淡海乃海 ~麒麟が駆ける時~   作:無難

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第三章:跳躍
公方様


天文二十二年(1553年) 八月  近江高島郡朽木谷  岩神館  竹若丸

 

「くーぼーさま!」

 

今日は公方様の御一行が来られる日だ。

 

「お~、竹若丸よ、久いのぉ!」

 

駆け寄ると公方様は笑って吾を抱き上げてくれる。

 

その手に抱き上げられるのがとても心地いい。

 

そして、おじいを見て笑って話しかける。

 

「民部少輔、また世話になる」

「はっ」

 

公方様のお言葉に、吾も胸が熱くなる。

いつも、公方様は我らを機にかけてくださる。

有難い。公方様がいることで高島越中は手も出せないのだから。

 

「竹若丸よ、随分と大きくなったな」

「お、恐れ入ります。朽木をた、たよっていただけました事、うれしく思いまする」

 

先程まで抱き上げてくれた時とは変わって形式を重んじて、おじいやはーうえから教わった方法であたまをさげる。

くぼーさまは家臣を五十人程引き連れ朽木にやってこられた。岩神館の大広間には義藤公が上座に座り家臣達が左右に分かれて座っておられる。その中には四人の叔父上達も居る。吾と御爺は下座で御挨拶だ。

 

まぁ、それ以前に米の買い入れが間に合って良かった。

もう少しでこの方たちに稗と粟を食わせる所だったわ。そんな事になったら二度と朽木を頼る事は無くなるだろう。

でも、三百貫も必要になるとは・・・・

公方様を受け入れるといった時の家臣、特に平九郎の目が嫌そうになったのは何となくだが分かる。

この四年で発展し、強くて繁栄する朽木になったとはいえ先のことは分からぬ。

出来る限り貯金しておきたい気持ちもわかる。

だったら、公方様を受け入れないほうが良いのか?

 

否、食費は朽木を守るための必要経費だと割り切れ。いや、必ず取る!

見てろよ、平九郎!

 

「懐かしいの・・・」

 

義藤公が呟く。

公方様は3年前も、岩神館に来られた。

しかし、こうも何度も滞在されることは異常なのでは?

 

吾も御爺に聞いた。だが良く分からなかった。足利、細川、三好、そして畿内の武将達。ついでに坊主達も関わっているらしい。

ちーうえも、このよく分からぬ争いに公方様の御味方をして高島越中と戦ったことが原因で死んだ。

今後のことも考えて人を用意して調べさせるか?

 

「それにしても無念じゃ、また筑前めに追われるとは……」

 

義藤が俯いてハラハラと涙を流した。

公方様の涙を見て御家臣の方々や御爺や叔父上も泣いている。

 

 

 

 

 

 

いかん、吾も泣く振りをしよう。

よく分からなくても、とにかくここは絶対に他の方々とは異なることをしてはいかぬ。

 

何故か?

 

ちーうえが死んで当主になった時、吾は御爺や人の心の色が見えるになった。

 

しかし、この場では絶対に公方様の顔を見てはいかぬ。

 

三好のことになると公方様は人が変わってしまう。

 

一瞬見ただけでも分かるのだから・・・

 

 

 

 

 

 

だって、公方様の後ろから見たこともない真っ白のようで、真っ黒な"何か"が首をもたげて我らを見ているのだから・・・・・・・・・・・

 

 

 

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"お前は俺のためになるのか?"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

天文二十二年(1553年) 八月  近江高島郡朽木谷  朽木城  竹若丸

 

夕刻になると朽木城の大広間に朽木一族、主だった家臣達が集まった。当主である吾と御爺が正面に坐り他は皆左右に分かれて坐っている。俺が皆を呼んだ、これからどうなるのか、その予測をする必要が有る。

 

「父上、竹若丸殿、この度は面倒をかけます。公方様もお二人に宜しく伝えてくれとの事でした」

 

一番上の長門守の叔父上が頭を下げると左兵衛尉の叔父上、右兵衛尉の叔父上、左衛門尉の叔父上の三人が頭を下げる。

叔父上には内心頭が下がる思いがある。叔父上に少しでも欲があれば吾は当主の座を奪われていたかもしれないのだから・・・・

 

「儂も竹若丸も面倒とは思っておらぬ。それより皆無事で何よりであったな」

「はっ」

 

御爺の言葉にまた四人が軽く頭を下げた。

 

「ところで、京での生活はいかがですか?仕送りもしておりますが、生活できておりますか?」

 

吾が聞くと、叔父上たちは少し決まづい顔になって固まる

 

「?何かありました?」

「あ、いや、仕送りを貰って助かっております。ここ最近は京での物の値が上がって、仕送りがないと生活に困ってしまいますので・・・・」

 

長門守の叔父上が、他の叔父上たちに代わって吾の問いかけに答える。

 

「?それならばいいのですが、」

 

吾は呆ける。

だが、これはとても重要な情報だ。後で重蔵に細かいことを調べさせよう。

 

「さて、仕送りの話は置いておいて、叔父上方、京を奪還する手立てだが公方様達は如何考えておいでかな?」

 

「竹若丸殿の言う通りだ。六角の腰は重い、どうにもならぬ。かと言って六角の兵力無しに京を奪還出来るとも思えぬ。そこで六角の腰を上げさせるために朝倉をと考えている」

「無理だろうな」

 

吾の簡潔な答えに殆どの者が驚いている。だが、一部の者、荒川平九郎や宮川又兵衛貞頼が頷く。

 

「・・・な、、何故?」

「加賀の一向一揆だ」

 

動揺する叔父上の質問に吾は再度簡潔に答える。

だが、これでは分からなかったのだろう。

皆が見つめてきたので吾は理由を言う。

 

 

「朝倉にとって加賀の一向一揆は"鎮めるべき弱き者"ではない。

守護を倒して国を奪った、つまり"朝倉の地位を脅かす敵"なのだ」

 

そこまでいって、茶を一口飲んでから続ける。

皆は緊張した面持ちで吾を見ている。

 

「それと同時にこれは公方様の権威に対する明確な敵対と考えることができる。一方で三好は公方様と敵対しても征夷大将軍であられることは否定していない。守護を名乗り、武家の棟梁として認めている。朝倉からしてみれば"一向衆と和睦して上洛せよ"という命は"公方様は正気か?"と疑うような話であろうな・・・・」

 

今度は茶を飲み干す。

 

「更に言うなら、三好を崩すためには三好領内の中にいる石山の本願寺とも連携が必要になるだろう。

だが、分国となっている加賀と敵対する朝倉がいると一向一揆は三好に味方するだろう。

そうなると六角の背後にいる長島の一向一揆も動くだろう。

どちらにしても、状況は良くないな」

 

吾の話に納得したのか、叔父上たちや家臣たちは渋い表情になる。

この考えなら朝倉、六角がいてはどちらにしても、公方様の上洛に障害になってしまう。

 

朝倉と六角の連合で上洛するのは一向一揆をどうにかしないと無理だろう。

 

五郎衛門や左門はう~むと唸っている。

田沢又兵衛や新次郎は表情の動きが少ないが、吾の話に納得しているのがわかる。

 

さて、どうするべきだろうか・・・

動かすなら、六角や朝倉は避けるべきであろう。

だとすると、何処が良いのだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

っていうか、公方様はもっと強いから征夷大将軍なのではないのだろうか?

何故、他の守護に頼み込まないと上洛できないのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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