物語シリーズ×トランスフォーマー二次創作   作:嘘烏

24 / 24
鳥物語発売おめでとうございます!


第轟話 こよみウェーブ其ノ肆

021

デプスチャージは、凍てつくオホーツク海の深海を、まるで大空を滑空する巨大な怪鳥のように猛スピードで突き進んでいった。

船体が激しく傾き、僕たちは排水の終わった硬い金属床の上で必死に手すりにしがみつく。

「助、かった……」

僕が呟いた瞬間、デプスチャージのコックピットのソナー画面に、黄色い警告マークが表示される。

キィィィィィィィン――!

水中に響き渡る、あの悍ましい金属の擦れ合いの音。

 

バックソナーの映像が、僕たちの背後に迫る地獄を映し出していた。

先ほど僕たちの船を圧殺した超巨大油圧ショベルのフロストドレッジが、巨大なアームをまるでクラーケンの触手のように悶えさせながら、凄まじい水流を伴って突進してきている。

さらに僕らの正面からは、もう一機の黄色い質量が迫る。

コマツD575Aブルドーザー。

コンストラクティコンの破壊兵、スキップジャックだ。

奴は海中でロボットモードに変形すると同時に、狂ったように下半身のパーツを再構成し、一本足のジャックハンマー機構を複雑に分割させて、何本もの鋭利な多脚形態へと変形させていた。

「あの姿は……!?」

モニター越しにその凶悪なシルエットを見た僕は、息を呑んだ。

節足動物のような無数の脚、全てを切り刻まんとする戦闘形態――。それは、エジプトの砂漠にてバンブルビーによって文字通りバラバラに解体されたはずの、あのディセプティコンの赤き拷問官『ランページ』に、あまりにも酷く、悍ましく酷似していた。

どうやら同型機のようだ。

それを見たひたぎが、ずぶ濡れの髪をかき上げながら、極めて冷徹な、しかしどこか深い諦念の混じった目で呟く。

「……また蟹かしら。二度ある事は三度あるとは言うけれど

も、私の人生、どうしてこうも不愉快な甲殻類ばかりが横槍を入れてくるのかしらね。暦、これが終わったら、あの黄色い偽物の蟹を特製の甘酢に漬けて、徹底的に美味しくいただいてあげましょうか」

「ひたぎ、冗談でもあんな物騒な蟹を食べようとしないで!? 噛み殺されるのがオチだよ!」

ドガァァァァァァァンッッ!!!

僕らの会話を掻き消すように、凄まじい衝撃がデプスチャージの艦体を襲った。

多脚形態となったスキップジャックが、海水の抵抗を無視した驚異的な跳躍でデプスチャージの甲板へと直接取り付いたのだ。

奴は異様に蠢く脚で潜水艦の装甲をバリバリと引き裂きながら、両腕を展開して、その先端にあるビーム砲を至近距離から乱射し始める。

ズバババババババババッ!!!

「おいおい、このままじゃ持たねぇぞ!」

狂ったようにデプスチャージを攻撃するスキップジャックを見て、エピソードが叫ぶ。

ドゴォォォォォォォンッッ!!!

今度はフロストドレッジの巨大なホイールが、デプスチャージの尾部を殴打した。

厚い特殊装甲がメリメリと歪み、艦内に真っ赤な警告灯が狂ったように明滅する。浸水警報のサイレンが鳴り響き、足元に再び冷たい海水が侵入し始めた。

『不味い……! このままでは、お前たちが吾輩ごと深海の底へ連れて行かれる!』

デプスチャージが、激しい駆動音と共に苦渋の決断を下すように叫んだ。

『お前達、これに乗っていけ! 吾輩はここで奴らの足と息の根を止める!』

 

艦内フロアの隅が油圧の音と共に開き、そこから姿を現したのは、僕ら5人が辛うじて乗り込めるかどうかの、信じられないほど不格好でユーモラスな円筒形の小型探査艇だった。

その機体側面には、どこか抜けたような文字で、

『こばんざめたろう』

と、堂々とペイントされていた。

「どんな名前だ――っ!?」

絶体絶命の危機だというのに、僕は思わず頭を抱えて叫んでしまった。世界の命運を懸けたサイバーSF大決戦の最中に、何故これほどまでに和風なネーミングセンスがぶち込まれるのか。

しかし、ひたぎは僕の襟首を力任せに掴むと、その不格好なハッチへと無理やり僕の身体を押し込んだ。

「そんなこと言ってる場合じゃないわよ、暦! 四の五の言わずに乗りなさい!」

「うわっ、ちょっと、ひたぎ、羽川!?」

狭いシートに僕、ひたぎ、羽川、そしてドラマツルギーとエピソードが文字通りすし詰め状態で押し込まれる。

バチン、とハッチが閉まると同時に、デプスチャージの下部から、小型探査艇が深海へとダイナミックに射出された。

僕たちの『こばんざめたろう』は、そのふざけた名前に反して、凄まじい水流を噴射しながら驚異的な加速で北へと走り出した。

 

その背後。

青と白の美しいサイバー潜水艦――デプスチャージの機体が、水中で狂ったようにパーツを組み替え、巨大な人型のシルエットへと変貌していく。

ガシャガシャガシャガシャアアアンッ!!!

水圧を切り裂いて現れたそのロボットモードは、全長19メートル。

オートボットの中でも突出した巨躯を誇り、背中にはマントのように美しいエイの主翼をたなびかせ、深海の覇者としての威厳を放っていた。

 

「ウオォォォッ! ちょこまかと軟骨魚類がぁッ!!」

スキップジャックが、デプスチャージの装甲にビーム砲を叩き込みながら、周囲を回遊する仲間に吠える。

「フロストドレッジ!奴を押し潰して、すり身にしてしまえ!」

その号令に呼応し、背後からフロストドレッジがホイールを猛烈に回転させながら、デプスチャージに迫る。

だが、オートボットの海上司令官は動じない。

「ふん、『軟骨魚類』か。ならば、吾輩も骨のある男であることを見せてやろう!」

デプスチャージが足裏の推進器から爆発的に気体を噴射し、水中を垂直に急上昇した。

ドガァァァァァァァンッッ!!!

標導を失ったコンストラクティコン達が、互いの強固な金属頭部を真っ正面から激突させ、水中で火花と衝撃波を散らす。その一瞬の隙を、上空へ逃れたデプスチャージは見逃さなかった。

急降下しながら、彼は両手首の装甲をスライドさせ、一対の鋭利なサイバー・ブレードを展開。

「――沈め、三枚下ろしだッ!!」

一閃。

凄まじい水流を伴ったブレードが、スキップジャックの装甲をズタズタに切り裂いた。内部回路を破壊された黄色の巨躯は、黒いオイルの尾を引きながら、深海の底へと音もなく沈黙していった。

「小癪な! 俺が直々にホイールの染みに変えてやるわぁぁぁいッ!!」

仲間の敗北に激昂した超巨大油圧ショベル、フロストドレッジが、その1000トン近い質量を武器にデプスチャージへと突進してきた。その巨大なショベルアームがデプスチャージの胸部を捉え、ガチリと拘束する。

「ぬぐ、おおッ……!?」

あまりの圧倒的な怪力に、デプスチャージの内部骨格が軋み、警告音が鳴り響く。

そして。

ベキベキィ……!

デプスチャージの主翼の片方がフロストドレッジに引きちぎられてしまった。

オイルの帯が深海にたなびき始める。

奴はそのまま、デプスチャージの身体を押し込むようにして、奈落の如き海底の地殻へと向かって急加速した。

見る見るうちに、水圧と闇が濃くなっていく。

だが、デプスチャージは視界の端で、赤黒く不気味に明滅する海底の亀裂を捉えていた。

「……吾輩の計算を、侮るなよ!え~いっ!」

デプスチャージはあえて抵抗を止め、姿勢制御スラスターを限界まで噴射。フロストドレッジの巨躯ごと軌道を歪め、地殻の裂け目――活動中の海底火山の噴出孔へと猛烈なスピードで誘導したのだ。

ドブォォォォォォォォォンッッ!!!

激しい気泡と共に、千度にも達する超高熱のマグマと硫黄の濁流が、2機の巨体を容赦なく包み込む。

「グ、ガ、ガアァァァァッ!? 熱い、回路が、装甲が融解するッ!」

いかに強固なサイバトロン星の特殊金属といえど、地球深部から噴き上がる灼熱のマグマの熱には耐えられない。たまらず悲鳴を上げたフロストドレッジが、熱に苦しみ、デプスチャージを拘束していた腕をガチガチと音を立てて解放した。

自由になったデプスチャージは、苦痛に耐えながらも両腕のブラスターと胸部装甲を展開。内蔵されたトリプル・ハイドロキャノン砲が、赤黒く沸き立つ海底火山の中心部へと向けられた。

「海の漢の戦い方を教えてやろう、陸の鉄屑が」

ズドォォォォォォォォォンッッ!!!

エネルギー弾が噴出孔を直撃した瞬間、海底火山が文字通り大爆発を起こした。

地殻が激しく引き裂かれ、凄まじいマグマの濁流と水蒸気爆発が、逃げ遅れたフロストドレッジの巨躯を完全に巻き込み、その肉体を木っ端微塵に粉砕していく。

「やった………!」

「超ウケる。あのエイも結構やるじゃん!」

泡と硝煙の向こう、深海の王者は、去り行く僕たちの小型艇をその青い光学センサーで静かに見つめていた。

通信回線から、彼の低く、気高いバリトンボイスがノイズ混じりに響いてくる。

「――吾輩の役目はここまでだ!先に行け!」

「デプスチャージ、君はどこへ!?」

「吾輩はここの『ゴミ掃除』とプライム達を乗せに一旦引き返す。――幸運を祈るぞ、阿良々木暦。諸君らに母なる海の加護があらん事を!」

その声を最後に、通信は終了する。

僕たちを乗せた『こばんざめたろう』は、冷たいオホーツク海の中、ただひたすらに北へ――僕たちの戦場である、ロシア・シベリアの永久凍土を目指して、漆黒の深淵を突き進んでいった。

 

022

僕らが深海での死闘を目撃している頃。

オホーツク海をさらに北上した先、ロシア・シベリアの広大な永久凍土。かつて1908年に謎の大爆発が起きたとされる地――ツングースカの荒野に、地平線を遮るようにしてそびえ立つ、旧ソ連時代の不気味な秘密研究所があった。

その地下深く。

広大な中央ドックには、異様な熱気と、凍てつく冷気が複雑に入り混じっていた。

 

空間の中央に鎮座しているのは、この地の永久凍土から掘り出された、巨大な『氷塊』である。その透き通った青い氷の奥には、単眼の光学センサーを持つ、圧倒的な威圧感を放つ鋼鉄の巨躯が静かに眠っていた。

ディセプティコンの冷徹なる科学者、ショックウェーブだ。

現在、ドック内では、世界各地から集められたディセプティコンの技術部隊によって、その巨躯の強制的な解凍・修復作業が急ピッチで進められていた。

右腕から展開した丸鋸で氷を削り、火花を散らしながら作業を進めているのは、チェリーレッドの美しいボディを怪しく光らせるディセプティコンの闇医者、ノックアウト。

そして、その隣で高出力の熱線レーザーを氷塊へと照射している、黒い装甲の野戦外科医、フラットラインだった。

助手には青い重厚な装甲を身に纏ったブレークダウン。

本来彼は粗暴な性格ではあるのだが、今はノックアウトらの命令に忠実に従っているようだった。

 

上の足場からは、先ほどの空襲から一足先に帰還していたサンダークラッカーとスカイワープが、退屈そうにその様子を見下ろしている。

[b:ジィィィィィィィィッッ!!!]

熱線が氷を融解させる不快な高周波の中、サンダークラッカーが腕のガトリング砲を退屈そうに弄びながら、地上のノックアウトに向けて声をかけた。

「――しかし、前から思ってたんだけどよ」

「何です?」

ノックアウトが、自身の美しい赤い塗装に煤や氷の破片が飛ばないよう、細心の注意を払いながら滑らかな声音で応じる。

サンダークラッカーは首の関節を鳴らし、あきれたように吐き捨てた。

「コンストラクティコンやコンバッティコンみたいな重機や軍用車両はさておくとして、何故ディセプティコンなのに、ビークルモードにお前みたいにスポーツカーを選ぶ奴がいるんだ? 空を飛んだ方が圧倒的にカッコいいだろ?」

「はぁ……これだから飛行能力だけが取り柄のシーカーズは」

ノックアウトは呆れたように光学センサーを明滅させると、自身の胸部装甲を誇らしげに愛おしそうに撫でてみせた。

「タイヤで地面を走るというのも、素晴らしいものです」

「なるほどねぇ。俺にはよく分からん」

しみじみと呟くサンダークラッカー。

それを横目にノックアウトは部下たちに視線を向ける。

「……フラットライン、ブレークダウン。もう少しレーザーの出力を調整してくれないか? このままだと、凍結から目覚める前に内部のデリケートな電子回路が焼き切れてしまう。これでも私は、美しく繊細な仕上げを好むタイプでね」

「そんな事言ったって、俺にとっちゃこれが精一杯だぞ?これ以上派手にやったらショックウェーブを壊しちまうぜ」

ブレークダウンがぼやく。

「ブレークダウンの言う通りだ、ノックアウト。俺達の目的は美を競うことじゃあない。我らが科学参謀、ショックウェーブ様を一刻も早く完全な状態で戦線に復帰させることだ」

隣で氷を削っていたフラットラインが無数の鋭利なメスや注射器のようなアタッチメントをガチャガチャと鳴らしながら、地を這うような重い駆動音と共に吐き捨てた。

 

その時、重厚な鉄の隔壁が、凄まじい油圧の音を立てて左右に押し開かれる。

通路上から響いてくるのは、あまりにも重く、周囲の空気を一瞬にして支配する地響きのような足音。

 

「――“メディック”ノックアウト、進捗の具合はどうだ?」

立ち込める冷気と蒸気の向こうから、ゆっくりと姿を現したのは、顔面を半分崩壊させ、右腕のフュージョンカノンを赤黒く燻らせた破壊大帝メガトロンだった。

その後ろには、情報参謀サウンドウェーブ、航空参謀スタースクリームをはじめとするディセプティコンの本隊、そして漆黒の宇宙船から降り立った賞金稼ぎロックダウンの一派が、威圧的な並びで追従してきている。

ノックアウトはメガトロンの満身創痍の姿に一瞬だけ光学センサーを瞬かせたが、すぐさま自身の胸部装甲を軽く叩き、いつもの洗練された、どこか軽薄な仕草で一歩前に出た。

「メガトロン様、作業は順調でございます。永久凍土の冷気は少々厄介なものでしたが、このフラットラインの荒っぽい処置と、私の完璧な熱量計算により、解凍率はすでに80%を超えております。もうしばらく、お待ち頂ければすぐに完了するかと」

「よろしい。だが、ただ溶かせば良いという訳ではない。きちんと起動後に回路が動作するようにせねばな」

メガトロンの錆びついた声音が、地下ドックの冷気を震わせる。崩壊した顔面の奥で燃える紅蓮の光学センサーが、氷の中の単眼をじっと見据えていた。

「我が軍の偉大なる頭脳を、ただの動かぬ鉄屑として目覚めさせることなど、この俺様が許さん」

「当然、承知しておりますよ、メガトロン様。回路の伝達パルスも、私の繊細な手技で完全に保護しつつ解凍しております」

ノックアウトは恭しく一礼すると、チラリと視線をメガトロンの背後に向けた。

「それよりも……起動エネルギーの方はどうなのでしょうか? 長きにわたる凍結により、ショックウェーブ様のスパークは極限まで衰弱しています。これを目覚めさせるには、地球の安っぽい化石燃料や我々の持ち合わせた予備エネルゴンなどではなく、極めて高純度かつ爆発的なエネルギー源が必要となりますが……」

ノックアウトの問いかけに応じるように、後方からガチャガチャと軽い足音を響かせて進み出たのは、ハンヴィーから変形した詐欺師スィンドルだった。

「へへっ、心配ご無用。極上の代物を用意してあるぜ、ノックアウト」

彼はその光学センサーをギラギラと発光させながら、アストロトレインから引き継いだ二つの特殊カプセルを、恭しく抱え上げるようにして提示した。

一つは、サイバー・ネットのエネルギーに縛られ、未だドクドクと不気味に脈動を続ける怪異の核――忍野忍の心臓。

そしてもう一つは、その中で気を失って静かに眠っている、捕らえられた八九寺真宵の姿だった。

「へっ!随分と弱っちい体じゃねぇか。俺がちょっと触っただけでぶっ壊れちまいそうだぜ」

だが嘲るようなブレークダウンとは対照的に、黒い装甲のフラットラインは歩み寄ると、自身の腕から伸ばした解析用センサーの触手をカプセルへと触れさせた。

「ほう……。これが『怪異』と呼ばれる土着の生命体、その核心たるエネルギーか」

瞬時に彼のディスプレイに、地球の物理法則を無視した異常な熱量グラフィックが走り出す。

解析を終えたフラットラインは、その赤いバイザーを怪しく明滅させた。

「……素晴らしい。人間とも我々とも異なる、異常な高密度エネルギーだ。これ程の熱量があれば、直ぐにショックウェーブ様の復活に十分な量のエネルゴンが抽出できる。いや、それどころか、全盛期以上の出力を引き出すことも不可能ではない」

「ふん、ならば話は早い。ノックアウト、フラットライン、解凍を進めろ。躊躇うな」

メガトロンが傲然と命じた、その時だった。

「――メガトロン様」

地を這うような掠れた声が、冷徹にドック内の空気を凍らせる。

サウンドウェーブだ。

「フロストドレッジとスキップジャックの反応が途絶。オホーツク海にて沈黙。……ペイロードの通信報告によると、オプティマス・プライム率いるオートボットの精鋭、および人間どもが海を渡り、こちらに向かってきている模様」

 

「何だと……!?」

メガトロンの紅蓮の目が激しい怒りに染まり、放電を伴う駆動音がハンガー全体を震わせた。

「無能なゴミ屑どもめが! たかが数匹の虫ケラと、時代遅れの釣りバカ一人に何を手こずっている! ショックウェーブだけは何としてでも死守しろ! 奴の頭脳こそが、この地球を完全に我が手中に収めるためのキーなのだ!」

「「ハッ!」」

絶対的な王者の怒号に、スタースクリームら兵士たちが一斉に直立不動の姿勢をとる。メガトロンは右腕のフュージョンカノンを床へ叩きつけ、即座に冷徹な防衛陣形を指示した。

「オンスロート、ブリッツウイング!コンバッティコン達と前線を形成しろ! ツングースカの地上全域に防衛線を敷き、一歩たりとも近付かせるな!」

「ハッ! 我がコンバッティコン師団の火力、骨の髄まで見せつけてやりましょう!」

「任せてくださいデース。必ずや、奴らのスパークを氷漬けにして、――照り焼きにしてやるメーン!」

戦術参謀と空陸参謀が重々しい足音と共に敬礼し、背後のブラストオフやスィンドルら陸戦師団を引き連れて猛然と通路へと引き返していく。

「ミックスマスターはエネルゴン抽出装置用意! 直ちにカプセルを接続し、精製を開始しろ!」

「了解! 最高にイカれたエネルゴンを絞り出してやるぜ!」

そう言うと、ミックスマスターはフラットラインと共に抽出装置のシリンダーを立ち上げ始める。

 

メガトロンの命令はさらに続く。

「サウンドウェーブ、プリテンダー、レーザービーク! 貴様らは基地内の監視を強化し、防衛システムを掌握せよ。万が一、ネズミ一匹でも侵入したならば、即座にその息の根を止めろ」

「了解。バズソー、ラットバット、発射(イジェクト)!」

サウンドウェーブの胸部から、イエローの猛禽型とピンク色の蝙蝠型ディセプティコンが新たに射出される。

その横でアリスが伸びをしながら、頭部の猫耳を模したセンサーをピクピクと動かした。

「……にゃあ、いっちょ頑張るかにゃ……」

「アリス、お前最近たるんでないか?」

「にゃんだ焼き鳥にされたいのかにゃ、レーザービーク?」

情報参謀と4体の部下たちが闇に消えていくのを見届けると、メガトロンは冷酷な視線をロックダウンに向ける。

「……それから賞金稼ぎ、貴様の所の暗殺兵と『番犬』もそちらに回す。確実に仕留めさせろ」

それを受け、フンと鼻を鳴らした漆黒の賞金稼ぎは、背後に控えていた蜘蛛型の暗殺兵に顎で指示を出した。

「おい、エアラクニッド。行ってあの小僧の首を狩ってこい。ビジネスの邪魔をする奴らは、誰であろうと排除だ」

「私ッシャ?」

薄暗がりの天井に張り付いていたエアラクニッドが、複眼をギラリと光らせ、背中の蜘蛛の脚型マルチアームをシャカシャカと波打たせて妖しく笑った。

「お安い御用よ、ロックダウン。私の糸でじっくりと縛り上げて、なぶり殺しにしてあげるッシャ……!」

さらに天井の彼女の下を、機械と有機生命体が半々で混ざったかのような外見のサイバー狼――スチールジョーが獰猛に駆ける。

航空参謀スタースクリームも、シベリアの制空権を確立せんと自らの部下――シーカーズ部隊に通信を入れる。

「アストロトレイン、イカトンボ、聞こえるか! 今すぐ全機、最高速度でツングースカ上空へ集結せよ!スカイクエイクにラグナッツ、言っておくがこれはメガトロン様のご命令だ!」

メガトロンの命令以外を聞かない2人にも念を押したスタースクリームは、スカイワープらと寒空へ飛び立っていった。

静まり返った地下ドック。

氷の奥で眠る科学参謀を見つめながら、破壊大帝メガトロンは歪んだ口元に狂暴な笑みを浮かべ、左手を凶悪な金属音を立てて握りしめた。

「オートボット共め、ここが貴様らの墓場だ。……我が軍団の真の恐怖を、ここで返り討ちにして教えてくれるわ……!」

ディセプティコンたちの凶悪な駆動音と咆哮が地下ドックに渦巻き、永久凍土の要塞は、近づきつつある決戦に向けて、冷徹なる戦闘態勢へと移行していくのだった。

 

023

およそ30分後。

小型探査艇『こばんざめたろう』は、気の抜けたナビ音声を響かせながら、超高速で凍てつくオホーツク海と北極海を抜け、エニセイ川を溯り、遂に目的地――ロシア・シベリアのど真ん中へと到達した。

ガガガガガギギィィィッ!

激しい衝撃と共にハッチが油圧の音を立てて開き、僕らはすし詰め状態のシートから、這い出るようにしてシベリアの雪原へと飛び出す。そこは息をするだけで肺が凍りつきそうな極寒の世界だった。

しかし、僕たちを待っていたのは寒さだけではない。

「暦、全員無事か!」

雪煙を巻き上げながら、地響きのような駆動音と共に現れたのは、オプティマス・プライム率いるオートボットの精鋭たちだった。

どうやら彼らは、僕たちが海中を進んでいる間に、この極北の地まで一足先に辿り着き、上陸を待っていたらしい。

「オプティマス……!ああ、皆無事だ!」

僕が髪を凍らせながら叫ぶと、オプティマスは重厚な頭部を縦に振り、即座にその青い光学センサーを彼方の地平線へと向けた。そこには、吹き荒れる吹雪の向こうに、要塞じみた旧ソ連の秘密研究所がそびえ立っている。

「時間がない。ディセプティコンはすでにショックウェーブの解凍作業を進めているはずだ。私たちが正面で敵を引きつける。バンブルビーは暦らを援護し、研究所への侵入ルートを確保するんだ」

オプティマスはさらに、周囲のオートボットたちを見渡した。

「研究所への突入は未知の危険を伴う。シベリアの永久凍土をくり抜いた地下要塞だ。……志願兵を募る!」

その言葉に、即座に前に出たのは、両腕に電磁ムチを展開した青い技術兵ジョルト、そしてバイク型オートボットの3姉妹から、アーシーとクロミアだった。

「私が彼女たちの道を切り開くわ」

と、アーシーの鋭い電子音が響く。

それを見たドラマツルギーが、巨大な体躯をすくめながら、僕たちを一瞥した。

「おい、少年。我々がお前たちと一緒に動くと、図体がデカすぎて正面から目立つ。ここからはエピソードと二人、先に行かせてもらう。研究所の内部で合流しよう」

「えっ、ちょっと、ドラマツルギー!?」

僕が呼び止める間もなく、隣にいたエピソードが「じゃあな、阿良々木。死ぬんじゃねえぞ」と不敵に笑い、その身体を瞬時に白い『霧』へと霧散させた。ドラマツルギーもまた、雪原を爆発的に蹴り上げ、凄まじい跳躍力で吹雪の中へと消えていく。

「すまない、プライム。吾輩は少しばかり翼の修復に時間を貰いたい……」

背中から火花を散らすデプスチャージの申し出に、オプティマスは静かに頷くとバトルマスクをガチリと顔面に展開した。

「了解した。……オートボット、出動だ(roll out)!」

ビークルモードに変形し、雪原を進むオートボット達。

だが、オプティマスの上空に不穏な影。

「貴様だけは通さんぞ、プライム!」

「そうだ、プライム!吹き飛べよっしゃああい!」

曇天を割り急降下してきた紺のAC-130に深緑のAC-130。

爆撃参謀ドレッドウイングとその弟、突撃爆撃兵スカイクエイクがロボットモードで飛行しながら、オプティマスに全身の火器を連射した。

機銃、ミサイル、そして禍々しい紫色のパルスビームが、凍りついた大地を激しく穿ち、大量の雪と土砂が巻き上がる。

ロボットモードに変形したオプティマスはイオンブラスターで応戦するも、彼とオートボットの本隊は完全に分断されてしまった。

「オートボット、研究所に向かえ!」

その時だ。

ドガァァァァァァァンッッ!!!

地平線の向こうから、凄まじい砲撃の音が轟いた。

待ち構えていた陸戦師団コンバッティコンの戦術参謀オンスロートが、左腕の巨大な2連キャノン砲を咆哮させながら、防衛線の先頭で吠える。

「行け、ブリッツウイング!『ロングパス』だ!」

「こいつでくたばれ、オートボット共メーン!」

トリプルチェンジャーのブリッツウイングが、遠方からレオパルト2形態で焼夷榴弾の雨を降らせる。

それを合図に、鋼鉄と火花が激突する激闘のシベリア戦役の火蓋が切って落とされた。

 

024

激しい砲火の爆音を背後に聞きながら、僕たちはバンブルビー、ジョルト、アーシー、クロミアの護衛のもと、雪原を駆け抜けて旧ソ連の秘密研究所へと到着した。

目の前にそびえ立つのは、装飾の欠片もない、無骨で巨大な灰色のコンクリート建築だ。かつて世界の目を盗んで建造されたというその要塞は、今やディセプティコンたちの巣窟へと変貌していた。

「――待たせたな」

壊れた外壁の隙間から滑り込むようにして中に入ると、暗がりの廊下から、すでに霧から実体に戻ったエピソードと、フランベルジェを携えたドラマツルギーが音もなく合流した。

「静かすぎるな……。外の大騒ぎが嘘のようだ」

ドラマツルギーが周囲を警戒する中、僕たちの前をトコトコと歩いていた小型TFのブレインズが、頭部の配線をピコピコと動かしながら、壁に投影したホログラムマップを指し示した。

「へへっ、地上のバカどもが派手にドンパチやってくれてるおかげで、内部の警備システムは一時的にガタガタだぜ。このまま最短ルートでショックウェーブのいる最下層の凍結サイロまで突っ走るぞ!」

しばらくの間、僕たちは湿った冷気が満ちる薄暗いコンクリートの廊下を静かに進んでいった。

壁の片側は水族館の巨大水槽を思わせるガラス張りになっていて、その向こう側はエメラルドグリーンがかった青色をした澄んだ水で満たされている。

どうやら、研究所の貯水槽のようだ。

「……綺麗ね。これで魚の群れとかサメとか泳いでいたら、それこそ水族館みたいで良かったのだけれど」

ひたぎが呟く。

こんなところにサメがいたら、それはもうパニックホラー映画か何かなのよ。

 

「――ひたぎちゃん。それ以上動かないで」

ブレインズと共に先頭にいた羽川が急にひたぎを制止した。

見ると、僕らの行く手の天井に光学センサーを赤く光らせた監視カメラが設置されていた。

慌ててカメラの死角に隠れる僕たち。

「……ソ連はもう引き上げたんじゃないのかよ……!」

僕は声を潜めて呟く。

「……いや、あの形状はロシアの物じゃない。ディセプティコンが新たに設置したものだと思う」

と、羽川。その言葉にブレインズが反応した。

「…それなら俺がハッキングできるはずだぜ。待ってろ、連中の司令部に送られる映像をちょっと改ざんして――」

数秒後、カメラのセンサーが青色に変わる。

ブレインズによって映像がすり替えられたサインだ。

大急ぎで僕らはその下を通過する。

 

無骨な階段を下りた、地下2階。

蛍光灯がチカチカと明滅し、不気味な静寂が足音を大きく響かせている。

その時、爪先に何かが当たった。カツン、と金属特有の重い音が響く。

ひたぎが歩みを止め、それを滑らかな動作で拾い上げた。

 

「――トカレフTT-33。ソ連軍の制式拳銃だね。かなり古い型だけど……保存状態は悪くないみたい」

羽川の言う通り、それは、酷く無骨で、油の匂いが染み付いた一丁のトカレフだった。

かつて、この研究所を警備していたソ連兵が遺したものだろうか。

エピソードが呆れたように瞳を細める。

「おいおい、姉ちゃん。そんなの拾ってどうすんだよ? 使い方なんか解んのかよ?」

ひたぎはトカレフの冷たいスライドをカチャリと器用に引き、銃口を誰もいない暗闇の奥へと向けながら、極めて冷淡に、しかし完璧な美しさを保ったまま呟いた。

「敵に向かって撃てば良いのよね? 取扱説明書を読んだ事は無いけども、映画で撃ってるのは見たわ」

「ははっ、マジかよ! 初見でトカレフぶっ放す気か? 超ウケる!」

エピソードが声を立てて笑う。こんな絶望的な状況だというのに、彼女の辞書には「怯え」という文字が一切存在しないかのようだった。

この1年間くらい文房具を手放せていたかと思ったら、今度は銃器を持ち始めて、彼氏である僕としてはお前の将来が少し不安だよ。

 

その頃。

僕たちの目指す、地下深く――ショックウェーブの凍結サイロ。

「……ふん、このテクノロジーなら、俺様もよく知っているぞ」

巨大な氷塊を見上げるメガトロンが、崩壊した顔面を歪めながら、忌々しそうに低く唸った。

「かつて、あの羽虫のような人間どもが、これと似た未熟な冷凍装置を使い、この俺様を『NBE-1』などと呼び、長きにわたって凍らせていたからな……」

彼は、青い氷の奥で静かに佇む単眼の巨躯を見つめる。

「ショックウェーブ。お前ほどの天才科学参謀が、この辺境のソビエトの地で、俺様と同じように氷漬けの運命をたどっていたとはな。まったく、皮肉なものよ」

氷塊の内部。

ショックウェーブの単眼が、メガトロンの言葉に応えるように一瞬だけ微かに明滅した。

ピッ……。

「…………」

ノックアウトが作業の手を止める。

「……今、動きましたか?」

フラットラインが静かに頷く。

「……お目覚めのようだ」

メガトロンは口元を歪めた。

「そうだ……目覚めろ、ショックウェーブ……」

その時だった。

彼の巨躯に繋がれていた分子凍結ガスの太い供給チューブを、慌ただしく外していたシャドウレイダーズの内の1人が、手元を狂わせた。

「あ、あっ……!?」

プシュゥゥゥゥゥッッ!!!

接続部から漏れ出た、絶対零度に近い白濁したガスが、勢いよくメガトロンの右半身へと吹きかかった。

「ッ……!」

瞬時にメガトロンの頑強な装甲がバリバリと凍りつき、白い霜に覆われていく。

次の瞬間、メガトロンは警告も、怒声すらも発しなかった。ただ、瞬きもせぬ間に、右腕のフュージョンカノンが冷酷に跳ね上がった。

ズドォォォォォォンッッ!!!

至近距離からの容赦ない大砲撃。エネルギー弾は、失策を犯したシャドウレイダーの上半身を完璧に撃ち抜き、木っ端微塵の鉄屑と半透明の液体へと変えて背後の壁にぶちまけた。

「……愚か者が」

メガトロンは冷たく吐き捨てたが、その直後、彼の右腕からバチバチッ!と激しいショートの火花が散った。

エジプトの決戦でオプティマスに叩き壊された満身創痍のダメージ、そして今、不意に浴びてしまった分子凍結ガスの極低温。

ノックアウトによって強引に繋げられていただけにすぎなかった右腕が負荷に耐えかね、限界に達するのは簡単なことだった。

メガトロンの代名詞であるフュージョンカノンの砲身の一部が、ミリミリと不快な音を立てて亀裂を生じさせる。

「ぬぅ……、おのれ……!やはり、限界が近いか……!」

破壊大帝は、自身の制御能力の低下に激しい焦燥を覚えながら、凍りついた右腕を忌々しそうに握りしめるのだった。

 

025

一方、地上ではオートボットとディセプティコンの戦闘が完全に泥沼化していた。

ディセプティコンの前線では、黒い傭兵集団シャドウレイダーズ、コンストラクティコン衛生兵フック、そしてコンバッティコンのブラストオフやヘイルストームが強固なスクラムを組み、圧倒的な火力でオートボットの進撃を阻んでいた。

空からは、再編成されたシーカーズの航空部隊が、音速を超えてシベリアの空を切り裂き、地上へと絶え間なくミサイルの雨を降らせる。

地上の泥だらけの雪原では、アイアンハイドがヘビーアイアン1.0を乱射していたが、不意にカチカチと虚しい作動音が響いた。

「クソッ! どいつもこいつも装甲が厚いやつばかりだ! 弾薬が足りねえぞ!」

その時、後方から不格好な程に巨大な兵器を担いだホイルジャックが、豪快な笑い声を上げながら飛び出してきた。

「ハハハ! 案ずるな、アイアンハイド! ここは、この完成したばかりの我が特製『ショックキャノン砲』を試す時だ! よし、行くぞぉ!」

ホイルジャックが引き金を引いた瞬間、青白い超高出力のプラズマエネルギーが一直線に放たれた。

ドガァァァァァン!

運悪く、上空から超音速で突っ込んできていた新シーカーズのラムジェットの脳天に、その一撃がクリーンヒットする。

「ぶはっ!? な、何だこの光はぁぁぁ!」

制御を失ったラムジェットは、きりもみ回転をしながら雪原へと激突し、一時的に戦闘不能となった。

それを見た隣のスラストが、大慌てでスラスターを逆噴射させる。

「ああ、だから言わんこっちゃない! 突っ込むなと言っただろ、このマヌケが!」

 

その時、前線のオンスロートが吠える。

「ドレッドウイング!『フォーメーション・ゾーンディフェンス』を開始しろ!」

「了解した!おい野郎ども、行くぞ!」

「「おうよッ!!」」

グォォォォォォォォンッッ!!!

爆煙が渦巻く鉛色の空を引き裂き、紺色のAC-130ガンシップが、その主翼から凄まじい逆噴射の炎を吹き上げながら、ホイルジャックたちの目の前へと垂直に急降下してきた。

重厚な金属音と共にロボットモードへと変形したのは、爆撃参謀ドレッドウイング。

さらに時を同じくして、左右の雪原から地響きを立てて突進してきた2台の重車両が、激しくパーツを噛み合わせながらその両脇を固める。

ハンヴィーから変形した詐欺師スィンドル、そして黄色のダンプカーから変形した輸送兵ペイロードだ。

中央に佇むドレッドウイングは、一対の赤い目をギラリと発光させると、両手で巨大な大型プラズマビームキャノンをガチリと構えて冷徹な声を張り上げた。

「――撃て!」

彼らが一斉に引き金を引いた瞬間、シベリアの戦場は文字通り「無」へと還るほどの破壊の光に包まれた。

ドバババババババババババガァァァンッッ!!!

ドレッドウイングの大型プラズマビームキャノンから放たれた極太の光線が一直線に雪原を焼き払い、スィンドルの三連装ランチャーから射出されたクラスター弾が頭上で炸裂、さらにペイロードの両腕から放たれた無数のミサイルが、狂暴な雨となってオートボットの陣地へと降り注ぐ。

あまりの圧倒的な弾幕の暴力に、シベリアの永久凍土は容赦なく数百メートルにわたって抉り取られ、爆炎と融解したアスファルトの黒煙が視界を完全に遮った。

「こいつは参ったね……!――ぬわぁッ!」

ホイルジャックが辛うじてミサイルを叩き落とすが、爆風に吹き飛ばされて雪原を何回転も転がる。

「ホイルジャック、下がってろ!」

アイアンハイドがヘビーアイアンで応戦するものの、ドレッドウイングたちの形成する絶対的な火力網の前に、オートボットの前線は完全に釘付けにされてしまっていた。

 

026

地下3階。

地上の狂乱と爆音をはるか頭上に聞きながら、僕たちは旧ソ連の秘密研究所の、最も深く、最も冷たい最深部へと潜入していた。

眼下を見下ろした瞬間、僕はその異様な光景に全身の血が凍りつくような感覚を覚えた。

空間の中央には、すでに大半が融解し、激しく水蒸気を吹き上げている巨大な氷塊。そして、その奥から剥き出しになりつつある鋼鉄の巨躯――。

「あれが……最強の参謀……!」

僕の口から、驚愕の呟きが漏れる。

モニターや伝聞でしか知らなかったディセプティコンの科学参謀ショックウェーブの姿は、これまで見てきたどのトランスフォーマーとも異なり、おぞましいほど機能美と暴力性に特化していた。

全長は優に10メートルを超え、胴体には不気味な生物の肋骨を思わせる、強固な装甲の造形が施されている。

頭部の左右からは、悪魔を連想させる湾曲した短い角が突き出し、その中央に、感情の欠片も存在しない無機質な一つの赤き単眼が据えられていた。

そして何より異様なのはその両腕だ。右腕には、それ自体が巨大な要塞砲かと思わせるほどの超大型キャノン砲が装備され、左腕には、あらゆる物質を両断せんとする巨大なブレードが怪しく鈍色の光を放っている。背中には3つの巨大なシリンダーのようなエネルギー増幅装置がそびえ立ち、そこから太い動力チューブが右腕のキャノン砲へと複雑に絡みつくように繋がっていた。

そのショックウェーブの背後のシリンダーに、ミックスマスターの精製した抽出装置が接続されていた。

太い半透明のチューブの中を、禍々しい紫色の光を放つ液体エネルゴンが、ドクドクと脈動しながらショックウェーブの機体へと注ぎ込まれている。

 

そして、そのエネルギーの供給源となっているのは、中央の祭壇のようなシステムに組み込まれた、二つのカプセルだった。

「――八九寺!」

僕は叫んでいた。

一つのカプセルの中では、サイバー・ネットの触手に絡め取られた忍の心臓が、苦しげに赤黒い脈動を繰り返し、その隣のカプセルでは、八九寺真宵が同じく苦しげに眉を顰めて気を失っている。

「遅かった……! もうエネルギーの注入が始まってる!」

「不味い、ショックウェーブが復活しちまう!」

ブレインズが頭部の配線を文字通り逆立てて叫んだ。

「見て!エネルギーの流入が危険域にまで達してる、あの装置を止めないと!」

羽川の言う通り、計器に示された数値が、またたく間に危険な領域にへと跳ね上がっていく。

「――私に任せろ!」

その瞬間、僕たちの背後から、青いシボレーボルト――技術兵ジョルトが猛然と突入した。

変形と同時に、彼の両腕から眩い電磁の光を放つエレクトロウィップが展開される。

続いて、バンブルビーとアーシーが、目にも留まらぬスピードで走り込みながら、腕のブラスターを抽出装置の制御パネルへと叩き込んだ。

ズバババババババババッ!!!

ドガァァァァァァァンッッ!!!

激しい銃撃により、エネルゴン抽出装置の一部が派手な火花を散らして爆発する。

「ああ! 私の美しいボディに傷が! なんて野蛮な連中だ!」

爆風の煤を浴びたノックアウトが、自身のチェリーレッドの装甲を押さえながら悲鳴のような声を上げた。

「ええい、黙れぃ! 者共、侵入者を破壊しろ!」

「オオオォォォッ!」

メガトロンの怒号に応じ、周囲に控えていたフラットラインやミックスマスター、ブレークダウン、そしてロックダウン一派が一斉に武器を構えた。

「これでも喰らえ!」

乱戦の最中、ジョルトが果敢にショックウェーブの背後のメイン制御盤へと肉薄した。彼の両腕のエレクトロウィップが、青白い電撃を放ちながら制御盤の基幹回路へと叩きつけられる。

バリバリバリバリバチィィィンッッ!!!

強烈な過電流がシステムを駆け巡り、過負荷を起こしたエネルゴン抽出装置のシリンダーが次々と爆発を始めた。

「よし、注入を中断したぞ!」

『今だ、暦!』

バンブルビーがディセプティコンの攻撃を遮る防壁となり、僕に進むべき道を切り開いてくれる。

 

その隙を見逃さず、僕は、ひたぎと羽川の制止を振り切って、爆煙の中へと飛び出していた。

「忍……!」

装置のラッチが外れ、床へと転がり落ちたカプセル――その中に収められた忍の心臓を、僕は必死の思いで両腕に抱え込んだ。冷たい金属の感触と共に、ドクドクという忍の鼓動が腕を通じて伝わってくる。

僕は心臓をカプセルから取り出すと、急いで影の中に沈み込ませた。

(う……お、お前様……)

影からの声と共に、忍の身体が少しずつ活力を取り戻していくのがペアリングで僕にも伝わってくる。

……成功だ。

「八九寺!」

続けて僕は八九寺のカプセルへ手を伸ばそうとする。

だが。

「メガトロン様!エネルギーが奪われます!」

化学兵ミックスマスターが叫ぶと同時に、背中のキャノン砲を展開。

酸弾が僕の目と鼻の先を掠め、強制的に足止めさせられてしまう。

その隙をついて、破壊大帝はロックダウンに目を向けた。

「賞金稼ぎ、小娘を回収して、宇宙船に向かえ!それはまだショックウェーブの為に必要だ!」

「了解した。では、後ほど合流しよう」

ガシィィィィィィィンッッ!!!

彼の手から不気味なフックアタッチメントが伸び、八九寺のカプセルを強引に引き剥がした。

「悪く思うな、お嬢ちゃん。契約なんで夜露死苦」

賞金稼ぎロックダウンは、冷酷な光学センサーを光らせながら、八九寺の身柄を瞬時に自身のシステムへと回収する。

「しまった――」

一方、ドック内は完全に混沌とした乱戦状態に突入していた。

「壊すのだ~い好きぃ、ブレークダウン!ミサイル発射ァ!」

騒々しく叫びながらブレークダウンが肩のミサイルランチャーを発射し、ミックスマスターがキャノン砲台に変形してプラズマ弾を乱射する。

アーシーらはそれらを躱してアームキャノンで反撃するも、決定打を与えられない。

小柄で潜入がしやすいということは、裏を返せば戦闘に不向きだということでもある。

僕らとオートボットは防戦を強いられるばかりだった。

「オートボットめ、溶け落ちろォ!」

「ブレークダウン、ミサイル発射ァァッ!」

「おいおいお前ら、俺の執刀の邪魔をするな!」

黒い装甲の野戦外科医フラットラインが、地を這うような駆動音と共に背中の隠しアタッチメントを展開した。

彼の背後から、不気味にうごめく4本の金属製サーボアームが、蜘蛛の脚のように立ち上がる。その先端には、超振動で空間を震わせる、無数の巨大なレーザーメスや鋸刃がギラギラと輝いていた。

「カルテにお前たちのスクラップの名を刻んでやる!」

フラットラインが狂ったようにアームを振り回し、迫り来るアーシーたちの装甲をベキベキと切り裂いていく。

この世で一番医師を名乗ってはいけない人物(いや、トランスフォーマーか)を見ている気がした。

 

だが、その狂乱の全てを。

世界の動きそのものを、一瞬にして完全に停止させる『音』が、地下ドックの底から響き渡った。

キィィィィィィィィン……。

システムが完全に停止したはずの、ショックウェーブの胸部から、重低音の駆動音が鳴り響いた。

そして――。

ザザ、と氷の破片が崩れ落ちる音と共に、ショックウェーブの頭部中央にある、ただ一つの巨大な単眼に、血のように昏い、冷徹極まる紅蓮の光が灯った。

「「「……!」」」

オートボットも、ディセプティコンも、そして僕たち人間も、その場にいた全員が動きを止め、息を呑んだ。

空間全体が、まるで絶対零度の氷の中に閉じ込められたかのように、完全に静まり返る。

ただ一つ、動き始めたのは、長き凍結から目覚めたばかりのディセプティコンの科学参謀だった。

ショックウェーブは、自身の身体にまとわりついていた残りの氷塊を、マッシブな筋肉質の装甲をミリミリと鳴らすだけで、一瞬にして粉々に粉砕した。

彼は、周囲の状況を一切気にする風もなく、ただ淡々と、機械的な動作で右腕の超大型キャノン砲のエネルギーを充填し始めた。

ギィィィィィィィン……ボォォォォォン……!

背中の3つのコアが怪しく発光し、動力チューブを通じて、右腕の砲身へと爆発的なエネルギーが集束していく。

その単眼は、自身の目覚めを妨害しようとした、目の前の青いオートボット――ジョルトの姿を、完全に『排除すべき対象』としてロックオンしていた。

「不味い、動きに迷いが無いよ。彼は今の状況を完全に理解してる!」

羽川の言葉に僕は戦慄する。

こいつは凍っていた100年間、ずっと意識を保ち続けてきたのか。

そんな化け物が今、解凍され、解き放たれたのか。

「……おい、早く逃げ――」

ジョルトが僕たちを守るために前へ出た瞬間だった。

ズバァァァァァァァァァンッッ!!!!

音さえも置き去りにする、ショックウェーブの右腕からの超高出力の一撃が、地下ドックを一瞬にして真っ白な閃光で染め上げた。

「え……?」

僕の目の前で、ジョルトの胸部が完全に撃ち抜かれ、彼のスパークが内部から大爆発を起こした。

凄まじい爆風と鉄屑の雨が吹き荒れ、さっきまで僕たちを護ってくれていた彼の身体が、一瞬にして木っ端微塵に吹き飛んだ。

「ジョルト!」

クロミアが絶叫する。しかし、地獄はそれだけでは終わらない。ジョルトの爆発の爆風に紛れ、情報参謀サウンドウェーブが冷酷に一歩前へと踏み出していた。

「……排除する」

彼の肩に装備されたエレクトリックミサイルランチャーが火を噴くと同時に、彼の胸部装甲と両腕に備え付けられたスピーカーが激しく振動し、爆音による超高周波音波攻撃が放たれた。

ドゴォォォォン! ドバババババッ!!!

「――!」

至近距離でその衝撃波とミサイルの直撃を同時に浴びたクロミアは、悲鳴を上げる間もなく装甲をズタズタに引き裂かれ、床へと激しく叩きつけられて沈黙した。

「姉さんをよくも!!」

アーシーが叫び、自身のブラスターを狂ったように連射するが、サウンドウェーブはショックウェーブの陰に隠れ、弾幕を回避する。

一瞬にして二人の仲間を失うという、圧倒的な、そして絶望的なまでの戦闘力の差。

最強の参謀の目覚めから、わずか数秒で戦局は完璧に、そして致命的に崩壊した。

「あ、ありえない……、何なんだよ、あいつは……!」

僕は忍の心臓を抱えたまま、足の震えを止めることができなかった。

これまでのディセプティコンとは、文字通り次元が違う。

その時、視界の端で賞金稼ぎが漆黒のランボルギーニ・アヴェンタドールに変形するのが見えた。

八九寺の入れられたカプセルがランボルギーニのリアに繋がれ、運ばれていく。

八九寺が、ディセプティコンの電池ケースへと、運ばれていく。

そんなの絶対に許さない。

「…ビー!ロックダウンを追って!あいつだけは――」

『了解だ、暦!』

ビーがカマロに変形し、僕らが乗り込んだ事を確認するとV8エンジンを轟かせ、発進した。

アーシーも弾幕を躱しながらも赤いドゥカティ848に変形し、エピソードが跨る。

 

「虫けら共を捕らえろ!」

「了解!」

後ろからはメガトロンの怒号と共に、サウンドウェーブとカセッティコンらが猛スピードで迫ってくる。

僕たちは、目の前にそびえ立つ圧倒的な絶望から逃れるように、八九寺を連れ去った賞金稼ぎと――それにディセプティコンの追っ手と地獄のカーチェイスを開始した。

 




次回豫告
「千石撫子です」

「月火だよ!」

「今日は2人で理科の話をします!」

「え、あの撫子ちゃんが!?あの勉強できない系で引きこもりの撫子ちゃんが!?」

「いや、そこまで言わなくても……生物くらいはできるからさ。他と比べてだけど……」

「じゃあ、私から生物と言えばで有名な言葉を一つ。――『最も強い者が生き残るのではなく、最も適応できるものが生き残る』。これは一体誰の言葉でしょう?」

「何か、早速月火ちゃんに乗っ取られてる……。えっと、ダーウィンの『進化論』だったっけ……?」

「と言いたいところだけど、ダーウィン本人の言葉じゃないんだよね〜」

「え?違うの?言ってないセリフシリーズ!?」

「そう!あれは後世の人が要約したような言葉で、ダーウィン自身の著書にそのまま書いてあるわけじゃないんだよ」

「でもダーウィンって、あの人でしょ?猿の体に人間の顔がついてる人」

「それは風刺画!彼が唱えた『人間は猿と共通の祖先から進化した』と言う主張への批判とか皮肉で書かれたのであって、ダーウィン自身は普通の人間だよ」

「へぇ〜。でも、進化って面白いよね。環境に合わせて、生き残れるように変わっていくんでしょ?」

「まあ、ざっくり言えばそういうことかな?個体じゃなくて世代単位の話だけど」

「じゃあ、人間もこれから進化するのかな。ちょっとずつ私達も変化してるらしいし」

「私も進化できるといいな〜」

「……あれ、そういえば月火ちゃんって」

「「次回、こよみウェーブ其ノ伍!」」

「撫子ちゃん、何か言った?」

「ううん、何も言ってない!」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

夢の力で青春を手助け(作者:ライダー志望)(原作:ブルーアーカイブ)

何故かゼッツ由来の夢の力を持ってキヴォトスで生活する青年の日記。


総合評価:1149/評価:8.71/連載:35話/更新日時:2026年09月03日(木) 11:45 小説情報

シャーレのレオン・S・ケネディ先生(作者:マルチ投稿?できらああ!!)(原作:ブルーアーカイブ)

*本小説はバイオハザードレクイエムの重大なネタバレを含みます▼ていうかRE4のネタバレも含みます▼バイオハザードレクイエムの主人公の一人。レオンが、キヴォトスに”シャーレの先生”として就任することに▼「…化物退治の専門家から先生か、人生何が起こるかわからないとはいうが…」▼「…泣けるぜ」


総合評価:1541/評価:8.54/連載:8話/更新日時:2026年07月24日(金) 15:00 小説情報

白亜紀からこんにちわ(作者:VISP)(原作:超かぐや姫!)

白亜紀に転生してしまったとある転生者は発狂した後にチートはそのままに完全に人外へと変じてしまった。▼得たチートはあの怪獣王ゴジラのボディ。▼古代の地球で生き続けるある日、永い時を生きる彼の元に怪しげなタケノコが現れてから本当の物語が始まった。▼徒然なる中·短編集より独立しました。


総合評価:5959/評価:8.77/連載:46話/更新日時:2026年08月28日(金) 19:59 小説情報

ダンジョンに元水神がいるのは間違っている(作者:白黒ととか)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

フォカロルス絶対生かすマンが好き勝手した結果▼水神の神座を簒奪して自分ごとぶっ壊してフォカロルス生きてるし?▼多分フォンテーヌ人は生きてるやろうし?みんなハッピー(妄想)になった後なんか生きとるやんけ我!好き勝手生きたろした話▼原神の描写はほとんど無い▼主人公はフリーナを名乗る見た目だけの別人です。▼


総合評価:8067/評価:8.77/連載:19話/更新日時:2026年07月19日(日) 16:00 小説情報

新人先生はネタバレ生徒しか引けない(作者:KuRoNia)(原作:ブルーアーカイブ)

シャーレに着任したばかりの先生が、シッテムの箱で見つけた『募集』機能。▼それは、シャーレに入部届を出している生徒をランダムで呼び出す、いわゆるガチャのようなものだった。▼軽い気持ちで初回募集を行った先生の前に現れたのは、臨戦状態のホシノと黒いドレス姿のシロコ。▼だが先生は、まだアビドスにも行っていない完全な新人先生だった。▼「うへ……最序盤じゃん」▼「ん、ネ…


総合評価:13279/評価:8.89/連載:74話/更新日時:2026年09月04日(金) 01:10 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>