吐き出されるのは、アメリカ軍が誇る主力戦車M1エイブラムスの大群だ。

上空には、低空で飛来するAH-64アパッチとUH-60ブラックホークの編隊。

人類の総力が、エジプトの熱砂へと注ぎ込まれる。

 

ピラミッドの頂上では、デバステーターがその巨大な両腕で数トンの石材を叩き壊し、先端を破壊し始めていた。

「……湾岸から西五キロ! エイリアンがピラミッドを改装中だ!」

シモンズが叫ぶ。

「奴を倒す武器はあれしか無い。『レールガン』。マッハ7で弾を撃てる奴だ!」

『……それはまだ試験段階の、最高機密情報だ』

無線の向こうでワイルダーが呻く。

「だから! この私に機密がどうのこうの言うなと言っただろうが! メンツと地球、どっちが大事だ!」

シモンズはピラミッドの上で咆哮するデバステーターを見上げ吼えた。

「今すぐ駆逐艦をこっちに差し向けろ! レールガンも用意しろ! いいな、分かったな!」

通信が切れる。

ワイルダー艦長は、隣に立つ副官に短く命じた。

「全艦隊に告ぐ。戦術目標を変更。駆逐艦を呼べ。USSキッドを、射程圏内へ最大戦速で急行させろ!」

 

063

轟音、地響き、そして鉄の焼ける匂い。

地平線を埋め尽くす砂塵を割り、人類の持つ最強の戦力がその姿を現した。

「こちらストライカー部隊! 現地に到着、攻撃を開始する!」

砂丘の彼方から、砂色の迷彩を施されたM1エイブラムスとM2ブラッドレーの混合部隊が、エンジンの咆哮を上げて突っ込んできた。

「こっちだ! 急げ! 全員、車両を盾にしろ!」

レノックス少佐が土嚢を飛び越え、後退中の部隊を誘導する。その視線の先、砂を蹴立てて迫る鋼鉄の怪物たちに対し、エイブラムスの120ミリ滑腔砲が一斉に火を噴いた。

 

ドォォォォォォォォォンッ!!

 

直撃を受けたディセプティコンのプロトフォームが爆散する。だが、敵の精鋭も黙ってはいない。

 

「小癪な羽虫どもが……!」

遠景で赤い重機型の巨漢――オーバーロードが、飛来するミサイルを複腕に備えられた巨大な鉤爪で鷲掴みにし、そのまま力任せにへし折った。

掌の中で誘爆する炎すら、その重厚な装甲を焦がすには至らない。

「散れ、雑魚どもめ!」

紫の閃光と共にテレポートを繰り返すスカイワープが機銃を乱射し、緑色の重機型が廃墟をなぎ倒しながら突進してくる。

「レノックス、これ以上は持たんぞ!」

 エップスが叫び、飛来する瓦礫を避けて地面に転がる。

「無線を寄越せ!」

レノックスが叫び、飛んできた受話器をエップスに投げ渡す。

「至急航空支援を頼む! 大至急、ありったけをぶち込んでくれ! 座標は入力済みだ、頼む!」

エップスの必死の叫びが、遥か上空の成層圏へと届く。

 

高度三万フィート。

戦場を見下ろす死神の眼が、冷徹に目標をロックした。

『こちらスカイ・アイ。そこより北西三十キロメートルに敵集団を確認』

『標的を確認。方位88。アルファシエラを開始』

巨大な主翼を広げたC-130輸送機の中で、オペレーターが静かに指を動かす。

『B-1-090、JDAM2000ポンドの投下を許可します』

エジプトの空を、銀色の影が切り裂いた。

超音速爆撃機のB-1ランサーが旋回し、戦場へと向かう。

直後、F-16ファイティング・ファルコンの編隊も急降下を開始し、アフターバーナーの轟音が砂漠の空気を震わせた。

 

一方、崩れかけた石壁の陰で、レノックスは血走った眼で双眼鏡を覗き込んでいた。

「どうだ? ターゲットは!?」

「連絡付きません! ですが、確認できました! 600メートル先、柱に向かって走っています!」

「……っ、阿良々木か!」

 レノックスは拳を壁に叩きつけた。

「全員彼を援護しろ!指一本触れさせるな!!」

 

「ハァ、ハァ、……ッ!」

僕は巾着を抱きしめ、熱風の中をがむしゃらに走っていた。

右にひたぎ、左に忍。

スタースクリームやブリッツウイングといった幹部クラスは、背後で展開されているNEST部隊と米軍の猛攻を食い止めるのに必死で、僕たちという小さな獲物にまでは意識が回っていない。

頭上を米軍の砲弾が飛び交い、着弾のたびに砂埃が舞い上がる。

「前よ、暦! あと少し!」

ひたぎの声。巨大な石柱の門が、陽炎の向こうで僕たちを招いている。

だが。

その門を潜り抜けようとした瞬間、僕の背筋に、凍りつくような死の予感が走った。

「お前様、後ろじゃ!」

忍の鋭い叫びに、僕は振り返ることなく、横へと飛び込んだ。

直後、僕がいた場所が蒼白い光線によって蒸発する。

振り向いた視界の端に、地獄の底から這い上がってきたような、銀色の禍々しい影が映った。

砂塵を割って、圧倒的な威圧感を持って迫ってくるのは、ディセプティコンの破壊大帝――。

「逃さぬぞ、阿良々木暦!」

その光学センサーを復讐心に燃やしたメガトロンだ。

彼は米軍の集中砲火を浴び、装甲を火花で散らしながらも、止まることなく僕らを追撃してくる。

右腕の巨大なフュージョンカノンが、不気味な紫色の光を充填し始めた。

「――俺が貴様を始末してやろう!」

 

「おーい! ここだ!!」

僕は、崩れかけた柱の間から身を乗り出し、喉が張り裂けるほど叫んだ。

砂塵の向こう側から、銀色のブレードが煌めく。

一人のオートボットがプロトフォームを斬り伏せながら姿を現した。

サイドスワイプだ。

彼は両腕のブラスターを連射し、メガトロンの足元を爆破して牽制する。

「コヨミ……!? コヨミが来たぞ! レノックス、道を開けろ!」

レノックス少佐が、突進するM1エイブラムスの前に飛び出し、僕たちに向かって手を伸ばす。

そのすぐ側では、軍医ラチェットがブルーティカスらにパルスビームを乱射していた。

「早くしろ! 長くは持たんぞ!」

 

064

一方その頃、ピラミッド麓の採石場。

陰陽師コンビと神原、老倉たちの目の前の砂地に、衛星軌道から射出された数発の火球が着弾した。

「っ、何なのよ、もう!」

老倉の悲鳴が響く。

火炎の中から立ち上がったのは、不気味な造形をした小型のディセプティコンたちだった。

小型暗殺部隊、カセッティコン。

その中央、銀色の針金人形のようなシルエットが立ち上がる。

その姿は半年前にエアフォースワンに潜入し、直江津にて神原を含め僕らを襲い、フーバーダムにて扇ちゃんに頭を斬り落とされた小型諜報員――フレンジーに酷似していた。

但しフレンジーの光学センサーが冷酷な青だったのに対し、目の前の同型のは血のような赤である。

「あいつはランブルだ!」

「春休みの時の奴の同型か!」

スキッズが叫び、神原が身構える。

それだけではない。

ピンク色のコウモリ型のラットバット、銀色の極薄ボディを持つリードマンが、不気味に周囲を囲んでいく。

「ピギャァァァッ!!」

ラットバットの放つ超音波攻撃と、ランブルたちの二挺ライフルによる乱射が老倉たちの頭上を掠める。

「神原さん、危ない!」

老倉が神原を地面に伏せさせると、背後にいた双子が弾幕の直撃を受ける。

「うわぁぁ!」

スキッズとマッドフラップは岩壁まで吹き飛ばされ、一撃で無力化された。

「このすっとこどっこいが!大丈夫か!?」

影縫さんが双子を見る。

「ぐ、ニンジャの姉さん達……後は任せた……」

完全にノックアウトされてしまっている。

 

「……鬱陶しいね。サイバトロンどうぶつ王国なんて、僕の管轄外だ」

斧乃木余接が、無表情のまま老倉と神原の前に一歩出た。影縫余弦も、その拳をばきりと鳴らす。

斧乃木ちゃんがふと、背後の老倉を振り返った。

「老倉育。お前、撫公と友達らしいな?」

「撫公? 撫子ちゃんのこと!? なんで今、そんなこと……!」

老倉が困惑に目を見開く中、影縫さんが猛然と地を蹴った。

「余接! そんなことは後や! 今はこの鉄畜生どもを潰すで! 正義の味方の出番や!」

彼女は驚異的な跳躍を見せ、空中のラットバットを文字通り叩き落した。

「騒音公害はもう沢山やで!」

音波で全身に無数の切り傷を負いながらも、彼女は笑い、そのまま地に伏したラットバットの顔面を素手で殴り潰す。

まるでキクガシラコウモリのように顔面が崩壊したラットバットは甲高い電子音の悲鳴を上げて、ドローンのような小型飛行ユニットに変形、エジプトの空へと飛び去っていった。

 

その横をリードマンが銀色の帯となって老倉たちに肉薄する。

鋭い刃が彼女らを切り刻もうとした刹那。

「――『例外のほうが多い規則(アンリミテッド・ルールブック)』」

斧乃木ちゃんの指先が、空気を爆発させた。

肥大化した人差し指が、リードマンの唯一の立体的な部位である目玉を正確に撃ち抜き、銀色の断片へと変えた。

「あ、ありがとう……」

老倉が呆然と呟くと、斧乃木ちゃんは表情を変えずに告げた。

「勘違いするなよ。お前が死んだら撫公が悲しむから助けただけだ。――あ、今のはちょっと格好良かったかな」

「余接、遊んどる暇はないで!」

影縫さんは斧乃木ちゃんを足場にして空中を跳躍し、一気に間合いを詰める。

しかし次の瞬間。

「ギィィィィッ!!」

ランブルが胸部から手裏剣状の小型カッター――ディスクブレードを射出した。

「なッ――」

超高速で回転する刃が彼女を切り裂こうとした刹那。

「よっと」

斧乃木ちゃんが影縫さんとランブルの間に割って入り、身代わりとなってディスク弾を受けた。

ザシュッ!

「余接!」

「斧乃木ちゃん!」

刃の直撃を受けた彼女の右腕が切断され、宙を舞う。

死体人形である彼女自身は痛みを感じることは無かったが、周囲の人間は違った。

「あ、ああああ!お、斧乃木さん!あなた、腕が……!」

「うるさいよ老倉育。お前は黙って後ろに隠れてろ」

斧乃木ちゃんがゆっくりと立ち上がる。

「余接、行けるか?」

「うん。あの鉄屑野郎に専門家の恐ろしさを教えてやるよ」

ランブルが両腕を変形させ巨大なハンマーを形成するも、二人は躊躇せず飛び込む。

しかし、その瞬間。

「小癪ナ虫ケラ共メ!」

ランブルの足元が細かく震え始め――。

……バキバキッ!

大地が裂けた。

ランブルがその超振動するハンマーアームを地面に叩きつけ、その地震波で足元の砂岩を叩き割ったのだ。

「うわぁぁぁっ!」

「神原さん!」

後方で戦いを見守っていた二人の足元が崩れ、神原が深い裂け目に落ちそうになる。

だが、老倉が彼女の手を既の所で掴み、引っ張り上げた。

「老倉先輩……!恩に着る!」

「……たまには先輩らしい所を見せないと、ね?」

彼女らの前方で、戦いは佳境に差し掛かろうとしていた。

「はああぁぁッ!!」

影縫と斧乃木のダブルパンチがハンマーアームと激突し、激しい火花が散る。

「ギシャアアアッ――!」

数十秒間にわたる競り合いの末、少しづつ二人の拳が押し勝ち始める。

「『怪異転がし』を舐めんな……やぁ!」

「クソォッ――」

自動車がプレス機にかけられるような凄まじい音と共に、ランブルの繊細な金属フレームが紙細工のように粉砕された。

「……ふう。不死身やないから、ちとやり過ぎてもうたみたいやけど」

「こいつら相手なら、やり過ぎが丁度良いくらいだ」

二人の足元には、完全に沈黙した金属の残骸が転がっている。

影縫さんが砂を払い、戦場の中央を見据えた。

「ほんじゃ、余接。そこの二人はおどれに任せたで。うちはちょっと、阿良々木君の応援に行ってくるわ」

そう言い残すと、彼女は人間とは思えない高さまで跳躍し、爆炎の渦巻く戦場へと消えていった。

 

065

「ええい!」

メガトロンのフュージョンカノンが乱射され、僕の数センチ後ろで砂漠が次々と爆発する。

熱風が背中を焼き、視界が真っ白に染まった。

「お前様!あと少しじゃ!」

忍の叫びが、爆音に掻き消されそうになる。

「エップス! 援護射撃だ! 12時の方向に民間人三名! 撃て、撃ちまくれ!!」

レノックスの鋭い叫びと共に、瓦礫の陰に陣取ったM1エイブラムスの120ミリ砲と同軸機銃が一斉に火を噴いた。

凄まじい砲撃が、執拗に僕らを追うメガトロンの胸部装甲に直撃し、火花が夜のネオンのように飛び散る。

「こっちだ、暦! 手を伸ばせ!」

レノックスとエップスが、降り注ぐ弾丸の雨の中を、死を恐れぬ覚悟で僕たちを迎えに走り出す。

「空爆を中止! 民間人を救助する! ストップ・ファイア!!」

エップスが無線機に向かって怒鳴り、上空のF-16編隊に待ったをかける。

直後、数台の戦車がエンジンの咆哮を上げて僕らとメガトロンの間に割り込み、殺到するプロトフォームたちを次々と主砲で粉砕していった。

「お前様、跳べ!」

忍が僕の腰を抱え、ひたぎの手を引いて、崩落しかけた巨大な石柱の下を潜り抜ける。

僕たちが通過した瞬間、戦車隊の放った一撃が石柱の基部を粉砕した。数千年の歴史の重みが、追いすがろうとした数体のプロトフォームを無慈悲に押し潰し、メガトロンの進路を物理的に遮断した。

「来い! こっちだ!」

レノックスが僕の襟首を掴むようにして、崩れた廃墟の壁の影へと引きずり込んだ。

そこは、周囲の喧騒が嘘のように、一時的な静寂が支配する吹き抜けの回廊だった。

「……呼びつけてきたからには、それなりの自信があるんだろうな、暦?」

レノックスが肩で息をしながら、僕の抱えた巾着を鋭い眼で見つめる。

「オプティマスは……!?」

僕の問いに、レノックスは無言で中庭の奥を指差した。

そこには、汚れを防ぐための巨大な防水シートに包まれた、家ほどもある鋼鉄の足が横たわっていた。

「早く、早く行かないと!」

僕は駆け出そうとしたが、エップスがその肩を力強く抑え込んだ。

「待て! まだ空爆の残り火がある。外は火の海だ、死ぬ気か!」

「いや、行かなきゃ駄目なんだ! 一秒でも遅れたら、魂が消えちゃうかもしれないんだ!」

僕がエップスの手を振り払おうとした、その時だ。

「おいおい……嘘だろ、来たぞ!」

エップスが壁の割れ目から外を覗き、絶望的な声を漏らした。

 

視界の端では、メガトロンが崩落した石柱を押し退けながら追撃を続けている。

だがそれよりも近く、瓦礫の壁を隔てて僕らのすぐ後ろに、巨大な影が砂塵を割って現れた。

両腕と背中にミキサー車のドラムをシールドのように並べ、凶悪な重機パーツを全身に纏ったディセプティコン――ミックスマスターだ。

「隠れろ……!」

レノックスが僕らを伏せさせる。

ミックスマスターは迫り来る戦車の砲弾を、腕のドラムを回転させて弾き飛ばした。

さらには背中のパーツを複雑に展開させ、巨大な長距離砲台へと変形させる。

ドォォォォォォンッ!!

放たれた散弾の酸弾は、僕らを援護していたM1エイブラムスの砲塔を、まるで紙細工のように吹き飛ばし、溶かし飛ばした。

 

絶体絶命。

だがその時、上空から黒い怪鳥が、黒煙を上げながら急降下してくるのが見えた。

SR-71ブラックバード。

――ジェットファイアだ。

機体は着陸するのではなく、空中でバラバラに解体されるように変形を始めた。

「さあ行くぞ! 着地決めろ、着地決めろぉぉ!」

老人のような咳混じりのダミ声が響く。

「見よ! ジェットファイアの栄光を! さあ、俺の時代の戦い方を見せてやる! ぬぁッ!」

ジェットファイアは着地と同時に、ミックスマスターの胴体を巨大な戦斧で豪快に上下に両断した。

 

「ギ、ギャアァァァッ!?」

「うるさいハエめ!」

ジェットファイアはさらにミックスマスターの頭部を鷲掴みにし、そのまま壁に叩きつけると、残った胴体を足で踏み潰して頭部を引き千切り、彼方へと投げ飛ばした。

 

「時代遅れの老いぼれめ! 貴様のスクラップを砂漠の肥やしにしてくれるわ!」

そこに、合体兵士ブルーティカスが全身の火器から火を噴きながら突進してくる。

ジェットファイアの黒い装甲に次々と火花が散る。

だが彼は損傷を無視し、杖を構え直した。

「合体か。若い頃の俺なら、瞬きする間にバラバラにしてやったものを!」

ジェットファイアとブルーティカス。

新旧の巨神が激突し、激しい格闘戦が始まった。

ブルーティカスが右腕のローターを振り下ろすが、ジェットファイアは老練な身のこなしでそれを回避し、逆に斧でブルーティカスの右足――ヘイルストームの装甲を深く切り裂いた。

「ヌグゥッ!」

「奴が体勢を崩した!今だ!」

バランスを崩した巨大合体兵士。

そこにアイアンハイド達と戦車隊の弾幕が集中し、ブルーティカスのボディに幾つもの穴を開けていく。

だが、合体兵士は倒れない。

「おのれ、虫けらどもめ!忌々しい!」

ブルーティカスはサイドスワイプの体を掴み上げると、近くにいた戦車に叩きつけた。

「ぐはぁぁッ!」

「サイドスワイプ!」

爆炎が立ち上り、彼の意識が一時的に喪失する。

しかし、その攻撃でブルーティカスに隙が生まれた。

「若造め!老兵の怒りを思い知れ!」

ジェットファイアの渾身の蹴りが炸裂する。

バゴォォォォォォォンッ!!

衝撃に耐えきれず、ブルーティカスを構成していた五体のコンバッティコンが四散、いや五散するように分離し、砂漠に転がった。

「コンバッティコン! 退却だ、引けぇいッ!」

指揮官オンスロートが屈辱に塗れた叫びを上げる。

それを受けブラストオフとボルテックスが飛行形態へ変形し、逃走を図るが、ジェットファイアは逃さない。

「逃がすか、小童め!」

彼が投げつけた斧が空中で回転し、ボルテックスのローターを粉砕する。

青いディセプティコンは空中で爆発し、砂漠へと墜落していく。

残る四体は仲間の死に目もくれず、三台の車両と一台の航空機へと姿を変え、砂丘の向こう側へと消えていった。

だが、勝利の余韻は続かない。

ドドドド……!

地面が異常に振動し、何かが地中から近づいてくる。

砂煙を上げて、ジェットファイアの足元の地面が爆発。

地中から飛び出したのは、サソリ型ディセプティコン、スコルポノックだった。

「……あいつは!」

レノックスが驚いたように叫ぶ。

「――ギギギギッ!」

スコルポノックは半年前から再生途中の尾を振り上げ、両腕のドリルを高速回転させると、ジェットファイアの胸部――スパークの至近距離へと飛びついた。

ザシュゥゥゥッ!!

「……ぬぐぅっ!!」

ドリルがジェットファイアの古びた装甲をえぐり、内部機構をズタズタに破壊する。胸部に巨大な大穴が開き、火花とオイルが噴き出した。

「ええい、この害虫がぁッ!」

ジェットファイアは苦悶に顔を歪めながらも、スコルポノックの頭部を鷲掴みにし、力任せに地面へと叩きつけた。

そのまま巨大な拳を何度も振り下ろし、蠍の頭部を砂の中に完全に埋没させ、沈黙させる。

「……ハァ、……ハァ。……俺も、先行き短いか……!」

ジェットファイアが膝を突き、大穴の開いた胸を押さえる。

彼の光学センサーが、弱々しく明滅していた。

 




次回豫告
「戦場ヶ原ひたぎ様です」

「老いてなお現役、ジェットファイア様だ」

「ねえ、ジェットファイアさん。『ザ・フォールン』が今回の最大の敵な訳なのだけれども、『堕落せし者』なんて呼ばれるくらいなら、堕落する前の名前があったはずよね。どんな名前だったのかしら」

「はて、長らく元の名前で呼んでいなかったからな。何だったか、……そうだ、思い出した。メガトロナス・プライムだ」

「メガトロナス、メガトロン……偶然の一致ではないのよね?」

「ああ、お前たちを襲ったメガトロンという奴。その名はそこから来ているはずだ。奴はメガトロナスの名を継いだのだろう」

「後継者ですらあれだけ厄介だったのに、その本人なんて悪夢じゃない。手も足も出ないんじゃないかしら」

「なら俺は奴に頭突きを喰らわせてやる。……今は首がまともに動かんが」

「本当、猫の手も借りたい状況だけど、あいにく今回は借りられそうにないわね」

「なら、自分たちが出来ることを全て成せ。今まで道を開いてくれた者たちがそうしたように」

「「次回、こよみリベンジ其ノ玖」」

「…で、結局何だ、この空間は」

「激戦の中の息抜きコーナーね。お茶も出るわよ」

「……最近の若い連中は、本当に訳が分からんな。まあ、元気なのは良いが」
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