淡海乃海 ~麒麟が駆ける時~   作:無難

22 / 32
小谷城追撃

天文二十三年(1554年) 九月十一日 子の刻(午前0時頃) 近江高島郡  海津西内城  浅井久政

 

ドカドカ、

ガシャガシャ、

 

・・・・皆疲れ切っておるな・・・・

 

丸一日中寝ることなく、ここに逃れて来たのだから、仕方ない。

 

朽木と石田川で激突して我らは敗北した。

ついでに水軍も舟木城を攻め落とそうとしたが、朽木の水軍に敗北したらしい。

唯一の希望は遠藤喜右衛門は儂の兜を使って朽木竹若丸に近づいて殺そうとしたが、放った鉢屋衆によると朽木は進軍を停止して勝鬨を上げずに静まり返っている。

朽木竹若丸は死んだか、手傷を負った混乱で、朽木は動けなくなっているのではないかと考えられる。

 

儂は命からがら六百の兵とともに、この城に逃げ込んだ。

城には四百ほどの兵がおり、兵糧などを守っていた。

ここなら、朽木も攻めてくることはなかろう。

後は若狭を抑えた朝倉が朽木を攻め滅ぼすだろう。

業腹だが、高島郡は朝倉が支配することを認めざるを得ぬ。

だが、それも悪くない。

高島郡を有すれば京の三好との付き合いも考えなけ得ればならぬ。

領地の拡大は望んでいるが、そんな負担が増すことは望んでおらぬ。

そう思うと心が軽くなる。

息を吐き出し、胸当ての引合わせに手をかける。

 

ギギ、

――ずるり。

固く結ばれていた威の緒(おどしのお)が擦れ合い、汗と埃にまみれた胴が、自らの重みで床へと滑り落ちて小具足のみとなる。

 

「フゥーー」

 

具足から解放されて楽になったことで息を吐きだす。

後は生き残った国衆を再編して浅井を立て直さねばならぬ。

此度の戦で浅井は大きな損害を負った。

 

だが、それもいい。

浅井は今まで国衆の力が大きすぎた。

朽木に殺されたことで国衆の中に浅井の力を入れて統制を強化できる。

朽木が国衆を殺してくれてありがたいわ!

 

「申し上げます!」

 

一息ついて具足を外した直後、早馬が駆けこんできた。

此度の敗北を糧に浅井の力を強めるための策を考えていたのに何事か?

 

「く、朽木勢が!この城に攻め込んでまいります!」

「何!??」

 

驚愕している暇はなかった。

 

ズガァァァァンッ!

──ゴ、バァァァンッ!!!

「ギャァァァアッァァァ!!!!」

 

石田川で散々聞いた轟音が響き渡り、特に石田川で朽木の鉄砲の音を聞いていた兵たちが混乱して泣き出すものもいる。

更に建物に弾が当たって燃え盛っている。

 

「と、殿、お逃げください!敵は陸と淡海乃海の両方から押し寄せてきます!」

 

わずかに残った近習が儂に逃げるように促す。

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

鎧を再度つける暇もなく、儂は辛うじて近習が用意した馬に跨って東に退いた。

 

なぜ、こんなことになった!?

 

 

■■■■■■■■■■

 

時は少し遡り・・・・・

 

 

天文二十三年(1554年) 九月十日 夕刻 近江高島郡  大俵山の麓  朽木竹若丸

 

「浅井左兵衛尉を討ち取るために、追い討ちをかける」

 

浅井の軍勢がいなくなって皆が勝鬨を望んでいる中で放った吾の一言に

 

「無理です」

「若狭ももう少しで朝倉のものになるでしょう。さすれば高島郡に朝倉の軍勢が来ます」

「左様、疲れた兵を整えて若狭の朝倉に備えるべきです」

 

五郎衛門、重蔵、又兵衛の順にこのに言われた。

 

「皆の懸念ももっともである・・・・だが、このまま守勢で浅井と朝倉に勝てるか?」

 

吾の反論に皆が静まり返る。

 

「殿、御懸念はもっともです。それなら、若狭におる朝倉を迎え撃ってからでも遅くないのでは?」

 

重蔵が吾に進言する。

だが、吾は首を振る。

 

「・・・確かに今なら若狭の朝倉を駆逐できるだろう。だが、今の朽木では若狭を獲っても公方様の御命令で若狭武田に返すことになるかもしれぬ。そんな中で三年不可侵の和睦を終えた三好と戦えるか?」

 

それを聞いて皆の顔も渋くなる。

長年朽木におられたから皆が察している。

公方様とその御家中ならそう考えて返還を命じてくるだろうと・・・・

そして、今の三千程度の朽木では三好と戦えない。

三好が丹波から若狭に攻め寄せれば、戻ってきた若狭武田では対応できないことも・・・・

 

「それなら、小谷城を落城させて公方様の怨敵である浅井の領地を全速力で制圧する。今なら、それができる」

 

吾の絞り出すような言葉に家臣たちも頷かざるを得ぬ。

梅丸たちに命じて皆の前に北近江の地図を広げる。

 

「重蔵、浅井左兵衛尉が退くなら、どこに退く?」

「恐らく、海津西内城でございましょう。あそこなら、ある程度の兵糧が備わり、兵や諸将が集まる可能性が高いかと・・・」

「成程・・・では、」

「殿・・・」

 

吾と重蔵の会話に五郎衛門が割って入る。

 

「殿が覚悟を決められたことは承知しました。ですが、浅井に追い打ちをかける前に一刻でよいので、陣列を直し、兵を休ませることをお許しいただきたく。」

「!五郎衛門の言う通りよ。だが、静かに行え。兵には静粛に陣列に戻るように命じよ。浅井には勝鬨を上げないことで何かあったと勘違いさせ、追い打ちをすると気取られるな!雷鳴の如き一撃で終わらせるぞ!」

「承知!」

 

五郎衛門から詳しく下知を纏められて又兵衛と左門が本陣から戦場に戻る。

 

 

■■■■■■■■■■

 

天文二十三年(1554年) 九月十一日 子の刻(午前0時頃) 近江高島郡  海津西内城  朽木竹若丸 

 

 

海津西内城が盛大に燃えている。

吾らの軍勢が陸と淡海乃海から攻め寄せるのと同時に重蔵に命じて城の方々に焙烙玉を仕掛けておいて起爆させることで城内を混乱させる。

どうやら、浅井は千ほどの兵しかいなかったようで殆ど抵抗してこなかった。

 

「殿!」

「浅井左兵衛尉は十騎ほどの騎馬で逃げたようでございます!それ以外に足軽などの兵は従っておらぬようでございます!」

「よし!このまま小谷城まで追い打ちをかける!」

 

浅井左兵衛尉よ、長い夜になりそうだ。

そう思いながら、五郎衛門、左門、又兵衛とともに馬を走らせる。

 

 

 

■■■■■■■■■■

 

天文二十三年(1554年) 九月十一日 亥の刻(午前十一時頃) 近江浅井郡  虎御前山城  朽木竹若丸 

 

ああ、朝日が眩しい。

そう思いながら、燃え盛る小谷城を見やる。

あれから、夜を徹して朽木の軍勢千五百は浅井左兵衛尉を追いかけた。

占領した土地には後続の三沢勢五百の部隊が分散して各町を制圧する。

なお、高島郡には宮川新次郎の五百の兵、清水山で留守を預かる三百の兵で朝倉に備えるように命じた。詳細は新次郎に任せた。

朽木の本隊は一心不乱に小谷城を目指して駆け抜けた。

 

その結果、朝日が昇るころには塩津浜城、虎御前山城を落城させて小谷城の目前に迫った。

しかし、その頃には浅井左兵衛尉は城を守れぬと悟ったのだろう。

寅の刻ごろに城に火を放ち、一族を率い、鉢屋衆に護られて逃げ出そうとした。

 

しかし、重蔵率いる八門が一手先を行った。

 

伊吹山山中に逃れようとする浅井一族を捕捉、鉢屋衆と暗闘を繰り広げた末に浅井左兵衛尉とその一族を生け捕りにした。

 

「殿・・・・」

「終わったな・・・・」

 

グラァ・・・・・

 

その一言を絞り出した後、吾の目の前は大きく歪んで眠りについた。

 

たった一夜で朽木は北近江を制圧した。

 

これからどうしよう・・・・・・・・

 




時系列

夕刻
・朽木勢は石田川周辺の浅井勢を駆逐することに成功。
・竹若丸は浅井に隙を作ることなく、追い討ちを命じる。

子の刻(午前0時頃)
・浅井久政は六百の兵とともに海津西内城に入る。
・朽木勢は海津西内城に千五百の兵と大砲五門で夜襲を仕掛ける。
・同時に八門が城の建物に焙烙玉を仕掛けて爆音と火災を誘発させる。
・石田川で散々聞かされた爆音に六百の兵は恐慌状態に陥って防戦できない状態になり、浅井久政は近習とともに逃亡。
・朽木本隊は追撃を敢行。徹底的に磨き上げた走る力で北近江を走る。

丑の刻
・塩津浜城占領

卯の刻(午前五時ごろ)
・虎御前山城落城。朽木竹若丸布陣。
・小谷城に浅井久政が火を放って伊吹山に逃亡を図るが、八門が鉢屋衆と暗闘の末生け捕りにする。

亥の刻(午前十一時頃)
・竹若丸 就寝


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。