淡海乃海 ~麒麟が駆ける時~   作:無難

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頭が痛くなる後処理

 

天文二十三年(1554年) 十二月上旬 近江浅井郡  塩津浜城  朽木竹若丸 

 

「う~~む、」

「これはなぁ・・・・」

 

小谷城に合った台帳などを集めさせて平九郎などの奉行衆と吟味している。

 

「何があったのでございますか?」

「雫!」

 

神社の巫女だったが、此度の戦のあとに吾直属の侍女となった雫が茶を持ってくる。

 

「うむ、此度の浅井の所領についてどうしようと思っていてな・・・・意外とめんどい・・・」

「まぁ!?竹若丸様が呆れるとは、それほどまでなのですか?」

「( ゚д゚)ウム・・・・・」

 

ここまでのことを整理すると・・・・

 

 

●●●●●●●●●●

 

九月の戦いで朽木は浅井の所領である北近江の大半を手に入れた。

 

若狭から攻め寄せた朝倉の軍勢五千は水坂峠で宮川新次郎が六百の軍勢を展開して応戦。

偽兵の策などを駆使して撃退することに成功した。

同時に、朽木本隊が敦賀に攻め寄せる姿勢を見せたことで危険とみたのだろう。

若狭を掌握した後、大半の軍勢を敦賀に戻した。

そして、互いに睨みあう状態となった。

 

そんな中、十一月頃に朝廷では近衛、飛鳥井などが奔走したことで公方様、六角、朽木は三好、朝倉と和睦することと相成った。

若狭を武田に返還され、公方様は京にお戻りになられた。

 

 

さて、浅井の所領を掌握すべく戦いが始まったが、想像以上に複雑であった。

 

まず初めに浅井の国衆の扱いであった。

浅井はあくまで国衆の主ではなく、まとめ役に過ぎない。

そのため、浅井の国衆は生き残った者も含めて皆右往左往していた。

 

しかし、一つの転機が訪れる。

浅井左兵衛尉が小谷城から脱出するときに正室を置き去りにしていったのだ。

その正室は浅井の有力国衆である井口越前守経親の妹だという。

"誠に妹君なら、臣従の有無に関わらず引き取ってほしい"と文を送ったところ、井口越前守が自ら来た。

何でも、此度の浅井左兵衛尉が六角を裏切った件について「武門の恥である」として反対していたらしい。

そのため、浅井左兵衛尉から怒りを買って謹慎を命じられたことで朽木との戦には参戦していなかった。

元々、有力国衆であることから浅井左兵衛尉が抑え込もうとしたことで不満が高まっていたらしい。

 

此度の挙兵の失敗と妹と姪を燃え盛る小谷城に置き去りにしたことで愛想が尽きたらしく、むしろ妹や娘を助けたうえに無償で戻してくれる朽木のほうがいいと臣従したい旨を伝えてきた。

 

吾からは"浅井の上にいた朝倉や京極氏には味方しないこと"、井口越前守は"外様の国衆でも朽木の政に参加できる仕組みを作ってほしい"という条件を相互に受け入れたことで主従の契りが結ばれた。

それをきっかけに次々と浅井の国衆が浅井を見限って朽木に臣従したことで一月ほどで浅井の旧領を掌握した。

 

 

次の問題は人員の不足である。

朽木は一年で八千石から五万石、数か月後には二十万石くらいに急増したことで人手が足りないのだ。

既に人材の募集を行っており、既に何人か召し抱えて働かせている。

 

まず一人目は藤堂 与右衛門(よえもん) 虎高。

元は武田の家臣として過ごしており、最近になって近江に戻って藤堂家の養子になったが、浅井では登用の機会がなく、此度の朽木に仕官してきた。

既に五郎衛門のもとで騎馬隊を百騎から三百騎に増設し、その長になるように命じている。

 

二人目は石田 藤左衛門(とうざえもん) 正継。

近江坂田郡石田村にある弱小土豪で浅井では重用されなかったことから起死回生のために朽木に仕官したらしい。

今は荒川平九郎の御倉奉行に配置している。

 

 

三人目は脇坂 外介(そすけ) 安明

元は浅井と六角の国境に近い国衆だが、戦場となることが多く、荒廃。

殆ど百姓のような生活を送っていたことから土地を捨てて朽木に仕官してきたらしい。

こちらは舟奉行に任じて林与次左衛門とともに造船に関して一手に任せてみた。

 

 

 

最後に浅井の主筋である京極氏と今井氏の扱いだ。これが一番厄介だった。

 

彼らは浅井から奪われた旧領の回復を要求してきたのだ。

 

具体的には浅井郡の東側、坂田郡、伊香郡の全域を求めてきたのだ。

浅井郡の西側、つまり塩津浜近辺は朽木に譲るという話だ。

冗談じゃない。朽木は高島郡で戦った後、小谷城まで駆け抜けて苦労して奪った土地なのだ。

 

それなのに・・・

 

「同じ宇多源氏として助け合おうではないか」

 

厭らしく、そして蔑むような視線で見ながら京極高延は言い寄ってきた。

正直、浅井の臭いが強い京極氏は邪魔だ。

傀儡であったとはいえ、浅井左兵衛尉の臭いが強い男は排除したい。

 

"三好や朝倉、浅井と繋がって此度公方様への裏切りに参加していない疑念が晴れるまでは観音寺城におくり、公方様の預かりとする"

 

と返答すると酷く狼狽した。

重蔵の話では京極高延には家督相続をめぐって弟の高吉と争っていたらしい。

高延には浅井が、高吉には六角が後ろ盾にいた。

 

アタフタと何か言おうとしていたが、有無を言わさずに観音寺城に送った。

 

 

●●●●●●●●●●

 

 

「・・・・難しいが、少しずつ片付けていこか・・・・」

「女子でも何か手伝えることがあれば何なりとお申し付けください。」

「ありがとう。では、いつもの菓子が欲しいなぁ」

「フフ、殿は甘えん坊さんですね♡」

「殿、女子と戯れるなら他所でやってくれませんか?」

 

突然の、予想だにしなかった呼び掛けで我に返る。

恐らく雫もそうだっただろう。

この瞬間まで吾と雫は奉行衆の面々を居ないように扱うのではなく、そもそも部屋内に居た事すらも忘却していた。

気まずい沈黙が流れるが、

 

「いや、仕事をする。雫、続きは夜にしよう」

「はい 」

 

吾と雫のやり取りに奉行衆の面々は呆れた視線を送ってきたが、吾は無視して仕事に戻る。

 

 

 

■■■■■■■■■■

 

天文二十三年(1554年) 十二月上旬  近江蒲生郡  観音寺城 本丸 六角 義賢

 

 

「う~~む、」

 

ジョリジョリ

 

顎の髭をなでると良い音が響く。

これが良いから薄い髭はたまらぬ。

 

まぁ、そんなことを考えながら後処理について六人衆と話し合う。

 

五月、吾ら六角は公方様、朝倉、浅井とともに三好打倒の兵を挙げた。

だが、朝倉と浅井が裏切って我らを攻撃したことで敗北した。

更には観音寺城も浅井に奪われて公方様とともに日野城に逃げ込んでいたが、朽木が果敢に浅井と戦って滅ぼしたことで形勢は逆転した。

十一月には観音寺城を奪還し、浅井の残党を滅ぼして佐和山城も奪い取り今に至る。

一時は苦境に立たされたが、朽木のおかげで奪して更には佐和山城も奪い取ることができた。

いろいろと言いたいことがあるが、上々の出来よ・・・・

 

 

今、儂と六人衆は朽木から送られてきた文を吟味していた。

その内容は「朽木は此度、浅井旧領の内、高島郡と浅井郡と伊香郡を領有するが、手が回らないので坂田郡を六角氏が支配してほしい。」「浅井の一族郎党を捕縛したが、近江守護の御意見を伺いたい」ということだった。

 

「皆、如何思うか?」

 

儂の問いかけに目賀田次郎左衛門尉が発言する。

 

「坂田郡については高島にある六角氏の所領の代わりに差し出すということでしょう。高島郡一万石の代わりに坂田郡十万石を差し出すので納得してほしいということでしょうな・・・」

「フム、、、ではこの件については受け入れよう。後ほど儂が朽木に文を送る。後藤但馬守よ、そちが朽木と交渉せよ」

「承知!」

 

但馬守が平伏する。

まぁ、坂田郡の有することで此度の敗北についてある程度の武威は回復できる。

恩賞として土地を与えれば国衆たちも少しは収まろう・・・・

 

「では、続いて浅井の者についてだが、・・・・」

 

議題を出した儂を含めて皆の表情が一変する。

 

浅井、朝倉・・・・あの時の裏切りがなければ・・・・・・・・・

 

「恐れながら、朽木には此方に引き渡してもらって浅井の一族郎党を根絶やしにすべきかと・・・」

 

蒲生下野守が低い声で進言する。

その通りじゃ、特に観音寺城において人質であった猿夜叉丸の近臣が蜂起したことで城の内側で混乱して儂らは逃げ出さざるを得なかった。

 

「同意致す」

「某も、」

「某も、」

「此度の裏切りには相応の報いを与えねば・・・」

「・・・」

 

六人衆が蒲生の意見に同意する。儂も同じよ。

だが、・・・

 

「平井加賀守よ、そちもそれでよいな?」

 

浅井の嫡男 猿夜叉丸を預けていたことで浅井とのつながりが深かった平井加賀守に問いかける。

あそこの娘、小夜と猿夜叉丸との縁組も失われることになる。

傍目から見ても幼いながらに愛し合い、似合いの二人であった。

兄と許嫁と娘が遊んでいたところを見たものも多い。

 

加賀守は一瞬目をつむるが、

 

「ハッ、異存ありませぬ」

 

「ウム、では後藤但馬守よ、朽木にはそのことも含めて文をしたためる。そのほうが差配せよ」

「承知仕りました」

 

そう言って立ち上がり、評定の終わりを宣言。皆が平伏して見送る。

 

 

 

■■■■■■■■■■

 

天文二十三年(1554年) 十二月上旬  近江蒲生郡  観音寺城 本丸 六角 義賢

 

外に出ると庭は雪化粧がされて美しいものであった。

そう思っていると

 

「御屋形様!」

 

七か八くらいの娘が駆け寄り、儂の前に平伏する。

娘には見覚えがある。

 

「其方、平井の娘の小夜じゃな?」

 

問いかけると娘は頷く。

 

「はい、平井加賀守の娘 小夜でございます!」

「ウム、何用か?」

 

娘が何を言うのか察したが兎に角問いかけてみる。

 

「どうか!どうか!猿夜叉丸様をお助けください!」

 

案の定であった。

此度、許嫁であった猿夜叉丸が処断されることに納得がいっていないのだろう。

世間知らずな娘にはよくあることよ・・・・・・

一つ間違えば其方の命が危ぶまれていたのに・・・・

 

「小夜よ、此度は男と女の色恋では収まらぬ話なのじゃ・・・」

「ですから、左京太夫様のお力でどうか・・・・」

「小夜!!!?」

 

振り向くと平井加賀守がこちらに走ってきた。

娘がいて驚いていた。

 

「御屋形様、分別のつかぬ娘で申し訳ありませぬ!」

 

加賀守は自らも頭を下げながら娘の頭を無理矢理抑えつける。

 

「よい、小夜も年を重ねればいずれはわかるものよ。」

「ハハッ!娘にはよく言って聞かせる故」

「此度は許す。乱世とはかくも度し難いものか、娘には分らぬであろうしな・・・」

「・・・ハハッ!!」

 

平井加賀守は無理矢理娘を引っ張って下がっていく。

娘は泣きながら"猿夜叉丸様をお助けください!!!猿夜叉丸様を!!!"と懇願していたが、暫くして聞こえなくなった。

 

あの幼子の心に深い傷を負わせるとは、乱世はかくも度し難いものよ・・・・

 

 

 

■■■■■■■■■■

 

天文二十三年(1554年) 十二月上旬  近江蒲生郡  観音寺城 平井丸 平井 小夜

 

私は父に引っ張られて部屋に叩き込まれた。

"そこで反省せよ!!!"

父に怒られたが、私にとってそんなことはどうでもいい・・・・・・

 

許さない

 

許さない

 

許さない

許さない

許さない

許さない許さない

許さない

許さない

許さない許さない

許さない許さない

許さない

許さない許さない

許さない許さない許さない

 

 

猿夜叉丸様を殺した左京太夫様を許さない

 

そして!!!!!

 

浅井を滅ぼした朽木竹若丸を許さない!!!!!!!!!!!

 

 

浅井の敵を討たねば!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

その日、私の心は真っ黒な何かに染め上げられていった。

 

 

 

 

 




ここまでで、跳躍編は終了です。
次回は新章突入となります
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